第16話 骨、街の外へ行く
初めてエレーナさんに土下座をしてから、3か月が過ぎた。俺は街の依頼を精力的にこなしていた。清掃業が板についてきて、アイアンランクでありながら清掃限定ではあるが指名依頼まできた。芸術家のマダムもたまに依頼をくれて、お茶する仲になったし、教授の家にもしょっちゅう入り浸り話をしている。いつまでも本を読めないのが悔しいので、読み書きと言葉の勉強をサリーに教わっている。宿屋業務を手伝っているためか、読み書き、計算や言葉遣いなど、なかなか大した物をお持ちの様だ。そして意外と教えるのがうまい。ドクロちゃんと一緒にサリーに勉強を見てもらっていると、よく近所の子供が混ざってくる。ビリー君というらしいが、どうもサリーのことが気になっているようだ。好きな女の子が得体のしれない骨と遊んでいるのだから気が気じゃないのだろう。惚れた女を守ろうとしているのかもしれない。まぁ最初に会った時、ドクロちゃんを見て腰を抜かしていたけどな。
清掃業務ではレストランで引っ張りだこになった。なにしろ皿洗いは”浄化”で秒殺だからな。とても割のいい稼ぎとして重宝させてもらっている。後、空いた時間で治癒院に行ってエメラに治癒魔法のコツを聞きながら、治療業務を手伝っている。治癒魔法の使い手は貴重らしくて、こちらでも歓迎されているのは嬉しい限りだ。治癒院を手伝う対価にまた聖護院で修行をつけてもらえることになった。ロドリゲスの奴はよろこんで”入信しましょう”と言って、エイブラハムに笑顔でぶっ飛ばされていたなぁ。そうして、朝は修行、昼から依頼や治癒院、晩に読み書きや言葉の勉強というサイクルができあがっていた。
そんなこんなで、日々に忙殺されていた時、エレーナさんから呼び出しを食らった。
「クレストさん、日々精力的に街の依頼を消化していただいてギルド員一同感謝しております」
「あ、ありがとうございます」
なんだ、改まって。なんか怖いんですけど。
「しかし、クレストさん。このままではアイアンランクから昇格ができません」
なんと!
「なんでですか?俺、結構頑張っていると思うんですけど」
「クレストさん、あなたここに来てから街の外にでましたか?」
「ん?」
「街の外の採取依頼や、討伐依頼を一つもしていないでしょう。だから昇格ポイントが足りないんですよ」
「・・・・・・あっ!」
「ハァッ、意図的に行かなかったのではなく、普通に忘れていたんですね」
「そうっすね、街の中で普通に完結してました」
エレーナさんが額に手をおいている。
「では、別に街の外に行きたくないわけではないのですよね?」
「そうですね、じゃあ行ってみようかな。そうだ、図鑑は教授の家で見てたし薬草採取の依頼とかやってみようかな」
そう言って、採取依頼の紙を剥がしてエレーナさんの所に持って行った。
「じゃあこれでお願いします」
持って行ったのはヒール草の採取依頼だ。ポーションの材料になるのでいつでも必要らしく、常設依頼だ。
エレーナさんに受理してもらって 「じゃあ、行ってきまー「ちょっとお待ちください」・・・はい?」
「クレストさん、まさかそのままの格好で行く気じゃないでしょうね?」
うん?どういうことだ?
「え、ええ。マジックバッグは持ってるから大丈夫ですよ。あ、そうか。薬草を詰める袋を持って行かなきゃですよね」
マジックバッグが土で汚れたらやだもんな。
エレーナさんが頭を抱えだした。頭痛だろうか、心配だ。
「クレストさん!」 といってエレーナさんが机を叩いた。
「は、はい!」
「普通の冒険者は、街の外に出るとき装備を整えて出るものです!あなたの今の格好は何ですか!?ただの普段着じゃないですか!バカなんですか!冒険なめてるんですか!!」
やっべぇ!エレーナさんものっそい怒ってる。
「ご、ごめんなさい」
「というか、あなた最近は剣を持ち歩いているのも全く見ないんですけど!最初に会った時持ってましたよね、剣!」
お、おう確かに持ってた。俺の記念すべき敵との初エンカウント時に手に入れた思い出の剣。あれどこにいったっけ?多分宿屋の俺の部屋にあると思うんだけど。
「そして!なによりも!武具屋に行って、鎧の一つも買ってきなさい!それくらい買えるでしょ、あなたの今の稼ぎなら!」
「は、はい!買えます!・・・多分」
「多分じゃない!紹介状書いてあげるから、今すぐ行ってきなさい!っていうか、あなた、この街に来て何ヶ月たってると思ってるのよ!なんで冒険者なのに一度も武具屋に行ってないのよ!おかしいじゃないの!!」
エレーナさんが、机をバンバン叩いてる。やばい!マジ怖い!!
