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幼馴染を寝取られ、学園に殺された無能力の俺は最強になって帰ってくる  作者: ワールド


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第16話 初仕事

 朝を告げるサイレンが地下施設中へ鳴り響く。


 ハルはゆっくりと目を開けた。


 結局、一睡もできなかった。


 目を閉じるたびに浮かぶのは、昨日見た映像だった。


 美咲の笑顔。


 黒崎の隣で幸せそうに笑う姿。


 夕暮れの並木道。


 そして、静かな口づけ。


 忘れようとしても、脳裏から離れない。


 胸の奥に残る鈍い痛みだけが、自分がまだ生きていることを教えていた。


 上段のベッドから物音がする。


 レンが大きく伸びをしながら起き上がった。


「ふぁぁ……。」


 髪をぐしゃぐしゃと掻きながら下へ降りてくる。


 眠そうな目でハルを見るなり、小さく笑った。


「おはよう。」


 ハルは少し間を置いて答える。


「……おはよう。」


 レンはハルの顔をじっと見つめる。


「……顔ひでぇぞ。」


「鏡見たら幽霊かと思うレベル。」


 軽く笑いながら言う。


 ハルは何も返さない。


 昨日、一滴も眠れなかったことは、自分でも分かっていた。


 目の下には濃い隈ができ、表情から生気が消えている。


 レンはそれ以上何も言わなかった。


 昨日の教育映像にも触れない。


 『大丈夫か。』


 『泣いてたな。』


 そんな言葉も、一切口にしない。


 代わりに、いつも通りの調子で立ち上がる。


「さーて。」


「今日も飯食って生き延びますか。」


 大袈裟に両腕を伸ばしながら笑う。


 その何気ない一言が、不思議とありがたかった。


 無理に励まされるよりも。


 気を遣われるよりも。


 何も変わらず接してくれることの方が、今のハルには救いだった。


 二人は部屋を出る。


 薄暗い通路には、すでに多くの収容者たちが食堂へ向かって歩いていた。


 誰も笑わない。


 誰も話さない。


 地下施設の朝は、今日も静かに始まる。


 レンはその重苦しい空気など気にも留めず、歩きながらぼやく。


「今日も魚だったら最悪だな。」


「たまには肉食わせてほしい。」


 ハルは思わず小さく息を吐く。


 笑ったわけではない。


 それでも昨日までより、ほんの少しだけ肩の力が抜けていた。


 レンはそんな変化にも気付かないふりをして、いつも通り前を歩き続けた。



 朝食を終えた新人たちは、再び昨日と同じ教室へ集められていた。


 ざわついていた室内が、教官の姿を見た瞬間に静まり返る。


 教官は教壇へ立ち、全員を見渡した。


「教育期間は終了した。」


「今日から貴様らにも仕事を与える。」


 その一言で、教室の空気がわずかに張り詰める。


 教官は淡々と続けた。


「勘違いするな。」


「地下施設は戦闘訓練だけを行う場所ではない。」


「ここは一つの施設だ。」


「施設を維持するためには、多くの人員が必要になる。」


 背後のモニターに資料が映し出される。


 そこには様々な業務内容が並んでいた。


 ・居住区の清掃


 ・倉庫整理


 ・食料搬入


 ・物資運搬


 ・武器整備


 ・訓練場の管理


 ・設備点検


「新人は基本的に雑務から始める。」


「成果次第では戦闘任務へ参加させる。」


「仕事を拒否する者に食事はない。」


「以上だ。」


 説明は驚くほど簡潔だった。


 しかし、その内容だけで十分だった。


 ここでは戦うだけでは生きていけない。


 生活そのものも任務なのだ。


 教室のあちこちから小さなため息が漏れる。


「掃除かよ……。」


「戦闘訓練だけじゃないのか。」


「雑用なんて面倒だ。」


 そんな声が聞こえる中、一人だけ少し嬉しそうな男がいた。


 レンだった。


「おっ、やっと働けるか。」


 椅子にもたれながら笑う。


「飯代くらいは稼がないとな。」


 周囲が呆れたような目を向ける。


「お前、変わってるな。」


 誰かがそう呟くと、レンは肩をすくめた。


「働かなくても飯が出る方が怖ぇだろ。」


「誰かが掃除して、誰かが運んで、誰かが飯を作ってる。」


「だったら俺も働く。それだけ。」


 あまりにも当たり前のように言う。


 ハルはその横顔を見つめていた。


 レンは地下施設へ送られたことを嘆くでもなく、能力者だからと威張るでもない。


 目の前にある現実を、そのまま受け入れている。


 その姿勢が少しだけ不思議だった。


 教官は新人たちへ視線を向ける。


「各班へ振り分ける。」


「呼ばれた者から前へ出ろ。」


 一人、また一人と名前ではなく番号が呼ばれていく。


 収容者たちは返事をすると、指定された班へ移動していく。


 地下施設には規則があり、役割があり、仕事がある。


 鉄格子の向こうに広がるのは、ただの牢獄ではなかった。


 ここにも確かに、人々が生活するための日常が存在していた。


