第18話 骨、今度こそ本当に街の外へ行く
ギルドから飛び出した俺は、この街にきておよそ半年、やっと街の外に出る。依頼のヒール草は魔の森の浅層に自生しているらしいのでそこへ向かうか。
「あ、お前は!」
うん?街の入り口の門のあたりで声をかけられた。振り返るといつかの門番3人衆が立っていた。こいつら生きていたのか。陥没したヘルメットはキレイに直っているが、隊長に殴られてピクリとも動かないから少し心配だったんだが。
「おお、門番A、B、Cじゃないか、元気だったか?」
「「「だれが門番A、B、Cだ!!!」」」
「隊長に殴られた傷はもう癒えたのか?」
「ああ、あれは痛かった」 「30分くらい気絶してたからな」 「その後隊長にまた怒られたからな。”もっと早く起きろ、おかげで変な誤解をされただろ”って、なんのことだろうな?」
あの一撃から、わずか30分で復帰したのか。こいつら実はすごくね?
「それはともかく、この間はすまなかったな。骨人族を見たのは初めてで、慌ててしまった。門番として恥ずべきばかりだ」
「いや、いいよ。勘違いはだれにでもあるさ、お前らは門番として使命を果たしただけだ」
「そう言ってくれると助かる。それで今日はどこへ行くんだ?」
「ヒール草の依頼に魔の森に行ってくるよ」
「そうか、浅層なら大丈夫だろうが、最近あの森は少し様子がおかしい。注意していけ」
「あいあい、ありがとうな」
挨拶もそこそこに、ベルガイアの街を出た。
外に出ると、一種の解放感に襲われる。うん、たまにはやっぱこういう依頼を受けて街の外にでなきゃな。さわやかな風が吹き、街の外に広がる穀倉地帯を見ていると、田舎の婆ちゃん家を思い出すな。おお!牛がいる、可愛いなぁ。俺は牛が好きだ、あのつぶらな瞳がいい。酪農もしてるんだな。街に来た時には見なかったが、牧歌的で和やかな気持ちになる。
さて、楽しくプラプラ散歩しているのはとても気分がいいのだが、一応仕事で来てるからな。依頼のことを考えるか。
といっても、魔の森浅層でヒール草を最低20株以上採取するっていうシンプルな仕事だ。毎日勉強している甲斐があって、少しは読み書き言葉使いもできるようになってきた。まだ言葉もカタコト程度だし、文字の読み書きも簡単な物しかできないが、教授の家の図鑑でヒール草のことは勉強してきたもんね。
骨の洞窟から街に来たときは、迂回しながらきたから時間がかかったが、直線距離なら魔の森の浅層エリアは近いところで数時間の距離程度って聞いたからな、しかしこの距離だからわかるけど、めちゃくちゃ広大だな。まさに大樹海って感じだ。まだ結構距離があるのに、視界一面森だらけだ。途中から民家や畑が激減したけどやはり、魔の森付近には誰も住みたがらないってことなんだろうな。せいぜい監視塔みたいなのがちらほら点在してる程度だ。
監視塔に駐在している兵士の兄ちゃんたちは魔の森に向かっている骨の俺を見るとギョッとするが、俺がプラプラ手を振ると何かに納得したように、手を振り返してくれた。俺がベルガイアであくせく依頼をこなしていたおかげで俺の存在が兵士にも知れ渡っているのだろう。でなきゃ、街門での惨劇がふたたび繰り返されるところだ。真面目に仕事していてよかった。
魔の森に到着して、あたりを見渡すと視界が一気に悪くなった。そりゃ森だからあたりまえだわな、しかし、これじゃ魔物の接近に気づくのが遅れて先制攻撃を受けるリスクが上がってしまうなぁ。一応注意して剣をいつでも抜けるようにしておこう。
さて、こんなに深い森じゃ方向がわからなくなるだろうが、こんなこともあろうかと俺は魔導コンパスなるものを用意しているのだ。まぁアリスが用意してくれた初心者パックに入っていたんだけどね。おかげで、迷子の心配はあるまい。しかし、奥に入ると普通に迷いそうだから気をつけようっと。
しかし、ヒール草ってどこに生えてんだろう。浅層ったって広大だから、なんか方角に見当をつけて向かいたいところだが、えーと、確かヒール草はマナ濃度の高い場所に群生するってあったな。じゃあ浅層のマナ濃度の濃い場所を当たってみるか。・・・こっちの方向かな。まだ何となくって感じでしかわかんないんだよなぁ、これも要修行か。
適当にプラプラ歩いていると向こうから何か人影が見えた。冒険者かと思ったが一応念のために木の陰に隠れて様子をうかがう。
