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幼馴染を寝取られ、学園に殺された無能力の俺は最強になって帰ってくる  作者: ワールド


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第17話 相棒

夜。


 初任務を終えたハルとレンは、食堂で夕食を済ませ、それぞれシャワーを浴びて部屋へ戻った。


 消灯時間。


 天井の照明が落ち、部屋は非常灯だけが淡く照らしている。


 二段ベッド。


 下段にはハル。


 上段にはレン。


 今日一日の疲れが全身に残っている。


 誰も口を開かない。


 静寂だけが部屋を包んでいた。


 やがて、その沈黙を破るようにレンがぽつりと呟く。


「今日も生き延びたな。」


 ハルは天井を見つめたまま、小さく返事をした。


「ああ。」


 レンは小さく笑う。


「その返事ができるなら上出来だ。」


「ここじゃ最初の一週間が一番きつい。」


 ハルは少し驚き、上段へ視線を向ける。


「……そうなのか?」


「ああ。」


「飯は不味いし、仕事はきつい。周りは信用できねぇし、明日も同じ生活が続く。」


 レンは肩をすくめるような口調で続けた。


「そこで心が折れる奴が一番多い。」


「実際、何人も見てきた。」


 ハルは黙って聞く。


「レンは……平気だったのか?」


 少しだけ間が空く。


「いや。」


 レンは苦笑した。


「全然。」


「毎日『こんな場所さっさと出てやる』って思ってた。」


「喧嘩もしたし、何回も教官にぶっ飛ばされた。」


「逃げようともした。」


「当然失敗したけどな。」


 ハルは思わず笑ってしまう。


「……逃げたのか。」


「三回。」


「全部五分で捕まった。」


「今思えば馬鹿だったな。」


 部屋に小さな笑いが生まれる。


 重苦しかった空気が、少しだけ和らいだ。


 レンは天井を見上げたまま、静かに言った。


「気づいたら三年。」


「案外、人間って慣れるもんなんだよ。」


 ハルはその言葉を聞きながら思う。


 三年。


 自分はまだ数日しか経っていない。


 それなのに、レンはこの場所で三年間も生き抜いてきたのだ。


 その事実だけで、レンの言葉には不思議な説得力があった。


 レンは少し笑いながら天井を見上げた。


「俺さ。」


「ここに来て、もう三年になる。」


 ハルは思わず聞き返した。


「三年……。」


「長いだろ?」


「俺も最初は一年も持たねぇと思ってた。」


 レンは苦笑する。


「ここに来た頃の俺なんて、本当にどうしようもなかった。」


「能力も弱いし、喧嘩も強くねぇ。」


「毎日のように絡まれてたよ。」


 ハルは黙って耳を傾ける。


「収納能力なんて戦闘じゃ役に立たねぇからな。」


「『荷物持ち』『雑用係』って散々馬鹿にされた。」


 レンはその頃を思い出すように、小さく息を吐いた。


「悔しかったよ。」


「でも、殴り返しても勝てねぇ。」


「能力で勝負しても負ける。」


「何度も心が折れそうになった。」


 ハルはゆっくりと尋ねる。


「……それでも、どうして諦めなかったんだ?」


 レンは少し考えてから答えた。


「諦めたら終わりだから。」


「それに、俺には戦う力はなくても頭はあった。」


「正面から勝てないなら、勝てる状況を作ればいい。」


「相手の癖を見る。」


「地形を利用する。」


「罠を張る。」


「戦わずに勝つ方法を考える。」


 レンは笑う。


「そうしてるうちに、誰も簡単には手を出してこなくなった。」


「ここは強い奴だけが生き残る場所じゃない。」


「頭を使える奴も、生き残れる。」


 少し間を置いて、レンは自分を指差した。


「俺はそっちだった。」


 ハルは静かに頷く。


 レンの言葉には自慢は一切ない。


 三年間、この地下施設で生き抜いてきた人間だからこそ言える、重みのある言葉だった。


「だからさ。」


 レンは少し笑う。


「能力なんて、全部じゃねぇよ。」


「弱いなら、弱いなりの戦い方を見つけりゃいい。」


 その言葉は、ハルの胸に静かに響いていた。



 部屋に静寂が戻る。


 しばらく天井を眺めていたレンが、何気ない口調で尋ねた。


「そういやさ。」


「ハルはなんでここに来たんだ?」


 その一言で、ハルの表情が少し曇る。


