第23話 迷宮の試練
巨大な鋼鉄製のゲートをくぐった瞬間、背後で重々しい音が響いた。
ゴゴゴゴゴ……。
振り返ると、開かれていたゲートがゆっくりと閉じていく。
その音は、この試験がもう後戻りできないことを告げているようだった。
「……。」
ハルは静かに前を向く。
目の前には、薄暗い地下通路がどこまでも続いていた。
壁一面を走る錆びた配管。
何年も放置されていたような鉄製の扉。
天井の蛍光灯はところどころ切れ、点滅を繰り返している。
カチッ……カチッ……
規則的な明滅が、不気味さを際立たせていた。
足元には細かな瓦礫が散乱し、一歩踏み出すたびに小さく音を立てる。
普段、自分たちが生活している地下施設とはまるで別世界だった。
「これが……地下施設の深部。」
思わず小さく呟く。
地図で見た時も広いとは思った。
だが、実際に足を踏み入れると、その広さは想像をはるかに超えていた。
少し歩いただけで、通路は三方向へ枝分かれする。
右へ続く細い通路。
真っ直ぐ伸びる長い廊下。
左には崩れかけた実験区画らしき部屋。
「迷宮だな……。」
どこへ進めばいいのか分からない。
適当に歩けば迷う。
そんな造りだった。
遠くから金属がぶつかる音が響く。
ガキィンッ!
誰かがもう戦っている。
その直後、能力らしき爆発音が地下全体へ反響した。
ドォンッ!!
天井から砂埃が舞い落ちる。
試験開始から、まだ数分。
すでに戦いは始まっていた。
しかし、ハルは走らない。
ゆっくりと目を閉じ、一度だけ深呼吸をする。
(焦るな。)
(こういう時ほど落ち着け。)
頭の中に、レンの声が蘇る。
『最初に走る奴は、情報を捨ててる。』
『見えてない敵ほど怖いものはない。』
ハルは自然と頷いた。
「そうだったな。」
試験は三日間ある。
今、無理に動く必要はない。
焦って戦闘に巻き込まれれば、それだけ体力も能力も消耗する。
まず必要なのは情報だった。
ハルはしゃがみ込み、床へ視線を落とす。
「……。」
砂埃の上には、新しい足跡がいくつも残っていた。
大きさの違う靴跡。
走った跡。
立ち止まった跡。
「三人……いや、四人か。」
よく見ると、一方向へ向かう足跡だけではない。
途中で引き返した跡もある。
さらに少し先の壁には、大きく抉れた傷が残っていた。
能力による攻撃の跡だろう。
床には砕けた石片が散らばっている。
「もう接触してる。」
戦ったのか。
逃げたのか。
そこまでは分からない。
だが、一つだけ確かなことがあった。
「この先は危ない。」
ハルは壁の傷をもう一度見つめる。
戦闘が起きたばかりなら、まだ近くに誰かいる可能性が高い。
今は無理に近付く理由はない。
ハルは別の通路へ視線を向けた。
「まずは魔装鉱石を探そう。」
目的は勝ち残ること。
無意味な戦いではない。
木刀に軽く手を添えながら、静かに歩き始める。
一歩。
また一歩。
角へ近付くたびに足を止め、耳を澄ませる。
人の気配はない。
さらに慎重に進む。
しばらく歩いた、その時だった。
通路の奥。
薄暗い部屋の中で、何かが黒く鈍い光を放っている。
「……あれは。」
拳ほどの大きさの漆黒の鉱石。
教官が見せていたものと同じだった。
ハルは警戒を解かないまま、ゆっくりとその部屋へ足を踏み入れた。
部屋へ一歩足を踏み入れた瞬間、ハルは立ち止まった。
「……。」
目の前には、拳ほどの大きさをした漆黒の鉱石。
教官が説明の際に見せていた魔装鉱石だった。
鈍い赤色の光が内部でゆっくりと脈打っている。
(見つけた。)
(これが魔装鉱石……。)
試験開始からまだ十分も経っていない。
運が良かった。
そう思った――その時だった。
(……いや。)
ハルは一歩引いた。
「簡単すぎる。」
部屋の入口から見える場所に、ぽつんと置かれている。
まるで「取ってくれ」と言わんばかりだ。
そんな都合のいい話があるだろうか。
ハルは部屋全体を見渡した。
古びた棚。
割れたガラス。
崩れた机。
床には薄く砂埃が積もっている。
魔装鉱石の周囲だけ、不自然に砂埃が少なかった。
(誰かが触った?)
