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幼馴染を寝取られ、学園に殺された無能力の俺は最強になって帰ってくる  作者: ワールド


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第5話 退学候補

 実戦試験を終えた翌日。


 星ヶ丘学園の全校生徒が、大講堂へと集められていた。


 壇上には教師陣が並び、その中央には学園長が静かに立っている。


 張り詰めた空気の中、教師・神崎が一歩前へ出た。


「これより、全国能力選別試験の結果を発表する。」


 巨大なスクリーンがゆっくりと点灯する。


 そこには順位と総合評価が表示されていた。


『第一位 黒崎 仁 総合評価SS』


 その瞬間、講堂は大きな拍手に包まれる。


「やっぱり黒崎か。」


「当然だろ。」


「一年最強だもんな。」


 黒崎本人は歓声など気にも留めず、腕を組んだまま無表情でスクリーンを見つめていた。


 続いて二位、三位と順位が発表される。


 炎属性、雷属性、氷属性――。


 上位者の名前が呼ばれるたびに、会場から歓声や悔しそうなため息が漏れる。


 やがて順位は終盤へと差しかかった。


 ハルは静かにスクリーンを見つめる。


(……まだ、呼ばれない。)


 胸の奥が少しずつ重くなる。


 そして最後。


 スクリーンに映し出された名前は一つだけだった。


『最下位 天城ハル』


『総合評価 E』


 一瞬、静まり返った講堂。


 しかし次の瞬間――。


「ははっ! やっぱり最下位か!」


「能力ゼロじゃ当然だろ!」


「実戦で少し粘ったくらいで調子に乗るからだ!」


 笑い声があちこちから響く。


 ハルは何も言わず、その結果を見つめていた。


 神崎が淡々と告げる。


「天城ハル。」


「総合評価E。」


「現時点で、退学候補とする。」


 その宣告は、講堂中に冷たく響き渡った。


 ハルは拳を強く握る。


 悔しさはある。


 それでも俯くことだけはしなかった。


 そんな中、一部の生徒たちは複雑そうな表情を浮かべていた。


「でも、あいつの剣さばきは本物だったぞ。」


「能力なしであそこまで戦えた奴、見たことない。」


「実戦だけなら、もっと評価されてもよかったんじゃないか?」


 小さなざわめきが広がる。


 嘲笑だけではない。


 ハルの戦いを認める声も、確かに生まれ始めていた。


 しかし、その声は大勢の笑い声にかき消され、誰にも届くことはなかった。



 会場のざわめきが収まるのを待ち、教師・神崎が再び口を開いた。


「これより、各評価項目について説明する。」


 巨大なスクリーンに、天城ハルの評価が映し出される。


 その瞬間、生徒たちの視線が一斉に集まった。


『剣術 A』


「おお……。」


 どよめきが広がる。


 続いて次の評価。


『判断力 A』


「能力なしであの立ち回りだったもんな。」


「そこは納得だ。」


 さらに三つ目。


『反応速度 S』


 会場が再びざわついた。


「S評価!?」


「一年でSなんて黒崎くらいじゃ……。」


「いや、あいつ炎を全部避けてたもんな。」


 教師たちも表情を変えずに結果を見つめている。


 そして最後の項目が表示された。


『能力値 0』


 その数字が映し出された途端、先ほどまでのどよめきは失笑へと変わった。


「結局そこなんだよ。」


「能力ゼロじゃ意味ないだろ。」


 神崎は静かに説明を続ける。


「本試験は総合評価である。」


「剣術、判断力、反応速度は高く評価された。」


「しかし――」


 神崎は一度言葉を区切る。


「本学園が最も重視するのは能力の将来性だ。」


「能力こそが、この世界で戦い、生き残るための土台となる。」


「能力値がゼロである以上、総合評価はEとなる。」


 その宣告は、容赦なくハルへ突き刺さった。


 ハルは唇を噛み締める。


(努力だけじゃ……届かないのか。)


