第25話 痛みを背負う少女
城崎との戦いを終えたハルは、静かな地下迷宮を一人歩いていた。
足元には砕け散ったガラスの破片。
先ほどまで命のやり取りをしていたとは思えないほど、辺りは静まり返っている。
ハルは近くの壁にもたれ掛かると、小さく息を吐いた。
「……思ったより、消耗したな。」
制服はあちこちが切り裂かれ、腕や肩には浅い切り傷がいくつも残っている。
傷自体は深くない。
だが、少しずつ体力を奪われていた。
ポケットから小さな包帯を取り出し、左腕へ巻いていく。
応急処置程度ではあるが、何もしないよりはましだ。
「こんなところで倒れるわけにはいかない。」
包帯を巻き終えると、ゆっくりと立ち上がる。
腰に付けたポーチへ手を伸ばした。
中には二つの魔装鉱石。
淡い青色の光を放っている。
「二個か……。」
城崎との戦いでようやく手に入れた二つ目。
しかし、それで安心できるほど甘い試験ではない。
この広大な地下迷宮には、まだ多くの参加者が残っている。
もっと集めている者もいるはずだ。
「足りないな……。」
ハルは小さく呟いた。
このままでは代表になれない。
だが、焦るつもりもなかった。
焦った人間ほど隙が生まれる。
それは城崎との戦いで改めて実感したことだった。
その時だった。
『試験開始より六時間が経過しました。』
突然、迷宮全体へ機械的な放送が響く。
ハルは足を止めた。
『現在、脱落者は三十一名。』
『試験は予定通り続行します。』
『繰り返します。現在、脱落者は三十一名。試験は予定通り続行します。』
放送はそれだけだった。
誰が残っているのか。
誰が脱落したのか。
魔装鉱石を何個持っているのか。
そんな情報は一切流れない。
「三十一人……。」
思っていた以上に多い。
試験開始からまだ六時間。
それだけで三十人以上が姿を消したことになる。
ハルは静かに目を閉じた。
(レンは……。)
最初に頭へ浮かんだのは親友の顔だった。
あいつなら大丈夫。
そう信じている。
次に思い浮かんだのは、カエデ、結、そして風間。
地下施設で共に過ごした仲間たち。
それぞれ違う場所で、この試験を戦っている。
(みんな、生き残っていてくれ。)
そう願いながらも、探しに行こうとは思わなかった。
今は試験中だ。
誰かを探し回ることは、自分だけでなく相手まで危険に晒すことになる。
それぞれが、それぞれの戦場を生き抜くしかない。
「俺も進もう。」
木刀を握り直し、ハルは再び歩き始める。
静かな地下迷宮の奥へ。
まだ見ぬ試練が待つ、その先へ向かって。
静まり返った地下迷宮を、ハルは一定の速度で歩いていた。
足音だけが通路へ静かに響く。
城崎との戦いからしばらく経ったが、周囲に人の気配はない。
迷宮は相変わらず不気味なほど静かだった。
その時だった。
――ガキィン!!
