第13話 王立魔法学園と、魂を暴く適性検査
学園編始まりましたねー(遠い目
「……どうして俺は、こんな所に立っているのだろうか」
王都の一等地に広大な敷地を構える、由緒正しき『王立魔法学園』。
その荘厳な正門を前にして、俺は深く、そして重いため息を吐き出した。
クラーク商会の特別顧問。
王室直属の宮廷預言者。
そして、教会の最高位神聖アドバイザー。
貧民街の奇病を解決(ただお湯を沸かして手を洗わせただけ)した結果、俺の肩書きはとんでもないことになっていた。
王都の経済、武力、そして宗教。そのすべてから絶対的な崇拝を受ける『生ける伝説』として、俺の名は国中に轟いてしまっていたのだ。
そして今回、俺に白羽の矢を立てたのは、この国の未来を担う魔法使いや貴族の子弟を育成する最高学府だった。
「アイリス会長に、バルド団長、さらには聖女様から揃って直筆の推薦状が届いた時は、我が目を疑いましたよ」
学園の応接室で、白髭を蓄えた厳格そうな学園長が、胃の辺りを押さえながら苦虫を噛み潰したような顔をしている。
机の上に置かれた三通の推薦状からは、権力のトップ層による『うちの先生をよろしく頼む(逆らったらどうなるかわかっているな)』という凄まじい圧力が放たれていた。
「学園長、お気になさらず。俺もこんな大層な役目は辞退したいと……」
「とんでもない! 国家の至宝であられる先生をお迎えできるとは、学園の誇りです!」
学園長は慌てて立ち上がり、俺に向かって深々と頭を下げた。
「本日から先生には、我が学園の『特別客員教授』として教壇に立っていただきます。報酬は月に金貨百枚、教職員専用の豪華サロンも自由にお使いください!」
(おっ? 月に金貨百枚で、専用サロンで休憩し放題?)
俺の耳がピクリと動いた。
よく考えれば、学園の教師というのは悪い職業ではない。
適当に黒板の前に立って、生徒たちに自習でもさせておけばいいのだ。
その後は綺麗なサロンで高級な紅茶を飲みながら、優雅にサボることができる。
「わかりました。その大役、お引き受けしましょう。で、俺が担当するクラスは?」
「はい。先生にはぜひ、第一学年『第七クラス』の生徒たちを導いていただきたいのです」
学園長が申し訳なさそうに視線を逸らした。
その態度に一抹の不安を覚えたが、俺は気を取り直して応接室を後にし、案内された第七クラスの教室へと向かった。
* * *
ガラッ、と。
第七クラスの教室の扉を開けた瞬間、俺はすべてを理解した。
「おいコラ! 俺の席に足乗っけてんじゃねえよ!」
「あぁ? 文句あんなら魔法で勝負するか? お前のショボい火の玉なんて、一瞬で吹き飛ばしてやるよ!」
教室の中は、まさに動物園だった。
机の上に座り込んでトランプのようなゲームをしているグループ。
窓枠に寄りかかって、外に向かって危険な魔法を試し撃ちしようとしているヤンキー。
そして、部屋の隅で怯えるように震えている気弱そうな生徒たち。
黒板には見事な落書きが描かれ、教室の空気は荒みきっていた。
(なるほど。学園長め、一番厄介な『落ちこぼれと不良の吹き溜まり』を俺に押し付けたな)
エリートばかりの学園にも、当然成績不良者や素行に問題のある生徒はいる。
それが一箇所に集められたのが、この第七クラスなのだろう。
彼らの前任の教師たちが、胃に穴を空けて次々と辞めていった光景が目に浮かぶようだ。
俺が教壇に立っても、生徒たちは一切気にする素振りを見せない。
それどころか、一番前の席にふんぞり返っていた赤髪のヤンキー男子が、俺を鼻で笑うように見上げてきた。
「なんだアンタ。また新しい担任か? 悪いことは言わねえから、泣いて逃げ出す前に帰った方がいいぜ。俺たちは誰も、授業なんか受ける気はねえからな」
彼の言葉に、周囲の不良生徒たちもゲラゲラと下品な笑い声を上げる。
魔法の才能がないと見下され、あるいは自分の力をコントロールできず、完全にグレてしまった子供たち。
普通の教師なら、ここで大声で怒鳴りつけるか、魔法の力で彼らを威圧するだろう。
だが、俺は占い師だ。