 何千回と振った木刀。


 毎朝続けた鍛錬。


 積み重ねてきた時間が、たった一つの数字の前で否定された気がした。


 それでも、ハルは顔を上げる。


 俯くだけはしたくなかった。


 そんなハルを、黒崎仁は黙って見つめていた。


 何も言わない。


 しかし、その鋭い瞳はハルから一度も逸れることはなかった。


 果発表を終え、夕日に染まる通学路を二人は並んで歩いていた。


 いつもなら他愛もない話で笑い合う帰り道。


 しかし今日は、どちらも口数が少ない。


 ハルは両手をポケットに入れたまま、静かに前を見つめていた。


「……ごめんな、美咲。」


 ぽつりと漏らしたその一言に、美咲は足を止める。


「え?」


「心配かけた。」


「せっかく応援してくれてたのに、俺……退学候補になっちゃった。」


 自嘲気味に笑うハル。


 その笑顔が無理をしていることは、美咲にはすぐに分かった。


 彼女はハルの前へ回り込み、その顔を真っすぐ見つめる。


「ハル。」


「うん?」


「私は今日の試合、ちゃんと見てた。」


 美咲は優しく微笑んだ。


「能力がなくても最後まで諦めなくて。」


「誰よりも必死に戦って。」


「すごく……かっこよかった。」


 ハルは少し照れくさそうに頭をかく。


「負けちゃ意味ないよ。」


「そんなことない!」


 珍しく少し大きな声を出した美咲は、慌てて頬を赤くする。


 それでも、真剣な瞳は揺るがなかった。


「ハルは絶対、間違ってない。」


「努力してきたことも。」


「諦めなかったことも。」


「全部、私は知ってる。」


 その言葉は、今日一日で一番ハルの胸に響いた。


 美咲はそっとハルの両手を包み込む。


 少し冷えた手だった。


「私はずっと味方だから。」


「みんなが何を言っても。」


「世界中がハルを認めなくても。」


「私は信じる。」


 その笑顔は、幼い頃から何一つ変わっていなかった。


 ハルの心を何度も救ってきた、優しい笑顔。


 ハルも自然と笑みを浮かべる。


「……ありがとう。」


「その一言だけで、また頑張れそうだ。」


「ふふっ。」


 美咲も安心したように笑う。


 二人は夕焼けに染まる坂道をゆっくりと歩き出す。


 肩が触れそうなほど近い距離。


 心地よい沈黙が流れる。


 この瞬間だけは、退学候補であることも、能力がないことも忘れられた。


 ハルは心の中で改めて思う。


(やっぱり美咲だけは違う。)


(どんな時でも、俺の味方でいてくれる。)


 その想いは、誰よりも強く、誰よりも疑いのないものだった。



 一方その頃――。


 校舎最上階にある学園長室。


 静まり返った部屋には、夕日が窓から差し込んでいた。


 一人の教師が書類を机へ差し出す。


「学園長。」


「試験結果がまとまりました。」


 学園長は無言で資料を受け取り、一枚一枚目を通していく。


 やがて、一人の生徒の名前で手が止まった。


 天城ハル。


 資料の最上段には、冷たく数字が記されている。


 能力値 0


 教師が淡々と告げる。


「予定通り、退学処分でよろしいかと。」


 しかし学園長は返事をしない。


 視線はさらに下へと移る。


 そこには実戦試験の詳細な評価が並んでいた。


 剣術 A


 判断力 A


 反応速度 S


 学園長は眼鏡を外し、小さく息をつく。


「……反応速度Sか。」


「能力なしで、この評価とはな。」


 教師も資料を覗き込む。


「戦闘技術だけを見れば、一年でも上位です。」


「いえ……。」


「一年主席クラスと言っても過言ではありません。」


 その言葉に、学園長は静かに頷く。


「一年主席クラスか……。」


 だが教師は首を横に振った。


「それでも能力はゼロです。」


「本学園は能力者を育成する教育機関。」


「能力のない者を残す理由はありません。」


 部屋に沈黙が流れる。


 学園長は資料を閉じると、窓の外へ目を向けた。


 校庭では、生徒たちが夕日に照らされながら帰路についている。


 その中には、傷だらけの体で歩くハルの姿もあった。


 しばらく見つめた後、学園長は静かに口を開く。


「……まだ決めるのは早い。」


 教師は驚いたように顔を上げる。


「学園長?」


 学園長は再び資料へ視線を落とし、小さく呟いた。


「能力だけでは測れない人間もいる。」


「私は、そう信じている。」


 翌日。


 一限目の授業が始まろうとした、その時だった。


 ――キーンコーンカーンコーン。


 校内放送が鳴り響き、教室中の生徒が動きを止める。


『全校生徒に連絡する。』


『これより、特別試験について発表する。』


 放送を聞いていた教師も静かに教卓の前へ立ち、生徒たちに耳を傾けるよう促した。


『退学候補――天城ハル。』


 突然、自分の名前を呼ばれたハルは目を見開く。


 教室も一気にざわついた。


「またあいつか。」


「もう退学でいいだろ。」


 そんな声が飛び交う中、放送は続く。


『学園長の判断により、天城ハルに最後の特別試験を与える。』


「えっ……?」


「最後の試験?」


 生徒たちは顔を見合わせる。


 教壇に立つ神崎が静かに口を開いた。


「これより説明する。」


「試験名は――全校逃走試験。」


 教室の空気が変わる。


「試験開始後、天城ハルは一年生全員から逃走する。」


「制限時間まで逃げ切ることができれば、在籍を認める。」


「しかし――」


 神崎の声が鋭く響く。


「捕まれば、その時点で試験終了。」


「即刻、退学処分とする。」


 静まり返る教室。


 一対一ですら能力者相手に苦戦するハルが、一年生全員を相手に逃げ切る。


 そんなことが可能だと考える者は、一人もいなかった。


 その沈黙を破るように、小さな笑みを浮かべた男がいる。


 黒崎仁だった。


「……やっと本気で戦える。」


 その一言に、教室の空気がさらに張り詰める。


 一方、美咲は顔から血の気が引いていた。


「そんなの……。」


「そんなの、無理だよ……。」


 震える声で呟く美咲。


 ハルは静かに目を閉じ、ゆっくりと拳を握る。


 逃げ場はない。


 残された道は、一つだけ。


「……逃げ切ればいいんだな。」


 その瞳には、まだ闘志の炎は消えていなかった。

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