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聖なる骨  作者: 骨素子 陽晶


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第11話 骨、メルヴィン教会で学ぶ

 エメラが指さした方向に大きな教会が見えてきた。ゴシック建築と言えばいいのか、直線に伸びた尖塔がいくつもある。まさに大聖堂といった感じだ。入り口にえらい体格のいい兄ちゃんがこっちを見ていた。だいぶ鍛え上げてんなぁ・・・


 「おお、エメラちゃん。お帰りっす。修行はどうだったっすか?」


 「ロドリゲスさん、ただいま戻りました。修行は途中で中断したんですよ。紹介します、こちら骨人族のクレストさんです」 紹介されたので俺も挨拶しておく 「クレストです。メルヴィン教会に学びに来ました。よろしくお願いします」


 「あんたメルヴィン教会に入信しに来たっすか!?そりゃ素晴らしいっす!」 「え?いや入会じゃなく治癒魔法を学びに・・・「司教の所に案内するっすよ!さぁこっちっす、今は礼拝堂にいるはずだから!」


 言い終わる前に、強引に連れていかれてしまった。いや、こいつ力強いな!エメラと一緒に半ば強引に礼拝堂に連行されてしまった。礼拝堂は質素だが手入れの行き届いた、奇麗な場所だった。こまめに掃除をしていることがうかがえる。この場所一つとっても彼らが教会を大事にしていることがわかる。天井近くの高いところに大きなステンドグラスがある。まるで毎日ピカピカに磨き上げたかのようにとても色鮮やかだ。キラキラしていてとても奇麗だ。いやまて、奇麗すぎやしないか?あんな高いところで階段もない場所のステンドグラスがなんであそこまでピカピカなんだ?よく見れば、とんでもなく高い天井もここからでもわかるくらいピカピカだ。魔法で奇麗にしたりしているのだろうか。ともあれ、清潔であることに問題などあるわけもない。この礼拝堂をみればメルヴィン教徒の人間性も押して図れるというもの。きっと信仰熱心で高潔な方々に違いない。


 少し薄暗いが、礼拝堂の奥で一人熱心に祈っている人が見える。祈りの途中で話しかけるのは失礼にあたるな、ここは彼の祈りが終わるまで待って・・・「司教!!入信者っす!!久しぶりの入信者っすよ!!」 っておーい、お前も教会員なんだろ?祈りの邪魔していいのかよ。


 件の人物が空気を読まない同胞の声に気づいて立ち上がり振り向いた。そこにはまさしく筋肉達磨がいた。ボディビルダーなんて目じゃない。いや、正しく方向性が違うのが分かる。あれは魅せるための筋肉じゃない、筋繊維一つ一つが喜びを体現しているかのように活性化している。こいつ、とんでもない武術の達人だ。そして、見た目通りの化け物だ。能ある鷹は爪を隠すというが、ここまで剥き出しの爪を見たのは初めてだ。素人の俺ですら秒で分かるくらい体幹がどっしりしている。ゆっくり落ち着いた足取りでこっちに向かってくる。まだ遠い距離なのに近づく度に圧が増していく。意識をしっかりしていないと後ろに下がってしまいそうだ。


 俺が筋肉の化け物に戦慄していると横からエメラが 「ダムブレッドさん、ただいま戻りました」 と気さくに化け物に話しかけた。間近でみたらよりデカいな、タッパは2メートルくらいあるんじゃないか?英霊召喚されたらクラスは絶対バーサーカーだわ。大丈夫か、理性を失って暴れだしたりしないよな?


 「おお、エメラさん、よく戻りましたね。修行は順調ですか?」 と化け物が人語を話した。俺が思った数千倍は理知的な話し方だ。


 「修行は事情があって途中で中断しました。今日はこちらのクレストさん・・・「そうっすよ!司教、入信者っす!われらの仲間が増えるんすよ」・・・」 と入り口にいた兄ちゃんが割り込んできた。最初はがっちりしていい体してるなと思ったが、目の前の怪物を目撃した後じゃ、華奢なか弱い乙女にしか見えない。名前なんだっけ?ロドリーヌだったか?


 「ふむ、初めまして、メルヴィン教会で司教を拝命しております、ダムブレッドと申します。クレストさんとお聞きしましたがメルヴィン教会に入信なさりたいのだとか?」


 「初めまして、クレストです。いや入信じゃなくてこっちのエメラの紹介で光魔法を学びにきたんですけど」


 「ほう」 と筋肉司教はエメラの方を向くと 「そうなんです。クレストさんは骨人族でありながら、主属性が光なんです。だからメルヴィン教会で学ぶのが一番いいと思いまして」


