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救国の双子~聖女アリスは夢を見る~  作者: 日出祐祈
第二章

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湖畔会議(2)

 スワンは、ここに来るまでに起こった出来事を、大まかにだけどみんなに説明した。


「なるほどねえ。この大陸には存在しないはずの、飛竜に乗った刺客に襲われた、と……」


 片手を顎に添え、思案顔になるマスティフ様だけど、もう片方の手ではピシカ様の頭をぽんぽんと撫でていた。


「海を渡った先、とある島国には飛竜を移動手段にしている民がいると聞くが、そやつらがスワンらを襲う理由があるとは考えにくいな」


 ルカン様もまた、話しながらピシカ様の頬をつついている。

 好き勝手されて、ピシカ様はぷるぷる怒りで震えていた。


「んにゃああああ! なんなのじゃ、おぬしらは! わらわをいじりながら普通に会話をするでないわ!」


 やっぱり、ピシカ様が怒ってしまった。

 なんというか、ルカン様もマスティフ様も、ピシカ様を構いたくてしかたないみたいなのよね。かわいらしい方だから、構いたくなる気持ちはわかるけど。わたしだって、クリスを構い倒すのは好きだし。

(でもなんか、それだけじゃないというか……)


「かあたま!」


 ふむ、とこの場にいる方々の人間関係を推測しようとしていると、不意に、鈴を転がしたような声が聞こえた。

 かあたま、の意味を察するより前に、ひとりの幼い女の子が、わたしたちの目の前でピシカ様の膝に抱きつく。

 赤と茶が不規則に並んだような独特な髪色が、ピシカ様と似ている子だった。


「おお、なんじゃ、シャトン。控え室で待つように言ったのに……」

「や、なのです! シャトはかあたまといっしょがいいのです!」

「おやおや、困った子じゃなあ。もう、しょうがないやつじゃ~」


 さっきまでぷりぷり怒っていたのが嘘みたいに、ピシカ様はでれでれと相好を崩した。

 と、いうか。

(えっ、かあたまって、えっ? お、お母さん?)

 混乱するわたしに、スワンが耳打ちした。


「ジャグアーロ精霊国は、精霊の加護を色濃く受けた国だ。時間の流れが他とは異なる。その地の女王であるピシカ様は、より精霊に愛された方なんだ」


 それで、実年齢より若く見える、ということだろうか。精霊の加護的なもので。

 年下だと思っていたから、びっくりした。


「スワンフォード様、ルカン様、もう着いていらしたのですね」


 わたしたちが突然現れた女の子に注目していると、今度は背後から声をかけられる。

 身に纏った鎧の重さなど微塵も感じさせない動作で、近付いてきたのは長い金の髪を一つにまとめ、肩に流した青年だった。胸に手を当てた一礼が、お手本のようにきれいだ。たぶんだけど、ディティーク聖騎士王国の代表だと思う。

 なぜか、マスティフ様が「うげ、出やがった」と呟いているけど、なんだろう。


「カーカルディア、今回の代表はおまえなのか」


 あ、スワンがちょっと嬉しそう。友だちなのかな。


「ええ、父が腰を痛めていて、代わりに。私では役不足かもしれませんが」

「そう思うならぼくちゃんは帰って寝てろよな」


 マスティフ様が大人げなく絡む。けど、カーカルディアさんは歯牙にもかけない。にこりと笑みを深めて、彼はマスティフ様を無視してルカン様に挨拶をしはじめた。


「ルカン様は相変わらずお美しいですね。深海に沈んでしまっても、出会うのが貴女なら悔いはありません」

「ふ、カークよ、気障なのは変わらぬようだな」

「本音を隠せない性分なので。そろそろ参加者が揃うでしょうし、席のほうに移動しませんか」

「ああ、もうそんな刻限か」


 エスコートするように差し出したカーカルディアさんの手をやんわり断って、ルカン様は円卓のほうに向かう。

 つ、ついに開始かな。

 緊張してきたわたしの肩を、スワンがぽんと叩いた。


「あまり気負う必要はない。いつも通りでいい」

「う、うん。わかったわ」


 歩き出した彼に続こうとした時、ピシカ様とマスティフ様の会話を耳がとらえた。


「むう……シャトンをどうするかの……」

「オレの甥っ子も来てる。一緒に遊ばせとけばいいだろ。おい、ロット、こっちに来い」

「はい、おじうえ」


 ずっと静かに椅子に座っていたらしい少年が、名を呼ばれてマスティフ様に駆け寄ってきた。

 シャトンちゃんよりは大きいけど、まだ十歳にも満たないくらいかな。


「この子の面倒を見ててくれ」

「はい、わかりました。不審者が近づいたらどうしますか」

「遠慮はいらねえ、噛み殺せ」

「わかりました」

「どんな教育じゃ……」


 呆れるピシカ様に、一瞬黙ったマスティフ様が、ぽつりと「面倒も見ない父親よりはマシだろ」と呟く。


「……それは、わかっていたことじゃ。精霊と結婚するというのは、家庭を築くのとは違うのじゃから」

「……………」


 マスティフ様が舌打ちして、足早にわたしを追い越して行く。その大きな背をじっと見つめていると、ふと、席に座ったルカン様と目が合った。意味深に笑みを浮かべて頷く彼女に、わたしはたった今、思い浮かべた彼らの人間関係が、邪推ではないことを知る。


「はじめまして、ロットです。みなさまの会議が終わるまで、ごいっしょさせてください」

「は、はい……」

「あちらに行きましょう。ご本はお好きですか?」

「はい……。あの、おひめさまがでるやつ……」

「わが国の物語でよければありますよ。いっしょによみましょう」

「うん!」


 すぐに打ち解けたのか、シャトンちゃんとロットくんは手を繋ぎながら控え室のほうへ走っていった。 



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