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ボッタクリ占い師の華麗なる誤算〜適当なアドバイスが異世界の運命を変えていく〜  作者: ぱすた屋さん


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第28話 最強の物流陣形と、目覚めし大賢者

 


 クラーク商会の大訓練場に、乾いた風が吹き抜けた。


 訓練場の中央には、護衛対象となる一台の『ダミーの荷馬車』が置かれている。

 その周囲を陣取るのは、レオンとミーアを含む、王立魔法学園・第七クラスの生徒五名。


 そして彼らから三十メートルほど離れた位置に、ガストン隊長率いる歴戦の傭兵十名が、武器を構えて殺気を放っていた。


「ルールは単純だ。俺たち十人が『魔物や盗賊』の役となり、あの荷馬車に一撃でも攻撃を当てれば俺たちの勝ち。お前たちが制限時間の十分間、馬車を守り切るか、俺たち全員を無力化できればお前たちの勝ちだ」


 ガストンが手にした模擬戦用の大剣を肩に担ぎ、獰猛な笑みを浮かべる。


「言っておくが、手加減はしねえぞ。怪我したくなかったら、いつでも泣いて降参しな!」


「そっちこそ、腰を抜かして護衛を引退するハメになっても知らないよ」


 ミーアが犬耳をピンと立て、挑発的に笑い返す。

 周囲を取り囲む商人や他の護衛兵たちが固唾を呑んで見守る中、アイリス会長がスッと右手を高く掲げた。


「それでは、クラーク商会特別模擬戦……開始です!」


 アイリスの手が振り下ろされた瞬間、ガストンたち十人の傭兵が、怒号と共に一斉に大地を蹴った。


「うおおおおっ! ガキども、蹴散らしてやる!」


 彼らの動きは確かに速く、力強かった。

 長年の経験で培われた個人の身体能力と、魔物を仕留めるための殺気。十人の大人がバラバラの方向から一気に距離を詰めてくる光景は、並の学生ならそれだけで足がすくむほどの迫力がある。


 だが、第七クラスの生徒たちは、誰一人として持ち場を動かなかった。


「……敵影十、散開して接近中! 右翼に重装甲が三、左翼に軽装甲が四、正面に隊長格を含む三!」


 荷馬車の上に身軽に飛び乗ったミーアが、驚異的な動体視力と空間把握能力で、敵の戦力分布を瞬時に『情報』として味方に共有する。


「情報共有、完了デイリースクラム・クリア! これより迎撃の『スプリント(短期目標)』を開始する!」


 レオンの低く通る声が訓練場に響き渡った。


「水魔法班、左翼の足元を完全に沼地化しろ! 倒さなくていい、足を止めるだけでいい! その隙に、ミーアは右翼の重装甲の視界を攪乱!」


「了解! 泥沼の結界、展開!」

「任せて! スモーク・バースト!」


 生徒たちの魔法が、寸分の狂いもなく同時に発動した。


 左翼から回り込もうとしていた軽装甲の傭兵たちは、突如として足元に現れた底なし沼のような泥に足を取られ、派手に転倒した。

「なっ!? なんだこの泥は!」と慌てて抜け出そうとするが、もがけばもがくほど深く沈み込んでいく。


 同時に、右翼に突進していた重装甲の傭兵たちの目の前で、ミーアが放った目くらましの煙幕が炸裂した。

 重い鎧を着込んでいる彼らは急に止まることができず、煙の中で味方同士で激しく衝突し、自滅するように転げ回る。


「ちっ、小細工を! 正面がガラ空きだぜ!」


 ガストン隊長は左右の味方が無力化されたことなど気にも留めず、自身の巨大な大剣を上段に構え、一直線に荷馬車へと肉薄した。

 彼が狙うのは、陣形の要であるレオンだ。この生意気なガキのリーダーさえ叩き潰せば、陣形などすぐに瓦解すると踏んだのだ。


「もらったぁぁぁっ!」


 ガストンの大剣が、凄まじい風切り音と共にレオンの脳天に向かって振り下ろされる。


 だが、レオンは一歩も引かず、ただ静かに右手の指先をガストンに向けた。


「遅えよ、おっさん」


 キィィィンッ!!


 レオンの指先から、極限まで圧縮された青白い熱線が放たれた。

 それはガストンの身体ではなく、彼が渾身の力を込めて振り下ろしていた『大剣の刃のど真ん中』を、ピンポイントで貫通した。


 パキィィィンッ!!


「……あ?」


 超高熱による急激な温度変化と物理的な衝撃。

 ガストンが絶対の信頼を寄せていた分厚い大剣は、まるでガラス細工のように空中で真っ二つにへし折れた。


「な、なんだと……!?」


 ガストンが驚愕に目を見開き、バランスを崩して前のめりに倒れ込む。

 その首筋に、いつの間にか背後に回り込んでいたミーアの冷たい短剣(模擬刀)が、ピタリと突きつけられていた。


「隊長格、および左右の敵、制圧完了。スプリント目標、達成だよ」


 ミーアが淡々と告げる。

 開始から、わずか数十秒。

 荷馬車には傷一つついておらず、第七クラスの生徒たちは息一つ乱していない。


「……馬鹿な。俺たち十人が、こんなガキどもに……一瞬で……?」


 地面に這いつくばったガストンは、へし折られた自分の剣の残骸を見つめながら、信じられないというように呟いた。


「言っただろ。個人の腕力や経験だけに頼った突撃なんて、烏合の衆と同じなんだよ」


 レオンが、ガストンを見下ろして静かに語りかける。


「あんたたちは、自分の背中を味方に預けていない。横との情報伝達もしていない。ただ『自分が一番に手柄を立ててやる』って前だけを見て突っ込んできた。だから、足元をすくわれるんだ」