 「なるほど、なるほど。では入信はせずに修行をなさりたいと?」


 「あー、そういう感じになるのかな。もしかして入信しないと修行できない感じ?」


 「いえいえ、そんなことはありませんよ。ただ信者以外の方の修行は一定の献金を頂く形になりますが」 そりゃまぁそうだよな。タダでやってくれる方が怖いわ。


 「えー、入信しないんすか。入信しましょうよー。いいっすよ、メルヴィン教会」 などどロドリーヌがのたまっているが、信仰の強要は感心しないぞ。


 「こらこら、無理強いはいけません。正しい信仰心は内なる己から発するべきものです。他者が水を注ぐものであってはいけません」


 「た、確かに、クレストさん、すいませんっしたっす。」 とロドリーヌが謝ってくれた。うんうん、すぐ謝れるのは美徳だぞ。俺の会社のクソ上司は自分が悪くても言い訳ばっかりして全く謝らなかったぞ。などど考えていると 「あの、クレストさん。ロドリーヌじゃなくてロドリゲスさんです」 と訂正してきた。どうやら心の声が漏れていたのを聞かれてしまっていたらしい。


 「では、入信はひとまず置いておいて、エメラさんの推薦もありますし我らが教会で学んでみますか?」


 「はい、ぜひお願いします」 あと大事なことを聞いておこう。 「それと学ぶにあたって、いくらほど包めばいいんでしょうか」 今は宝石のおかげで懐に余裕はある。200万メルクというのはエメラによると一般庶民の家族4人が贅沢しなければ半年は暮らせる額だという。とはいえ、俺の持ち金はこれですべて、修行の後の身の振り方も含めて金は入用だろう。


 「そうですね、三か月住み込みで修行して30万メルクでどうでしょうか?」


 思ったより安い、こちらとしてはありがたいがいいのだろうか。


 「あの、思ったより安く感じているんですけどいいんですか?」


 「ええ、エメラさんの紹介もありますし、なによりクレストさん、あなたは骨人族です。我らがメルヴィン教の開祖、導師メルヴィンも骨人族です。これもメルヴィンのお導きでしょう」


 なんと、メルヴィン教会の開祖も俺と同じ骨人族だったとは。これは何か縁というものを感じてしまう。


 「そういうことならば、お願いします」 と言って、俺は袋からお金を取り出して彼に渡した。


 「・・・確かに頂戴いたしました。それでは今日は遅いので明日から早速修行を始めますがよろしいですか?」


 「はい、もちろんです」 治癒魔法の特訓かぁ、どんな訓練をするんだろうなぁ。楽しみだ。


 「これから夕食なので、クレストさんも一緒に食べましょう。エメラも食べていきなさい」 おお!メシ、そうだよ、この世界に来てからちゃんとした食事を一回もしてない。エメラの干し肉もおいしかったけど、異世界初ご飯。


 「すいません、ダムブレッドさん。ありがたいのですが、私はまだマリーさんに挨拶していないので、宿に戻ろうと思います。教授に報告にも行かないといけないので」


 「そうですか、それは残念です。では、夜も更けてきました。気をつけて帰りなさい」


 「はい、ありがとうございます。クレストさん、ここで一度お別れです」 なんか唐突だな、寂しくなってきた。


 「・・・エメラ。本当にいろいろありがとう。俺修行頑張るよ」 「ええ、最初はきついでしょうけど頑張ってください。私も治癒院で働いているのでいつでも遊びに来てくださいね」 「おお、またな。」


 ああ、エメラが行ってしまった。そんな風に黄昏ていると 「さぁ、クレストさん。食事に行きましょう」 と筋肉達磨が誘惑してきたので俺は 「早く行きましょう。お腹と背中がくっつきそうです」 と返した。


 「ああ、その前に少々お待ちを」 と言って、ダムブレッドは奥に消えた。そしてすぐに何かを持って戻ってきた。 「これをどうぞ」 と言って渡してきたのは、服だった。前世でいうところの作務衣に近い感じだ、メルヴィン教徒の修行服だろうか。


 「お見受けしたところ、クレストさんの服はかなり傷んでいるようなので、よろしければこれを着てください。明日からは修行も始まりますし」 と言ってきた。なんて配慮の行き届いた筋肉だろうか。確かに目覚めた時から来ていた服はボロボロだ。すっかり忘れていたが、見栄えがかなり悪い。伊達に司教は勤めていないというわけか。これからは敬意を込めて、心の中で彼のことを善玉筋と呼ぼう。


 「ありがとうございます。早速着替えさせていただきます」 といい隅の方でいそいそと着替えた。新しい服に袖を通すと気持ちも軽くなるなぁ。着替えている途中で、善玉筋が 「では私は先に食堂に行ってクレストさんのことを伝えてきます。着替え終わったら、ロドリゲス、食堂に行く前にクレストさんの部屋に案内してあげてください」 と言った。


 「了解しました。さぁクレストさん行きましょう」 とロドリーヌ改め、ロドリゲスが俺の手を引っ張る。おい待て、まだズボンが途中だから。こいつ、門番のトーマスと同じ匂いがするな。


