変わる心
追悼式から三日ほど経った昼時。わたしとクリスは、王城敷地内の奥まった場所でピクニックをしていた。念のために言っておくが、はじめからピクニックが目的だったわけではない。洗濯物を干そうとしていたら突風が吹いて、スワンのシャツを飛ばしてしまったから、探しに来たのだ。
目的のものはすぐに見つけたが、そこに、ピクニックにちょうど良さそうな大きな木があった。これはもう、女神さまの思し召しだとクリスと頷き合い、わたしたちは急いで洗濯物を干して、アナトラのお店でパンを買い、意気揚々と木の下でのどかなランチタイムを満喫しているというわけだ。
初夏といっても、アウィス王国はエアジェラス大陸の北側に位置するからか、風はどこか涼しい。
心地いい風に吹かれながら、ほんのり甘いパンを頬張る。隣には、同じようにパンを食べているクリスがいる。最高のひとときだ。
「あー、いたいた、アリスとクリス、はっけーん!」
(あれ、女神さま?)
耳障りな声が聞こえ、わたしの眉間に深いしわが寄る。
睨むように声がした方向を見れば、こちらに向かって手を振っているクロウが視界に映った。
………少しくらい空気を読もうとかないわけ、あいつ。
「……何しにきたのよ」
刺々しく訊くが、クロウ相手に効果があるはずもなく。
「パンをたくさん抱えて裏庭に向かったってアレクトールが言ってたから、きちゃった」
小首を傾げながら悪びれもなく返され、持っていたパンが少し凹んだ。
アレクトールさん、余計なことを……!
無害そうだと思って好意的に見ていた彼の顔が、今は少し憎らしい。
「パンだけでは味気ないと思ってな、市場で新鮮な野菜とハム、茹でた卵なんかも購入して持ってきてみたんだが……」
「え、スワン!?」
図々しいクロウを睨むのに集中しすぎて、彼の後ろからやってきていたスワンに気付かなかった。
スワンは持参したバスケットを片手で掲げ、律儀に「共に食事をしてもいいだろうか」とこちらに許可を求めてくる。
双子でも、クロウとは雲泥の差だ。
「もちろん、いいわよ。ね、クリス?」
「うん、どうぞ」
「感謝する」
「なんか、俺とスワンで態度変えてない?」
そんなこんなで、今度は四人でのピクニックがはじまってしまった。
やたらとハムが詰められたサンドを作ったスワンが、それをわたしに勧めてきたり。自分の分があるくせに、クリスが作ったサンドをクロウが横から齧っていったり。とにかく騒がしいランチタイムだった。
(でも、元の世界では絶対に体験できなかっただろうな……)
気心知れた仲で、ピクニックなんて。
そこまで考えて、はたと気づく。
(気心知れた……?)
ああ、わたし。
いつの間にか、このメンバーでいることが、心地よくなっていたんだ……。
「アリス、どうかした?」
パンを持ったまま固まっていたわたしを、クリスが不思議そうに見る。
(クリス……)
わたしが楽園から連れ出した、大切な弟。
クリスだけいればそれでよかったわたしの世界が、変わってしまった。
「……ううん、なんでもないよ」
笑みを作れば、クリスは「ならいいけど」と言ってパンに齧りつく。
きっと以前なら、クリスはわたしの心の機微を見逃さなかった。こんなに簡単に、騙されてはくれなかった。
ああ、クリスも、変わってしまったのかもしれない。
それがいいことなのか、悪いことなのかはわからない。けれど、一抹の罪悪感と、深い寂寥感を覚える。
「アリス、ほら、ミルクもあるぞ」
瓶に入ったミルクを器に注いで、こちらに差し出すスワンのやさしさに、ひそかに鼻の奥をツンとさせながら、わたしは受け取ったミルクを一気に飲み干した。




