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ボッタクリ占い師の華麗なる誤算〜適当なアドバイスが異世界の運命を変えていく〜  作者: ぱすた屋さん


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第24話 星の巡りと、国を二分する夫婦喧嘩

夫婦のすれ違いは大抵これ(経験談

 


 ガルディア帝国との歴史的な条約(という名の悪魔の融資契約)が結ばれてから、数週間が経過した。


 王都には帝国から莫大な利息として様々な特産品や魔石が運び込まれ、クラーク商会の金庫はもはや物理的に閉まらないほどの悲鳴を上げている。

 王国の経済はかつてないほどの潤いを見せ、街の活気は最高潮に達していた。


「んー、今日のマカロンも最高だな。やっぱり平和が一番だ」


 王城の宮廷預言者専用ルーム。

 俺はふかふかの特注ソファに寝転がりながら、専属パティシエが焼き上げた色とりどりのマカロンを堪能していた。


 隣国との戦争危機は去り、第七クラスの生徒たちも学園で自主的に無双している。

 俺がこれ以上、しゃしゃり出て何かをする必要は完全にゼロになった。

 今度こそ、今度こそ俺の「お菓子を食べて寝るだけ」の完璧なスローライフが完成したのだ。


 コンコン、と。

 控えめなノックの音が響いた。


「ん? どうぞ」


 扉を蹴り破られる警戒をしたものの、入ってきたのは静かな足取りのアイリス会長と、白髪混じりの初老の男性……王国の内政を取り仕切る、宰相のオズワルド公爵だった。


「先生、おくつろぎのところ申し訳ありません」


 アイリスが困り果てたような、ひきつった笑顔を見せる。

 オズワルド宰相に至っては、胃の辺りをきつく押さえ、今にも倒れそうなほど顔色が悪かった。


「どうしたんですか、宰相閣下。帝国との貿易は順調なはずですよね?」


「ええ……。帝国との関係は、先生の神算鬼謀のおかげで盤石です。しかし、今度は『内患』が起きてしまいまして……。国が、真っ二つに割れるかもしれないのです」


「国が割れる?」


 俺はマカロンを持つ手を止め、身を起こした。

 宰相の話によれば、王国の軍事と北部の防衛を担う『武門の筆頭・アルベルト公爵』と、南部の穀倉地帯と経済を牛耳る『財の筆頭・ベアトリス公爵夫人』が、全面的な衝突を起こす寸前だという。


「彼らは五年前に、国王陛下の肝いりで政略結婚をなさいました。北の武力と南の財力が結びつけば、王国の基盤は永遠に揺るがないはずだったのです」


「政略結婚……。で、それがどうして衝突に?」


 俺が首を傾げると、オズワルド宰相は深い、深い絶望のため息を吐いた。


「一言で言えば……『性格の不一致』です」


「は?」


「お二人の仲は結婚当初から最悪でして。ついに昨日、ベアトリス夫人が『こんな呪われた星回りの男とは一秒たりとも一緒にいられない!』と激怒し、南部の実家へ帰ってしまったのです!」


 オズワルド宰相が頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「アルベルト公爵も『ならば離婚だ! 南部との取引はすべて打ち切る!』と徹底抗戦の構えでして……。このまま両家が離婚して国交(?)を断絶すれば、北の兵士は飢え、南の経済は魔物から守られず崩壊します!」