 ロドリゲスに案内された部屋は、机に椅子とベッドがあるだけの簡素な部屋だった。しかしようやく屋根の下で寝られるかと思うと感動もひとしおだ。ベッドを見てたら眠くなってきたけど、メシだメシ。俺はロドリゲスに導かれるまま、食堂に向かった。


 食堂は大人数で食べるためだろう、長テーブルに長椅子が並べてありすでにほとんど人で埋まっていた。俺とロドリゲスは案内された席について食事をまっているのだが、ここにいるのはメルヴィン教信者だよな?みんな作務衣を着た今の俺とおんなじ格好をしてるし。気のせいか、いや気のせいじゃないな、みんなムキムキなんですけど。こいつら本当に僧侶《クレリック》か?破戒僧とかじゃないだろうな。いや一人だけ細身の兄ちゃんがいる。穏やかに微笑んで人当たりがよさそうでいかにも教会の神父って感じだ。うんうん、そうだよな。破戒僧なんて失礼な考えを持ってしまった。反省しよう。


 そんなことを考えているとダムブレッドが現れて 「みなさん、今日から我らが教会で共に学ぶ仲間を紹介します。骨人族のクレストさんです。彼は入信するわけではありませんが、メルヴィン教の教えに興味を持ち、学んでみたいと言ってくれました。ですのでみなさん、彼を共に学ぶ仲間と思い切磋琢磨に励んでください」 紹介してくれたので立ち上がって、挨拶しといたほうがいいよな。


 「初めまして、クレストと言います。まだまだ若輩の身ではありますが、少しでもみなさんの教えを身につけられたらと思います。よろしくお願いします」


 「こちらこそ、よろしくな」 「おお、礼儀正しいな」 「一緒に頑張りましょう」 とこんなどこの馬の骨とも知れない男をみんな好意的に見てくれる。これも開祖のおかげだろうか。だとしたら、すごくありがたいな。そんなことを考えていると料理が運ばれてきた。鳥の丸焼きに、ローストビーフの様な肉、でっかい角煮のような肉、たっぷり肉に入ったチャーハンの様な物、フランスパンのような物にでっかい肉がはさまれたサンドイッチ、超厚いステーキ、油の強そうなソースのかかったハンバーグ、肉がゴロゴロ浮かんでるシチュー。すげぇー、肉だらけだ!見渡す限りの肉料理が並べてある。俺の前世でもここまでの肉がテーブルに並んだはなかなか見なかった。ビアホールかここは?もしかし今日は特別な日か?誰かの誕生日か?それとも俺の歓迎会を兼ねているのだろうか?だったら涙がでるほどうれしいんですけど。


 俺が勝手に感動していると 「ではみなさん、命に感謝していただきましょう」 とダムブレッドが言った。俺も両手を合わせこの世のすべての命に感謝を込めて 「いただきます!」 目の前の肉にかぶりついた。う、美味い!こんな美味いメシ生まれて初めて食べた。鳥の丸焼きは香草が効いていてとてもスパイシー、ローストビーフは肉汁がしたたり落ちて口が汚れるほどだった。チャーハンは玉ねぎがゴロゴロサイズでとても食感がいい。フランスパンはかみちぎるのにとても苦労したが中の肉はとても柔らかかった。ステーキは口に入れた瞬間溶けてしまったぜ。ハンバーグの油はさらに焦げ目がついててそれがまた美味かった。そして、シチュー、これがまた絶品だった。


 今世での初めての食事に涙を流しながら無我夢中で食べていると 「やあ、はじめまして」 とさっき見た細身の兄ちゃんが話しかけてきた。 「むが、(おう)がじゅらまがむがまして(こちらこそ、はじめまして)」 と声を返すと 「飲み込んでからでいいよ」 と笑いながら返事をしてくれた。とても爽やかな笑顔だ。


 「ごっくん、ふぅー。あらためて、はじめましてクレストだ、よろしくどうぞ」


 「うん、僕はエイブラハムだよ。司教から君の訓練の監督役を仰せつかった。よろしくね」


 「おお、そうなのか。俺がんばるよ」 なるほど、こんな筋肉集団の中で彼だけがほっそりした優男なのはきっと彼が回復魔法が使える僧侶《クレリック》だからだ。それであの筋肉達磨が俺の教師役にあてがってくれたのだろう。彼には本当に感謝しかないな。いやこの美味いメシといい、他の連中の歓迎ぶりといい、ここの連中は本当に暖かいな。俺この世界でも頑張っていけそうだよ。


 明日は早いから早く寝るように言われ、食事をたらふく食べた俺は部屋に戻りベッドに横になったが、興奮してるのかなかなか寝付けなかった。治癒魔法の訓練ってどんなことをするんだろう?やっぱ漫画で読んだような詠唱を覚えるとかだったり、イメージが大事とか言って精神集中の座禅組んだりするのかな。明日が楽しみだ。



 翌日、俺はひたすら走らされていた。

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