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聖なる骨  作者: 骨素子 陽晶


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第22話 骨、ブラックナイトオークと対峙する

 オークの巣の入り口を背にするような陣形で戦いは始まった。俺は指示通り後方で様子をうかがっている。先頭のゲンガイが雄たけびを上げながら突進した。かなり広い場所でまだ距離があるのに叫びながら突撃してるんだから当然ブラックオーク共は気づいた。これ先制攻撃の意味ある?


 敵襲に気づいたオーク共は武器を取り応戦しようと構えた。大剣や槍や斧など、あの怪力で振るえばとんでもない威力になるだろう。しかしゲンガイは全く減速することなく突撃していって、構えたハンマーを振り下ろした瞬間・・・


 大爆発が起きた。


 見ればクレーターのような穴が開き熱を放って赤くなっている。ゲンガイのハンマーのヘッドが赤く光り輝いている。食らったオークは3体ほど一撃でミンチになり衝撃波の余波でさらに2体が倒れている。ピクピクと動いているから生きてはいるようだが、血だらけで瀕死の様だ。


 「さぁ、かかってこい!クソ野郎ども!!」


 ゲンガイが吠えるが、ブラックオークはビビっているのか委縮している。そのままゲンガイは敵陣の奥へ切り込んでいこうとする、その時・・・


 「ブウモォォォォォ!!!」


 空気が震えるほどの叫び声がこの場に響き渡った。その瞬間委縮していたブラックオークはハッと気づいたように襲い掛かってきた。どうやらさっきの声の主がこいつらの大将なのだろう。


 俺たちは今洞窟の入り口を背に、扇状に陣形を作って戦っている。最前線をシルバーランクの冒険者が受け持ち後ろからブロンズの俺たちがサポートする形だ。しかし4人ほど陣形から飛び出して暴れまわっている影がある。

 一人目はゲンガイ、赤く光って熱を帯びるハンマーを振り回して敵をなぎ倒している。まるで無双ゲーだ、”赤熱”ってこいうことか。ゲンガイのハンマーに触れたオークは一瞬で焼け焦げて、地面はマグマみたいに溶けて赤く光っている。

 二人目はエイブラハム、なんかバリバリ紫色に光って、手刀でオークの首を落としたり、抜き手でオークに風穴を開けたりしている。

 三人目はポーマッツだ、奴は普通に殴り殺している。分厚い皮下脂肪で覆われているはずのブラックオークが一撃で沈んでいる。あいつ回復要員で来たんだよな。

 回復要員で来たはずの最後の四人目も大概だ。言わずと知れたエメラ嬢だ。俺が最初に会った時に持ってた杖でオークを突いたり叩いたりしているんだけど、当たったオークが爆散している。最初に出会った時あの杖が俺に向いていたんだけど、もしかしたら初手で対応を誤っていたら俺も爆散していたんだろうか。


 時折オーク側から何かかが飛んでくる。どうやら弓矢や魔法で攻撃してくる個体がいるようだが、こちらの土のマナ持ちが壁を作ったり、風のマナ持ちが風で軌道をそらしたりしている。


 気づいたら相手側の弓矢を持ってたオークが倒れていた。よく見ると、頭に弓矢がささっている。誰がやったんだとあたりを見渡すと、”赤銅”の弓使いが魔法を放っているオークに弓を放っていた。オークは弓矢に気づいてよけられてしまった。しかし、外れた弓が軌道を変え、オークの後ろ頭に刺さった。オークは何が起きたかわからず崩れ落ちた。すげーな、矢の軌道をコントロールできるのか。やっぱゴールドランクのパーティはケタが違うな。


 ラージーも槍に炎を纏わせて周りのオークを薙ぎ払っていた。あいつ、あんな技もってるのか、かっこいいな。


 俺はと言えば、指示通りサポートに徹していた。ケガをした冒険者の所に行って治療したり、ドクロちゃんを光らせて敵をひるませたり。ラージーとケンカした時みたいに全方向に光らせたら、冒険者の邪魔になってしまうので、ドクロちゃんの目を光らせて指向性を持たせ、オークの目に一点集中する技を覚えたのだ。