「いやいやいや。ただの夫婦喧嘩じゃないですか」


 俺は呆れてツッコミを入れた。

 大の大人が、しかも国を背負うトップの貴族が、夫婦喧嘩の延長で内戦を起こそうとしているのだ。ファンタジー世界の貴族は血の気が多すぎる。


「ただの夫婦喧嘩ではありません! ベアトリス夫人は『星の巡りが最悪の呪われた結婚』だと主張し、教会の神官たちも手出しができない状態なのです!」


 アイリスが身を乗り出して懇願してくる。


「先生! どうか、先生の『西洋占星術』で、お二人の星の呪いを解き明かし、この離婚戦争を止めていただけないでしょうか!」


「星の呪いねぇ……」


 俺は大きく伸びをして、天井を仰いだ。

 呪いでもなんでもない。ただのコミュニケーション不足と、価値観のすれ違いだ。

 だが、ここで「ただの夫婦喧嘩ですね」と言ってしまえば、彼らのプライドを傷つけ、意地でも離婚に突き進んでしまうだろう。


「……わかりました。お二人の『星の相性』、この私が完璧に読み解いて差し上げましょう」


 俺は重い腰を上げ、クローゼットの奥にしまってあった『いかにも怪しげな星の羅針盤』と『白紙の羊皮紙(ホロスコープ用)』を取り出した。


 * * *


 数時間後。

 王城の応接室には、北極と南極を同時に持ち込んだような、凄まじく冷たい空気が張り詰めていた。


「ふん。わざわざ宮廷預言者殿を呼んでまで、私を説得しようなどと無駄なことを」


 長いテーブルの右端に座り、腕を組んで不機嫌そうに鼻を鳴らしているのは、屈強な体格に無数の傷跡を持つ北の獅子、アルベルト公爵。


「説得? 冗談はおやめなさい。あなたのその粗野で無神経な星の巡りが、いかに私の魂を傷つけているかを預言者様に証明していただくためですわ」


 テーブルの左端で、扇で口元を隠しながら氷のように冷たい視線を送っているのは、豪奢なドレスを身に纏った南の薔薇、ベアトリス公爵夫人。


 二人の間には、物理的な結界でも張られているのかと思うほど、バチバチとした殺気が交錯している。


「先生、どうかお力をお貸しください……」


 俺の後ろで、護衛兼・秘書官として呼び出されたレオンとミーアが、その重圧に冷や汗を流していた。


「まあ、落ち着いてください。お二人の生年月日から、すでに『ホロスコープ(出生天宮図)』は作成してあります」


 俺はテーブルの中央に、複雑な幾何学模様と星の記号が書き込まれた羊皮紙を広げた。

 西洋占星術における相性占い、『シナストリー(相性図)』である。


「お二人の太陽、月、金星、そして火星の配置を重ね合わせた結果……非常に興味深いことがわかりました」


 俺がもったいぶって重々しい声で告げると、アルベルト公爵もベアトリス夫人も、ピクリと眉を動かして身を乗り出した。


「どうせ、最悪の相性だと出ているのでしょう? この男の『火の星』が、私のすべてを焼き尽くしているのですわ」


「違うな。お前の『水の星』が、私の領地への情熱を冷や水でぶち壊しているだけだ」


「お黙りなさい! あなたはいつもそう! 私がどれだけ歩み寄ろうとしても、言葉一つかけてくださらない!」


「私は行動で示している! 領地を守り、お前に不自由な暮らしはさせていないはずだ!」


 二人が再び言い争いを始める。

 俺はその会話を聞きながら、内心で深く頷いていた。


(なるほど、完璧に理解した。これは現代のカップルカウンセリングにおける『愛の言語ラブ・ランゲージ』のすれ違いだ)


 人間が愛情を感じるポイントには、大きく分けていくつかのタイプがある。

『肯定的な言葉』を欲しがるタイプ。

『奉仕(行動)』で愛を示すタイプ。

『贈り物』を重視するタイプなどだ。


 アルベルト公爵は、国を守り、妻に安全な暮らしを提供するという『奉仕(行動)』こそが最大の愛情表現だと信じている、昭和の頑固親父のような不器用な男だ。

 一方のベアトリス夫人は、心を通わせる『肯定的な言葉』や『共有する時間』で愛情を感じるタイプ。


 夫は「行動で示しているから愛は伝わっている」と思い込み。

 妻は「言葉がないから愛されていない」と絶望している。


 これは呪いでも相性の悪さでもない。愛情の翻訳機が壊れているだけである。


「お二人とも、静粛に」


 俺はテーブルを軽く叩き、二人の視線を自分に集めた。


「お二人の星は、決して呪われてなどいません。むしろ、激しく惹かれ合い、互いを必要とする『強力な引力』を持っています」


「引力……? この無神経な男と、私がですか?」


 ベアトリス夫人が信じられないというように扇を下ろす。


「ええ。しかし、お二人の間には『愛を伝える星の言語』が完全に異なっているという、厄介な障壁が存在しています」


 俺はホロスコープの星の記号をペンでなぞりながら、彼らに向かって占い師としての『診断カウンセリング』を開始した。


「アルベルト公爵。あなたの星……愛情を司る『金星』は、非常に強固な地の星座に位置しています。これは、愛する者を『現実的な行動』と『守護』によって包み込もうとする、非常に誠実で不器用な星回りです」


「……っ」


「あなたは、言葉で愛を囁くことを良しとせず、戦場に立ち、妻の生活を守ることこそが愛の証だと信じている。違いますか?」


 アルベルト公爵はハッと息を呑み、気まずそうに目を逸らした。

 武骨な男の図星を突かれた反応だ。


「しかし、ベアトリス夫人。あなたの『月』……心の奥底の感情を司る星は、繊細な水の星座にあります」


 俺は夫人の方へ向き直り、優しく微笑みかけた。


「あなたは、物質的な豊かさや安全よりも、『あなたのことを大切に思っている』という共感や、肯定的な『言葉』のやり取りによって魂が満たされる星回りなのです」


「……言葉、による……」


「お二人は、互いに愛を投げ合っているのに、受け取るための『器の形』が違うため、すべてがすれ違って地面に落ちてしまっている。それが、この星の摩擦の正体です」


 応接室は、水を打ったように静まり返っていた。


 俺の言葉は、二人の心を正確に射抜いていた。

 これは血液型占いなどでも使われる『バーナム効果(誰にでも当てはまりそうな性格を、自分にだけ当てはまると錯覚させる心理学)』の応用と、実際の行動分析をミックスさせた話術だ。


「先生……。星の巡りというのは、そこまで人の心を正確に暴き出すものなのですか……」


 オズワルド宰相が、震える声で呟く。

 背後にいるレオンとミーアも、必死にメモ帳に「星の言語のすれ違い……」と書き留めていた。


「では、どうすればいいのですか! 星の言語が違うのなら、私たちは永遠にわかり合えないということではありませんか!」


 ベアトリス夫人が、扇を強く握りしめ、悲痛な声で問いかけてきた。

 その瞳には、すでに怒りではなく、深い悲しみと、関係修復へのすがるような期待が浮かんでいる。


(ふふっ、完全に心を開いたな。ここからは俺の独壇場だ)


 俺はわざとらしくホロスコープを指で叩き、自信たっぷりに宣言した。


「ご安心ください。星の配置は変えられませんが、星の光の『受け止め方』は変えられます。これより私が、お二人の星の言語を翻訳する『アサーション・トレーニング(魂の対話魔術)』の儀式を行いましょう」


 占い師の皮を被った、現代の夫婦カウンセリング。

 国を二分する離婚戦争を止めるための、俺の平和的かつ少し気恥ずかしい修復作業が幕を開けた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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次回お楽しみに。

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