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幼馴染を寝取られ、学園に殺された無能力の俺は最強になって帰ってくる  作者: ワールド


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第2話 努力では届かない壁

翌朝。


 まだ空が白み始めたばかりの校庭には、人影が一つしかなかった。


 一定のリズムでグラウンドを駆ける少年――天城ハルである。


 息を切らしながら十周を走り終えると、今度は木剣を握る。


 正眼に構え、振る。


 もう一度。


 そして、もう一度。


 乾いた音だけが、静かな朝の校庭に響いていた。


 素振りを千回終える頃には、制服のシャツは汗で背中に張り付き、腕は鉛のように重くなっている。


 それでもハルは木剣を置かず、その場で腕立て伏せを始めた。


 能力がない。


 だからこそ、体だけは誰にも負けたくない。


 その一心だけが、毎朝の鍛錬を支えていた。


「……相変わらず無駄なことをしているな。」


 背後から呆れた声が飛ぶ。


 振り向くと、実技担当教師の神崎が腕を組んで立っていた。


 ハルはすぐに姿勢を正す。


「おはようございます。」


「能力もない人間が努力したところで意味はない。」


 神崎は鼻で笑い、木剣を見下ろした。


「能力者は、生まれ持った力で戦う。筋力や剣術など、能力の前では児戯にも等しい。」


 冷たい視線がハルに向けられる。


「まだ現実を受け入れられないのか?」


 ハルは数秒だけ黙り込み、汗を拭った。


「……それでも、何もしないよりはいいと思っています。」


「ふん。」


 神崎は肩をすくめる。


「好きにしろ。結果は変わらん。」


 それだけ言い残し、教師は校舎へと歩き去っていった。


 静寂が戻る。


 ハルは小さく息を吐くと、再び木剣を握り直した。


「今日も……やるか。」


 誰にも認められなくてもいい。


 笑われてもいい。


 今の自分にできることは、積み重ねることだけなのだから。


 朝日に照らされる校庭で、木剣を振る音が再び静かに響き始めた。



 午前最後の授業は、能力実践訓練だった。


 星ヶ丘学園で最も人気があり、そして最も実力差が露わになる授業でもある。


 広大な演習場には、生徒たちが二人一組で並んでいた。


 担当教師の神崎が前へ出る。


「今日は模擬戦を行う。能力を存分に使い、相手を戦闘不能にした方の勝ちだ。」


「始め!」


 合図と同時に、あちこちで能力が解放される。


「《ファイア・バースト》!」


 轟音とともに炎が渦を巻く。


「《アイスランス》!」


 鋭い氷柱が地面を突き破り、一直線に相手へ襲い掛かった。


「《ウィンドカッター》!」


 風の刃が空気を裂き、演習場の砂煙を巻き上げる。


「《ライトニング》!」


 青白い雷光が一瞬で相手を包み込み、観戦していた生徒たちから歓声が上がった。


「すげぇ!」


「さすがAクラスだ!」


「今の見たか!?」


 能力がぶつかり合うたびに拍手と歓声が響く。


 まるで競技場のような熱気だった。


 そんな中、一人だけ輪に入れない少年がいる。


 天城ハルだった。


 神崎は名簿を閉じる。


「天城。」


「はい。」


「お前は見学でいい。」


 演習場が静まり返る。


 すぐに、あちこちから笑い声が漏れた。


「まあ能力ないもんな。」


「参加しても一瞬で終わるだろ。」


「見学がお似合いだ。」


 ハルは拳を握る。


 だが、ゆっくりと前へ出た。


「先生。」


「……何だ。」


「お願いします。」


 ハルは深く頭を下げた。


「剣術だけでも構いません。参加させてください。」


 神崎は露骨にため息をつく。


「無駄だと言っている。」


「それでもお願いします。」


 しばらく沈黙が流れた。


 神崎は面倒そうに肩をすくめる。


「……好きにしろ。」


 周囲から失笑が漏れる。


「自分から恥をかきに行くのか。」


「救いようがないな。」


 ハルは木剣を握り、演習場の中央へ立った。


 対戦相手は風属性の能力者だった。


「始め!」


 開始の合図と同時に、風の刃が放たれる。


 ハルは地面を蹴り、紙一重でかわす。


 続く二撃目も身をひねって回避。


 距離を一気に詰める。


「なっ!?」


 相手が驚いた。