いや、違う。
近付いた形跡がない。
ハルはゆっくりとしゃがみ込む。
床を指でなぞる。
「……。」
細い一本の線。
ほとんど見えないほど透明な糸が、床すれすれに張られていた。
「ワイヤー……。」
あと一歩踏み込んでいたら確実に引っ掛かっていた。
ハルは木刀を静かに抜く。
「試してみるか。」
木刀の先でワイヤーを軽く押した。
次の瞬間――
ガシャンッ!!
天井から何本もの鉄骨が勢いよく落下する。
轟音が部屋中へ響き渡った。
もしあのまま踏み込んでいたら、直撃は避けられなかっただろう。
「やっぱり……。」
ハルは静かに息を吐く。
さらに周囲を見渡す。
他にも罠があるかもしれない。
慎重に床を確認しながら部屋の中を歩く。
壁際。
棚の裏。
天井。
異常はない。
ようやく魔装鉱石の前まで辿り着く。
ハルはすぐには手を伸ばさなかった。
「まだ何かあるかもしれない。」
今度は鉱石の下を覗き込む。
台座。
細い金属板。
仕掛けは見当たらない。
ゆっくりと魔装鉱石を持ち上げる。
数秒。
何も起きない。
「……大丈夫か。」
ようやく緊張が少しだけ解けた。
手の中の魔装鉱石はひんやりと冷たい。
見た目よりもずっしりとした重さがあった。
「一つ目。」
ハルは小さく呟き、腰のポーチへしまう。
その時。
遠くの通路から、誰かが走る音が聞こえた。
タッ、タッ、タッ――。
それも一人ではない。
複数人だ。
さっきの鉄骨が落ちた音を聞きつけたのだろう。
「まずい。」
ハルはすぐに部屋を出る。
鉱石を手に入れた今、ここに留まる理由はない。
足音は少しずつ近付いてくる。
戦うか。
逃げるか。
ハルは迷わず近くの脇道へ飛び込んだ。
その直後、数人の参加者が部屋へ駆け込んでいく。
「音はここだ!」
「誰かいるぞ!」
「探せ!」
怒号が飛び交う。
しかし、その頃にはハルの姿はもうなかった。
暗い通路を静かに進みながら、ハルは胸の中で改めて実感する。
(魔装鉱石を見つけるだけじゃ終わらない。)
(持っていることが知られた瞬間、狙われる。)
この試験は、宝探しではない。
最後まで鉱石を守り抜ける者だけが、生き残ることができる。
ハルは気を引き締め、さらに地下迷宮の奥へと足を進めた。
一方、その頃――。
ハルたちとは別の通路。
地下迷宮の一角で、一人の少女が鼻歌を歌いながら歩いていた。
「ふふ~ん。」
霧島結だった。
試験開始からまだ二十分も経っていない。
普通なら魔装鉱石を探して走り回る時間。
しかし結は違った。
「焦る人ほど負けるんだよね。」
そう呟くと、しゃがみ込み、細いワイヤーを取り出す。
能力を発動。
指先から伸びた糸がワイヤーと絡み合い、一本の見えない罠へと変わる。
それを通路の両端へ固定する。
「よし。」
さらに数歩進み、今度は天井へ糸を張る。
一本。
二本。
三本。
蜘蛛が巣を作るような手際だった。
結は満足そうに頷く。
「これで完成。」
だが、その罠は相手を殺すためのものではない。
転ばせる程度。
動きを止める程度。
「今は鉱石より情報。」
「誰がどこを通るか、それが知りたい。」
結は近くの崩れた部屋へ入り、物陰へ身を隠した。
数分後。
足音。
タッ……タッ……。
「来た。」
一人の参加者が周囲を警戒しながら走ってくる。
そして――。
プツン。
「うわっ!」
足元のワイヤーに引っ掛かり、盛大に転倒した。
「いってぇ!」
参加者は慌てて立ち上がる。
「くそっ!」
辺りを見回すが、誰もいない。
「誰だ!」
返事はない。
結は物陰から静かに様子を窺っていた。
(能力は使ってない。)
(近接タイプかな。)
参加者は舌打ちすると、そのまま別の通路へ走り去っていく。
結は追わない。
「戦っても得しないし。」
彼女は床へ残った靴跡を見る。
足の大きさ。
歩幅。
走る速度。
全て頭の中へ記憶していく。
「男。」
「二十代くらい。」
「焦ってる。」
「たぶん鉱石はまだ持ってない。」
結は一人、小さく笑った。
「分かりやすいなぁ。」
すると今度は、別方向から爆発音が響く。
ドォォン!!