 戦況はこちらが推している、ケガ人は多いが致命傷な奴はいない。このままいけば勝てる。


 そう思った時・・・


 「ぐわぁぁぁぁ!!」


 背後で冒険者の悲鳴が聞こえた。振り返ると入り口からオークが迫っている。しまった!外に出ている個体がいたのか。斬られた冒険者がこちらに飛ばされてきた。とっさに治癒魔法で傷口をふさいでみたが、なんとか出血は止められたが、意識がなく動かない。こっちの主戦力は反対側で戦っている、こちらにはこれない。俺は他の冒険者に彼を預け奴らの前に躍り出た。


 1・・2・・3体か、俺は反射的にドクロちゃんの目を光らせ奴らの目をくらませた。一瞬怯んだ隙にオークの首を狩る。両断はできなかったが、半分切断することに成功したので、一体は倒せた。続く二体目がこちらに襲い掛かってきた。まだ目が見えていないが、鼻で俺の位置を図っているらしい。だから・・・


 『おい、こっちを見ろ』


 「!?」


 とっさに後ろからドクロちゃんを喋らせた。匂いは前にいるはずなのに後ろから声が聞こえたことによって、奴は一瞬混乱した。その隙に、またもや首を狙った。運よく頸動脈をかすったようで、血を吹いて膝から崩れ落ちた。よし、これであと一体・・・


 ドガァァン!!


 反射的に剣を構えていたから直撃は防げた・・・が、とんでもない衝撃で俺は後方に吹き飛ばされた。起き上がって気づいたが、右肩が半分えぐれている。剣で防いだからこの程度ですんだのか、でなきゃ、横一文字に両断されていた。


 俺は肩に”ヒール”をかけながら、俺を吹き飛ばしたやつをみた。


 他のブラックオークより一回り大きい、しかも鎧を着て剣までにぎっていやがる。上位種か・・・!


 奴が放つ圧倒的な強者の威圧感。今近くにいるのは、後方支援のヒーラーばかりだ。このままじゃ死人が出る。俺がやるしかない・・・!


 瞬間、奴が俺の目で剣を振り下ろしていた。反射で剣を構え流したが、とっさのことだったのでまた飛ばされる。今度は倒れずに踏ん張ったが、また距離を詰めて奴が襲い掛かる。両手で剣を握りしめて受けに徹するが、流すのがやっと・・・いや違う、流しきれてない。衝撃で俺の腕にヒビがはいる。反射的に”ヒール”でヒビをふさぐが次から次へと奴は攻撃を繰り出してくる。


 食らう度に、受け流すたびに、俺のダメージが増えていく。”ヒール”で治すも間に合わない。


 くそっ!ヒールの速度が遅い!奴の攻撃に対応しきれない!


 もし魔導石を充電したときみたいに、フラッシュで敵の目を眩(くら)ませたときみたいに、ドクロちゃんを使ってヒールの速度も速くなれば・・・


 ドクロちゃんを使えば俺のいろいろな能力は向上した。”浄化”も”フラッシュ”もそれこそ”充電”も。だけど、回復魔法だけはいくらやっても変わらなかったんだ。いや、理由は何となくわかってる。多分イメージの問題だ。死の象徴であるドクロと再生の代名詞ともいえる回復魔法は正反対だ。俺の中の先入観が邪魔をして、回復魔法の効果を阻害しているのだろう。だからドクロちゃんは回復魔法だけは使えないんだ。


 何合打ち合っただろうか、俺はもはやボロボロだ。体のあちこちはひび割れて、今にもポキンといきそうだ。まだ立ってられるのは、回復魔法でしぶとく治してきたからだろう。


 息が切れて疲労困憊の状態でそれでも奴の面を拝もうと顔を上げると・・・


 「おい、何笑ってやがる?」


 奴はニターっといやらしい顔で笑ってやがった。


 「むかつくなぁ、その顔」


 もうどうでもいいや、あとのことなんか。こいつだけはぶっ殺してやる!


