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幼馴染を寝取られ、学園に殺された無能力の俺は最強になって帰ってくる  作者: ワールド


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第3話 全国能力選別試験

 試験当日の朝。


 いつもなら談笑や笑い声で賑わう教室は、不気味なほど静まり返っていた。


 机に肘をついて目を閉じる者。


 教科書を何度も見返す者。


 能力制御のイメージトレーニングを繰り返す者。


 誰もが落ち着かない様子で、その時を待っている。


 やがて教室の扉が開き、担任の神崎が姿を現した。


 雑談はぴたりと止み、空気が張り詰める。


 神崎は教壇へ立つと、生徒たちを見渡しながら静かに口を開いた。


「今日は、全国能力選別試験の日だ。」


 その一言だけで、教室の温度が一段下がったように感じられた。


 この試験の名を知らない者はいない。


 能力者としての価値を測り、将来を左右する一大試験。


 毎年、この試験で人生が大きく変わる者がいる。


 期待を背負う者もいれば、夢を絶たれる者もいる。


 誰もが真剣な表情を浮かべる中、美咲がそっとハルの机へ顔を寄せた。


「ハル……。」


 その声は、どこか震えていた。


「今年は例年以上に厳しいって聞いたよ……。」


 普段は明るい美咲が不安そうな顔を見せるのは珍しい。


 ハルは少しだけ驚いたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。


「心配しても始まらないさ。」


 そう言って軽く肩をすくめる。


「俺は俺にできることをやるだけ。」


「頑張るしかない。」


 その笑顔は決して強がりではなかった。


 能力がなくても、努力だけは誰にも負けない。


 その信念だけは、今日も何一つ揺らいでいなかった。


 一方で、その様子を教室の後方から静かに見つめる視線があった。


 黒崎仁だった。


 何も言わず腕を組み、無表情のままハルを見つめる。


 その視線の意味を、この時のハルはまだ知らなかった。


 教室に漂う重苦しい空気の中、神崎は教卓に一枚の資料を置いた。


 表紙には、大きくこう記されている。


 『全国能力選別試験 実施要項』


 神崎は資料を手に取り、生徒たちを見渡した。


「これより試験の概要を説明する。」


 誰一人として私語をする者はいない。


「全国能力選別試験は、全国すべての能力学園で同時に実施される国家認定試験だ。」


「目的は四つ。」


 神崎は黒板に順番に書いていく。


 能力測定。


 実戦能力。


 判断力。


 将来性。


「能力の強さだけではない。」


「戦闘技術、状況判断、そして今後どれだけ成長する見込みがあるか。そのすべてを総合的に評価する。」


 教室中が真剣な眼差しで黒板を見つめる。


 この試験の結果は、一年間の評価だけでは終わらない。


 卒業後の進路や推薦、さらには国からの支援制度まで大きく左右する。


 能力者にとって、自分の価値を証明する最も重要な試験だった。


 神崎は一呼吸置き、資料をめくる。


「そして、今年度から一つ変更点がある。」


 その瞬間、教室の空気がさらに張り詰めた。


「一定基準に達しなかった者は――」


 神崎は感情のない声で告げる。


「退学処分とする。」


 一瞬の静寂。


 次の瞬間、教室がどよめいた。


「退学……?」


「また退学者が出るのか……。」


「去年も何人か消えたって聞いたぞ。」


「今年は本気なんだ……。」


 不安そうに顔を見合わせる生徒たち。


 そのざわめきを神崎は止めようともしなかった。


「勘違いするな。」


「この学園の退学は、普通の学校とは意味が違う。」


 神崎の一言で、再び教室が静まり返る。


「能力学園を退学した者は、他校への編入は認められない。」


 黒板に一つ目の項目が書かれる。


 ・他校への編入不可


「さらに、能力者としての公的登録も抹消される。」


 二つ目。


 ・能力者登録剥奪


「当然、能力者を前提とした企業や公的機関への就職も不可能になる。」


 三つ目。


 ・能力者向け就職不可


 教室に重苦しい沈黙が流れた。


 能力が社会の基準となったこの世界では、能力者登録を失うことは社会的信用を失うことに等しい。


 能力学園を追われた者を受け入れる場所は、ほとんど存在しない。


 つまり――。


 学園から追放されることは、社会から追放されることを意味していた。


 神崎は静かに資料を閉じる。


「これが全国能力選別試験だ。」


「甘い気持ちで臨めば、将来そのものを失う。」


 その言葉は、生徒一人ひとりの胸に重く突き刺さった。


 そして教室の隅では、誰にも気づかれないようにハルが静かに拳を握り締めていた。


 無能力者である自分が、最も厳しい立場に置かれていることを、彼は誰よりも理解していた。


 試験会場は、学園最大の演習ドームだった。


 数百人の生徒が観客席に並び、中央には巨大な水晶のような測定装置が設置されている。


 その装置は、能力の総合評価を瞬時に数値化し、ランクとして表示する国家認定の魔導測定器だった。


 神崎が前へ出る。


「これより第一試験、能力測定を開始する。」


「名前を呼ばれた者は前へ。」


 最初の生徒が測定器へ手をかざす。


 赤い光が装置全体を包み込んだ。


「炎属性・総合評価A!」


 大きな文字が空中へ映し出される。


「おおっ!」


 会場から歓声が上がる。


 拍手が響き、生徒は満足そうに胸を張った。


