残されたペンダント
クリスが、消えた?
「最後にクリスと会話したのは露店の店主だ。今日の稼ぎで、このペンダントを買ったそうだ」
呆然としているわたしに、スワンは銀色のペンダントを握らせる。
白鳥を模した飾りのついたそれが、手のひらの温度を下げた。
「それが落ちていたのは露店から少し離れた路地だ。たまたま通りかかったアナトラが、クリスが誰かに呼ばれたように路地に近づいているのを見ている」
わたしをスワンの元まで案内し、ずっと一緒に話を聞いていたアナトラが、小さく頷いてこちらを見る。
「クリス様だって気づいて、挨拶をしようと話が終わるのを待っていたの。誰かに呼ばれたみたいだったけど、親しそうにも見えなかったから、すぐに終わるだろうと……。でも、ぜんぜん路地から出てこなくて」
「そこに、私が通りかかったんだ。その後は、誰もクリスを見ていない。おそらく、眠らされて箱か袋に入れられたのだろう。今日は特に荷の運搬が多いからな、大きな荷物を持っていても誰も気にしない」
「……それで、捜索はしているの?」
頭が痛くなってきた。誘拐された状況なんてどうでもいい。早くクリスを見つけなければいけないのに、無駄に時間を取らせないでほしい。
怒りを抑えきれないわたしの声音に、アナトラは目を見開く。スワンは手短に「クロウが捜している」と答えた。
「わたしもすぐに行くわ。人攫いに心当たりはある? あるなら、目ぼしい潜伏場所の地図と馬車を手配して。ないならいいわ」
「ちょ、ちょっと……!」
話を進めているわたしを、アナトラが止める。
「混乱しているのはわかるけど、その態度はないんじゃないの……!」
思わず舌打ちしてしまう。
あまりにも腹が立って、わたしはアナトラの胸倉を掴んだ。
「こうしてちんたらしてる間に、クリスが殺されたらアンタが責任取ってくれるって言うの?」
「そ、それは……」
「協力する気がないなら消えて。邪魔なのよ」
「きゃ……!」
突き飛ばすように胸倉を解放すれば、よろめいた彼女は涙目でわたしを睨んだ。
けれど、いくら強い感情で恨まれても、わたしの意識はすでにアナトラを排除している。
どうでもいい。
クリス以外、どうでもいい。
ちくりとわずかに胸が痛んだ気がしたのは、時計塔に置き去りにしてきた日記帳に籠められた想いが、わたしを責めているからかもしれない。
「手隙の兵士も集めて捜索させる。アリスは私と来てくれ。もしかしたら、闇商人関係かもしれない。心当たりを片っ端から当たろう」
ペンダントを握りしめ、わたしは頷いた。




