第17話 骨、ケンカする
装備を整え、守備力と攻撃力を上げた俺は、おそるおそるギルドに帰ってきた。
「ただいまー」
小声で帰宅を告げ、受付の方を覗いたらエレーナさんの姿がない。他の子に聞いてみたら今彼女は昼休憩でご飯を食べに行っているそうだ。
ホッとしたが、やはりエレーナさんの帰りを待って出発しようと思う。そんなわけでアレクサンダーとクリスティーナがいないかなと、酒場の方をプラプラのぞいたら、昼間だってのに結構冒険者がいるがあいつらはいなかった。珍しく仕事してるようだ。しかし多いな、こいつら昼間から飲んでやがる。しかし楽しそうだ、まぁ今日はオフの日なのだろう。
そんなことを考えながらボーっとしていたら 「あー!おめぇだろ、噂の骨野郎は!」 となんか聞こえてきた。
振り返ると、顔を赤くした金髪の男がこっちに来た。20歳位くらいか。顔が赤い、だいぶ飲んでいやがるな。
「知ってるぞ、お前街の外に出てないんだろ?腰が抜けてんのか、俺が一緒に行ってやろうか?」
なんだ、こいつ。挑発してんのか。
「ちょっと止めなよ」 「お主、心配なら素直に言わんかい」 「ちっげぇわ、誰が心配なんかするか!」
こいつの仲間か、しかし何なんだこいつ。挑発してんのか、心配してんのかどっちだ。
「なんだお前、なんか用か?」
「あーん、お前俺はもうすぐシルバーランクになるんだぞ。お前まだアイアンランクだろ、先輩に向かってなんだその態度は、ヒック」
うぜぇー、酔っ払いのダルがらみじゃねぇか。やっぱケンカ売ってんのか?そうなんだな。
「それにしても、なんだお前その体は、ちゃんと飯食ってんのか?なんか食うか?俺が奢ってやろうか?」
えぇぇぇーー・・・どういうことだよ。こいつ馬鹿にしてんのか、面倒見がいいのか、挑発してんのか、心配してんのか、マジでわからねぇ・・・
「ちょっとー、言い方」 「そうだぞ、お主は口が悪いんじゃから」 「そうだよ、心配してるなら素直にそう言いなよ」
「だからちっげぇって、ただこいつが腹減ってそうだったから」
うーむ、仲間の反応を見るからにそんなに悪い奴じゃなさそうだ。口は悪そうだけどな。
「おいお前、とにかくこっちにこい。食わしてやっから」
奢ってくれるらしいし、ついて行ってみよう。
「とにかく飯食え、なんだその貧相な骨は、そんなんじゃ簡単に折れちまうぞ。飯食って力を 「あ゙ん、お前今なんつった?」・・・え?」
「俺の骨がなんだって、お前今俺の骨が貧相だって言ったか」
「え、い、いや。それは」
「俺の骨が折れそうだってか、骨密度スカスカの発砲スチロールだってか」
「い、いや。そこまで言って、発砲?」
「お前こそなんだ、その頭は。汚ったねぇ金髪だなおい。ここに来る前にその頭で掃除でもしてきたのか。俺がホコリを取ってやろうか」
「おいこら、俺の髪がなんだと。馬鹿にしてんのか」
なんだなんだと、周りの冒険者どもが注目してきたが、熱くなってる俺の目にははいらない。
「なんなら、俺がキレイにしてワックスで逆立てて固めて、また床を掃除してやろうか。そのほうきで」
「カッチーン、てめぇ言ったなこら。上等だよ、もう取り消せねぇぞこら」
奴もヒートアップしてきてるのか、お互いにらみ合って一歩も引かない。
「「やるか!!」」
「おお、ケンカだ、ケンカ!」 「おい、場所開けろ!」 「どっちが勝つ?」 「そりゃ、ラージーじゃね?」 「でもあいつ噂の骨人族だろ、案外いい勝負するんじゃねぇか」
俺たち以上に周囲が盛り上がって、椅子とテーブルを端に寄せて中央にリングを作ってくれた。
「おい、謝るなら今の内だぞ」 金髪バカが何か言ってる。
「お前に謝るならそこのホウキに土下座するわ!」
「上等だよ、武器はなし、お互い素手で勝負だ!」
「望むところだ!」
「じゃあ、始めぺぎゃぁぁぁ!」
奴を向こうの壁まで吹っ飛ばしたが、どういうことだこれは。何故、奴は無防備に攻撃を受けた?