 続いて別の生徒。


 青白い雷が装置を駆け巡る。


「雷属性・総合評価A+!」


「すげぇ!」


「去年より伸びてる!」


 さらに氷属性。


 冷気が会場を包み込み、測定器の周囲に白い霜が広がる。


「氷属性・総合評価S!」


 再び大きな拍手が起こった。


 風、水、土、光。


 次々と能力が測定され、そのたびに会場は歓声に包まれる。


「Aランク!」


「またSだ!」


「今年の一年はレベルが高いぞ!」


 教師たちも手元の資料に結果を書き込みながら、小さく頷いていた。


「去年より全体水準が高いな。」


「有望株が多い。」


 やがて神崎が次の名前を読み上げる。


「黒崎仁。」


 その瞬間、会場の空気が一変した。


「来た……。」


「本命だ。」


「今年も主席は決まりだろ。」


 黒崎は静かに前へ歩き出る。


 余計な動作は一切ない。


 測定器へ片手を添えた、その瞬間だった。


 轟ッ――。


 凄まじい魔力の奔流が会場全体を震わせる。


 黄金色の雷光が天井近くまで駆け上がり、強烈な風圧が観客席へ吹き抜けた。


「な、なんだ、この魔力量……!」


 教師ですら目を見開く。


 測定器の表示が高速で変化していく。


 A。


 A+。


 S。


 S+。


 そして最後に、ひときわ眩い光とともに表示された。


 『SS』


 一瞬の静寂。


 次の瞬間、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。


「SSランクだ!」


「やっぱり黒崎だ!」


「次元が違う!」


 惜しみない拍手が鳴り響く。


 黒崎本人は結果に一切動じることなく、静かに測定器から手を離した。


 その横顔には、喜びも驕りもない。


 まるで、この結果が当然だと言わんばかりだった。


 神崎は資料へ評価を書き込み、小さく頷く。


「……今年も黒崎が主席候補だ。」


 誰も異論を唱えない。


 その評価は、会場にいる全員が納得するものだった。


 そして測定は、なおも続いていく。


 やがて、その順番は――。


 無能力者、天城ハルへと近づいていた。


 次々と能力測定が終わり、受験者の列も残りわずかとなった。


 神崎は手元の名簿へ視線を落とし、最後の名前を読み上げる。


「――天城ハル。」


 その瞬間、会場の空気が変わった。


 ざわめきが広がり、あちこちから小さな笑い声が漏れる。


「来たぞ。」


「世界で唯一の無能力者。」


「どうせ能力値ゼロだろ。」


「見ものだな。」


 好奇と嘲笑の入り混じった視線が、一斉にハルへ向けられる。


 ハルは周囲の声を気にすることなく、静かに測定器の前へ立った。


 大きく息を吸い込み、そっと装置へ右手を添える。


 会場が静まり返る。


 全員が水晶の反応を見守っていた。


 一秒。


 二秒。


 三秒――。


 何も起こらない。


 炎も。


 雷も。


 氷も。


 風も。


 測定器は、まるで壊れているかのように沈黙を続けていた。


「……あれ?」


「反応しないぞ。」


 生徒たちが首をかしげた、その時。


 ピッ、と乾いた電子音が鳴る。


 測定器の中央に、無機質な文字が浮かび上がった。


 『能力値 0』


 一瞬の静寂。


 そして次の瞬間、会場は爆笑に包まれた。


「やっぱりゼロだ!」


「本当に能力がないんだ!」


「測定する意味あったのか?」


「伝説のゼロ点だな!」


 笑い声が演習場中に響き渡る。


 神崎は小さくため息をつき、評価用紙へ淡々と記入した。


「……能力測定、終了。」


 その声にも期待は一切含まれていない。


 教師たちも「予想通りか」といった表情で資料を閉じていく。


 ハルは表示された「0」の文字を静かに見つめた。


 驚きはなかった。


 十五歳の覚醒の日から、何度も見てきた数字だ。


 悔しさがないわけではない。


 それでも、彼は俯かなかった。


 測定器から手を離すと、まっすぐ神崎を見つめる。


「先生。」


 神崎が顔を上げる。


「……何だ。」


 ハルは静かに、しかし迷いなく言った。


「次をお願いします。」


 その一言に、会場の笑い声が一瞬だけ止まる。


 能力がゼロでも。


 何度否定されても。


 天城ハルだけは、まだ試験を終わらせるつもりはなかった。


 一方、その頃――。


 星ヶ丘学園・学園長室。


 重厚な机の上には、全国能力選別試験の速報データが並べられていた。


 担当教師の一人が資料をめくりながら報告する。


「能力測定の結果が出揃いました。」


「天城ハル……能力値は予想通り、ゼロです。」


 別の教師が鼻で笑う。


「やはり退学候補筆頭ですね。」


「実戦や判断力を考慮したところで、能力がなければ結果は変わらないでしょう。」


「今年の選別も決まりです。」


 誰もが当然のように頷く。


 能力のない者に未来はない。


 それが、この世界の常識だった。


 しかし、部屋の奥で静かに資料へ目を通していた学園長だけは、その言葉に首を横へ振った。


「……いや。」


 教師たちの視線が一斉に集まる。


 学園長は資料を閉じ、ゆっくりと口を開いた。


「まだ、一つだけ確認していない。」


「確認……ですか?」


 教師の問いに、学園長は窓の外へ視線を向ける。


 その先には、次の試験会場へ向かう一人の少年の姿があった。


「――あの少年は、本当に"無能力"なのか。」


 その静かな一言だけが、重く学園長室に響いた。

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