湖畔会議
湖畔会議の会場に足を踏み入れるなり、スワンは子どものような背丈の女の子に声をかけられていた。
「スワンではないか! 久しぶりじゃなあ! 息災で何よりじゃ!」
「ピシカ女王陛下。お久しぶりです。陛下もお変わりないようで」
「無論じゃ! わらわには精霊様の加護がついておるからな!」
ピシカと呼ばれた少女は、無邪気な笑顔を浮かべる。それは、猫の耳を模したような髪型の頭を、撫でまわしたくなるほどかわいらしいものだった。ちらりと覗く八重歯もまた、かわいらしさに拍車をかける。
(でも、女王陛下なのね)
細長くてやわらかそうな、尻尾に見える飾りがゆらゆら揺れているけれど、どうやらピシカちゃ……いえ、ピシカ様は、国家の代表としてこの場に来ているようだ。
「来たか、スワン」
「ルカン様、ひと月ぶりです」
ひときわ高身長のルカン様も、スワンに近付く。と、警戒したように、ピシカ様が露骨に身構えた。
「なんじゃ、このサメ女。今、スワンはわらわと話しておるのじゃ。あっちへ行け! ついでに、わらわの国の国境線にちょっかいをかけるのをやめてくれると助かるのじゃがなあ?」
え、国境線?
「なんだ、居たのか、ピシカ。相変わらず子猫のように小さくて愛らしいな。そんなに毛を逆立てずとも、取って喰ったりはせぬ」
「そんな心配はしておらぬ! それより国境線のことじゃ! 今日こそ解決策を明示してもらう!」
「解決策と言ってもな……。何度も説明はしたが、あれは各国のならず者が集まって、我が国を経由しているだけだ。もちろん、入国審査は厳格に行っているが、裏ルートを使われては、こちらも対処が遅れる。それはわかってくれ」
「……そんなことを言って、あわよくば、わらわの国の魔石を盗っ人どもが上手く盗んでくれればいいと考えておるわけじゃあるまいな?」
「……そのようなこと、吾が考えるはずないだろう」
「なんじゃ、今の間は!」
もう我慢ならん、とピシカ様がルカン様に飛びかかろうとした時、背後から彼女の肩に、大きな手が載せられた。
「また騒いでんのか、ピシカ」
で、でかい。
巨漢の登場に、スワンについて来たわたしとクリス、そしてアレクトールさんは硬直する。ただでさえ、慣れないこの会場の空気に腰が引けていたというのに、出だしでこんな大男に怒られたら落ち込む。
唯一、飄々としているクロウだけは、変わらない態度で傍観していた。
「ぬう……、放せ、マスティフ!」
「うるせえなあ、にゃあにゃあ騒ぐんじゃねえよ。スワンが困ってんだろうが」
「マスティフ大統領閣下、お気遣い感謝します」
「その堅物さは健在か。おまえ、そんなまともで、よくこいつら変わり者相手に立ち話なんてできるな」
「なんじゃと!」
「心外だな」
ええと、とりあえず、騒がしくして怒られる心配はなさそう……?
むしろ、ルカン様とピシカ様、そしてこの大男……マスティフ様は、気心知れた仲な気がする。三人とも、肩の力が抜けているというか。あの中で立ち回らないといけないスワンだけが、注意深く様子を探っているような。
「ところでスワンよお、ここまで来る道中、何事もなかったか?」
スワンの肩に腕を回し、マスティフ様は声を潜めた。
「……いえ」
スワンの返答を聞きながら、わたしは、ここに辿り着くまでの道のりで起こった出来事を思い出していた。




