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救国の双子  作者: 日出祐祈


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15/25

道中

 青鷺伯爵の一人息子に会うというスワンに、わたしとクリスも同行することになった。当然、スワンの護衛も兼ねているクロウも一緒だ。

 前にロストルムに向かった時とは違い、今回は気持ち的に余裕がある。落ち着いた気分で窓の外を眺めていると、肩になにかが当たった。


「あ、ごめん、アリス……」


 寝そうに目を擦っているクリスが、ぼんやりとした声音で謝ってくる。どうやら、うとうとと船を漕いでいたようだ。

 あまりの可愛さにきゅんとしてしまう。


「寄りかかっていいわよ。少し寝なさい」

「うん、ありがと……」


 こてん、とすぐにわたしに体重を預けて眠ってしまう、その無防備さがいとおしい。

(寝顔、小さい頃とかわらないなあ)

 ふふ、と笑みを浮かべながら幸せに浸っていると、斜め向かいからじとっとした視線を感じた。無視するには鬱陶しいそれに辟易して、渋々そちらを向けば、長い脚を窮屈そうに組んだクロウが、何か言いたそうにわたしたちを見ていた。

 笑みが消えて無表情になったのが、自分でもわかる。


「なによ」

「そこ代わって」

「はあ?」


 ふざけてるのか、この男は。


「絶対いや」

「なんで。いいじゃん、君はクリスといつも一緒にいるんだから。たまには他の人とも親交を深めたほうがいいと思うなあ」

「あんたが深めるべきなのはお隣のお兄さんとの仲でしょ」

「そうかな。王子と〝夢見の聖女〟って、古い物語ではいつもセットで登場するし、君とスワンのほうが話し合うべきことが多いんじゃない?」

「ええ、そうね。話し合うなら隣同士よりも向かい合ってるほうが話しやすいわ。このままで問題ないわね」

「……………」


 勝った。内心で勝ち誇っていると、クロウから陰気な気配が漂いはじめる。


「あのさあ……、そうやって弟の交友関係を閉ざして、君はどうしたいの? ずっと周囲を警戒しながらひとりで守ろうとか考えてるわけ? 部下にしたからには俺だってクリスを守る気でいるし、君はそろそろ弟立ちしたほうがいいんじゃない?」

「………というか、寝てるクリスとどう親交を深めるって言うわけ? あんた、懐に入れた相手にはとことん詰め寄るタイプでしょ。距離感ってものがわからないんでしょうけど、あんまり強引だと嫌われるかもしれないわよ」

「……………」

「……………」


 無言で睨み合っていると、不意に、ぱたんと本を閉じる音が聞こえた。

 我関せずといった様子でずっと本を読んでいたスワンが、ゆっくりと顔を上げ、わたしとクロウを交互に見る。


「おまえたち……席替えしたいのか?」


 恐らく、誰も望んでいないであろう結果になることを予感して、わたしは窓の外に視線を移す。硝子に映ったクロウも、同じように反対側の窓に視線を移していた。

 ふん。スワンの横やりが入ったとは言え、今日はわたしの勝ちなんだから。

 幼い子どものようなことを考えてから、わたしは流れる景色に意識を集中させることにした。

 馬車は森の中を走っている。王都の周辺より、緑が濃い。もうすぐ、ロストルムに着くのだろう。

(……それにしても、びっくりした)

 耳に残っているクロウの言葉が、わたしの胸を騒がせた。

『そうやって弟の交友関係を閉ざして、君はどうしたいの? ずっと周囲を警戒しながらひとりで守ろうとか考えてるわけ?』

 指摘され、ドキッとした。きっと、わたしはそう考えていたから。図星を指された。あんな変人に、言い当てられてしまった。

 クリスはずっと、わたしがひとりで守る。クリスに近づく人間は、全員警戒しなくてはいけない。そう、わたしはずっと考えていた。

(だって、クリスを()()()()()のはわたしだから……)

 でも、それだけじゃない。

 わたしが、クリスを愛しているからだ。ずっと一緒に生きてきて、今さら、クリスのいないわたしなんて考えられない。

 クリスを、彼の尊い命を、誰にも奪われたくない。絶対に、奪わせない。

 だからクリスを、わたししかわからないところに隠したかった。

 けれど、それはわたしの勝手な考えだ。クリスの交友関係を、わたしが制限するのは違う。

(わかってる。それでも……)

 わたしはそっと、退屈そうに窓の外を眺めながら、飴玉を口に放り込むクロウを盗み見る。

 思い出すのは、青ざめて震えているクリスに、むりやり飴玉を食べさせようとしていた、クロウの眼だ。

 瞳の色も目の形も、スワンと瓜二つのはずなのに、あの時の眼は、なにかが違った。

 深く、暗く、一片の情も持ち合わせていないような。

 そんな恐ろしい眼で、クロウはクリスを見ていた。

(こいつだけは、警戒しても許されるわよね)

 クリスの姉として。

 自分を納得させたわたしは、座席にちょこんと置かれていたクリスの手を拾って、指を絡めるように握った。



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