 やがて教官が二枚の端末を確認しながら口を開く。


「742。」


「743。」


 ハルとレンは同時に立ち上がる。


「物資運搬班へ配属する。」


「直ちに倉庫区画へ向かえ。」


 レンは小さく笑った。


「相棒、初仕事だ。」


「張り切っていこうぜ。」


 ハルは小さく頷く。


「ああ。」


 二人は教室を後にし、地下施設で初めての仕事へ向かって歩き始めた。



 地下施設第二倉庫。


 巨大な鉄製の扉が開くと、天井近くまで積み上げられた木箱や金属コンテナが視界いっぱいに広がった。


 食料。


 生活用品。


 訓練用の武器。


 医療品。


 地下施設で生活する数百人分の物資が保管されている。


 教官が新人たちを見回した。


「今日の任務は物資運搬だ。」


「指定された荷物を各区画へ運べ。」


「能力の使用を許可する。」


 その一言で能力者たちが動き出す。


「任せろ。」


 一人の男が木箱へ触れると、重さなど感じさせないまま宙へ浮かび上がる。


 別の男は身体能力強化で、大人二人がかりでも持ち上がらない荷物を肩へ担ぐ。


 炎で溶接された金具を切り離す者。


 風で荷車ごと押していく者。


 能力者ばかりの地下施設では、それが当たり前の光景だった。


 レンも荷物の前へ立つ。


「じゃ、始めますか。」


 木箱へ手を触れた瞬間。


 荷物が一つ、また一つと姿を消していく。


 収納能力。


 大量の荷物を一瞬で能力空間へ保管していく。


「便利だな。」


「この能力。」


 そう呟きながら、必要な場所へ移動すると荷物を次々と取り出していく。


 周囲の作業員も感心したように頷いていた。


「収納系か。」


「運搬には当たり能力だな。」


 一方。


 ハルだけは違った。


 能力がない。


 だから運ぶ方法は一つしかない。


 自分の身体で持つ。


 両腕で木箱を抱え、ゆっくりと歩く。


 一つ運ぶ。


 戻る。


 また一つ運ぶ。


 その繰り返しだった。


 額から汗が流れ落ちる。


 腕はすぐに痺れ始めた。


 しかし足は止めない。


 黙々と荷物を運び続ける。


 そんな姿を見ていた作業員の一人が鼻で笑った。


「遅ぇな。」


 別の男も続く。


「何だあいつ。」


「能力使えねぇのか。」


「……無能力か?」


 その言葉に周囲が一斉にハルを見る。


「マジかよ。」


「だから遅いのか。」


「使えねぇな。」


「足手まといじゃねぇか。」


 笑い声が広がる。


 ハルは何も言わない。


 俯くこともない。


 反論もしない。


 ただ木箱を抱え直し、静かに歩き続ける。


 一つでも多く運ぶ。


 それだけを考えていた。


 すると。


「……おい。」


 倉庫内へ低い声が響いた。


 全員の視線が一人へ集まる。


 レンだった。


 収納した荷物を降ろしながら、ゆっくりと振り返る。


「俺の相棒に文句あるなら。」


 笑顔は消えていた。


「俺にも言え。」


 倉庫の空気が一瞬で張り詰める。


「能力がなくても働いてる。」


「文句だけ言ってる奴より、よっぽど役に立ってると思うけどな。」


 軽い口調だった。


 だが、その目だけは笑っていない。


 先ほどまで笑っていた男たちも押し黙る。


「……別に。」


「そこまで言ってねぇよ。」


 誰かが小さく呟く。


 レンは肩をすくめた。


「ならいい。」


「仕事しようぜ。」


 それだけ言うと、何事もなかったように荷物を収納し始める。


 倉庫には再び作業の音だけが響き始めた。


 ハルは木箱を抱えたまま立ち尽くしていた。


 地下施設へ来てから。


 能力がない自分を庇ってくれた人間は、一人もいなかった。


 初めてだった。


 レンは振り返ることなく声を掛ける。


「742。」


「ぼーっとしてると終わらねぇぞ。」


「今日は早く終わらせて飯食おうぜ。」


 いつもの軽い口調だった。


 ハルは小さく息を吐く。


 そして、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「……ああ。」


 その一言だけ返し、再び木箱を抱え上げた。 


 張り詰めた空気の中、作業は再開された。


 誰も口を開かない。


 レンも再び収納能力を使い、淡々と荷物を運び始める。


 ハルも木箱を抱え直し、足を前へ動かした。


 その時だった。


 倉庫の奥から、重たい足音が響く。


 ドン。


 ドン。


 ドン。


 自然と全員の視線がそちらへ向く。


 現れたのは、一人の少女だった。


 肩まで伸びた黒髪を無造作に揺らし、鋭い眼差しで前だけを見据えて歩いてくる。


 華奢な身体には似合わないほど巨大な木箱を――。


 いや。


 木箱ではない。


 十個近い木箱を高く積み上げ、それを右手一本で軽々と支えていた。


 周囲の収容者たちが思わず息を呑む。


「また来た……。」


「黒鋼だ。」


「相変わらず化け物だな。」


 少女はそんな視線など気にも留めない。