天井から砂埃が降ってくる。
「あっちは派手にやってるね。」
戦闘が始まっている。
それでも結は動かない。
むしろ楽しそうだった。
「今暴れてる人は、あとで疲れてる。」
「その時に動けばいい。」
それが結の戦い方だった。
真正面からぶつからない。
相手を観察する。
情報を集める。
有利な状況を作ってから仕留める。
「焦らない、焦らない。」
そう呟くと、結は収納していたワイヤーを取り出し、再び通路へ歩き出す。
次の獲物がどこを通るのか。
それを想像しながら、新たな罠を張り巡らせていく。
まるで迷宮そのものを、自分の縄張りへ変えていくかのようだった。
一方、その頃――。
「どけぇぇぇっ!!」
地下迷宮に少女の怒号が響き渡る。
次の瞬間、轟音と共に一人の能力者が壁へ叩きつけられた。
ドォンッ!!
「ぐはっ……!」
石壁には大きなひびが走り、男はそのまま気を失う。
少し離れた場所では、もう一人の能力者が震えながら後ずさっていた。
「う、嘘だろ……。」
「一発……?」
目の前に立つ少女――黒鋼カエデは拳を握り直し、首を鳴らした。
「まだやるか?」
男は慌てて首を横に振る。
「ま、待ってくれ!」
「俺たちは戦うつもりじゃ……!」
「さっきまで二人で襲ってきたじゃねぇか。」
カエデは呆れたように笑う。
「都合いいこと言ってんじゃねぇ。」
男は歯を食いしばり、能力を発動する。
地面から石の槍が何本も突き出した。
「くらえ!」
しかし。
カエデは避けようともしない。
真正面から突っ込む。
石槍が腕や肩をかすめる。
それでも止まらない。
「なっ……!」
「そんなの効くかぁ!」
能力が発動する。
全身の筋肉が一瞬で膨れ上がり、地面が大きくひび割れた。
踏み込みだけで床が砕ける。
そして。
「おらぁっ!!」
拳が男の腹へ突き刺さる。
鈍い音と共に男の身体が宙を舞い、そのまま壁へ激突した。
ドゴォンッ!!