「て、てめぇ!卑怯だぞ!」
「何、どういうことだ!?」
「何言ってやがる!始めってまだ言ってなかっただろうが!」
「お前こそ何を言ってるんだ?構えたらそれが合図じゃないか」
周りの冒険者どもが 「うわぁ」 「メルヴィン・・・」 「やっぱりあいつも・・・」とかなんとかよくわからないことを言っている。
「そ、そうか。てめぇはメルヴィン教徒だったな。よくわかったぜ」
メルヴィン教徒じゃないんだけど、まぁどうでもいいかそんなことは。
「仕切り直しだ、いくぜ!」
「鼻血がでてるが大丈夫か?」
「うるっせぇわ!くらいやがれ!」
ボクシングのようなスタイルで奴が攻めてくる。かなり速い、シルバー昇格間近っては嘘じゃないようだ。くそ!防戦一方だ、しかもなんて硬い拳だ。一発一発が骨の芯に響きやがる。開幕にぶん殴った分のダメージと、奴が酔っ払ってたから何とかしのげているが素の状態だったらもうやられてる。なんであいつの拳はあんなに硬いんだ。
「オラオラどうした、そんなもんか」 挑発してくる奴にイラっとするが、反撃できない。ん?なんだ今のは?
奴の拳がうっすら赤く光ってる・・・そうか!奴は拳にマナを込めて拳自体を更に強化して殴っているのか。メルヴィン教会の組み手は体全体にマナをめぐらせて身体強化はしていたが、あんな使い方もあるのか。色からして奴は火のマナっぽいな。なら俺だって、光のマナを拳に集めれば・・・
「・・・てめぇ!」
奴も気づいたか、俺の拳が白く光り始めたことに。ひじから先も強化して・・・これなら奴の拳も受けられる。しかしやはり光のマナで強化した部分は、ズキズキ痛い。これで体のダメージがないって本当かよ。だが、これでまだやれる。
「やるじゃねぇか、まさか土壇場で色付きを使いこなすたぁな。だが経験の差だな、今覚えたばかりのてめぇと俺とじゃ、俺に分があるぜ」
確かにその通りだ、今は凌げているが俺の攻撃はまともにあたらない。しかし奴の攻撃は確実に俺を削っていってる。このままじゃいずれ防御を突破されやられる。なんとかスキさえ作れれば・・・そうだ!
「駆け出しのくせに、ここまでもつとはな。だがこれで終わりだ、くらいやがれ!・・・うわ!なんだこいつは!」
奴がトドメを指そうと拳を振りかぶった瞬間、俺はドクロちゃんを出して思いっきり光らせてやった。フラッシュグレネードのイメージでやったので一瞬部屋が白く光った。奴がひるんだスキに顔面に思いっきり右ストレートを食らわしてやった・・・が、瞬間俺も後ろに吹き飛ばされた。
何が起こったのかわからず一瞬意識が飛んた。どうやら殴ったと同時に俺も殴られたらしい。すぐに気づいてあたりを見渡すと奴も後ろに飛んでいた。くそっ!相打ちだったか。
「いてて、くそっ!最初のはともかく今のは言い訳できねぇ!」
「いや、俺も吹き飛んだから。っていうかよく今のを殴り返せたな。見えなかっただろ」
「あん、そこはカンよ」
「カンかよ、すげぇな。こりゃ俺の負けかな。お前だいぶ酔っ払ってたし」
「馬鹿野郎、そんなもん言い訳になるか。っていうか謝るなら最初の一発を謝りやがれ」
「え?なんで?」
「お前・・・いや、もういい。とにかく引き分けだ。それでいいだろ。その・・・さっきは骨のこと馬鹿にして悪かったよ」
「・・・いや、俺もお前の髪のこと、ごめん」
「気にすんなよ!それより飲もうぜ!俺はラージーってんだ」
「俺はクレストだ。よろしくなラージー」
「おお、いい話だぞ!」 「うんうん、仲直りしてよかったね」 「ラージーと張り合うなんて大したやつだぜ」
周りの冒険者どもがワイワイ言いながら拍手してる。なんかいいな、こういうの。
「ほらほら、飲み直しだ。クレスト、お前も飲め」
そう言って、立ち上がりラージーの奴が俺に手を伸ばした時・・・
「・・・何をやっているんですか」
地獄の底から湧き上がってくるような声が響いた。
振り返ると、エレーナさんが鬼のオーラを纏ってこっちを見ている。さっきまで騒いでいた冒険どもは誰も一言も喋らない、っていうかこちらを見もしない。あんなに俺とラージーの戦いを称えてくれていたのに。横を見るとラージーの奴も青ざめて固まっている。
