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幼馴染を寝取られ、学園に殺された無能力の俺は最強になって帰ってくる  作者: ワールド


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第29話 怪物

 ドォォォォォン!!


 爆音とともに、地下迷宮全体が激しく揺れた。


 砕けた岩が宙を舞い、天井からは無数の瓦礫が降り注ぐ。


 舞い上がる砂煙の中で、二つの影が何度も交錯した。


 ギィィィィン!!


 金属音が鳴り響く。


 次の瞬間には衝撃波が通路を駆け抜け、岩壁を粉々に砕いた。


「くっ……!」


 ハルは腕で顔を庇いながら後退する。


 風圧だけで身体が押し返される。


 目を開けていることすら難しい。


「まだ威力が上がってる!」


 レンが叫ぶ。


「全員、これ以上近付くな!」


 カエデは歯を食いしばりながら前を睨む。


「ちくしょう……!」


「戦いてぇのに!」


「入れる隙がねぇ!」


 澪も震える声で呟く。


「もう……私たちの戦いじゃありません。」


 砂煙が一瞬だけ晴れる。


 そこには刀を振るう風間と、紙一重でかわす白夜の姿があった。


 しかし次の瞬間には、二人とも視界から消える。


 ドォォォォン!!


 離れた場所で再び衝撃。


 床が砕け、大きな亀裂が走る。


「速すぎる……。」


 ハルは目で追おうとする。


 だが見えない。


 どこへ移動したのかすら分からない。


 見えるのは、斬撃が岩壁を切り裂いた跡だけだった。


 ギィィィィン!!


 再び激突。


 風間の刀が白夜を襲う。


 白夜は半歩だけ身体を逸らし、そのまま懐へ潜り込む。


 ズバッ!


 風間の脇腹から鮮血が舞った。


 しかし風間は怯まない。


 むしろ口元を吊り上げる。


「いい。」


「それでこそだ。」


 刀を返し、一気に振り抜く。


 空気が裂ける。


 目に見えない斬撃が一直線に白夜へ迫った。


 白夜は跳ぶ。


 直撃は避けた。


 だが背後の岩壁が轟音とともに崩れ落ちる。


「はぁっ!」


 着地と同時に白夜が踏み込む。


 右手を振るう。


 ズバッ!


 今度は風間の肩に深い傷が刻まれた。


 鮮血が飛び散る。


 それでも風間は笑っている。


「最高だ!」


「ここまで斬り合える奴は久しぶりだ!」


 白夜も短く息を吐く。


「……お前も。」


「期待以上だ。」


 次の瞬間、二人は同時に地面を蹴る。


 轟音。


 衝撃。


 爆風。


 地下迷宮は悲鳴を上げるように軋み続ける。


 レンは険しい表情でその戦いを見つめていた。


「まずいな……。」


 ハルが振り向く。


「何がだ?」


 レンは静かに答えた。


「二人とも、もう探り合いは終わってる。」


「今は本気で相手を倒しにいってる。」


 その言葉が終わるのと同時に――。


 ゴォォォォォォ……。


 風間の周囲の空気が唸り始めた。


 一方で白夜も、静かに右手を構える。


 二人の殺気が、それまでとは比較にならないほど膨れ上がっていく。


 レンの表情が変わった。


「来るぞ……。」


 誰もが息を呑んだ。


 ゴォォォォォォ……。


 風間と白夜。


 二人を中心に空気が震え始める。


 戦場にいるだけで肌が粟立つほどの殺気。


 ハルは無意識に木刀を強く握り締めていた。


「……息が。」


 重い。


 胸が苦しい。


 まるで巨大な岩を背負わされているような圧迫感だった。


 カエデも拳を握ったまま動けない。


「なんだよ、この威圧感……。」


 レンだけは二人から目を離さなかった。


「始まる。」


 風間が刀をゆっくりと構える。


 対する白夜は静かに右手を前へ出した。


 二人とも一歩も動かない。


 先に動いた方が負ける。


 そんな緊張感が辺りを支配していた。


 数秒。


 いや、一瞬にも満たない時間。


 だがハルには永遠のように感じられた。


 ――次の瞬間。


 二人が同時に地面を蹴る。


 ドォン!!


 床が砕ける。


 風間の刀が白夜の首筋を狙う。


 白夜は身体を沈めて回避。


 そのまま懐へ潜り込む。


 ズバッ!