現れたのは、豚の顔をした二足歩行の生き物だった。おいおい、あれってオークだよな、なんかちょっと黒くない?日焼けでもしたのか?ガングロオークがフゴフゴいいながら、こちらへ向かってくる。瘴気を纏っているから間違いなく魔物だ。さて、どうしようか、このままやりすごすか、逃げるか、いや確か図鑑ではあいつら鼻がいいってあったな。こんな場所に隠れていてもすぐ見つかるか。あと今から逃げてもこの距離じゃ追いつかれそうだな。じゃあやるべきことは決まってるな。
狩るか・・・
しかし正面から堂々と仕掛けるのは軽率だわな。じゃあ近づいてきたときにあれを使うか。
ガングロオークと俺との距離が10メートルくらいになったあたりで奴に異変が現れた。多分俺のにおいに気づいて索敵し始めたのだろう。だが、そこまで近づけばもう遅い。
『おい、こっちを見ろ』
「!?」
奴の背後で突然声が上がった。驚いた奴が振り返った瞬間、あたりがまぶしく光った。やつは振り向きざまにまともにフラッシュを食らったので、目がくらんでひるんだ。俺はその瞬間に木の陰から飛び出してマナ強化した剣ですれ違いざま、奴の首筋に剣を叩き込んだ。
念のために返す刀の用意はしていたが、奴は何が起きたのかも理解できずに首から半分を切り裂かれ、血を噴出させた。そこで俺の存在にようやく気付き、手を伸ばそうとして地面に倒れた。
ふぅー、危なげなく倒せたな。種明かしをすれば簡単な話だ。マナを糸のように小さく薄く、気づかれにくくして奴の背後に伸ばし、奴の背後でドクロちゃんを出現させてしゃべらせて注意を惹け、ドクロちゃんを光らせて斬りつけたわけだ。しかしこの剣すごい切れ味だな。やっぱグリスギンってすごい鍛冶師だったんだなって実感したわ。あーあ、刀身に血がべったりついてる。汚いから”浄化”で奇麗にしちゃおう。
頸動脈を切ったから、倒れた後も勢いよく血が噴き出てるな。聞いてはいたけど、オークも血液の位置は大体一緒か。意図せずぶっ殺したけど、こいつの肉って食えるんだよな。二足歩行の生き物を食うことに抵抗がないわけじゃないが、殺した以上は命はいただきたい。っていうか今更か。絶対メルヴィン教会での食事にこの肉出てきてただろうし。
バッグからロープを出して、近くの木に吊るしてオークの血抜きを行う。本当は川とかに沈めるのがいいんだっけ?猟師漫画のにわか知識しかないからよくわからないし川がどこにあるかもわからない。待ってる間、地面の血が気になるから、”浄化”で奇麗にしておいた。
しばらくして、出血が収まったのでオークを地面におろした。バッグに入れてヒール草を探しに行かなきゃいけないんだけど。
・・・・・・こいつをバッグにそのまま入れるのヤダなぁ。バッグの中は異次元的な感じだから、中が汚れるわけでもないし、他の荷物と接触するわけでもない。でも気分的にすごく嫌だなぁ。まぁわがまま言っても仕方ないし、冒険者ならこんなことこれからいくらでもあるしな。せめて、オークに念入りに”浄化”かけてから入れよう。
仏さんを奇麗に仕上げて、バッグに詰めた後、少し散策したらヒール草は見つかった。かなりの群生地帯のようで20株どころじゃない数がひしめいている。教授から借りた図鑑で確認するが間違いないようだ。全部採って、来年以降生えてこなかったら困るなぁって思ってたんだけど、全く心配いらないな。とはいえ、ポーションはいくらあっても足りないって言ってたからな。50株くらいもって帰るか。えへへ、これならエレーナさんの機嫌も治るだろう。
50株採取するのはなかなか骨が折れた。根っこから採取しないとダメって依頼書に書かれていたから傷つけないように丁寧に採取したからな。でもエレーネさんの笑顔を想像して頑張ったぜ俺。さて、全部詰め終わったし、そろそろ帰ろう。
帰りの道中は特になにかあることなく無事に魔の森を出て、街まで戻ってこれた。入り口で3モブが俺を出迎えてくれたが奴らの頭のヘルメットがまた陥没していた。こいつらまた、何かやらかしたのだろうか。へこんだヘルメットをかぶって平然としているから、こいつらにとって日常っぽいな。
ギルドに戻ると、アレクサンダーとクリスティーナがいた。奴らも仕事終わりだったみたいだ。
「よう,クレスト」 「やっと街の外へ出たのね」
「おう、お前ら。おつかれ」
「聞いたわよ、ラージーとやりあって借金したんだって」 ニヤニヤ笑いながらクリスティーナが詰めてきた。俺のプライバシーは筒抜けの様だ。
「やっぱお前もメルヴィン教徒だな」 と呆れた顔でアレクサンダーが言ってくるがメルヴィン教徒じゃないんですけど。
「そんで、依頼はどうだったのよ?」
気になるようだな、ならば教えてやろう。
「ばっちりよ、依頼された量の倍以上は持ち帰っぜ」
「ほぉー、やるじゃねぇか」 「すごいじゃない」