「は、はい。すぐ行きます。あの・・・大丈夫ですか?手、痛くないですか?」
「うっさい!早よ行け!!」
「ご、ごめんなさいぃぃ!行ってきますぅぅ!!」
俺は涙目で走った。
激オコのエレーナさんに半ば追い出されるように、ギルドを飛び出した俺は教えられた武具屋に行く前に、宿屋に戻ってマイソードを持ってきた。ずっと放置してたし、せっかくだから見てもらおう。教えられた場所にたどり着いたら、カーン、カーン、と子気味の良い音が響いている。どうやらここで鍛冶もしているようだ。
「ごめんくださーい!」
店に入ったけど誰もいない。音が途絶えていないから仕事中っぽいな、途中で邪魔するのは悪い気がするが、エレーナさんが怖い。仕方ないからお邪魔させてもらおう。
奥に入り大声で 「すいませーん!」 と叫んだら 「聞こえとるわ!ちょっと待ってろ!」 と言われたので、店に戻って武器や防具を眺めていた。ほうほう、いろいろあるんだなぁ。お、あれはバトルアックスってやつかな、かっこいいなぁ。おお!あそこに飾ってあるのは両手剣か、確かクレイモアとかいうんだっけ、かっこいいなぁ、鍔に宝石とかついてるし装飾も奇麗だ。しかし重そうだな、あんなもん振り回して戦えんのかなぁ、ダムレッドなら片手でブンブンいけそうだが。
そんなこんなで、プラプラ眺めていたら 「おう、待たせた」 といって小柄な男が顔を出した。見た瞬間ビビッときたわ。ドワーフだこの人、間違いねぇわ、だってひげもじゃだし、小柄だし、でもがっちりしてるし、鍛冶屋だし。
「ん?なんだ、人の顔ジロジロ見て」
「いや、ただちょっと感動してるだけ」
「変な奴だな、っていうかお前噂の骨人族だろ」
もう驚かんぞ、今更だけど、街中でこんな骨がちょこちょこ数か月もうろついてたら、そりゃ噂にもなりますわな。
「エレーナさんの紹介できました」
「ほぉ、嬢ちゃんの」
もらった紹介状を渡すと、おっさんは読み始めたのだが、途中から渋い顔に変わっていった。
「・・・お前、その格好で街の外へ出ようとしたのか?いや、剣はもってるけどさすがに軽装すぎやしねぇか」
「・・・・・・剣はメンテナンスしてもらおうと思って持ってきたから、エレーナさんの前ではそれも持ってませんでした」
「お、おう。そうか。そりゃ嬢ちゃんも怒るわな」
「それに書いてあるの?だいぶ怒ってる?」
「馬鹿がそっちに行くから、見繕ってやってほしいと書いてあるぞ」
「・・・帰ったら、もう一回謝っとくよ」
「それがいいな」
「じゃあまずは、その剣見せてみな」 と言われたので、剣を渡した。鞘から抜いた瞬間ため息をついてこっちを見た。
「お前、この剣はもうダメだぞ。刀身が痛みすぎてる、研ぎなおすにしても限度があるわぁな」
「え、マジで?」
思い出の剣はもう死んでいたようだ。
「そっか、じゃあなんか代わりの剣ください」
「さっぱりしてんなぁ、思い入れとかないのか?」
「いや別に」
「そ、そうか。じゃあなんか見繕ってやるから予算をいいな」
「うーん、鎧と合わせて50万くらい?」
「お前・・・いや、あるにはあるけどよ。鎧も含めてその額は・・・命をかける装備なんだから、もうちょっと出せないのか?」
うーん、もうちょっと出せるけど、なんかこう気が乗らないなぁ。
「じゃあ商品みせて。ビビッとくるやつあったら考える」
「じゃあこれなんかどうだ。銀鉄鋼の合金で作ったフルプレートメイルだ。値段は300万だな」
「高いわ!そんなもん買えるなら予算50万って言ってねぇし!」
「んなこと言ってもな、うちはオーダーメイドで安くても100万からだぞ」
「そうなの?じゃあなんでエレーナさんはここを紹介したんだ?」
「そうだな、お前街で噂になってたけど、光魔法が使えるって本当か?」
「え?本当だけど、それがどうしたんだ?」
「なるほどな、お前名前は?」
「クレストだけど、その紹介状には書いてなかったの?」
「馬鹿としか書いてなかったな」
「そ、そう」
「俺は、グリスギンってんだ。これでも鍛冶師の中では名の通ったドワーフだ」
「へぇー、かっこいい名前だな」
