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幼馴染を寝取られ、学園に殺された無能力の俺は最強になって帰ってくる  作者: ワールド


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第40話 違和感

 まず、勝負が終わった。


 公園には夕暮れの風が静かに吹き抜けている。


 誰も言葉を発さなかった。


 雫は木刀を下ろし、美咲もまだ先ほどの戦いの余韻から抜け出せずにいる。


 黒崎だけが静かにハルを見つめていた。


 その時だった。


「……っ。」


 ハルが小さく顔をしかめた。


 誰にも気付かれないほど僅かな変化。


 だが、胸の奥が妙にざわつく。


(……何だ。)


 心臓が一度、大きく脈打つ。


 ドクン。


 続いてもう一度。


 ドクン。


 鼓動が少しずつ速くなる。


 まるで身体の内側から何かが暴れようとしているようだった。


(息苦しい……。)


 胸を締め付けられるような圧迫感。


 額にじんわりと汗が滲む。


 身体の奥から熱が込み上げてくる。


 戦いで疲れたからではない。


 傷を負ったわけでもない。


 地下施設で何度も死線を潜り抜けてきた。


 肋骨を折られたこともある。


 内臓を傷付けられたこともある。


 血を流し過ぎて意識を失ったことだってあった。


 だが――。


(こんな感覚は……。)


(初めてだ。)


 痛みではない。


 疲労でもない。


 それなのに身体が思うように力を入れられない。


 視界が一瞬だけ揺れた。


「……ハル?」


 すぐに異変へ気付いたのは澪だった。


 心配そうに一歩近付く。


「大丈夫?」


 ハルは我に返る。


「あ……ああ。」


 小さく息を吐き、いつものように笑みを作った。


「ちょっと疲れただけだ。」


「本当に?」


 澪は不安そうに見つめる。


「うん。」


「心配するほどじゃない。」


 そう言って胸から手を離す。


 表情もすぐに普段通りへ戻した。


 だが。


(違う。)


(疲れなんかじゃない。)


 胸の奥の違和感は消えない。


 むしろ少しずつ強くなっている気さえした。


(何なんだ……。)


(俺の身体に、一体何が起きてる。)


 ハルは誰にも悟られないよう、小さく拳を握り締めた。


 その異変に気付いている者は、まだ誰もいなかった。


 ハルが胸の違和感を押し殺した、その時だった。


「――ハルーーーーーーッ!!」


 突然、空から大声が響いた。


 公園中に響き渡るような、よく通る少女の声。


「助けに来たぞぉぉぉーーーー!!」


 その場にいた全員が一斉に空を見上げる。


「えっ?」


 美咲が思わず声を漏らす。


 雫も目を丸くした。


「空から……?」


 黒崎だけは眉をひそめ、視線を上へ向ける。


「……誰だ。」


 夕日に染まるビルの屋上。


 その縁に、一人の少女が立っていた。


 逆光で顔はよく見えない。


 しかし次の瞬間――。


「待ってろハルッ!」


 少女は何の迷いもなく、屋上から飛び降りた。


「なっ!?」


 美咲の表情が凍り付く。


「うそっ!」


 雫が思わず口元を押さえた。


 ここは数十メートルはある高さだ。


 普通なら助かるはずがない。


 しかし少女は落下しながら大笑いしていた。


「おおおおおおおおっ!!」


 風を切り裂き、一直線に地面へ迫る。


 ドォォォォォンッ!!