 答えようとして口を開くが、言葉が出ない。


 レンはすぐに察した。


「……悪い。」


「言いたくないなら無理に話さなくていい。」


「ここじゃ過去を聞かれたくない奴なんて山ほどいるし。」


 その言葉に、ハルはゆっくり首を横に振った。


「いや……話すよ。」


 短く息を吐く。


「俺は……世界で唯一の無能力者なんだ。」


 レンは少し目を丸くした。


 だが、何も言わない。


 ハルは静かに話し続ける。


 幼い頃から能力が発現しなかったこと。


 周囲から落ちこぼれと笑われ続けたこと。


 それでも諦めず剣を握り、努力を積み重ねてきたこと。


 星ヶ丘学園へ入学したこと。


 そこで黒崎仁という圧倒的な才能を持つ少年に出会ったこと。


 朝比奈美咲という幼なじみだけは、自分を信じてくれていたこと。


 そして──。


「……全部、壊れた。」


 その一言だけで、ハルの声が震える。


 教室で浴びせられた罵声。


 仲間だった者たちの冷たい視線。


 黒崎との決定的な対立。


 美咲との別れ。


 退学。


 地下施設への移送。


 一つひとつを、思い出すように語っていく。


 部屋にはハルの声だけが響いていた。


 レンは最後まで一度も口を挟まない。


 励ましもしない。


 否定もしない。


 ただ、黙って聞き続けた。


 話し終えた頃には、再び静寂が部屋を包んでいた。


 長い沈黙のあと、レンが静かに口を開く。


「……そっか。」


 その一言には、同情ではなく理解が込められていた。


「だから昨日、あんな顔してたんだな。」


 ハルは答えられなかった。


 昨日、教育映像で美咲と黒崎の姿を見た時のことが脳裏によみがえる。


 拳を握り締め、涙をこらえていた自分。


 レンは気づいていたのだ。


「俺さ。」


「昨日は聞かなかった。」


「聞く資格なんてねぇと思ったから。」


 少し間を置いて続ける。


「でも、話してくれてありがとな。」


 ハルは小さく息を吐く。


「……誰かに話したのは、初めてだ。」


 レンは照れくさそうに笑った。


「そうか。」


「じゃあ俺が一人目ってことだな。」


 その軽い一言に、ハルも思わず小さく笑みを浮かべる。


 重かった空気が、少しだけ和らいだ。


 少し沈黙が流れる。


 今度はハルが口を開いた。


「……レンは?」


「なんでここに来たんだ?」


 レンは「俺?」と笑い、後頭部で腕を組む。


「俺の話なんて面白くねぇぞ。」


「能力不足。」


 あまりにもあっさりした答えだった。


 ハルは思わず聞き返す。


「能力不足……?」


「ああ。」


「俺の能力、収納だろ?」


「物をしまったり取り出したりするだけ。」


「便利ではあるけど、戦う能力じゃねぇ。」


 レンは苦笑する。


「学園じゃ散々言われたよ。」


『便利だけど、それだけ。』


『補助要員なら使える。』


『お前じゃ前線は無理だ。』


『才能がない。』


 その言葉を思い出しても、レンの表情は変わらない。


「最初は悔しかった。」


「どうにか見返そうって、毎日訓練した。」


「能力の使い方も工夫したし、頭も使った。」


「それでも埋まらない差ってのはある。」


 ハルは静かに耳を傾ける。


「結局、学園が求めてたのは"戦える能力"だった。」


「俺は最後まで、その基準を満たせなかった。」


「それで地下施設送り。」


 レンは肩をすくめる。


「まぁ、そんなもんだ。」


「能力は生まれつきだ。」


「どんな能力を持って生まれるかなんて、自分じゃ決められねぇ。」


「だから運が悪かった。それだけ。」


 その口調には恨みも怒りもない。


 ただ、現実を受け入れた人間の落ち着きがあった。


 ハルはぽつりと呟く。


「……それでも、お前は三年間諦めなかった。」


 レンは少し笑う。


「諦めたら飯も食えねぇからな。」


「それに。」


「俺、負けず嫌いなんだ。」


 ハルは思わず笑う。


「そうは見えない。」


「よく言われる。」


 レンも笑った。


「だから頭を使うことにした。」


「力で勝てないなら、知恵で勝つ。」


「一人で勝てないなら、仲間を勝たせる。」


「それが俺の戦い方だ。」


 その言葉に、ハルは自然と頷いていた。


 レンが三年間生き残れた理由が、少しだけ分かった気がした。


 再び部屋に静寂が訪れる。