 「何笑ってんだって言ってんだよぉぉ!!」



***


 ラージーとケンカした後に聞いていた。


 「いいか、マナは二種類あるんだ」


 「二種類?」


 「そうだ、色が付いてるか、付いていないかの二種類だ」

 「色が付いていないマナは誰でも持ってる。どんな生き物でもな。お前がさっき俺とケンカしてた時の身体強化は色なしのマナだ。基本の身体強化ってのは色なしのマナを指すんだ。そしてそれを発展させたものが色付きの身体強化だ」


 そういって、ラージーは拳に赤いマナを纏って見せた。


 「これが、俺の火のマナの身体強化だ。色付きってのは自分の属性のことさ。みんな無色のマナを自分の色に染め上げていくんだ」


 「へぇー、こんな感じか」 といって、俺も拳に光のマナを集めてみた。すごく痛いからすぐやめた。


 「おめぇ、本当に器用だな。本来駆け出しができる技能じゃねぇんだぜ。あといくら器用でも、アニマが出来上がってないうちは多用すんな。未熟なアニマで使いすぎると体がボロボロになるからよ」


 マジかよ。幻痛だけじゃなかったのかよ。拳をよく見るとちょっとヒビが入っていた。



***


 体全体に光のマナを全開で纏う。今までと比べ物にならないほどの力と痛みが俺を襲う。これがマナを染め上げるということか。この痛みが幻痛か未熟なアニマで色付きの強化をした影響かはもうわからないしどうでもいい。こいつを仕留めるまでやめない。絶対にぶっ殺してやる!


 奴は驚いたように俺を見て、初めて武器を構えた。やっと俺を敵として認識したらしい。


 「行くぞ、こらぁぁ!!」


 初めてこっちから攻撃を仕掛けた。自分でも驚くほどの踏み込みで奴の間合いにはいる。奴は虚をつかれたようで一瞬反応が遅れた。俺は横なぎに振りきって奴の胴を鎧ごと切り裂いた。血が噴き出し、驚いた奴だったが、筋肉の隆起で血を止め剣を振り下ろしてきた。


 俺は両手を握りしめて思い切り振り返す。物凄い衝撃音と共にお互いに少し吹き飛んだ。さっきは一方的に吹き飛ばされたから、今の打ち合いは互角だ。だが今の自分の状態は理解し(わかっ)てる。このままじゃ長くは持たない。打ち合いは互角だが俺の体は一撃ごとに削れていっている、マナの消費も激しい。長期戦はできない。


 打ち合っているが初撃の胴斬り以外は有効打が与えられていない。奴は俺の攻撃に慣れつつあるようで、顔にも余裕が現れている。このままじゃ負ける。一か八か賭けに出るか。


 何合目かの打ち合いで打ち負けてしまい、俺の体勢が崩されてしまった。それを好機と見た奴は俺を両断しようと剣を振り下ろした。体を捻ってかわしたが、よけきれずに剣をもった右手を切り落とされてしまった。反動で俺は地面に倒れてしまった。


 決着がついた・・・そう判断した奴はあのいやらしい笑みを浮かべながらじりじりと俺に近づいてくる。俺は奴をにらみながら、倒れたからだを後ろに引きずる。弱った獲物をなぶるのが好きなのだろう、奴は嬉しくてたまらない顔をして俺ににじり寄ってくる。