遠くから金属同士がぶつかるような音が響く。
ハルは足を止めた。
「……戦闘か。」
耳を澄ませる。
続けて、何かが砕ける音。
地面を揺らす衝撃。
能力同士が激突していることは間違いなかった。
(この距離なら……まだ少し離れてる。)
無理に近付く必要はない。
試験では戦いを避けることも立派な戦略だ。
ハルは再び歩き出そうとした。
その瞬間だった。
「っ……!」
微かに聞こえた。
女性の苦しそうな声。
叫びではない。
必死に痛みに耐えるような、小さな息遣いだった。
ハルは再び立ち止まる。
「……。」
戦闘音は止まらない。
何人いるのかも分からない。
能力も分からない。
城崎との戦いで傷を負った今、飛び込むのは危険だ。
(行くな。)
頭の中で冷静な自分が囁く。
(今ならまだ間に合う。)
(別の道へ行け。)
(代表になるんだろ。)
木刀を握る手に力が入る。
今ここで負傷すれば。
最悪、脱落する可能性だってある。
レンならどうするだろう。
きっと冷静に状況を分析し、危険なら避ける。
それが正しい判断だ。
試験では生き残ることが最優先なのだから。
しかし。
「ぐっ……!」
再び苦しそうな声が響いた。
その声を聞いた瞬間、ハルの脳裏に過去の記憶が蘇る。
地下施設へ送られたばかりの頃。
理不尽に殴られ、蹴られ、床へ倒れていた自分。
助けを求めても、誰一人振り向かなかった。
見て見ぬふりをされる苦しさ。
誰からも手を差し伸べてもらえない絶望。
あの時の冷たい空気を、今でも忘れられない。
ハルは静かに目を閉じた。
「……駄目だ。」
小さく呟く。
「放っておけるわけ、ないだろ。」
迷いは消えた。
木刀を握り直し、勢いよく床を蹴る。
ダッ!
一気に走り出す。
角を曲がり、さらに奥へ。
戦闘音は次第に大きくなっていく。
金属音。
爆発音。
そして誰かの荒い呼吸。
あと少し。
もうすぐだ。
最後の角を勢いよく曲がった、その時――。
ハルの視界に、一つの光景が飛び込んできた。
三人の能力者に囲まれながら、それでも倒れずに立ち続ける一人の少女。
白い長髪は血で汚れ、制服も無数の傷で裂けている。
それでも少女は震える足で前を向き、敵を見据えていた。
「……っ!」
ハルは思わず目を見開く。
少女もまた、突然現れたハルへ視線を向けた。
少女を囲んでいた三人の能力者が、一斉に笑みを浮かべた。
「もう終わりだ。」
「いい加減、鉱石を渡せ。」
「抵抗しても無駄だ。」
少女は息を切らしながら三人を睨み返す。
白い髪は血で赤く染まり、制服もあちこちが裂けていた。
肩からは赤い血が滴り落ちている。
それでも一歩も引かない。
「……断る。」
小さな声だった。
だが、その瞳だけは折れていなかった。
「まだ言うか。」
三人のうち、一番大柄な男が舌打ちする。
「じゃあ、その足をへし折ってから奪う。」
男は能力を発動させた。
両腕が岩のように硬質化していく。
「俺の能力は岩腕。」
「その細い身体で受けられるか?」
拳を振り上げ、一気に距離を詰める。
少女は避けない。
いや、避けられない。
ドゴォッ!!
重い拳が少女の腹へ突き刺さった。
「がっ……!」
少女の身体が大きく吹き飛ぶ。
壁へ激突し、そのまま膝をつく。
しかし――。
「ぐあああああっ!!」
殴った男自身が突然腹を押さえ、絶叫した。
「な、なんだ……!」
苦しそうに地面へ転がる。
腹を抱え、脂汗を流しながら悶え始めた。
「い、痛ぇ……!」
「なんで俺まで……!」
残る二人も目を見開く。
「お、おい!」
「何が起きた!」
少女は壁にもたれながら荒い息を吐く。
苦しそうなのは少女も同じだった。
腹を押さえ、立ち上がることすら辛そうだ。
男たちは混乱する。
「能力か?」
「いや、何をした!」
「分からねぇ!」
もう一人の男が苛立ち、短剣を抜いた。
「ふざけるな!」
「一気に終わらせる!」
一直線に駆け出す。
少女は迎え撃とうとするが、足が動かない。
「っ……。」
