眩しい笑顔 side:クロウ
自然な流れで、意気消沈した男が連行されて行く。
男があれ以上に暴れるなら強制退場させるつもりで天幕から見守っていたが、思いがけず、アリスのおかげで大事にはならずに済んだ。
────へえ。
これは、素直に見直した。あのまま強制連行となっていれば、あの男がばら撒いたスワンへの疑心という種が人々の心に残されてしまい、ふとしたきっかけで芽吹く可能性があった。追悼式も、いやな空気に呑まれていただろう。
(あのビンタは、アリスが短気だったせいだろうけど)
けれど、あの平手もよかった。聖女が死者を愚弄する男の頬を思いっきり打ったあの瞬間、スカッとした者もいたことだろう。それに、全員がアリスに注目するきっかけにもなった。注目されたおかげで、アリスの言葉がよく響き、味方が現れた。ただでさえ、死者を悼む者が集まっている場所で死者を愚弄したのだから、あの男へ怒りを抱いた者も多かったはずだ。その怒りが、聖女に賛同する者を増やした。
(偶然だとしても、あの男の企みはアリスに潰されたわけだ)
彼女には、運を味方にする力がある。まさに、スワンが求めた力だ。
後天的に他者によって付与された〝聖女〟という能力だが、アリスは確実に使いこなしてきている。
面白くてつい口角を上げてしまう。隣を見れば、クリスも笑みを浮かべてアリスを見ていた。
「やるね、君のお姉さん」
声をかければ、さも嬉しそうに、クリスは「だろ?」と言った。
「おれの姉さん、すごいんだ」
心の底から嬉しいと言わんばかりの笑みを、クリスは見せる。
大切な宝物を見せ、褒められて誇らしさを感じているような。けれどどこか、イタズラが成功した子どもの笑みにも見える、そんな笑顔。
「────」
ひゅ、と喉から音が鳴る。
一瞬、幽閉されていた塔の窓から見えた、まん丸な月が脳裏に過ぎった。
どうしてか、その笑顔から目が離せなくなる。
俺と同じ、クリスも闇側の人間だ。スワンやアリスが光なら、俺たちは闇で影。魔力の性質すらも同属。はじめて出会った、似た者同士。
なのに、どうして。
眩しい。思わず目を細めてしまう。けど、その眩しさは、スワンやアリスに感じる眩しさとは種類が違う。
ただ眩しくて、どこか別の世界の人間のような彼らとは違って、クリスは──────
「あ、終わったみたいだな」
「え───」
クリスの声に我に返る。彼が見つめる先を確認すれば、たしかに、参列者が続々と退場していた。ハンカチを目元や口元に押し当てている人が、ちらほら見える。
俺には彼ら彼女らの気持ちはわからない。けれど、きっと。
「……悲しそうだけど、どうしようもない苦しみからは解放された……のかな」
そうだといい。そう、俺も思う。
「さあ、わかんないよ。あんなに泣いてるんだ、忘れることなんてできないと思うけどね」
「うん、そうだよな」
「でも……区切りにはなったんじゃないかな。切なくても、悲しくても、前を向いて進めるように……そのために、スワンはこの式を行うことを決めたんだから」
「やさしい、いいやつだよな、スワンって」
「………アリスもね」
きっと、スワンとアリスは似ている。属性だけではなく、その根っこの部分が。
将来、あのふたりは同じ道を歩いていけるのだろう。
「クリス!」
こちらに小走りに向かってくるアリスが、ベールを剥ぎ取りながら、一仕事終えた顔でクリスに手を振る。
「ちょ、あぶない! 転ぶってば、アリス!」
慌てて駆け出すクリスを目で追う。
あの子と俺は、どうなのだろう。同じ道を歩けるのだろうか。
そんな意味のない疑問が、いやに胸に残った。