 能力を避けられるとは思っていなかったのだ。


 ハルはさらに踏み込み、木剣を振り上げる。


 あと半歩。


 あと半歩届けば、一撃が入る。


「惜しい!」


 観戦していた生徒の誰かが思わず声を漏らした。


 しかし、その瞬間だった。


「《エアブラスト》!」


 至近距離で放たれた暴風がハルを吹き飛ばす。


「ぐっ!」


 体が地面を転がり、木剣が手から離れた。


 勝敗は一瞬だった。


「勝者、坂本。」


 神崎が淡々と告げる。


 演習場には再び笑い声が広がった。


「やっぱり能力なしじゃ無理だ。」


「惜しかったけど、それだけだな。」


 ハルは土を払いながら立ち上がる。


 悔しさはある。


 それでも、俯くことはなかった。


 ――今の動きは通用した。


 あと一歩届かなかったのは、自分の剣ではない。


 能力という、決して埋められない差だった。


 その事実だけが、静かにハルの胸へ刻まれていった。


 授業が終わり、生徒たちが演習場を後にしていく。


 ハルは地面に落ちた木剣を拾い、静かに付着した砂を払っていた。


「……悪くない動きだった。」


 不意に声を掛けられる。


 振り向くと、そこには黒崎仁が立っていた。


 黒い制服を乱すことなく着こなし、涼しい表情でハルを見つめている。


 学園最強。


 誰もが憧れ、誰もが敵わないと認める存在だった。


「黒崎……。」


「能力を避ける判断も、間合いの詰め方も悪くない。」


 黒崎は淡々と続ける。


「少なくとも、この学園の平均より剣術は上だ。」


 予想外の言葉に、ハルは少し驚いた。


「……ありがとう。」


 素直に礼を言う。


 だが、黒崎は静かに首を横へ振った。


「だが、それだけだ。」


 短い一言だった。


「努力だけでは才能には勝てない。」


 その声に感情はない。


 見下しているわけでも、嘲笑しているわけでもない。


 ただ、事実を述べているだけだった。


「今日の試合が証明している。」


 黒崎は演習場へ視線を向ける。


「あと一歩まで追い詰めた。確かに見事だった。」


「しかし、その一歩は能力によって覆された。」


 ハルは何も言えない。


 黒崎の言葉は、まさに先ほど自分が感じた現実そのものだった。


「この世界では、生まれ持った力がすべてだ。」


「強さは、生まれた瞬間に大半が決まる。」


「それを受け入れることも、強さの一つだ。」


 ハルは木剣の柄を強く握る。


「……俺はそう思わない。」


 黒崎の眉がわずかに動いた。


「努力で変えられることだってある。」


「能力がなくても、俺は強くなれると信じてる。」


 しばらく二人の間に沈黙が流れる。


 やがて黒崎は、小さく息を吐いた。


「信じるのは自由だ。」


「だが現実は、お前の信念を待ってはくれない。」


 それだけ言い残し、黒崎は踵を返した。


 夕日に照らされたその背中には、一切の迷いがなかった。


 ハルはその姿を見送りながら、静かに拳を握る。


 ――いつか証明してみせる。


 努力は、決して才能に劣るものではないと。


 その決意だけが、夕焼けに染まる演習場で、誰にも知られず燃え続けていた。



 その夜。


 星ヶ丘学園、学園長室。


 重厚な扉の向こうでは、学園長をはじめとする教師たちが長机を囲み、静かに会議を行っていた。


 机の中央には、一枚の資料が置かれている。


 そこには大きく記されていた。


 『全国能力選別試験 開催決定』


 学園長が資料を閉じる。


「今年も選別の時期が来たか。」


 一人の教師が静かに頷いた。


「今年は例年以上に基準が厳しくなります。不適格者は容赦なく切り捨てる方針です。」


「学園に不要な人材を置いておく理由はありませんから。」


 別の教師が冷たく言い放つ。


「もちろん――無能力者も対象です。」


 誰一人として異論を唱えなかった。


 能力こそがすべて。


 それが、この学園の絶対の価値観だった。


 学園長は資料を一枚めくる。


 そこには、選別対象者の一覧が並んでいた。


 その最上段に記された名前。


 ――天城ハル。


 赤い印が、その名前に静かに付けられる。


「この生徒には、もう期待する必要はない。」


 誰にも知られない場所で、一人の少年の運命は、静かに決められようとしていた。

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