男の短剣が肩を斬り裂いた。
シュッ。
鮮血が舞う。
しかし次の瞬間。
「ぐっ……あああっ!」
短剣を振るった男の肩にも同じ場所から血が噴き出した。
「はぁ!?」
男は何が起きたのか理解できず、その場へ膝をつく。
「俺の肩が……!」
「なんで切れてる!」
少女も肩を押さえ、苦痛に顔を歪める。
能力が傷を防いでいるわけではない。
傷は確かに負う。
その痛みも、その傷も。
すべて自分が受けている。
ただ、その苦痛が攻撃した相手へも返っているだけだった。
「くそっ!」
三人目の男が一歩下がる。
「なんだ、この能力!」
「攻撃したら俺たちまで傷付くじゃねぇか!」
恐怖が三人の表情へ浮かぶ。
誰も近付けない。
だが、少女も限界だった。
肩で息をし、身体は小刻みに震えている。
立っていることさえ、奇跡のようだった。
(もう……。)
(身体が動かない。)
視界がぼやける。
膝が崩れそうになる。
それでも少女は倒れなかった。
ここで倒れれば終わる。
そう分かっていたからだ。
男たちも攻め切れない。
攻撃すれば、自分たちも傷を負う。
かといって、このままでは埒が明かない。
「囲め!」
「一斉にやるぞ!」
三人が再び距離を詰め始めた。
少女は静かに目を閉じる。
(……もう、無理。)
そう思った、その時だった。
「そこまでだ。」
静かな声が地下迷宮に響く。
三人が一斉に振り向く。
通路の入口。
木刀を握った一人の少年が、ゆっくりと歩み寄ってきた。
天城ハルだった。
「そこまでだ。」
静かな声が地下迷宮に響く。
三人の能力者が一斉に振り返る。
通路の入口に、一人の少年が立っていた。
木刀を肩へ担ぎ、真っ直ぐこちらを見据えている。
「……誰だ、お前。」
男の一人が睨み付ける。
ハルはゆっくりと少女の前まで歩いていく。
少女は突然現れた少年を信じられないという表情で見つめていた。
「どうして……。」
かすれた声が漏れる。
ハルは少女を一瞥すると、小さく頷いた。
「大丈夫。」
「ここからは俺が相手をする。」
その一言に、少女は目を見開いた。
(助ける……?)
(私を……?)
地下施設では聞いたことのない言葉だった。
男たちは呆れたように笑い出す。
「はっ!」
「なんだと思えば。」
「無能力者じゃねぇか。」
「そういや見たことあるぞ。」
「入所したばかりで噂になってた奴だ。」
「能力値ゼロ。」
「世界で唯一の無能力者。」
三人は余裕の笑みを浮かべる。
城崎のようにハルを知っているわけではない。
ただ、「無能力者」という情報だけで勝ちを確信していた。
「一人増えたところで変わらねぇよ。」
「まとめて潰してやる。」
岩腕の男が再び前へ出る。
巨大な拳を鳴らしながら笑った。
「お前からだ。」
地面を蹴る。
一直線にハルへ突っ込む。
速い。
だが、単調だった。
(右ストレート。)
(踏み込みが大きい。)
(避けられる。)
ハルは半歩だけ身体をずらす。
拳が鼻先を掠めた。
「なっ!」
男が驚く。
その隙を逃さない。
ゴッ!
木刀が男の手首を打ち据えた。
「ぐあっ!」
岩のように硬質化した腕ではなく、その付け根。
硬化していない関節だけを正確に狙う。
男の右腕から力が抜ける。
続けて。
ドンッ!
腹部へ一撃。
男は息を詰まらせ、その場へ膝をついた。
「こ、この野郎!」
残る二人が同時に動く。
一人は短剣。
もう一人は炎を纏った拳。
左右から挟み撃ち。
普通なら逃げ場はない。
しかしハルは慌てない。
視線だけを動かす。
通路。
壁。
瓦礫。
距離。
一瞬で状況を整理する。
(右が速い。)
(左は踏み込みが浅い。)
(先に右。)
ハルは前へ踏み込んだ。
短剣の懐へ飛び込む。
男は慌てて刃の軌道を変える。
だが遅い。
ガッ!
木刀が男の手首を打つ。
短剣が床へ落ちた。
そのまま肩へ体当たり。
男は壁へ叩き付けられる。
「ぐっ!」
直後。
炎を纏った拳が迫る。
ハルは木刀を横へ構えた。
ガンッ!