「がっ……。」
そのまま意識を失う。
静寂。
立っているのはカエデ一人だけだった。
「終わりか。」
肩を回しながら大きく息を吐く。
「思ったより弱ぇな。」
床を見ると、先ほどまで男たちが持っていた魔装鉱石が二つ転がっていた。
「おっ。」
「これが鉱石か。」
カエデはしゃがみ込み、二つとも拾い上げる。
「ラッキー。」
ポケットへしまうと、周囲を見渡した。
「もっと強い奴いねぇかな。」
その時。
少し離れた通路から悲鳴が聞こえる。
「助けてくれ!」
「嫌だ!」
カエデは一瞬だけ足を止める。
「……。」
数秒考えたあと、鼻で笑った。
「知らねぇ。」
「自分の身くらい自分で守れ。」
そう言い残し、反対方向へ歩き出す。
彼女にとって代表選抜は戦場だった。
情けを掛ける余裕も義理もない。
ただ、自分の拳で勝ち抜く。
それだけだった。
歩きながら拳を握る。
「ハル。」
「レン。」
「結。」
自然と他の者の顔が浮かぶ。
「最後まで残ってろよ。」
「中途半端な奴と戦っても面白くねぇ。」
ニヤリと笑う。
その笑みは獲物を求める猛獣そのものだった。
そして再び地下迷宮の奥へと歩き出す。
まだ、この試験は始まったばかりだった。
一方、その頃――。
地下迷宮の北区画。
レンは一人、静かに歩いていた。
周囲に人影はない。
聞こえるのは、どこからか響く戦闘音だけ。
ドォンッ――。
ガキィンッ――。
「派手にやってるな。」
レンは苦笑しながら足を止めた。
「始まってまだ三十分も経ってないのに。」
そう呟くと、右手を前へかざす。
「収納。」
淡い光とともに、小さな革製の地図が現れた。
続いて方位磁石。
白いチョーク。
そして、小さな鏡。
どれも普段から収納している物ばかりだった。
「こういう時のために準備してきたんだ。」
地図を確認し、現在地へ印を付ける。
さらに壁へ小さくチョークで矢印を書く。
「これで帰り道は迷わない。」
地下迷宮は入り組んでいる。
一度迷えば、それだけで時間を失う。
だからレンは走らない。
一歩ずつ、確実に進む。
しばらく歩くと、しゃがみ込んで床を見つめた。
「……。」
新しい靴跡。
しかも複数。
「三人。」
「いや、一人は戻ってる。」
床には靴底を引きずった跡。
壁には能力によって削られたような傷。
「ここで戦闘。」
レンは静かに分析する。
「勝った奴が先へ進んだ。」
「負けた奴は逃げたか。」
頭の中で状況を組み立てる。
無理に追う気はない。
今必要なのは戦闘ではなく情報だった。
角へ近付く。
レンは収納から小さな鏡を取り出した。
鏡だけを角の先へ差し出す。
「……誰もいない。」
さらに収納から小石を一つ取り出し、通路の奥へ転がした。
カラン……。
小さな音が迷宮へ響く。
反応なし。
「よし。」
慎重に角を曲がる。
すると、その先には小部屋があった。
部屋の中央。
黒く鈍い光。
「見つけた。」
魔装鉱石だった。
だがレンはすぐには近寄らない。
「こんな分かりやすい場所に置いてあるわけないよな。」
収納から一本の金属棒を取り出す。
それを鉱石へ向かってゆっくり伸ばした。
カチッ。
小さな音。
次の瞬間。
ガシャン!!
