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幼馴染を寝取られ、学園に殺された無能力の俺は最強になって帰ってくる  作者: ワールド


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第1話 世界唯一の無能力者

  この世界では、能力がすべてだった。


 十五歳になると、人は必ず一つの能力に覚醒する。


 炎を操る者。雷を纏う者。傷を癒やす者。未来を見通す者。


 その力は戦闘だけではない。進学も、就職も、収入も、地位も、人生のすべてが能力によって決まる。


 強い能力を持つ者は尊敬され、称賛される。


 弱い能力しか持たない者は見下され、それだけで将来を諦める者も少なくない。


 そして、日本最高峰の能力者育成機関――星ヶ丘学園。


 この学園では、能力こそが絶対だった。


 生徒は能力によって順位を付けられ、上位者には名誉と権力が与えられる。


 逆に、下位の生徒には居場所すらない。


 それが、この学園の日常だった。


 ――だが。


 そんな能力至上主義の世界に、たった一人だけ存在する。


 十五歳になっても、何一つ能力に覚醒しなかった少年が。


 その少年の名は――天城ハル。




 朝日が昇りきる前、まだ人気のない校庭を、一人の少年が走っていた。


 額から流れ落ちる汗を拭うこともなく、一定のリズムでグラウンドを駆け続ける。


 走り終えると、今度は木刀を握る。


 何百回、何千回と繰り返した素振り。


 腕が震え、息が乱れても、その手が止まることはなかった。


 少年の名は、天城ハル。


 星ヶ丘学園に通う一年生。


 そして、この世界で唯一の無能力者だった。


 十五歳になっても能力に覚醒しなかった前例はなく、ハルは学園中の注目を集めた。


 もちろん、良い意味ではない。


 「落ちこぼれ」「出来損ない」「学園の恥」。


 そんな言葉を浴びせられるのは日常茶飯事だった。


 能力ランキングは最下位。


 教師たちも彼に期待することはなく、実技の授業では「見学していろ」と言われることさえある。


 それでも、ハルは努力をやめなかった。


 能力がないのなら、体を鍛えればいい。


 剣を振ればいい。


 走ればいい。


 いつか努力は報われる。


 そんな希望だけを胸に、誰よりも早く登校し、誰よりも遅くまで鍛錬を続ける。


 その姿を見て笑う者はいても、認める者はいない。


 それでもハルは、人を恨まなかった。


 ただ静かに、自分にできることを積み重ね続けていた。


 始業を告げるチャイムが鳴る。


 ハルが教室へ入った瞬間、教室中の視線が一斉に集まった。


「おっ、無能力者のお出ましだ」


「今日も朝から筋トレ? 意味ないのによくやるよな」


「努力で能力が手に入るなら苦労しねぇよ」


 クラス中から笑い声が上がる。


 ハルは何も言い返さず、自分の席へ向かった。


 慣れている。


 この程度なら、もう痛くもなかった。


 席に腰を下ろそうとした、その瞬間だった。


 ガタンッ。


 誰かが椅子を引き抜き、ハルはそのまま床へ倒れ込む。


 再び教室が笑いに包まれた。


「ははは! また引っかかった!」


「反応鈍すぎだろ!」


 制服に付いた埃を払い、ハルは静かに椅子を元へ戻す。


 怒鳴ることも、殴り返すこともない。


 ただ、何事もなかったように席へ座った。


 そこへ教師が教室へ入ってくる。


 笑い声はすぐに止んだ。


 教師は倒れた椅子を一瞥しただけで、何も言わない。


「席につけ。ホームルームを始める」


 注意の一つもない。


 ハルにとって、それはいつものことだった。


 この学園では、能力のない者に人権はない。


 教師ですら、それを当然のように受け入れている。


 ホームルームが終わると、廊下が急に騒がしくなった。


「黒崎だ!」


「ランキング一位!」


「やっぱりオーラが違う……!」


 教室の前を、一人の少年が静かに歩いていく。


