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聖なる骨  作者: 骨素子 陽晶


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第12話 骨、メルヴィン教会で修行する

 なんで俺は延々と走らされているのだろうか?


 翌日、ちゃんと朝早くに起床した俺は教会広場で俺を待つエイブラハムの所に向かった。早朝だというのにみんな起きて準備運動をしている。やっぱ敬虔な信者は早起きが基本なんだろうな。


 「おはよう、クレスト君。気持ちのいい朝だね」 相変わらずさわやかな笑顔でエイブラハムが話しかけてきた。


 「おはよう、今日からよろしく頼むよ」 とエイブラハムに返事を返していると 「おはようございまっす。エイブラハムさん、クレストさん」 とロドリゲスの奴がこっちにやってきた。


 挨拶もそこそこにみんなと一緒に準備運動を終えるとエイブラハムが 「じゃあ、まずは朝食の前に軽く走ろうか」 と言ってきた。確かに治癒魔法の訓練も大事だが軽く運動して体をほぐすのはいいかもしれないな。そのあとで魔法特訓なんだろう。


 そしてガチムチ連中に交じって、教会周りを走り出したんだけど。


 みんなペース早くない?


 軽いランニング程度に考えていたんだけど、ほとんど全力疾走しているんですけど。いや俺は全力だけど周りの奴らは軽そうに走ってる。ロドリゲスの奴ですら額に軽く汗がにじむ程度で、エイブラハムにいたっては息も切れてない。俺はすでに虫の息なのになんでこいつらこんな平気なの?もうすでに30周は走っているんですけどいつ終わるの?答えが出ないまま50周走ったところで 「今日はクレスト君が初日だからこんなもんにしとこうか」 とか言ってきた。え?うそでしょ。いつもはこんなもんじゃないってこと?軽く走ろうかって、全く軽くなかったんですけど。俺は地面に転がってるのに他の連中はストレッチをして体をほぐしている。あのロドリゲスですら、息は切れてはいるもののまだ余裕がありそうだ。エイブラハムは全く息が切れてない、っていうか汗もかいてない。この中で一番細身なのに。


 「息は整ったかい?じゃあ朝食を食べに行こうか」 とエイブラハムが言っていた。今食べたら吐くんじゃないか?走りすぎて幻肢痛が起きてるのか、ありもしない心臓がバクバク鳴ってるんだけど。


 「ち、ちょ・・・っと、ま・・・って。もう、ちょ・・・っとだけ」


 「しょうがないなぁ。ちょっとだけだよ」


 なんでこいつ全く息が乱れてないんだ。他の奴らはそれなりにハァハァいってるのに。


 ほんとにすこしだけ待ってもらって、食堂に行ったら昨日とほぼ同じ量の肉がテーブルに並んでいた。朝から重たすぎるこの異質な光景に俺が硬直していると 「どうしたんだい?クレスト君、早く食べないとなくなっちゃうよ」 とエイブラハムが言ってきた。周りを見ると昨日と同じ速度で野郎どもが肉に食いついている。


 「あのぅ、朝からこれはいったい?」 俺が疑問を投げかけると 「うん?少なかったかい?ごめんね。最近肉を獲りに行ってなかったから、少し節約しているんだよ」 とずれたことを言ってきた。


 「いや、そうじゃなくて。ほら肉ばかりじゃなくて野菜とか」 一面の肉畑に俺が疑問を投げかけると 「ああ、そういうことかい。野菜が食べたかったんだね。確かに肉ばかりじゃ栄養が偏るからね」 おお、分かったくれたか。そうだよ、肉ばかりじゃ健康に悪いからね。 「ほら、あそこにあるよ」 と指さした先には、大皿に葉っぱが何枚も重ねて積み上げてあった。横には小皿にタレの様な物もある。 「これを肉に巻いてタレにつけて食べるとおいしいよ」 とエイブラハムが言ってきた。


 「・・・・・・」


 いやいやいや、これは野菜を食べるじゃないよね。ただの肉のサポートだよね。もしかして昨日のメシも特別でもなんでもなくて、ここの日常だったのでは?