「・・・それで、これはどういうことですか?」
俺たちのケンカで壊れたであろう壁や椅子やテーブルをみてエレーナさんが質問してきた。
俺たちはほぼ同時に互いを指差し 「「こいつがやりました!!」」 と言った。
瞬間視界が白くなり、俺たちはギルドの外に吹き飛ばされていた。
そして椅子とテーブルの弁償代として、俺達はギルドに借金した。
ギルドの備品を壊してエレーナさんにしこたま怒られた俺は、その日はもう仕事を受けさせてもらえなかったので、翌日こそこそとギルドにはいりヒール草の採取依頼の紙を剥がしてエレーナさんに持って行った。
「これ、お願いします」
「・・・受理します」
まだ怒っておられるようだ。空気を読んだ俺は、余計なことは言わずにその場を後にした。俺は今ビルスギンソードとビルスギンアーマーを買った直後なので、ほぼ素寒貧だ。早く稼いで借金を返さねば。
こそこそとギルドを出ようとしたところで、入り口付近にラージーがうずくまっているのが見てた。
「どうしたんだ、なんか落ち込んでる?」
「おう、おめぇか。まぁちょっとな」
「わかるぞ、借金はつらいよな」
「ちっげぇよ、借金はもう返したわ」
「え、マジで。いいなぁ」
「おまえ、そんなに金ないのかよ、貸してやろうか?」
相変わらず口は悪いのに人は良いようだ。こいつは口で損しすぎだろう。
「いいよ、稼いでギルドに返すから。それよりも借金じゃなきゃなんで落ち込んでたんだよ」
「シルバー昇格が見送りになったんだよ」 と横から女の子が言ってきた。最初にラージーが絡んできたときにそばにいた子だ。
「自業自得じゃわい、酔っ払って新人に絡んだんじゃから」 ともう一人ドワーフのおっさんが入ってきた。
「うるっせいな、わかってるよ!」
「なんだ、俺の件でそうなったのか。そりゃあ残念だったな。ハッハッハッ」
「てめぇは、少しは殊勝な顔しろよ!はぁー、まぁいい、また貢献度をためりゃいいだけだ」
「ねぇねぇ、それよりも、君昨日はすごかったね。いくら酔っぱらってたって言ってもラージーと引き分けるなんて」
「そうじゃのぅ、アイアンランクとは思えん強さじゃった」
「あ、自己紹介がまだだったね。あたしはミリアでこっちはガルドルム。3人でパーティー”炎の翼”をやってるんだ」 「よろしくのぅ」
こいつ、パーティメンバーがいたのか。パーティー名は”炎の翼”っていうのか。くそっ、ちょっとかっこいいな。俺は一人、ボッチプレイが嫌いなわけじゃないんだが、なんか負けたみたいで悔しい。ならば俺のとっておきの仲間を紹介するしかあるまい。
「俺はクレスト、よろしくな。そんでこっちは・・・『ドクロちゃんだ、よろしく頼むぜ』」
「って、えー!なにこれ!?」 「しゃべっとるぞ、どういうことじゃ?」
「お前そういえば昨日の時も目をくらませたとき一瞬こいつでてなかったか?何なんだこいつは」
「ドクロちゃんだ、『ドクロちゃんだぜ』」
「だからドクロちゃんってなんだ!?」
「『さぁ?』」
「わかんねぇのかよ!」
「ドクロちゃんは謎が多いからな」
「不思議だねぇ。あ、でもちょっとかわいいかも」
「どうやって、しゃべっとるんかのぅ」
みんな不思議がってるな、かました甲斐があったぜ。
「クレストは面白いねぇ。あ、そうだ”炎の翼”に入らない?ラージーと張り合えるなら十分やっていけると思うんだよ。ねぇ二人はどう?」
「わしは構わんぞ。ラージーとの相性も悪くなさそうだしの」
「俺もいいぜ、こいつはなかなか骨がありそうだからな」
わかってるじゃねぇか、嬉しいことを言ってくれるねぇ。でもなぁ・・・
「ありがとうな。でもしばらくは一人でのんびりやるわ。俺マイペースだからなぁ」
「そうかい、無理強いはしねぇよ」 「えー、残念」 「また、そのうち組んで仕事しようのぅ」
と言って連中は行ってしまった。出会いは最悪だったが、案外悪くない誘いだったな。パーティーか、そのうち・・・かな。
俺が余韻に浸って黄昏ていると、背後から圧を感じたので振り返ったら、エレーナさんがゴールドクラスの無表情フェイスでこっちを見ていた。いつまでグダグダやってんだてめぇ、早く行けよって顔ですね、わかります。俺はダッシュでギルドを去った。