 漆黒の髪に、鋭い眼差し。


 その姿だけで周囲は道を開け、誰もが畏敬の視線を向ける。


 黒崎仁。


 星ヶ丘学園ランキング第一位。


 誰もが認める最強の能力者。


 教師ですら彼には敬語を交え、将来は能力界を背負う逸材と称えていた。


 黒崎は歩みを止め、ふとハルへ視線を向ける。


「……努力は立派だ。」


 一瞬、励ましの言葉かと思った。


 だが、次の一言がハルの胸に突き刺さる。


「だが、この世界は結果しか見ない。」


 それだけ言い残し、黒崎は何事もなかったように歩き去っていく。


 ハルはその背中を見つめ、小さく拳を握った。


 ――いつか、努力でも道は切り開ける。


 そう信じるしか、彼には前へ進む理由がなかった。



 昼休みを告げるチャイムが鳴る。


 教室の空気が一気に緩み、生徒たちは友人同士で昼食を広げ始めた。


 ハルも鞄から小さな弁当箱を取り出そうとした、その時だった。


「ハル、お待たせ!」


 鈴のように明るい声が教室に響く。


 振り返ると、一人の少女が笑顔で立っていた。


 肩まで伸びた栗色の髪を揺らし、優しく微笑むその少女。


 朝比奈美咲。


 ハルの幼馴染であり、この学園で唯一、昔と変わらず接してくれる存在だった。


「今日は屋上で食べようよ。」


「またか?」


「いいじゃん。今日は天気もいいし!」


 ハルが苦笑すると、美咲は嬉しそうに笑う。


 二人は屋上へ向かい、いつものベンチへ腰を下ろした。


 風が心地よく吹き抜ける。


 教室とは違い、ここだけは静かな時間が流れていた。


「はい、これ。」


 美咲は卵焼きを箸でつまみ、ハルの弁当へ乗せる。


「また作りすぎちゃった。」


「毎回そう言ってる気がする。」


「いいの。ハルが食べてくれるなら。」


 二人は顔を見合わせ、小さく笑った。


 くだらない話をしながら昼食を食べる。


 授業のこと。


 昔遊んだ公園のこと。


 近所にできた新しいパン屋のこと。


 どれも特別な話ではない。


 それでも、ハルにとっては何より大切な時間だった。


「朝も走ってたんでしょ?」


「ああ。」


「ほんと頑張り屋さんだよね。」


「能力がないからさ。努力くらいしか取り柄がないんだ。」


 そう笑うハルを見て、美咲は少しだけ表情を曇らせる。


「私はそう思わないよ。」


 真っ直ぐな瞳で、彼女は言った。


「ハルは能力がなくても、誰よりも優しいもん。」


 その言葉に、ハルは少し照れくさそうに頭をかく。


「買いかぶりすぎだよ。」


「そんなことない。」


 美咲は優しく微笑んだ。


「私は昔から、ハルのそういうところが好きだから。」


 風が二人の間を通り抜ける。


 その穏やかな時間は、ハルにとって学園で唯一、心から笑えるひとときだった。


 だからこそ彼は信じていた。


 どんなにつらいことがあっても、美咲だけは自分の味方でいてくれると。



 放課後のチャイムが校舎に響く。


 一日の授業を終えた生徒たちは、それぞれ部活動や寮へと足を向けていく。


 ハルも校門へ向かいながら、大きく息を吐いた。


「今日も無事に終わったな……」


 辛いことばかりの学園生活だった。


 それでも、一日の終わりには必ず笑顔になれる時間があった。


「ハル!」


 振り返ると、美咲が小走りで駆け寄ってくる。


 夕日に照らされたその笑顔は、子どもの頃から何一つ変わっていなかった。


「また明日ね。」


「ああ。また明日。」


 たったそれだけの約束。


 それだけで、ハルは明日も頑張ろうと思えた。


 能力がなくても。


 誰にも認められなくても。


 美咲だけは、自分を信じてくれている。


 そう信じていた。


 だから、この時のハルは知る由もなかった。


 その"当たり前"の日常が、もうすぐ音を立てて崩れ去ることを。


 そして――


 最も信じていた人に裏切られる未来が待っていることを。

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