「そ、そうか?」 と言って、髭をさすって照れている。髭モジャのおっさんが照れてもかわいくない。
「そんでな、お前が俺んところの魔導石に光のマナを注いでくれるんなら値段の方を勉強してやる」
「おお、マジで。どれくらい安くしてくれるんだ?」
グリスギンが木箱を持ってきて 「この箱の魔導石全部に注入してくれたら鎧と剣を合わせて100万で売ってやるよ」
木箱の中には大量の石があった。聞けば魔石を媒介にしてマナを閉じ込められるように加工された物質が魔導石らしい。相場は知らんけど、エレーナさんの紹介だしきっと安いのだろう。
「解体用ナイフもつけてくれない?」
そういや持ってないから、おねだりしてみよう。
「はぁー、わかったよ。つけてやるから、交渉成立だな」
早速魔導石の注入をしてみるか。初めての経験だけどなんとかなるだろう。魔導石をみてみると透明な水晶みたいな物質だった。これにそれぞれの属性のマナを込めることで魔道具や武具の材料になるらしい。例えば火のマナを込められた魔導石を剣に組み込んだらフレイムソードなんてのも作れるんだとか。ただしかなりの高等技術でこのベルガイアでもそれができるのは俺ぐらいだぞってドヤ顔で言ってた。照れ顔はかわいくないけど、ドヤ顔はかっこいいと思うぞ。後、そういう武具は魔導武具といって安い奴でも数百万、それなりのものを買おうと思ったら数千万はみとかないといけないらしい。
光のマナ持ちは割と希少なうえにマナ注入の仕事もやりたがらないから、光の魔導石は数があまり出回らないのだとか。なるほど、それを見越してエレーナさんは俺をここによこしたのか。まったく頭があがらないぜ。
光のマナを注入し始めると、透明な魔導石は少しずつ白く変色してきた。真っ白になったところで 「それで完成だぞ」 とグリスギンが言ってきた。結構マナを使ったな。これ全部注入できるかな?途中でマナ切れになりそうなんだけど。いや待てよ、なんか無駄が多かった気がするな。もっと効率よくマナを注入できればいけるんじゃないか。
俺はスマホの高速充電をイメージして魔導石にマナを注入してみた。10%、30%、60%、90%、100%、グングン充電されていく。なるほど充電のイメージで当てはめれば、さっきまでのはだいぶ漏電してたな。これならいける。
一個目の3倍の速さでマナを詰めていく俺を見てグリスギンが 「お前ずいぶん早いな」 と言ってた。確かに、かなり早くなったしこれなら全部充電できるけど、残りがまだまだある。なんか飽きてきたな。
暇なので、ドクロちゃんを出してドクロちゃんの口を開けて食わせてみた。
・・・なんか2秒で満タンになったんですけど。・・・なんで?一応もう一回ドクロちゃんにパクリさせて充電してみたら、やっぱりジャスト2秒だ。横でグリスギンが固まっている。高速充電が一個2分くらいだったから、早いって次元じゃないんだけど。まぁ早いに越したことはないか。
「お、お前。そ、それは」
なんかグリスギンがもにゃもにゃ言ってるけど気にせずにドクロちゃんにパックンチョさせてたら、あっという間に全部充電し終えた。
「終わったぞ」
「いや”終わったぞ”、じゃねぇわ!なんだそりゃ。おかしいだろうが!」
「早く終わったんだから、いいじゃんか」
「そうだけど!どうなってんだ?さっきのあれはなんだ?」
「あれはドクロちゃんだ」
「ドクロちゃんってなんだ?」
「ドクロちゃんはドクロちゃんだ。子供達に大人気の小粋で可愛いやつだ」
最近はサリーの口コミで宿屋を中心にご近所の子供達に広まっていて、ドクロちゃん見たさにガキどもが集まってくる。ドクロちゃんに芸をさせると大喜びですごい人気なんだよ。
「で、結局これはなんなんだ?」
「さぁ?」
「さぁ?ってわかんねぇのかよ」
「うん、わかんない。ドクロちゃんは謎が多いからな」
「あれをそんなフラットな言葉でかたづけるな!」
『まぁまぁ、落ち着いて』
「しゃべった!?」
ドクロちゃんになだめさせてみたが、余計取り乱してしまった。
頭を抱えるグリスギンだが、俺に言われても困る。ドクロちゃんのことはよくわかんないからな。