 俺がここの食事に疑問を抱いていたら 「食事が終わったら、また特訓の続きをするからね教会の広場に集合して」 と言い、エイブラハムが食堂を出ていった。っていうかもう食い終わったのかよ、周りを見渡すとみんな食べ終わろうとしている。やばい、急いで食って俺も広場に向かった。



 広場に着いたらエイブラハムが 「じゃあ今度は街を走ろうか」 と言ってきた。うそでしょ!?あんなに走ってまだ走るの?俺が口を開く前にみんな走り出した。慌てて俺も後に続く。


 領都の街はまだ朝が早いからか、人はまばらだ。だがいないわけではないので、人をよけながら走っていかなければならない。俺は人に近づく度にぶつからないようにペースを落とし気を付けているのだが、他の奴らは全くペースが落ちない。なのに全然住人にぶつからないのだ。そのせいでどんどん連中と距離を離されていってしまう。エイブラハムは俺にあわせて走ってくれているが 「クレスト君、自分の走る場所の少し先を予想しながらルートを選択して走ることを意識してみよう。そうすれば、全力で走っても人にぶつからずに走力を落とさずに走ることができるようになるよ」 とどこかの達人のようなアドバイスをしてくる。いやいやいや、なんか趣旨違くない?俺、治癒魔法の訓練をしにきたんだよね。


 この訓練に疑問を感じながら3時間は走っただろうか、俺はみんなからたっぷり遅れて教会に戻ってきた。他の奴らはとっくに走り終えて組み手をしていた。戻ってきた俺は、再び地面にダイブした。もう一歩も動けそうにない。そんな俺を見てエイブラハムが 「じゃあ次は軽く組み手をしてみようか」 と言ってきたのでさすがに 「ちょ・・・ゼー・・・っと、ハァハァ、ま・・・ハァ・・・ってくれ」 と言って彼を止めた。


 「うん?どうしたんだい?」


 さすがにこれは治癒魔法の特訓じゃないと思うんだよ、治癒魔法の特訓ってもっとこう、魔導書を読み込んだり、座禅をして瞑想したりとか、精神面を鍛える的なね、そういうやつだと思うんだよ。


 「確認したいんだけど、これって本当に治癒魔・・・「クレストさん大丈夫っすか?水飲みますか?」・・・うん、もらう」 俺がエイブラハムにこの訓練について聞こうとしてる時に、ロドリゲスの奴に話をさえぎられて少しイラっとしたがめちゃくちゃ喉が渇いていたので、お願いした。


 「はい、口開けてっす」 といって奴が手をかざしたら指の先からテニスボールくらいの大きさの水の球が現れた。俺が口を開けて驚いていると、水が俺の口に入ってきた。程よく冷たく、そして美味しい水だった。


 「へへ、俺っち、ここにきてまだ一年くらいっすけど、ここで修行したおかげでここまでできるようになったんすよ」 と言って、水の球をいくつも出してくるくる回している。


 「俺っち主属性は水なんすけど、ここに来る前は全然水のマナを扱えなくて途方にくれてたとこに、エイブラハムさんが誘ってくれて。俺っちとても感謝してるんすよ」 と照れ臭そうにロドリゲスが言う。


 「健全なマナは健全な肉体に宿るものだよ。君が体を鍛えれば鍛えるほど、その内に宿るマナは君の思いに応えてくれるだろう」


 目から鱗が落ちる思いがした。俺はなんて馬鹿だったんだ。漫画で読んだような知識で知った風な勘違いをして。瞑想とか座禅とか精神力を鍛えるとか、まず体を鍛えるのが肝要だったのだ。そうだよ、マナを鍛えるにはまず肉体からっていうもんな・・・これも漫画の知識か。い、いやこれでいいんだよ。俺もガンガン体を鍛えてマナを鍛えていこう。


 「それで、クレスト君何だったんだい?」 とエイブラハムが聞いてきたので俺は 「俺、がんばるよ。ガンガン俺を鍛えてくれ」 「その意気だよ。じゃあ組み手をやろうか」


 この後、俺はボコボコにされた。



 修行を初めて、1週間が過ぎた。早朝走って、肉だらけの飯食って、街を走って組み手をする。その繰り返しだった。初めての組み手の時は狂気を感じた。構えた瞬間吹っ飛ばされたからな。はじめ!とかの合図は!?って聞いたら心の底から首を傾げられて、構えたらそれが合図だよね?って言われた。なんだこいつら、マジやばいんですけど。俺は全く他の奴らについていけず、エイブラハムに相談したら 「大丈夫、少しずつ良くなってるよ。このまま頑張っていこう」 と言われた。