力や権力で相手を従わせるのではなく、言葉と心理で相手の急所を突くのが専門である。
俺はチョークを手に取ると、黒板の落書きを適当に消し、自分の名前を書き殴った。
「今日からお前たちの特別担任になった。魔法の授業なんて退屈な真似はしない。お前ら、占いには興味があるか?」
「は? 占いだぁ?」
赤髪のヤンキーが眉をひそめる。
俺は教壇から降り、真っ直ぐに彼の方へと歩み寄った。
「お前、名前は?」
「……レオンだ。炎の魔法を得意とする、由緒正しき男爵家の……」
「レオン。お前、さっきから肩で風を切って強がっているが、本当は毎晩眠れないほど胃が痛いんじゃないか?」
俺の言葉に、レオンの表情がピクリと凍りついた。
「な、なんだと……?」
「お前は炎の魔法を誇っているようだが、魔力の放出量に対してコントロールがまったく追いついていない。焦れば焦るほど暴発し、周囲から『才能がない』と笑われるのが怖くて、わざと不良のフリをして逃げているだけだ」
「……っ!!」
レオンが弾かれたように立ち上がり、俺を強く睨みつけた。
だが、その瞳の奥には明らかな動揺と恐怖が揺らめいている。
これは占いでもなんでもない。ただの『コールドリーディング(観察術)』だ。
彼の指先には、魔法の暴発で負ったと思われる小さな火傷の痕が無数にあった。
さらに、彼の机の端には、綺麗に整頓された筆記用具が並べられている。
本当に粗野で大雑把な人間なら、筆記用具をあんなに几帳面に並べたりはしない。
彼は本来、非常に繊細で神経質な性質を持っているのだ。
それが自分の強すぎる魔力と噛み合わず、パニックを起こしているだけである。
「なぜ、それを……! アンタ、何者だ!」
レオンの叫びに、騒がしかった教室が水を打ったように静まり返った。
リーダー格の男が、たった数秒で初対面の教師に完全に心を読まれ、怯えているのだ。
他の生徒たちも、俺を見る目が『舐めてかかれる大人』から『底の知れない化け物』へと変わっていた。
「俺は占い師だ。お前たちが抱えている才能のズレも、心の弱さも、すべて星と数字が教えてくれる」
俺はローブの懐から、あらかじめ用意しておいた大量の羊皮紙の束を取り出した。
そして、それを一番前の席の生徒に渡し、後ろへ回すように指示する。
「な、なんだよこれ……」
配られた羊皮紙を見て、生徒たちが困惑の声を上げた。
そこには、魔法の呪文も、歴史の年号も書かれていない。
『あなたは大人数でいるより、一人の時間が好きだ』
『計画を立ててから行動するより、直感で動くことが多い』
『他人の感情に敏感で、もらい泣きをしてしまうことがある』
そんな、奇妙な質問が何十個も並んでおり、それぞれに「はい・いいえ」で答える形式になっていた。
「これは、我が秘伝の『数秘術』と『魂の羅針盤』を用いた、究極の適性検査だ」
俺は教壇に両手をつき、生徒たち全員を見渡して不敵な笑みを浮かべた。
「お前たちが落ちこぼれと呼ばれているのは、才能がないからではない。自分の『魂の形』に合わない、間違った魔法の使い方をしているからだ」
俺が彼らに配ったのは、現代日本において就職活動や自己分析で使われる『性格診断テスト(MBTIやエニアグラムの簡易版)』だった。
人間の思考パターンや行動特性を細かく分類し、最適な適性を見つけ出すための科学的なツールである。
「今から、この質問すべてに直感で答えろ。そして、回答用紙の最後に『自分の名前』を大きく、はっきりと書き込むこと」
俺はレオンに向かって、意味深な視線を送った。
「名前の書き方一つにも、お前たちの運命が表れる。さあ、始めようか。お前たちの本当の才能を、俺が丸裸にしてやる」
かくして、王立魔法学園における俺の初授業は、誰も見たことのない奇妙な心理テストの実施という形で幕を開けた。
彼らの隠された才能を、現代の心理学と『筆跡診断』でどう覚醒させるか。
俺の、特別客員教授としてのスローライフ防衛戦が始まったのである。
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次回お楽しみに。