 風間の腹部に鋭い傷が刻まれる。


 しかし風間は止まらない。


 肘で白夜を弾き飛ばし、距離を作る。


 そのまま刀を横薙ぎに振るう。


 ゴォッ!!


 圧縮された空気が斬撃となり、白夜へ襲い掛かった。


 白夜は両足に力を込め、大きく後方へ跳ぶ。


 直後。


 背後の岩壁が真っ二つに裂けた。


 轟音と共に崩れ落ちる岩盤。


 だが白夜は崩れる岩を足場にして再び突っ込む。


「っ!」


 風間が刀を返す。


 ギィィィィン!!


 激しい衝撃。


 二人の身体が同時に弾かれる。


 着地。


 踏み込み。


 激突。


 その動きは何度繰り返されても衰える気配がなかった。


 ハルは思わず呟く。


「どっちも傷だらけなのに……。」


「なんで動けるんだ。」


 レンは短く答えた。


「気力だけで戦ってる。」


「いや……。」


「戦うこと自体を楽しんでる。」


 その時だった。


 白夜の身体がわずかに揺れる。


 鼻から一筋の血が流れ落ちた。


「!」


 ハルもそれに気付く。


「鼻血……。」


 さらに白夜は小さく眉をひそめ、こめかみを押さえるような仕草を見せた。


 ほんの一瞬。


 しかし、その僅かな違和感を風間は見逃さない。


 口元が静かに緩む。


「そういうことか。」


 白夜は何も答えない。


 再び構えを取る。


 だが鼻血は止まらない。


 レンの表情が険しくなる。


「やっぱりだ……。」


「能力の反動が限界に近い。」


 ハルが振り向く。


「反動?」


「あいつの能力は強すぎる。」


「だから脳に負荷が掛かる。」


「使えば使うほど、自分を壊していく能力なんだ。」


 ハルは白夜を見る。


 傷だけではない。


 白夜は自分自身を削りながら戦っている。


 それでも。


 一歩も退かない。


 風間もまた刀を握り直し、静かに笑った。


「面白ぇ。」


「だからこそ、お前は強ぇ。」


 白夜は鼻血を拭い、低く呟く。


「まだ終わらない。」


 その瞳に宿る闘志は、少しも揺らいではいなかった。


 ギィィィィン!!


 火花が散る。


 風間と白夜の姿が交差した瞬間、地下迷宮の床が砕け、衝撃波が四方へ駆け抜ける。


 二人は互いに数メートル後方へ着地した。


 どちらも肩で息をすることはない。


 だが、傷だけは確実に増えていた。


 風間の隊服は血で赤く染まり、白夜も全身に無数の裂傷を負っている。


 それでも二人は笑っていた。


「はっ。」


 風間が小さく笑う。


「まだ立ってるか。」


 白夜も口元をわずかに上げる。


「お前こそ。」


「期待以上だ。」


 再び踏み込もうとした、その時だった。


 白夜の身体が一瞬だけ揺らぐ。


 ほんの僅か。


 普通なら誰も気付かないほどの変化。


 しかし、風間だけはその違和感を見逃さなかった。


「……。」


 刀を構えたまま、白夜を見つめる。


 白夜は構わず前へ出る。


 右手を振るう。


 ズバッ!