 修行を初めて、2週間が過ぎた。俺は相変わらず、走って、走って、肉食って、組み手でボコボコにされてを繰り返している。エイブラハムはもちろん、ロドリゲスの奴にも勝てない。昼からはメルヴィン教会員としての仕事をするらしく、俺も手伝いをする。教会の清掃や周辺地域の貢献、治癒院の手伝い、他にいろいろあるよだ。教会の清掃で俺を驚愕させたのが、掃除の仕方だ。エイブラハムが掃除道具を腰に巻いて壁を素手で登り始めたじゃないか。初日に礼拝堂に入った時に教会内部が異様に奇麗な理由が分かった。奴らはステンドグラスも天井も脚立も梯子もなしで、素手で登って掃除していた。スパイ〇ーマンかお前らは、見たところ壁には大した引っ掛かりもない、それを指先の力でなんでもない顔して登っていく。俺がその事実に驚愕していると、ロドリゲスの奴が 「すごいっすよね。修行を初めて3年超えて司教に認められた人しかダメなんすよ。俺っちも早くあれができるようになりたいっす」 と言っていた。こいつはまだこれができないのか、その事実にちょっとだけホッとして、3年が目安なのかと聞いてみたら 「3年修行した信徒なら、落ちても平気っすから」 と言われた・・・・・・落ちるの前提かよ。



 修行を初めて、3週間が過ぎた。早朝のランニングに何とかついていくことができるようになった。初めて周回遅れせずについていったら、エイブラハムが 「すごいね、クレスト君。君は素質があるよ」 と褒めてくれた。とても嬉しい。そして、組み手でボコボコにされた。ロドリゲスが、エイブラハムにぶん殴られてピクリとも動かなくなったから治療したほうがいいんじゃないかて言ったんだけど、 「大丈夫だよ、このくらいじゃ死なないから」 と言われた。メルヴィン教徒マジパネェわ。しかしこいつら、どいつもこいつも本当にガチムチだな。体脂肪率1%以下とかじゃないか。だが、体脂肪率なら俺も負けていないぜ!1%以下どころか驚異の0%だからな。まぁ体筋肉率も0%だが。だって骨だけだし。



 修行を初めて、1か月が過ぎた。同じように走って食って走っていると、1か月ぶりにエメラがやってきた。久しぶりにエメラに会えて喜んでいると彼女も組み手に参加するという。こんなガチムチ共に混ざって組み手をするなんて正気かと思ったが、普通にボコボコにされた。地面に倒れながらみていると、ロドリゲスの奴にも完封し、エイブラハムにも渡り合っている。俺思うんだよ、初めて会った時助けいらなかったんじゃないの?



 修行を初めて、2か月が過ぎた。街のマラソンでもスピードを落とさずに走れるようになってきて奴らのペースについてこれるようになった。このくらいの時から自分の中に変化が表れ始めた。体内のマナを強く感じ始めたのだ。明らかに体力が増え、組み手でもロドリゲスの奴相手に食い下がれるようになってきたのだ。奴は悔しがっていたが俺は自分の成長に驚いていた。特に広場の端にあった岩を拳で砕いたときは本当にびっくりした。エイブラハムがそろそろできるんじゃないかっていうからやってみたのだがやってみせたら 「クレスト君、これで君も魔闘術が使えるようになったね」 と言ってくれた。そうか、これがマナが応えてくれるということか。聞けば、魔闘術を自在に扱えるようになれば体は強く、動きも早く、体の機能が一段階向上するらしい。戦闘能力の向上には必須の技能だという。鍛えていけばいくほど、常人とはかけ離れた動きができるようになるらしい。あいつらが平気な顔して教会を隅々まで掃除できたのはこれがあったからか。俺は自分の成長が実感できて嬉しくなって、意気揚々とエイブラハムに挑み、ボコボコにされた。



 修行を初めて、3か月が過ぎた、俺は変わらず日々の修行に勤しんでいた。走り込みはもうみんなについていける、組み手もロドリゲスの奴に勝ったり負けたりを繰り返しているが、エイブラハムには一度も勝てない。たまに目を見張るものがあると彼は言うが、あいつに勝てる気が全くしない。ある日、相変わらず組み手でボコボコにされているとき、悔しくて、無我夢中で思いっきり拳を突き出したら偶然奴の頬をかすめることに成功した。曲がりなりにも初めて拳が触れたことがうれしくて奴の顔を見ると悪魔のようなオーラを出してその後ボコボコにされた。