 轟音が公園に響いた。


 地面が揺れ、小石が跳ねる。


 激しく土煙が舞い上がり、周囲の木々が大きく揺れた。


 美咲は思わず目を閉じる。


「きゃっ!」


 雫も腕で顔を庇う。


 土煙が辺り一面を包み込み、数秒間、誰の姿も見えなくなった。


 やがて風が吹き抜け、ゆっくりと煙が晴れていく。


 その中心には、一人の少女が仁王立ちしていた。


 短く切り揃えられた黒髪。


 引き締まった体。


 制服の上からでも分かる鍛え抜かれた筋肉。


 そして満面の笑み。


「へへっ!」


 少女は土埃を払いながら大きく手を振る。


「ハルッ!」


「無事かぁーーー!!」


 ハルはその姿を見ると、小さくため息をついた。


「……カエデ。」


 その声には驚きよりも呆れが混じっていた。


 カエデはそんなことなど気にも留めず、一直線に駆け寄ってくる。


「遅くなって悪ぃ!」


「ちゃんと助けに来たぞ!」


 ハルは苦笑しながら首を横に振る。


「いや。」


「別に助けはいらなかった。」


「え?」


 カエデはきょとんと目を瞬かせる。


 周囲を見回し、倒れている者が誰もいないことにようやく気付く。


「あれ?」


「もう終わってんのか?」


 その場にいた全員が、思わず言葉を失っていた。


 数十メートルの高さから飛び降りて、無傷。


 まるでそれが当たり前であるかのように笑っている少女。


 その常識外れの登場に、美咲も雫も黒崎でさえ、しばらく声を出せなかった。


 土煙がまだ完全には晴れていない。


 カエデは腰に手を当て、満足そうに胸を張っていた。


「どうだ!」


「最高の登場だったろ!」


 誰も答えない。


 美咲も雫も黒崎も、あまりに豪快な登場に呆然としている。


 その時だった。


「……うるせぇな。」


 土煙の向こうから、気だるそうな男の声が聞こえた。


「毎回毎回……。」


「なんでお前は静かに登場できねぇんだよ。」


 煙の中から、一人の青年がゆっくりと歩いてくる。


 片手をポケットに突っ込み、もう片方の手で頭をかきながら、大きな欠伸をしていた。


「はぁ……。」


「疲れる。」


 無造作に伸びた黒髪。


 どこか眠たそうな目。


 やる気があるのかないのか分からない表情。


 だが、その視線だけは周囲を冷静に観察していた。


「レン!」


 カエデが不満そうに振り返る。


「何だよ!」


「せっかくカッコよく決めたのによ!」


「カッコよく?」


 レンは首を傾げる。


「ただ騒いで飛び降りてきただけだろ。」


「十分カッコいいだろ!」


「いや。」


「近所迷惑。」


「ぶっ飛ばすぞ!」


 拳を振り上げるカエデ。


 レンは面倒くさそうに肩をすくめた。


「はいはい。」


「怖い怖い。」


「絶対思ってねぇだろ!」


「思ってない。」


「この野郎!」


 カエデが飛びかかろうとした瞬間。


「カエデ。」


 ハルが静かに名前を呼ぶ。


 その一言だけで、カエデの動きが止まった。


「あ?」


「少し落ち着け。」


「……。」


 カエデは頭をかきながら、小さく舌打ちする。


「ちぇっ。」


「ハルが言うなら仕方ねぇ。」


 そう言って素直に引き下がる。


 その様子を見て、美咲は驚いていた。


(あの人……。)


(ハル君の言うことはちゃんと聞くんだ。)


 黒崎も静かに二人を観察する。


(統率ではない。)


(信頼関係か。)


 レンはようやくハルの前まで歩いてくると、小さく笑った。


「悪い。」


「迎えに来た。」


「政府の連中から、お前が学園の連中と接触したって聞いてな。」


「面倒になりそうだから来た。」


 ハルは苦笑する。


「心配しすぎだ。」


「お前がそう言うなら、まだ大丈夫か。」


 レンはそう言って肩の力を抜いた。


 そして初めて、美咲たちへ視線を向ける。


「さて。」


「こっちが学園の代表候補か。」


 眠たそうだった目が、一瞬だけ鋭くなる。


 美咲。


 雫。


 そして黒崎。


 三人を順番に見渡し、最後に黒崎で視線が止まった。


「へぇ。」


「お前が黒崎仁か。」


 黒崎も静かに見返す。


「ああ。」


「地下施設代表か。」


 二人の視線が交わる。


 互いに敵意はない。


 しかし、一瞬で相手を値踏みするような緊張感が、その場に漂っていた。


 その場に、静かな空気が流れる。


 先ほどまで騒いでいたカエデも腕を組み、レンも欠伸を噛み殺しながら立っていた。


 美咲は二人を見つめる。


(この人たちが……。)


(地下施設の代表。)


 もっと恐ろしい人たちだと思っていた。


 冷酷で。


 乱暴で。


 話なんて通じない相手だと。


 けれど目の前にいる二人は、そんな印象とはまるで違っていた。


 仲間同士で軽口を叩き合い、笑い合っている。


 どこにでもいる高校生のようだった。


 雫も同じだった。


(普通……。)


(本当に普通の人たちなんだ。)


 地下施設という名前だけで抱いていた恐怖が、少しずつ薄れていく。


 一方、黒崎は静かに二人を観察していた。


 黒鋼カエデ。


 全身から溢れる圧倒的な身体能力。


 豪快な振る舞いとは裏腹に、ハルの一言で動きを止めた。


 石田レン。


 一見やる気のない態度。


 しかし、視線だけは常に周囲を観察している。


 隙がない。


(どちらも強い。)


(だが、それ以上に……。)


(信頼している。)