 風間の左腕に新たな傷が刻まれる。


 だが風間は避けない。


 そのまま一歩踏み込む。


 刀の切っ先が白夜の喉元で止まった。


 ピタリ、と。


 あと数センチ。


 それだけで勝負は決まる距離。


 二人は動きを止めた。


 静寂が訪れる。


 ハルは思わず息を呑んだ。


「止まった……?」


 レンも目を細める。


「いや。」


「風間が止めた。」


 カエデは眉をひそめる。


「なんで斬らねぇんだ。」


 風間は白夜をじっと見つめる。


「お前。」


「無理してるな。」


 白夜は無表情のまま答える。


「何の話だ。」


「とぼけるな。」


 風間の視線は白夜の顔へ向く。


 鼻血は止まらない。


 額には脂汗。


 わずかに焦点の合わない瞳。


「その能力。」


「使うたびに身体を削ってる。」


 白夜は黙ったままだ。


 風間は刀を引かない。


「強ぇ能力だ。」


「だからこそ代償もデカい。」


「違うか。」


 数秒の沈黙。


 やがて白夜が口を開く。


「……関係ない。」


「勝てるなら。」


「それでいい。」


 その答えを聞いた風間は、小さく笑った。


「そうか。」


「なら続けろ。」


「俺は構わねぇ。」


 白夜は再び右手を構える。


 空気が張り詰める。


 だが、その直後だった。


 ドクン。


 白夜の身体が大きく揺れる。


 鼻血が地面へ滴り落ちる。


 視界が霞む。


 それでも前へ出ようとする白夜を見て、風間は静かに刀を下ろした。


「……そこまでだ。」


 白夜が睨む。


「まだ終わってない。」


 風間は首を横に振る。


「いや。」


「このまま続けたら、お前は能力に殺される。」


 その一言に、ハルたちも息を呑んだ。


 風間は勝負の流れではなく、白夜自身の限界を見抜いていた。


「まだ終わってない。」


 白夜は静かに右手を構える。


 鼻血が一滴、地面へ落ちた。


 それでも、その瞳に迷いはない。


「続ける。」


 風間は小さく息を吐いた。


「聞く気はねぇか。」


「ない。」


 短い返事だった。


 次の瞬間。


 白夜の姿が消える。


 ズバッ!