 互いに天井を見つめたまま、誰も口を開かない。


 長い沈黙の末、ハルがぽつりと呟いた。


「俺……。」


 その声は小さい。


 だが、迷いはなかった。


「絶対に見返してやる。」


 レンは何も言わない。


 静かに続きを待つ。


 ハルは布団の上で拳を握り締める。


「黒崎も。」


「美咲も。」


「俺を見下した奴も。」


「俺を捨てた学園も。」


 その瞳には、地下施設へ来たばかりの絶望はなかった。


 代わりに燃えていたのは、強い意志だった。


「絶対に……。」


「復讐してやる。」


 部屋が静まり返る。


 レンはしばらく黙っていた。


 やがて、小さく笑う。


「いいじゃねぇか。」


 ハルは少し驚く。


 レンは続けた。


「復讐でも。」


「見返すでも。」


「理由なんて何でもいい。」


「人間ってのは、前へ進む理由があれば生きていける。」


 少し間を置く。


「でもさ。」


「その前に、やることがある。」


 ハルが視線を向ける。


「……何だ?」


 レンは即答した。


「ここから出ることだ。」


 その一言には迷いがなかった。


「地下施設にいる限り、お前の復讐は始まらねぇ。」


「黒崎にも会えない。」


「学園にも戻れない。」


「美咲にも届かない。」


「だからまずは、生き残る。」


「強くなる。」


「そして地下施設を出る。」


 レンは天井を見上げたまま静かに笑う。


「話は全部、それからだ。」


 ハルはその言葉を何度も頭の中で繰り返した。


 今まで考えていたのは復讐だけだった。


 だが、その前に越えなければならない壁がある。


 地下施設。


 ここを出なければ、何も始まらない。


 ハルはゆっくりと頷いた。


「ああ。」


「まずはここを出る。」


「そして……。」


 拳を握る。


「絶対に全員を見返す。」


 レンは満足そうに笑った。


「それでいい。」


「目標が決まった奴は強い。」


「俺も協力する。」


 ハルは少し驚く。


「え?」


「相棒を一人で外に出すほど、俺は薄情じゃねぇよ。」


 レンは照れ隠しのように笑う。


「俺も、もう一度外の世界を見てみたいしな。」


 ハルも小さく笑った。


「ありがとう、レン。」


「礼なら、ここを出てから言え。」


 二人は笑い合う。


 地下施設へ来て初めて、ハルの心に「希望」という名の光が灯った。


 その夜、二人には同じ目標が生まれた。


 ――地下施設を脱出し、もう一度外の世界へ戻ること。


 部屋は再び静けさを取り戻した。


 互いに天井を見つめたまま、しばらく誰も口を開かない。


 やがてレンが、小さく笑った。


「目標、決まったな。」


 ハルも静かに頷く。


「ああ。」


「まずはここを出る。」


「全部、それからだ。」


「そういうこと。」


 レンは満足そうに息を吐いた。


「俺も三年ここにいる。」


「だから、生き残る方法くらいは教えてやるよ。」


 ハルは少し笑う。


「頼りにしてる。」


「任せとけ。」


 レンは軽く欠伸をした。


「じゃあ今日はもう寝ようぜ。」


「明日も朝早い。」


「教官は容赦ねぇからな。」


「ああ。」


 短い返事だった。


 けれど、その一言には昨日までにはなかった力があった。


 レンは布団を頭まで被る。


「おやすみ、ハル。」


 一瞬だけ間が空く。


 地下施設では誰もが番号で呼ばれる。


 それでもレンは、当たり前のように名前で呼んだ。


 ハルは少しだけ目を見開き、自然と笑みがこぼれる。


「……おやすみ、レン。」


 返事が返ってくることはなかった。


 もう寝てしまったのだろう。


 ハルは天井を見上げる。


 地下施設へ送られたあの日。


 すべてを失ったと思っていた。


 仲間も。


 居場所も。


 未来も。


 ――でも、違った。


 ここで新しい仲間に出会った。


 新しい目標も見つかった。


 まずは、この地下施設を出る。


 そして必ず――。


 学園へ戻る。


 黒崎仁を。


 朝比奈美咲を。


 自分を見捨てたすべての者を見返す。


 その強い決意を胸に、ハルはゆっくりと目を閉じた。


 地下施設へ来て初めて。


 彼は、明日のために眠ることができた。


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