切り札
ユグルムの森からの帰り道、馬車の中で、わたしたちはスワンから〝核〟について説明してもらった。
「〝核〟を作ってほしいと、私がキネレア殿に依頼したのは五年前だ」
そう切り出したスワンの説明によると、ウェスペルティリオの動きが怪しく、また、国内にも不穏な気配が漂い始めたことを察知したスワンは、王様に伝えることなく、独断でキネレアさんに防御結界を強化したいと相談したらしい。それでキネレアさんに、魔力を一年かけてじっくり溜め、それを〝核〟としてユグルムの森に安置すれば、森の魔力を利用している防御結界がより強力になると教えてもらい、彼女に〝核〟作りを依頼した。けれど、キネレアさんは、一年経つ前に病気で亡くなってしまった。
「聡明なキネレア殿のことだから、自身の死期が近いことを悟ったら、〝核〟を隠すだろうとは予想していた。だが、どこを探しても〝核〟は見つからない。頼んでおいてこんなことを言うのも失礼な話だが、私もやることが多くてな。あの頃、国内では問題事ばかりが続いていて、なかなか〝核〟探しができなかった。母を亡くしたばかりのアルにも頼めなかったから、一度〝核〟から離れていたんだが……防御結界の破壊事件が起こった。さすがに後悔したし、己の甘さを呪った」
額に手を当て、前髪をぐしゃりと握りしめるスワンは、心の底から悔いているようだった。
(たしかに、一つでもなにかが違ったら防げたことかもしれないけど……)
でも、たらればをいくつ挙げてもきりがないし、スワンが悪いわけでもない。
悪いのはいつだって、悪いことをする人だ。それなのに、いつだって、後悔や反省をするのは、善良な心根の持ち主ばかりだ。悪人は、絶対に悔い改めない。
わたしはそれが、心の底から気に食わない。
「悪いのは間者の文官で、スワンはその時にできることをやっていただけでしょ。立場上、責任を感じるのはわかるけど」
ついとげとげしい声が出てしまうけど、隣でクリスも頷いてくれた。
「おれもそう思うよ。それに、スワンが王様に〝核〟のことを伏せていたおかげで、間者の文官に〝核〟の存在が知られることはなかった。そういえば、その文官は、今どうしてるんだ?」
「たしか、死んだんじゃなかったっけ。自分で毒を飲んだとかで」
「そうだ。父上を殺したあとにな。はじめから、そのつもりだったのだろう」
クロウの言葉に、スワンは淡々と返した。
「〝核〟の存在に気付く前に死んだなら、もう文官が誰かに漏らす心配はないってことよね」
「じゃあ、〝核〟はスワンが守ったこの国の切り札だな」
少しだけ目を見開いたスワンが、ふっと笑みを浮かべた。
「ありがとう、ふたりとも。だが、一つだけ訂正させてもらう」
そこで彼は、わたしとクリス、そしてクロウを順に見た。
「おまえたちも、この国の大切な切り札だ」