 俺を一撃で殺せる距離まで近づいた奴は笑顔で、剣を振り上げ・・・そしてその剣が振り下ろされることはなかった。


 奴は何が起きたか理解できない顔をしながら自分の首を見ている。そこにはさっき奴が跳ね飛ばした俺の剣が突き刺さっていた。


 以前教授とロケットパンチについて談義していたのが役に立った。


 奴にわざと、剣をもった右腕を切らせて、自分に注意をひき、スキをついてマナを繋げた自分の右腕を後ろから奴の首に飛ばして剣で刺したというわけだ。


 奴はとっさに剣を引き抜こうとしたが、後ろから差し込んだ剣が簡単に抜けるはずもない。


 「無駄だよ」


 俺は、糸状にして繋げたマナを操り、ない腕で払う動作をして奴の首に刺さっている剣を横なぎにはらった。


 首の八割以上を斬られたブラックオークは血しぶきをあげて後ろに倒れた。


 勝った、ギリギリだ。身体強化を解除するが、痛みが全然消えない。見ると体のあちこちにひびが入ってる。戦いで受けたヒビは随時”ヒール”で治していたからこれは身体強化の影響だろう。やっぱ色付きの強化は俺にはまだ早いかぁ、まぁ勝てたんだからいいか。俺は落とされた右腕をくっつけて”ヒール”して治した。


 ちょうどその時、勝鬨が上がっていたので、勝負がついたのだろう。これで戦いも終わりだな。




 「ク、クレストさん!大丈夫ですか!?」


 戦闘が終了したから、戻ってきたエメラは俺の姿を見たとたん、取り乱して心配してくれた。でもね、俺は君こそ心配だよ。だって、君今血まみれだからね。ケガはないようだからよかったけど、どんだけオークぶっ殺してきたのよ。”浄化”をかけて奇麗にしてあげたらすごく喜んでくれた。


 「クレストさんの”浄化”は本当にすごいですね!私の”浄化”ではこんなに奇麗にはできませんよ」


 ホッと一息ついたところで叫び声が聞こえてきた。


 「トリステン!しっかししろ!返事をしてくれ・・・!」


 見ると、ひとり冒険者が倒れている。そのそばで泣きながら誰かが叫んでいる。さっきの声は彼のようだ。


 あいつは、ブラックオークの背後からの奇襲で最初に斬られた男だ。傷口は治療したはずだがまさか助からなかったのか。


 エメラが彼の容態を見に行ったが、首を横に振った


 「・・・心臓が止まっています。これではもう・・・」


 「そんな、なぁ頼むよ!だれかトリステンを助けてくれ。治療をしてくれ!!」


 そばにいる彼は仲間なんだろう、取り乱して周りの奴に助けを求めている。


 俺は無言で彼の所に行った。


 「少しどいてくれるか?」


 「あ、あんたは!?」


 俺が姿をみた彼は驚いたが、しかし黙ってどいてくれた。


 「クレストさん、残念ですが彼はもう・・・」


 エメラの言うことは分かる。心臓が止まっただけじゃなく倒れた彼のアニマが崩れ始めているのが俺にも分かった。だが・・・


 「そうだな、でもちょっとだけやらせてくれないか」


 エメラは何かを言いたそうにしたが黙って後ろに下がった。


 「なぁ、こいつはトリステンっていうんだな」


 「あ、ああ。そうだ。たのむ!恨み言なんていわない、あがいてくれ!」


 「わかった」


 今彼は死にかけている、だがまだアニマが壊れ切ってはいない。だからあがきたい。


 考えていたんだ、マナはイメージに左右される。だから死の象徴ともいえるドクロのイメージが邪魔してドクロちゃんが”ヒール”を使えなかった。だったら、今死にかけているこの男からドクロちゃんを使って死を遠ざけることはできないだろうか・・・


 俺は、右の掌にドクロちゃんを発現させ”ヒール”と合わせて彼の心臓に衝撃を与えた。


 戻ってこい、トリステン!


 イメージだ、ドクロちゃんで死を追い払って、心臓から血液を伝って”ヒール”を流す。戦いの影響でマナがほとんどない。さっきから体中が痛みでキシんでいる。でも諦めたくない。この白の中は俺の世界なんだ・・・だから俺の世界で死ぬことは許さない・・・!


 「戻ってこい、トリステン!!」


 何回も、何回も右手で心臓に衝撃を与え続けた。もう無理かと思った時に・・・


 「がはっ!!」


 トリステンが口から血を吐いた。咳き込み、息をしだした。


 「トリステン!」


 「うそ!生き返った・・・」


 エメラが驚いているが、俺はそろそろ限界だ。


 「あと、よろしく・・・」


 といって、俺は意識を手放した。

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