謎の青年
深い森の中。まるで木々に守られているようにひっそりと、その小屋はあった。
誰もいないのに清潔で、埃一つないその小屋の地下には、ひとりの少女が眠っている。
彼女はただ待っている。
使命をまっとうするために、ただ只管に。
この地下への入口を開ける、白き鳥を待っている。
──────何か聞こえる。
ざわざわと空気を揺らす気配、物音、そして声。
クリスとふたりだけで静かに眠っていたのに、邪魔をするなんて。
静寂を破り、人様の精神に土足で踏み込んでくるようなその図々しい異音に、わたしはイラっとする。
「………どうやら、成功したようだな」
「へえ、本当に召喚できたんだ」
聞いたことのない、若い男の声だ。一人は堅物っぽくて、もう一人は飄々としている。
「うーん、でもさあ、これが〝夢見の聖女〟とは思えないなあ。ちんちくりんのガキじゃん」
「ああ、だが魔法陣も詠唱も完璧だったはずだ。魔法反応も正常だったからには、これが〝夢見の聖女〟で間違いないだろう」
「吉夢のみを見る〝夢見の聖女〟……。嘘くさい伝説だね。てかさ、この子、起きてない?」
気づかれたか。
渋々目を開けると、対照的なふたりの青年がこちらを覗き込んでいた。
ひとりは不愛想そうな銀髪の青年で、もうひとりは胡散臭い笑みを浮かべた黒髪の青年。けれど、顔のつくりは驚くほど似ている。
(……もしかして、双子?)
わたしとクリスみたいに……。
そこまで考えて、はっとする。
クリスが、いない。
「クリスはどこ!」
弾けるように上半身を起こし、いちばん近い位置にいた銀髪の青年の胸倉を掴む。
「落ち着け」
「クリスをどこにやったの! あの子になにかしたら許さない! 殺してや……」
トン。
軽い手刀が、首筋に落ちる。
「まあまあ、落ち着けって言ってるでしょー」
かなり手加減されたことくらい、わかる。それなのに、わたしは全身から力が抜け、くらりとめまいがした。
背中から倒れそうになったわたしの身体を、銀髪の青年が支える。
「クロウ、手を出すな。おまえは手加減が下手だ」
「だってこの子、うるさかったんだもん」
黒髪の青年が肩を竦める。まるで小さい子どものような仕草だ。
この恨みは一生忘れない、とわたしはくらくらしながら誓う。
「弟がすまない。落ち着いて話がしたかったが……それどころではないだろう。客室に案内するから、少し眠るといい」
「……クリス、は……」
あの子がいなくなったのに、眠ってなんていられない。この人たちがクリスを連れ去ったわけではないのなら、探さなければ。
意地でも起き上がろうとするわたしを見て、黒髪の────クロウと呼ばれていた青年が、にっこり笑った。
「今度は気絶させてあげよっか? 首の骨、折っちゃったらごめんね?」
防衛本能というものなのだろうか。
意識が急激に遠のいていくのを感じながら、わたしは笑顔で駆け寄ってくるクリスの幻を見ていた。