奴らが褒めてくれるので気分がいい。
「報酬で一杯奢ってやりたいが、これは借金返済のために使わにゃならんのでな。すまんが遠慮してくれ」
「いや、何も言ってないんだが」 「ヒール草採取の依頼でそこまでの儲けは出ないんですけど」
受付に行くとエレーナさんが俺を待っていた、表情からは機嫌がいいか悪いか判断できない。
「お待ちしていました。首尾はいかかですか?」
「はい、ばっちりです」 といってカウンターにヒール草を詰めた袋を出した。
出されたヒール草を見た瞬間エレーナさんは驚いたように目を見開いた。ふふん、初心者の俺がこんなにたくさん採ってきたから驚いているのだろう。ヒール草を一本一本確認する度に、エレーナさんの表情が険しくなっていく。どうしたんだろう、こちらをみて何かを言おうとしてためらっているように見える。
「ふぅー、クレストさん」
「はい、なんでしょう?」
「大変申し上げにくいのですが」
「はい」
「これはヒール草ではありません」
「・・・はい?」
「これはヒール草では「いやいや聞こえていますからもう一度復唱しなくていいですから」・・・そうですか」
「これ、ヒール草じゃないんですか?」
「はい」
「全部?」
「全部です」
「で、でもこれみてください。ちゃんと調べて行ったんですよ」 と言って俺は教授から借りた図鑑を取り出してエレーナさんに見せてみた。挿絵の上に書かれた文字の所を指差して
「・・・クレストさん、これはフール草です」
「フール草?」
図鑑を見たエレーナさんは俺にそう言った。
「はい、ヒール草に見た目がよく似ていますが、効能はなくただの雑草です。そしてそれはヒールではなくフールと読みます」
「・・・・・・」
俺はまだ文字を覚えたばかりで読み書きが覚束ない。だからこういう間違いだって起ることもあるだろう。でも一言だけ言わせていただきたい。
見た目だけじゃなく、名前まで似せんなよ!
「あとこれは、全部買い取れませんので持って帰ってください」
「・・・はい」
しょぼくれた手つきで、雑草をバッグに入れる俺を見て可哀そうに思ったのか
「駆け出しの方がミスをするのは珍しくありません。これにめげないで頑張ってください」
とエレーナさんが慰めてくれた。表情もちょっと和らいでいる気がする。元気出てきた。よし、明日も頑張ろう!
「あ、そうだ」
草をバッグに全部いれなおしたところで思い出した。
「そういえば、森でガングロオークを一匹狩ったんで買い取りできます?」
「・・・今なんと?」
「いや、森でなんかえらい日焼けしたオークがいたんで仕留めたんですけど」
「・・・それは、本当ですか?」
「え、はい」
「出してください」
「え、ここで出していいんですか?解体場じゃ・・・」
「かまいません、今すぐ出してください」
なんかちょっと空気が変わった?・・・とにかく出しとくか。
俺がバッグから日焼けオークを出すと周囲が騒然とした。
「おい、マジかよ」 「あれって、ブラックオークよね。シルバーランクの魔物の」 「嘘だろ、駆け出しがあれを仕留めたのか」
エレーナさんは真剣な表情でオークの死体を見ている。
「・・・首筋に切れ込み。見事な一撃です。本当にクレストさんが一人でこれを?」
「そうです。まぁ、不意打ちですけど」
「場所と仕留めた時の状況を教えてもらえますか?」
俺はガングロオークと接敵して木に吊るすまでを、なるべく客観的に説明した。
「ブラックオークが浅層に出現・・・この件はギルドマスターに報告を上げさせていただきます」
「あ、はい。お願いします」
「では、ブラックオークについてですが、本来これはシルバーランク以上の冒険者しか受注できない依頼です。しかしクレストさんの場合不可抗力であったので、討伐については問題ありませんが、残念ながら貢献度ポイントはつきません。もちろん買い取りは可能ですが、全部買い取りで構いませんか?」
「一部肉を宿にお土産に持って帰りたいから、それだけ残して買い取ってくれます?」
宿屋のみんなも喜ぶだろう。
「わかりました。ではお手数ですがまたバッグに入れて解体場までもっていってくれますか」
「了解です」
「最後に一つ」
「なんですか?」
「魔の森はしばらくブロンズランク以下の冒険者には立ち入り制限がかかるかもしれません」
「・・・あの黒オークに関係してます?」
「まだ、はっきりしたことは言えませんがおそらく」
危なそうだから近寄らない方がいいか、ちなみに、黒オークを売ったお金で借金は余裕で返せた。肉は宿屋で美味しくいただきました。