天井から鉄の槍が何本も突き刺さる。
「やっぱり。」
レンは驚く様子もない。
「罠くらい仕掛けるよな。」
今度は床を調べる。
細いワイヤー。
隠し穴。
全て解除していく。
「雑だな。」
「これじゃ引っ掛かるのは焦ってる奴だけ。」
罠を解除すると、ようやく魔装鉱石を拾い上げた。
ひんやりとした感触。
レンはそれを収納能力で消す。
鉱石は光に包まれ、そのまま収納空間へ収まった。
「これで一個。」
誰にも見られず。
誰とも戦わず。
魔装鉱石だけを手に入れる。
レンは満足そうに笑った。
「収納能力は弱いって言う奴が多いけど。」
「違う。」
「収納は物をしまう能力じゃない。」
「準備を完成させる能力だ。」
必要な物を、必要な瞬間に取り出す。
だからこそ、無駄な荷物もない。
だからこそ、想定外にも対応できる。
「戦いは始まる前に八割決まる。」
レンは収納から再び地図を取り出し、新たに見つけた部屋へ印を付ける。
そして静かに歩き出した。
「さて。」
「次はどこを探そうか。」
焦ることなく。
戦うことなく。
頭を使いながら、レンは地下迷宮の奥へと姿を消していった。
地下迷宮を進むハルは、不意に足を止めた。
「……誰かいる。」
微かな足音。
それも隠す気のない歩き方だった。
コツ……コツ……。
静かな通路に靴音だけが響く。
やがて、暗闇の奥から一人の青年が姿を現した。
痩せた体格。
乱れた黒髪。
そして、人を見下すような笑み。
「へぇ。」
「こんなところで会うとはな。」
青年はゆっくりと近付いてくる。
ハルは自然と木刀へ手を添えた。
「……。」
「そんな怖い顔するなよ。」
「俺のこと覚えてる?」
ハルはすぐに思い出した。
試験開始前、弱い参加者を執拗にいたぶっていた男。
「城崎。」
「正解。」
城崎は嬉しそうに笑う。
「名前覚えてくれてたんだ。」
「光栄だな。」
ハルは警戒を解かない。
「何の用だ。」
「別に。」
「ただ歩いてたら、お前を見つけただけ。」
そう言いながら、城崎の視線はハルの腰へ向く。
「でもさ。」
「もう一つ見つけちゃった。」
ニヤリと口角を上げる。
「魔装鉱石。」
ハルは無意識に腰のポーチへ手を添えた。
その反応を見て、城崎は笑みを深くする。
「図星か。」
「やっぱり持ってる。」
「返すつもりはない。」
ハルは短く答えた。
「そう言うと思った。」
城崎は肩をすくめる。
「でもさ。」
「お前、本当に馬鹿だよな。」
「?」
「試験前もそうだった。」
「あんな弱い奴を助けようとして。」
「さっきも誰か助けてたろ?」
ハルの目がわずかに細くなる。
「見てたのか。」
「もちろん。」
「面白そうだったから。」
城崎は壁へ寄り掛かる。
「理解できないんだよ。」
「なんで他人なんか助ける?」
「試験だぞ?」
「ライバルだぞ?」
「放っとけば一人減る。」
「その方が得じゃねぇか。」
ハルは静かに答える。
「困ってる人を見捨てる理由にはならない。」
「ははっ!」
城崎は腹を抱えて笑い始めた。
「やっぱりお前、おめでたいな!」
「地下施設に来てもその考えか!」
「だから弱いんだよ。」
笑い終えると、城崎の表情が一変する。
冷たい目だった。
「俺はな。」
「弱い奴が大嫌いなんだ。」
「昔は俺が弱かった。」
「毎日殴られて。」
「毎日笑われて。」
「誰も助けてくれなかった。」
一歩。
また一歩と距離を詰める。
「だから今度は俺が笑う番。」
「弱い奴は踏みつけられる。」
「それが当たり前だ。」
ハルは木刀をゆっくりと抜いた。
「その考えには賛成できない。」
「賛成なんて求めてねぇよ。」
城崎が右手を前へ突き出す。
「欲しいのは鉱石だけだ。」
「それと。」
「お前の悔しそうな顔。」
能力が発動する。
空気中に無数の小さな光が生まれる。
キィン……。
ガラスが擦れるような音。
透明な破片が次々と宙へ浮かび上がる。
鋭く尖った無数のガラス片。
照明を反射し、不気味に輝く。
「これが俺の能力。」
「ガラス操作。」
ガラス片はゆっくりとハルを取り囲む。
逃げ道を塞ぐように。
獲物を追い詰めるように。
城崎は笑った。
「安心しろ。」
「殺しはしない。」
「その代わり……。」
「二度と代表なんて目指せない体にしてやる。」
ハルは木刀を正眼に構える。
呼吸を整える。
目の前の敵だけを見据える。
「来い。」
その一言で十分だった。
城崎の笑みがさらに深くなる。
「望みどおり。」
次の瞬間。
無数のガラス片が、一斉にハルへ襲い掛かった。