 レオンは折れた剣の先を拾い上げ、ガストンの前に放り投げた。


「俺たちが教わった『アジャイル陣形』は違う。味方の弱点を知り、情報を瞬時に共有し、それぞれの適性に合わせて役割を全うする。これは魔法の才能じゃない。先生が教えてくれた『絶対に組織が崩壊しないための仕組み』なんだよ」


 訓練場は、水を打ったように静まり返っていた。


 周囲で見守っていた商人たちも、他の護衛兵たちも、目の前で起きた一方的な蹂躙劇に完全に言葉を失っている。

 歴戦の傭兵たちが、魔法学園の落ちこぼれだったはずの生徒たちに、暴力ではなく『完璧な組織力』によって完全に制圧されたのだから。


「……完敗だ。ぐうの音も出ねえ」


 長い沈黙の後。

 ガストンは深くため息を吐き、ドサリと地面に仰向けに寝転がった。


「アイリス会長の言う通りだったぜ。俺たちのやり方は古かった。いくら個人の腕を磨いても、情報が繋がってなけりゃ、魔物から荷物は守れねえ……」


 ガストンが負けを認めると、周囲の商人たちの中から、ワッと割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。


「す、すげええっ! なんだあの無駄のない動きは!」

「あれなら、馬車が何台あっても完璧に護衛できるぞ!」

「第七クラスの諸君! どうか、その『あじゃいる』という陣形を、我々商会の物流網にも組み込ませてくれないか!」


 興奮した商人たちが、レオンやミーアたちを取り囲む。

 ガストンをはじめとする傭兵たちも立ち上がり、照れくさそうに頭を掻きながら第七クラスの生徒たちに頭を下げた。


「おい、お前ら。俺たちにもその『暁の儀式』ってやつを教えてくれ。もう二度と、ガキに舐められないようにな」


「ははっ、いいぜ。俺たちがみっちり基礎から仕込んでやるよ!」


 レオンが爽やかに笑い、大人たちと固い握手を交わした。


 その光景を壇上から見下ろしていたアイリスは、感動の涙をハンカチで拭っていた。


「素晴らしいです……! 先生の『現代の組織論アジャイル』が、我が商会の古い体質を完全に打ち破り、新たな物流の革命を起こしてしまった……!」


 アイリスは両手を胸の前で組み、王城の方向に向かって深く祈りを捧げた。


「先生……! あなたがこの世界に降り立った理由は、ただの占いではありません。愚かな人類を正し、絶対的な平和と効率をもたらすための『神の御業』なのですね!」


 大人たちも、学生たちも、アイリスの言葉に深く共感し、一斉に同じ方向へ向かって最敬礼を行った。

 こうして、クラーク商会の巨大な物流システムは、先生の知らないところで完全な近代化を果たし、彼らは『宮廷預言者・防衛委員会』の熱狂的な信徒として加わることになったのである。


 * * *


 その日の、夕刻。

 王立魔法学園のVIPサロン。


「……んあ? ふぁぁぁ〜〜……」


 俺はソファの上で大きく伸びをし、ゆっくりと目を開けた。


「……よく寝た。信じられないくらい爆睡したな。やっぱり平穏なスローライフは最高だ」


 俺は乱れた服を整え、お茶でも淹れてもらおうと、サロンの重厚な扉をガチャリと開けた。


「おはようございます!! 偉大なる先生!!」


「うおっ!?」


 扉を開けた瞬間、俺は飛び上がって後ずさった。

 廊下には、第七クラスの生徒たちだけでなく、なぜかクラーク商会のアイリス会長、さらには傷だらけの顔をした屈強な傭兵ガストンや商人たちが、ズラリと何十人も整列し、俺に向かって深々と土下座に近いお辞儀をしていたのだ。


「え、なに? どういう状況?」


「先生の御心、我々大人たちもこの身に深く刻み込みました! 明日から、商会の全物流システムに『先生式・アジャイル陣形』を導入いたします!」


 ガストンという厳つい男が、俺の足元で感動の涙を流しながら叫んでいる。


「先生の教えをまとめた教本の出版準備も進めております! これで先生は、名実共にこの王国の『神』として崇められることでしょう!」


 アイリス会長が、キラキラと目を輝かせてとんでもない報告をしてきた。


「は? 神? 出版? いや、ちょっと待って。俺、いま起きたばっかりなんだけど……」


「わかっております! 先生は何もなさらなくて結構です! 先生の『平穏な安眠スローライフ』は、我々『宮廷預言者・防衛委員会』が全勢力をもって死守いたします!!」


 レオンとミーアが、後ろで親指を立てて満面の笑みを浮かべている。


(いや、お前らが一番俺の平穏をぶち壊してるんだけど!? なんで俺が寝てる間に、謎のファンクラブが結成されて、物流網が支配されて、俺が神になってるんだよ!)


 俺の必死のツッコミは、またしても廊下に響き渡る熱狂的な万歳三唱にかき消されてしまった。

 占い師のスローライフは、もはや国家の巨大なシステムに完全に組み込まれ、俺自身の意思とは無関係に、天高くインフレを続けていくのであった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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