 黒崎は小さく息を吐く。


 地下施設。


 極限の環境で生きてきた者たち。


 だからこそ、互いを信用することの重みを知っているのかもしれない。


 その時だった。


「おい。」


 カエデが黒崎たちへ歩み寄る。


「お前らが学園の連中か?」


 美咲は少し身構える。


 しかしカエデは気にした様子もなく、親指でハルを指差した。


「うちのハル、ちゃんと世話になったか?」


「え?」


 予想外の言葉に、美咲は目を瞬かせる。


 カエデは続ける。


「こいつ、放っとくと無茶ばっかするからよ。」


「ちゃんと飯食わせたか?」


「ちゃんと寝かせたか?」


「ちゃんと休ませたか?」


 ハルが苦笑する。


「カエデ。」


「子どもじゃないんだから。」


「うるせぇ。」


「お前、自分のこと全然分かってねぇだろ。」


 レンが肩をすくめる。


「まぁ、それは否定できないな。」


「お前も言うな!」


 再び言い合いを始める二人。


 その様子を見て、雫は思わず小さく笑った。


「ふふっ。」


 美咲も少しだけ表情を緩める。


 地下施設の人たち。


 その言葉だけで勝手に作り上げていたイメージが、目の前で音を立てて崩れていく。


 彼らもまた、仲間を心配し、笑い合い、支え合う。


 自分たちと何も変わらない、一人ひとりの人間だった。


 その時だった。


「……っ。」


 ハルの表情がわずかに歪む。


 胸の奥を押さえるように、小さく息を漏らした。


「ハル?」


 澪が真っ先に気付く。


 ハルはすぐに何でもないような顔を作る。


「……大丈夫だ。」


「少し疲れただけだから。」


「嘘。」


 澪は小さく首を横に振った。


「さっきからずっと苦しそう。」


 そう言うと、迷いなくハルの前へ歩み寄る。


 そして。


 そっと、ハルの右手を両手で包み込んだ。


 温かな手だった。


「大丈夫。」


 優しく微笑む。


「私もいるから。」


「一人で無理しなくていい。」


 その声は、地下施設で何度もハルを励ましてきた時と同じだった。


 ハルは一瞬だけ目を丸くする。


 しかしすぐに力を抜き、小さく笑った。


「……ありがとう。」


 その返事も、ごく自然だった。


 手を振り払うこともない。


 照れる様子もない。


 まるで、それが当たり前であるかのようだった。


 レンはその様子を見て、小さく肩をすくめる。


「また始まったか。」


 呆れたように笑う。


 カエデも腕を組みながら苦笑した。


「澪は昔からそうなんだよな。」


「ハルが無茶すると、すぐ心配しやがる。」


「うん。」


 澪は照れ笑いを浮かべながら頷く。


「だって心配なんだもん。」


「地下施設でも、いつも一人で抱え込んでたから。」


「だから今度は、一人にしないって決めたの。」


 ハルは少し困ったように笑う。


「大げさだって。」


「大げさじゃないよ。」


 澪は優しく微笑み返す。


「仲間なんだから。」


 その一言には迷いがなかった。


 地下施設で何度も命を預け合い、絶望の中を支え合ってきた。


 だからこそ生まれた、言葉以上の信頼。


 その空気は、学園側の三人にもはっきりと伝わっていた。


 特に美咲は、繋がれた二人の手から目を離すことができなかった。



 美咲は動けなかった。


 視線の先には、ハルと澪。


 二人の手は自然に重なったまま。


 無理に繋いでいるわけではない。


 どちらかが照れるわけでもない。


 まるで、それが当たり前の日常であるかのようだった。


(……あ。)


 胸が小さく痛む。


 澪は優しく笑っている。


 ハルも、その笑顔を受け入れている。


 その光景が、美咲の胸を締め付けた。


(ハル君……。)


 昔は。


 ハルが落ち込んだ時。


 怪我をした時。


 無茶をした時。


 一番最初に隣へ駆け寄っていたのは、自分だった。


「大丈夫?」


「無理しないで。」


 そう言って励ますのは、いつも自分の役目だった。


 それなのに。


 今、その場所に立っているのは澪だった。


 ハルも何も言わない。


 その手を振り払うこともなく、自然に受け入れている。


(……違う。)


(あの子が悪いんじゃない。)


 澪は何も知らない。


 ただ純粋にハルを心配しているだけ。


 だから責められない。


 それでも。


 胸の奥から湧き上がる感情は止められなかった。


(羨ましい……。)


 その小さな本音に、美咲は自分で驚く。


 そんなことを思ってはいけない。


 澪はハルの命を支えてきた仲間。


 地下施設で苦しみを分かち合ってきた大切な存在。


 自分には、その時間はない。


 それでも。


(私も……。)


(あそこにいたかった。)


 その思いが胸を締め付ける。


 美咲はそっと唇を噛んだ。


 そんな美咲の表情を、黒崎は静かに横目で見ていた。


「……美咲。」


 小さく名前を呼ぶ。


 美咲は慌てて顔を上げた。


「え……?」


「顔に出ている。」


「っ!」


 思わず目を見開く。


 黒崎はそれ以上何も言わなかった。


 ただ静かに視線を前へ戻す。


 美咲も慌てて笑顔を作ろうとする。


「だ、大丈夫。」


「私は……。」


 言葉が続かない。


 視線だけが、またハルと澪へ向かってしまう。


 夕日に照らされた二人の姿が、なぜかとても遠く感じられた。


 

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― 新着の感想 ―
黒崎も美咲…屑過ぎて反吐が出るな
美咲が気持ち悪すぎて嫌悪感が半端ない 自分で切り捨ててハルとの想い出を美談にして悲劇のヒロインを気取り黒崎と傷の舐めあいをしてた屑が嫉妬する資格なんてねーだろ… 二兎を追ってキープしてたのに片方を手放…
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