 そのまま目的の場所まで歩き、積み上げられた木箱を静かに降ろした。


 轟音と共に床がわずかに揺れる。


 それだけで、その圧倒的な腕力が伝わってきた。


 少女――黒鋼カエデは、ゆっくりと周囲を見回す。


 そして、先ほどハルを笑っていた男たちへ視線を止めた。


「あ?」


 短い一言。


 それだけで空気が凍り付く。


「なんか文句あんの?」


 低く、鋭い声。


 先ほどまで笑っていた男たちは目を逸らす。


「……いや。」


「別に。」


「そうか。」


 カエデは鼻で笑う。


「能力があるだけで偉そうにしてる奴より。」


 視線だけをハルへ向ける。


「能力がなくても黙って働いてる奴の方が、私はマシだと思うけど。」


 倉庫内は静まり返る。


 誰も反論しない。


 いや、反論できない。


 カエデはさらに吐き捨てるように言った。


「口だけの奴は嫌いなんだよ。」


「文句言う暇があるなら手を動かせ。」


 それだけ言うと、興味を失ったように背を向ける。


「次の荷物運ぶか。」


 何事もなかったように歩き去っていく。


 誰もその背中を呼び止めようとはしなかった。


 倉庫には再び静寂が戻る。


 ハルはその背中を見つめていた。


 地下施設へ来てから。


 能力がない自分を認めるような言葉を掛けられたのは、レンに続いて二人目だった。


 思わず小さく呟く。


「……あの人。」


 レンは苦笑しながら荷物を収納する。


「黒鋼カエデ。」


「口は悪いけど、ああいう性格なんだ。」


「気に入らねぇことは誰が相手でも噛み付く。」


「逆に気に入った奴は、とことん守る。」


 ハルは再びカエデの背中を見る。


 鉄格子に囲まれた地下施設。


 誰もが敵だと思っていたこの場所にも。


 自分を見てくれる人間がいる。


 その事実が、冷え切っていた胸の奥へ、ほんのわずかな温もりを灯していた。



 作業終了のブザーが倉庫内へ鳴り響く。


「本日の任務は終了。」


「各自、持ち場を片付けて居室へ戻れ。」


 教官の指示と同時に、収容者たちが次々と倉庫を後にしていく。


 ハルは額の汗を拭い、小さく息を吐いた。


 腕は重く、足も疲れ切っている。


 能力者ばかりの中で、一人だけ身体を使って荷物を運び続けたのだ。


 それでも、不思議と嫌な疲れではなかった。


「よし。」


 レンが大きく伸びをする。


「腹減った。」


「今日はいつもより飯がうまそうだ。」


「働いた後って何でもうまいよな。」


 そんなことを言いながら歩き出す。


 ハルもその隣へ並んだ。


 薄暗い通路を二人で歩く。


 しばらく無言の時間が続く。


 やがてレンがぽつりと口を開いた。


「この施設さ。」


 ハルは横を見る。


「クズもいるけど。」


「意外と悪い奴ばっかじゃねぇ。」


 今日一日を思い返しているようだった。


 能力があることを鼻にかける者。


 他人を見下す者。


 そんな人間も確かにいた。


 だが、その一方で。


 何も聞かずに隣にいてくれるレン。


 口は悪くても、間違ったことを見過ごさないカエデ。


 地下施設にも、様々な人間がいる。


 学園にいた頃は、ここには人間らしさなど残っていないと思っていた。


 だが現実は違った。


 この場所にも、それぞれの過去があり、それぞれの信念を持って生きる人たちがいる。


 ハルは静かに前を向く。


 そして、小さく口を開いた。


「……そうだな。」


 自分から返事をした。


 地下施設へ来てから初めてだった。


 レンは一瞬だけ目を丸くしたあと、にやりと笑う。


「お。」


「やっと喋った。」


 その一言に、ハルは思わず肩の力が抜ける。


 口元がほんの少しだけ緩んだ。


 笑ったと言えるほどではない。


 それでも、昨日までの自分にはなかった表情だった。


 レンは満足そうに頷く。


「その顔の方がいい。」


「仏頂面ばっか見てると、こっちまで気が滅入るからな。」


「まあ、無理に笑えとは言わねぇけど。」


「少しずつでいい。」


「ここで生きていこうぜ、相棒。」


 ハルは隣を歩くレンを見る。


 昨日までは、すべてを失ったと思っていた。


 家族も。


 居場所も。


 大切な人も。


 けれど今日、この地下施設で出会った二人の存在が、その絶望にほんの小さな光を灯してくれた。


 その光は、まだ弱くて頼りない。


 それでも確かに、前へ進むための一歩だった。


 ハルは静かに頷く。


「ああ。」


 二人は並んで歩き続ける。


 薄暗い地下通路の先へ。


 まだ見ぬ未来へ向かって。

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― 新着の感想 ―
幼馴染の視点も無いと尻軽にしか見えないような? 黒崎から言い寄るイメージないから、美咲からアプローチしたんだと思うけど、 ハルの代替として依存してるのか、普通に好きになって付き合っているのか… それで…
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