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救国の双子  作者: 日出祐祈


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12/24

星空の下 side:クリス

 クロウ。本名をクロウディードというらしいこの男のことを、おれはぜんぜん知らない。

 初対面で強引に飴玉を食べさせようとしてきた狂人。そんな印象しかない男に、できることなら秘密にしたかった能力を知られてしまった。使っているところを一部始終見ていたそうなので、ごまかすこともできない。


「ふーん。じゃあ、その能力は前の世界にいたときからあったんだ」

「まあ……たぶんだけど」


 答えながら、がっちりと掴まれている右の手首をちらりと見る。

 死体だらけの倉庫じゃアレだから、と外に連れ出され、どこを目指しているのかわからないまま、おれはクロウに引っ張られるように、森の中を歩いていた。

(すっかり夜だ……。仕事が終わったのはまだ明るかったのに)

 折り重なる枝の隙間から、ちらちらと星が見え隠れしている。

 水をぶっかけられて起きてから、そんなに時間は経過していない。ということは、連れ去られてからだいぶ長いこと、おれは意識を失った状態だったということだ。

(アリス、心配してるよな……)

 たぶん路地で眠らされたときに落としたのだろうけど、アリスに贈ろうと思って買ったペンダントもない。

 早く帰りたい。けど、こいつはおれを帰す気があるのか?

 長い脚で歩きにくい森の中をさくさく歩いているクロウは、なぜだか上機嫌に見える。が、本当はおれを人目につかない場所で殺そうとしてるのかもしれない。

 おれの能力を見たのなら、危険視して殺しておこうと考えるのはわからなくもない。

 でも。

(………()()()みるか?)

 おれだって、こんなところでアリスを残して死ぬわけにはいかない。それなら、いっそ………。


「やめたほうがいいよ」

「────ッ」


 おれの思考を読み取ったみたいな絶妙なタイミングで、口元に笑みを浮かべたクロウが、視線でおれを牽制した。


「君の能力はもう見てる。俺は君が能力を使う前に、君を殺せる」

「……………」


 嘘ではない。研ぎ澄まされたクロウの殺気が、首筋に刃物のように押し当てられている。それと同時に、なにか巨大な生き物の手に、全身を掴まれたような圧迫感を感じた。

 冷や汗が背中をつたうが、同時に、なげやりな愉快さも感じていた。

(とんだ怪物だな……。これで、まだ全力じゃないなんて)

 クロウにとってこれは、躾のなっていない子犬に、「こら」と言っている程度でしかないのだ。

 降参の意味をこめて肩の力を抜けば、クロウからの威圧感も霧散した。

 にっこりと、彼は笑みを浮かべる。


「ていうかさあ、クリス、君、殺気出しすぎ。そんなんじゃ警戒されちゃうよ。君の能力、おもしろいけど効果の範囲は狭いでしょ。近づかないとだめなら、なおさら殺気は抑えないとね」

「…………?」


 なんか、アドバイスされてるような。

 ぎゅっと、おれの手首を握っているクロウの手の力が強くなる。


「俺が教えてあげるよ、その能力の使い方」


 気づけば、草すら生えていない岩場に出ていた。

 満天の星空のおかげで、周囲は明るい。

 ……夜空って、こんなに広いんだ。

 鉄格子つきの小さい窓からしか見たことがなかったから、知らなかった。

(って、そんなことよりも)


「え?」


 使い方を教えてくれる?

 クロウが?


「……なんか企んでる?」

「えー、心外。純然たる親切心なのに」

「親切心って……初対面であんなことしたくせに」

「初対面? ああ、飴玉のこと。まだ根に持ってたんだ」


 あっけらかんと言われると、少しむっとしてしまう。

 あれは振り払ったおれも悪かったとは思うけど、だからって、怖がっている人にむりやり食わそうとするか、普通。


「ごめんごめん、謝るよ。じゃあ、改めてお近づきのしるしに……」

「飴玉はいらない」

「……………」


 懐からなにかを取り出そうとするクロウに、念のために釘を刺しておく。少しの間のあと、クロウは手を下ろした。


「それより、おれに能力の使い方を教えてくれるってことは、おれを生かしておいてくれるってことだよな?」

「当たり前じゃん」


 さも当然、といった表情でこちらを見下ろしているクロウに、嘘をついている様子はない。


「言ったでしょ、部下がほしかったって。たしかに言った当初は、君の本質を傍で見極めるために言っただけだったけど、今はけっこう本気で君を部下にほしいって思ってる。俺単独じゃ、手が回らないことも多いから」

「…………」


 正直、おれにとってもクロウのその提案は渡りに船ではある。けれど、不思議だった。


「はっきり聞いたことはなかったけど、おまえ、スワンの兄弟なんだろ? てことは、王子ってやつじゃん。部下のひとりやふたり、どうにでもなるんじゃないの?」


 わざわざ、異世界からきた得体の知れないおれなんかより、この国出身の信頼できる人物のほうが、クロウだって仕事がしやすいはずだ。

(……でも、今さら「それもそうだね。やっぱり部下の話はなし!」とか言われても困るんだけど)

 余計なことを訊いちゃったかも、と後悔しはじめた頃、クロウが「う~ん」と唸った。


「どこから説明するべきか……。今まで誰にも話したことがないから、迷うなあ……」

「え、そんなに難しい話?」


 なんとなく気になったから訊いただけだったのに。


「あの、言いにくいなら別に……」

「端的に言えば、俺って()()()()()()んだよね」

「────え」


 存在してない?

 それでは、目の前にいるのは……。

 まじまじとクロウを見ると、おれの考えていることがわかったのか、クロウはひらひらと手を振った。


「ああ、違う違う、書類上っていうか、王家の歴史的にっていうか。生まれたけど、生まれたことになってないんだよね、俺」

「なんで、そんな……」

「呪われてるんだ」


 薄く笑みを浮かべたクロウから、おれは目を離せなかった。



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