 地面に倒れているとエイブラハムが 「合格だよクレスト君。よく頑張ったね」 と言ってきた。


 俺が驚いて起き上がると 「まさか一撃もらうなんて、油断しているつりはなかったんだけどね。これで君は魔闘術を体得したよ。これからは、メルヴィン流魔闘術初級を名乗ることを許可する。胸を張ってほしい」


 俺が言葉の意味に追い付かず周りを見渡すと、ロドリゲスの奴が 「す、すごいっすよ!俺っちだってエイブラハムさんには一度も当てたことがないのに」 と言って、称賛された。


 「これで修行は終わりだよ。もちろん君の道はまだまだ続くんだから研鑽は続けなきゃいけないよ。でも、君はこの修行をやり遂げた。それは誇りに思ってほしい」


 言葉の意味が俺の中に追い付いてきた。俺は涙を流しながら 「ありがとうございます!」 というのが精一杯だった。


 「クレストさん。修行を終えた感想はどうですか?」


 3か月ぶりにダムブレッドがやってきた。どうもいろいろ忙しくしていて会うことができなかったが、エイブラハムから進捗状況は聞いていたらしい。


 「なんか、やり遂げた感があって、すごく充実した気分っていうか」


 「そうですか。あなたは試練を超えられました。自信を持ってください。それは次なる試練への道へと繋がることでしょう」 と柔和な笑顔でダムブレッドがねぎらってくれた。


 「はい!お世話になりました」


 「まだ、いつでもきてください。メルヴィン教会は我が友、クレストを歓迎します」


 嬉しくなってまた涙が出そうになったがグッと堪えてみんなに挨拶をして教会を後にした。もう実家の様な安心感があってここを去るのは少しさみしくも感じられたが、もともとの目的は冒険者になることだ。俺は3か月ぶりに冒険者ギルドに向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「どうでしたか?クレストさんは?」


 クレストが去った後の教会で、ダムブレッドがエイブラハムに問いかけた。


 「ええ、すごかったですよ。まったくの素人が根性だけでこの3か月を乗り越えたんですから」


 クレストがうけていた訓練は実は、メルヴィン教会の入信試験であった。メルヴィン教会の入信試験は試験自体が厳しいのとメルヴィン教理念も相まって、入信者があまり来ず閑古鳥が鳴いていた。その分試験を潜り抜けたものは屈強な戦士ばかりで当然試験を受けに来るものも、そのために己を鍛え上げたものばかりである。だからこそ、エイブラハムはクレストが修行に根を上げたらすぐに入信者用から街の人が気軽に運動するために来る時用のエクササイズコースに切り替えるつもりだった。しかし、ど素人のクレストは根性だけでこの試練を乗り越えてしまったのだ。これは長いメルヴィン教会の歴史でも初めての快挙であった。


 「ずいぶん彼が気に入ったようですね」 笑顔でダムブレッドがエイブラハムに言う。


 「そうですね、彼の今後が楽しみではありますね。教会員の資格は得たわけだから、同胞になってくれたら嬉しいんですけどね」


 「おやおや、信仰の強要はいけませんよ」


 「もちろんわかってます。しかし彼はメルヴィン教会の理念と相性がよさそうですし、またかかわることになるでしょうね。それに、彼はすぐここに戻ってきますよ」


 「おや、それはまたどうして?」


 「いやだって、彼は──」



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 ギルドに入ると、貴族名鑑に名前の載っていそうな二人が俺を出迎えてくれた。


 「おう、クレスト。久しぶりじゃねぇか」 「ホント久しぶりね、訓練はどうだったの?」


 アレクサンダーとクリスティーナの二人が聞いてきたので 「おう、ばっちりだぜ」 と答えてやった。


 二人と少し会話した後、受付のエレーナさんの所に向かう。修行の報告をして今度こそ冒険者として活動をするのだ。


 「エレーナさんお久しぶりです。クレスト、修行を終えて戻ってきました」


 「お久しぶりです、クレストさん。それで、どうでしたか?」


 「はい、メルヴィン流魔闘術初級を体得しました」 と報告するとエレーナさんは僅かに目を見開いて驚いた


 「こんな短期間でメルヴィン流魔闘術初級を体得するとはすごいですね」 と褒めてくれた。


 俺は嬉しくなっちゃってドヤ顔で 「ふふん、超がんばりました」 と胸を張った。


 「それで、治癒魔法の方はどうですか?」


 「・・・・・・あっ」


 「・・・・・・」


 「・・・・・・」



 俺は追加でもう1週間メルヴィン教会で修行した。

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