重い衝撃。
腕が痺れる。
(重い……。)
真正面じゃ押し負ける。
なら。
ハルは力を受け流すように身体を回転させた。
男の拳が大きく空を切る。
勢い余って体勢が崩れる。
「しまっ!」
その一瞬。
ハルの木刀が男の膝裏を叩いた。
ゴッ!
男は前のめりに倒れる。
さらに首筋へ木刀を突き付けた。
「まだやるか。」
低い声だった。
三人は動きを止める。
たった数十秒。
能力を使わない少年が、自分たち三人を圧倒していた。
「な、なんなんだ……。」
「本当に無能力者なのか……。」
三人の顔から余裕が消えていく。
ハルは木刀を構えたまま、一歩前へ出た。
「今なら見逃す。」
「これ以上戦うなら、本気で止める。」
静かな声。
だが、その言葉には揺るぎない覚悟が宿っていた。
三人の能力者は互いに顔を見合わせた。
先ほどまでの余裕はもうない。
岩腕の男は痛む腕を押さえながら舌打ちする。
「くそっ……。」
「無能力者のくせに。」
短剣を落とした男も立ち上がるが、その目には明らかな警戒が浮かんでいた。
「能力はない……。」
「でも剣術が異常だ。」
炎を纏った拳の男も拳を構えたまま動かない。
三対一。
本来なら圧倒的に有利なはずだった。
それなのに。
誰も踏み込めなかった。
その様子を見たハルは、木刀を構えたまま静かに口を開く。
「まだやるのか。」
短い一言。
それだけで三人の足が止まる。
岩腕の男が歯を食いしばった。
「……ちっ。」
「割に合わねぇ。」
もともとの狙いは魔装鉱石だ。
ここでさらに傷を負えば、自分たちが他の参加者の獲物になる。
「行くぞ。」
三人はゆっくりと後退を始めた。
炎を操る男が最後にハルを睨みつける。
「覚えてろ。」
「次は必ず鉱石ごと奪ってやる。」
「その時は相手になる。」
ハルは表情一つ変えずに答えた。
三人はそのまま迷宮の奥へ消えていく。
足音が完全に聞こえなくなったところで、ハルはようやく木刀を下ろした。
「ふぅ……。」
小さく息を吐く。
城崎との戦いの直後だ。
体力には決して余裕がない。
それでも助けられてよかったと、心の底から思っていた。
「大丈夫か。」
ハルは少女へ振り返る。
少女は壁にもたれ掛かったまま、小さく肩で息をしていた。
「……どうして。」
かすれた声だった。
「どうして助けたの。」
その問いには困惑しかなかった。
地下施設では、人を助ける人間などいない。
自分の身を守ることだけで精一杯なのだ。
ハルは少しだけ笑う。
「困っている人がいた。」
「それだけだ。」
「……。」
少女は黙ったままハルを見つめる。
その答えが理解できない。
いや、理解したくてもできなかった。
「そんな理由で……。」
「自分まで危険になるのに。」
「危険だったな。」
ハルは苦笑する。
「でも。」
「見捨てたら後悔すると思った。」
少女はゆっくりとうつむいた。
胸の奥が少しだけ痛む。
自分はずっと、人に近付かないよう生きてきた。
近付けば傷付ける。
だから一人でいるしかない。
そう思っていた。
なのに。
目の前の少年は、その全てを知らずに手を差し伸べてくれた。
「私は……。」
少女は震える声で呟く。
「白鳥……澪。」
小さな自己紹介だった。
ハルは穏やかに頷く。
「俺は天城ハル。」
「よろしく。」
その何気ない一言に、澪は目を見開く。
地下施設へ来てから初めてだった。
番号ではなく、名前で名乗ってくれた人は。
思わず涙が滲みそうになる。
しかし、次の瞬間。
澪の表情が青ざめた。
「……だめ。」
ハルが一歩近付いたからだ。
澪は慌てて後ずさる。
「来ないで。」
