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第五話 禁術とされる補助魔法

「今……暴発しなかったよね?」

「エリシアが治癒をしたの?」

「あの神官候補が補佐したんじゃないの?」

「詠唱も魔力の流れもいつものエリシアじゃなかった」

「それって……」


 見ていた生徒たちがざわつく。


「おい、レイン! 今の何だよ。何をしたんだ?」


 カイルが走り寄ってきて大声を出す。


「少し古い補助魔法を使っただけだ」


 俺は何でもないことのように答えた。


「無詠唱だったよな? そんな補助魔法どこで覚えたんだよ」


「……少し古い魔導書を読んだだけだ」


 ——そのとき誰かが口にした。


「邪術……」


 その一言で、食堂に不穏な空気が漂う。


 王都神学校で邪術の疑いをかけられることは、単なる悪口では済まない。

 退学、審問、最悪の場合は異端審理にかけられる。


 百年前、聖女を支え、一人でも多くの人を救おうと必死に磨いた補助魔法が、今では禁術扱いか……。

 歴史とはずいぶん都合のいいものだな。


「つまり、エリシアさんの実力ではないということね」


 リュシアが声を上げた。


 その一言で、生徒たちの関心が俺の邪術疑惑から、エリシアの無能さへと移る。


「そ、そうね。エリシアがまともに魔法が使えるはずがないもの」


 話が逸らされて、俺の邪術の話はうやむやになったようだ。

 リュシアに助けられたということか。


「あ、もう時間だ。教室に戻らないと」


 誰かが言い、生徒たちが食堂を去っていく。



 しかし、リュシアだけが残っていた。


「あなた、邪術を使うのね」


「何のことでしょう?」


 リュシアが薄く笑みを浮かべる。


「黙っておいてほしいんじゃないかしら」


「まあ、余計な面倒は避けたいですね」


 リュシアの笑みが少し深くなる。


「それなら……私の補佐神官になってくださる?」


「脅迫ですか?」


「あら……そんな恐ろしい言い方は心外ですわ」


 面倒なことになったな。俺はエリシアの力と、俺の補助魔法の相性を見たかっただけなんだが……。


「何か勘違いして俺を買い被っているかもしれませんが、俺は大したことはしていませんよ。先ほどの治癒はエリシアの力です」


 そう言うと、リュシアがエリシアを睨む。


「この娘がまともに魔法を使えるわけがないじゃない。あなたが邪術を使って魔法を改変したのは明白じゃないの」


「改変などしていませんよ。エリシアは間違いなく『治癒』をしようとして『治癒』魔法を発動したんです。そうだよな?」


 俺はエリシアの方を見た。


 エリシアはうつむいて手を固く握っていた。


 リュシアを怖がっている……というより、何かを言いたくて言えない顔だった。



「リュシア・フェルミナはいるか!?」


 そのとき、食堂に大きな声が響いた。


 見ると、教官がいた。


「大聖堂附属施療院から急患だ。教官立ち会いのもと、聖女候補にも補助に入ってもらう。リュシア候補、来なさい」


 人手が足りないとはいえ、急患の補助に呼ばれるとは、リュシアは相当に高く評価されているようだ。


「また今度話しましょう」


 リュシアはそう言うと教官について食堂を出て行った。


「私たちも行きましょう」


 急患と聞いて、エリシアは青ざめていた。


「私もできることをしてあげたい。それから……」


 エリシアの声が極端に小さくなる。


「私も……レイン様に私の補佐神官になってほしいです」


 エリシアが恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

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