 風間の胸元に新たな傷が刻まれる。


 しかし風間は動じない。


 白夜の腕を紙一重でかわし、日本刀の峰でその身体を弾き飛ばした。


 白夜は宙で体勢を立て直し、着地する。


 だが足元がふらつく。


 レンが小さく呟いた。


「限界だ……。」


 ハルも白夜を見つめる。


 肩で息をしている。


 呼吸も乱れている。


 鼻血は止まるどころか量を増していた。


 それでも白夜は笑う。


「ようやく……。」


「楽しくなってきた。」


 その言葉を聞いた風間は苦笑する。


「戦闘狂か。」


「お互い様だ。」


 白夜は再び右手を前へ出す。


 空気が震える。


 能力をさらに高めようとしていた。


 その瞬間。


 ドクン。


 白夜の身体が大きく揺れた。


 視界がぼやける。


 足に力が入らない。


 それでも能力を止めようとはしない。


 風間は静かに刀を下ろした。


「やめろ。」


 白夜は睨み返す。


「命令するな。」


「命令じゃねぇ。」


 風間は真っ直ぐ白夜を見る。


「警告だ。」


 地下迷宮が静まり返る。


 ハルたちも言葉を失っていた。


 風間はゆっくりと口を開く。


「その能力。」


「これ以上使えば、お前の脳が先に壊れる。」


 白夜は無表情のまま答える。


「だからどうした。」


「勝てるなら、それでいい。」


 風間は鼻で笑う。


「勝てねぇよ。」


 白夜の眉が僅かに動く。


「今のお前じゃな。」


「無理して能力を使ったところで、お前は俺を倒す前に自分が潰れる。」


 その言葉に白夜は何も返さない。


 沈黙だけが流れる。


 やがて風間は刀を鞘へ納めた。


 カチリ、と乾いた音が響く。


「風間!」


 ハルが驚きの声を上げる。


 カエデも目を見開いた。


「何やってんだ!」


 勝負はまだ終わっていない。


 それなのに風間は背を向ける。


 白夜はなおも構えを解かなかった。


「逃げるのか。」


 風間は足を止めずに答える。


「違う。」


「今日はここまでだ。」


 そして一度だけ振り返る。


 その目は、敵ではなく一人の強者を見る目だった。


「次は万全の状態で来い。」


「壊れかけのお前を斬っても面白くねぇ。」


「その時は遠慮なく勝たせてもらう。」


 そう言い残し、風間はゆっくりと歩き始めた。


 白夜はその背中を黙って見つめ続けていた。


 地下迷宮は静まり返っていた。


 誰も口を開かない。


 風間が刀を納め、背を向けたことが信じられなかった。


「風間……。」


 ハルが思わず名前を呼ぶ。


 風間は振り返らない。


 そのまま数歩歩き、ふと足を止めた。


 一方、白夜はその場から動かない。


 右手を下ろしたまま、風間の背中を見つめている。


「まだ終わってない。」


 低い声が地下迷宮に響く。


 風間は肩越しに答えた。


「終わってる。」


「お前はもう限界だ。」


 白夜は何も言わない。


 鼻血は止まらず、地面へ赤い雫が落ちる。


 それでも視線だけは風間から逸らさなかった。


 風間は小さくため息をつく。


「意地だけで立ってる奴を斬っても面白くねぇ。」


「俺が斬りたいのは、お前の全力だ。」


 そう言うと、風間は白夜の腰へ視線を向けた。


 そこには試験用の袋がぶら下がっている。


 中には白夜が集めた魔装鉱石が入っていた。


 風間は白夜の前まで歩み寄る。


 白夜は動かない。


 敵意も、殺気も向けない。


 風間は袋を掴むと、そのまま腰から外した。


 ハルが目を見開く。


「えっ……。」


 カエデも驚く。


「おい!」


 レンだけは黙って見ていた。


 風間は袋を手に取ると、中を軽く見た。


「結構集めたな。」


 そして次の瞬間。


 ポン、と軽く放り投げる。


 袋は弧を描き、白夜の胸元へ飛んでいく。


 白夜は無意識にそれを受け止めた。


「……?」


 風間は静かに笑う。


「返しとく。」


「今日はお前の負けだ。」


「だが、これは俺の戦利品じゃねぇ。」


 白夜は袋を見つめる。


 風間は続けた。


「能力に食われたお前を倒しても、自慢にもならねぇ。」


「そんな勝ち方は趣味じゃない。」


 地下迷宮に沈黙が流れる。


 白夜はしばらく袋を握り締めたまま動かなかった。


 やがて小さく口を開く。


「……次は。」


「万全で来る。」


 風間は背を向けたまま右手を軽く上げる。


「そうしろ。」


「その時は遠慮なく叩き潰す。」


 そう言い残し、風間は歩き出す。


 その背中には、一切の迷いがなかった。


 ハルはただ、その姿を見つめる。


 勝ったからではない。


 強いからでもない。


 相手が壊れる勝負を望まない。


 それが風間嵐という男の強さなのだと、初めて理解した。


 白夜もまた、風間の背中を見送りながら静かに拳を握る。


 その瞳に宿る闘志は、少しも消えてはいなかった。


 風間の足音が、ゆっくりと遠ざかっていく。


 地下迷宮には誰も声を出せなかった。


 ハルはその背中を見つめたまま立ち尽くす。


 地下施設最強。


 その異名は決して誇張ではなかった。


 圧倒的な強さ。


 そして、最後まで余裕を失わない精神力。


 今の自分とは、あまりにも遠い存在だった。


「……すげぇ。」


 思わず漏れた一言だった。


 レンも小さく息を吐く。


「だから言っただろ。」


「あいつは地下施設最強だって。」


 カエデは腕を組みながら苦笑する。


「悔しいけど認めるしかねぇな。」


「私でも、まだ届かねぇ。」


 その時だった。


「風間。」


 白夜が静かに口を開く。


 風間は立ち止まるが、振り返らない。


「次は。」


「俺が勝つ。」


 短い宣言。


 それに対し、風間は鼻で笑う。


「だったら万全で来い。」


「その時は最後まで付き合ってやる。」


 それだけ言い残し、風間は再び歩き出した。


 やがて、その姿は通路の奥へ消えていく。


 静寂が戻る。


 白夜は手の中の魔装鉱石の袋を見つめる。


 そして静かに腰へ付け直した。


 鼻血を拭い、一度だけ目を閉じる。


(負けた。)


 剣では。


 覚悟でも。


 あの男の方が一枚上だった。


 だが、それで終わるつもりはない。


 白夜はゆっくりと顔を上げる。


 その瞳に宿る闘志は、戦闘が始まる前よりも強く燃えていた。


「次は。」


「必ず勝つ。」


 そう呟き、白夜も反対方向へ歩き出す。


 その場に残されたハルは、二人が去っていった通路を交互に見つめていた。


「……レン。」


「俺も、いつかあの人たちみたいになれるかな。」


 レンは笑わなかった。


 真剣な表情のまま答える。


「なれるかどうかじゃねぇ。」


「なるしかない。」


「俺たちは地下施設の人間だ。」


「ここで終わるために生き残ってきたんじゃねぇだろ。」


 その言葉に、ハルは静かに頷く。


「ああ。」


「もっと強くなる。」


「誰にも負けないくらい。」


 その決意を胸に、ハルは木刀を強く握り締めた。


 地下施設最強と代表最強。


 二人の怪物が残した戦いは、ハルたちの心に大きな爪痕を刻んだ。


 そしてそれは、新たな目標の始まりでもあった。



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