しばらくして落ち着いたのか 「まぁ。仕事はしてくれたんだから約束通り100万で剣と鎧と後、解体用のナイフだったか。売ってやる」 と言ってくれた。
「それで、どんなのがいいんだ?」
「ヨロイは動きやすいやつがいいな。武器はやっぱ剣だな」
「そんじゃあ、まずはヨロイからだな。動きやすさ重視ならスケイルメイルかレザーメイルだな。だが、流石にこの予算でスケイルメイルは売ってやれねぇ。レザーメイルになるがいいか?」
「いいよ」
「軽いなおい、自分の身を守る装備だぞ。そんな簡単に了承していいのかよ」
「フッ、グリスギンの腕なら知っている。なんの問題もない」
「今日初めて会ったばっかなんだが!」
「何を言う?俺の人生でかっこいい名前ランキング2位のグリスギンの作品だぞ。大丈夫に決まってるだろ」
「そ、そうか」 と言って頭をかいて照れている、やはり可愛くない。
「ちなみに1位は?」
「クレスト」
「・・・そ、そうか」
そうだよ。1番かっこいい名前だよ。あと、3位はダムブレッドだ。
「それと、短い時間だけど、グリスギンの作品は見た。素人目にでも素晴らしいのは一目瞭然だ。加えて、仕事に打ち込む姿を見れば、疑う余地はないな」
「・・・けっ!わかってんならいいんだよ」 と言って鼻っ面を親指で掠めて照れて見せた。うん、それはかっこいいぞ。
「じゃあレザーメイルだが、これなんかどうだ?ブラウンベアーのレザーメイルなんだが、急所の部分に赤銅熊の皮を縫い合わせてある。こいつなら動きを阻害しないし、並の鎧より防御力も高い。しかも急所だけとはいえ赤銅熊の皮は火に強い耐性もあるしな」
「おお!クマメイル、いいじゃん。気に入った」
「そうかい、じゃあ剣だが、まぁ黒鉄鋼の剣が妥当だがさっきの剣を見る限りお前は両手剣持ちだったからその方がいいか」
「うん?うーん、どうなんだろう?」
「どうなんだろう?ってあの剣をずっと使ってたんだろ?」
「いや、数日しか使ってないし。剣を振ったのもその時が初めてだし」
「お前・・・はぁ、分かった。じゃあ一通り振ってみろ。それで俺が決めてやる」
おお、やっぱこいつ優しいな。よし、じゃああのかっこいい剣を・・・「ちょっと待て、お前あれはダメだぞ」
「なんで?」
「あれは魔導武器だ、5000万はするぞ。下手に振り回して欠けたら弁償な」
「・・・うん、さわらない」
「じゃあ俺がいくつか持ってきてやるから待ってろ」 と言ってグリスギンが奥に消えた。
しばらくして剣を数本持ってきて、振ってみろと言われたので、言われるがままに振ってたら 「よし、もういいぞ」 と言われた。
「大体わかった。お前、剣は素人だな?」
「うん、そうだよ」
「なら、片手剣がいいだろう。初心者に扱いやすいし、空いてるもう片方の手でいろいろできるからな。この黒鉄鋼の片手剣ならお前にも使いやすいだろう。こいつは少し刀身を長くしているから必要に応じて両手振りとしても機能できる。さっきお前の素振りを見たが体幹はしっかりしていたし、力もあった。こいつも使いこなせるだろう」
おお、いろいろ考えてくれてるなぁ。黒鉄鋼の剣か、刀身が黒光りしててかっこいいなぁ。気に入った。
「じゃあ、ちょっと着てみろ合わせてやる」
「おお、わかった。武器や防具は持ってるだけじゃ意味ないもんな。ちゃんと装備しないとな」
「何言ってんだお前?」
あの後、剣とレザーアーマーを調整してもらった。少しバランスがどうとか、少し詰めた方がいいとか言われて最終調整を終えて 「調子はどうだ?」 って聞かれたんだけど、実際の所よくわからなかったんだけど、空気を読んで 「すごいな、こんなに変わるのか」 って言っといた。 「へっ、当たり前よ」 って言って満更でもない顔のグリスギンを見て、申し訳ない気持ちになった。
「いろいろありがとう」
金を払って店を出る前に礼を言う。
「たまに来い、お前は手入れを怠りそうだからな。メンテしてやる」
耳が痛いがその通りなので何も言わない。
やっと準備ができた。さぁ街の外に出て冒険だ!