「それ以上……近付かないで。」
ハルは足を止め、不思議そうに首をかしげた。
「どうした?」
「お願いだから……。」
澪は必死に首を横へ振る。
「私に……触らないで。」
その声には、先ほど敵と戦っていた時以上の恐怖が滲んでいた。
「私に……触らないで。」
澪の声は震えていた。
敵と向かい合っていた時とは違う。
心の底から怯えている声だった。
ハルは足を止める。
「傷がひどい。」
「せめて応急処置だけでも――」
「だめ!」
澪は思わず叫んだ。
その勢いで肩の傷が開き、小さく顔をしかめる。
「お願い……。」
「来ないで。」
「私は……人を傷付けるから。」
ハルは眉をひそめた。
「人を傷付ける?」
「能力のことか。」
澪は何も答えない。
ただ俯いたまま、小さく肩を震わせている。
「近付いたら……後悔する。」
「だから。」
「放っておいて。」
その言葉を聞いても、ハルは引かなかった。
「放っておけない。」
一歩。
ゆっくりと距離を詰める。
澪は青ざめた。
「来ちゃだめ!」
逃げようとする。
しかし限界だった。
ふらりと身体が傾く。
「っ……。」
膝から崩れ落ちそうになる。
ハルは反射的に前へ飛び出した。
「危ない!」
その身体を支える。
澪の細い腕を掴んだ、その瞬間だった。
澪の瞳が大きく見開かれる。
(しまった……!)
戦闘中。
三人を相手に能力を発動した時だった。
能力の印を付けたつもりだった。
しかし混戦の中で、最後に飛び込んできたハルにも、気付かぬうちに印が刻まれてしまっていた。
解除する暇などなかった。
そして今。
直接触れたことで、その印が反応した。
「やめ――」
澪が言い切るより早かった。
ズキッ――。
鋭い痛みが、ハルの全身を駆け巡る。
「ぐっ……!」
突然、身体中を刃で切り裂かれたような激痛。
肩。
腕。
腹。
足。
先ほどまで澪が受けていた傷の痛みが、一気に流れ込んでくる。
「がっ……!」
ハルは思わず片膝をついた。
息が詰まる。
呼吸すらまともにできない。
額から大量の汗が流れ落ちた。
「はぁ……っ。」
「はぁ……っ。」
澪は慌ててハルから離れる。
「ごめんなさい!」
「ごめんなさい……!」
その声には涙が混じっていた。
「私が……。」
「印が……。」
「気付かなくて……。」
ハルは荒い息を整えながら、ゆっくりと顔を上げる。
「これが……。」
「君の能力か……。」
澪は唇を噛み締める。
「だから言ったのに。」
「私は……。」
「人を傷付ける。」
「近付いた人まで、不幸にしちゃう。」
その言葉には諦めが滲んでいた。
これまで何度も同じことを繰り返してきたのだろう。
誰かを守ろうとして。
誰かに近付こうとして。
結果的に傷付けてしまう。
だから一人でいるしかなかった。
ハルはまだ身体中の痛みに耐えながらも、小さく笑った。
「確かに……痛いな。」
澪は泣きそうな顔で頷く。
「だから……。」
「私は一人でいい。」
「誰とも関わっちゃいけないの。」
ハルはゆっくりと立ち上がった。
痛みは残っている。
それでも、その瞳は少しも澪を恐れていなかった。
「違う。」
静かな声だった。
「傷付けたくて傷付けたわけじゃない。」
「それに。」
「君はさっき、一人で三人を相手に戦ってた。」
「誰かを傷付けるためじゃなく、生き残るために。」
澪は言葉を失う。
「だから。」
ハルは澪へ手を差し出した。
「今度は印が付いてないだろ?」
「立てるか。」
澪はその手を見つめたまま動けなかった。
地下施設へ来てから初めてだった。
自分の能力を知ってもなお、手を差し伸べてくれる人がいたのは。




