第十三話 それでも、俺が支える聖女は、この方です
俺は王太子アルベルトをまっすぐに見た。
「お断りします」
俺がそう答えると、試験場の空気が凍りつく。
アルベルトの眉が、わずかに動く。
俺に迷いはなかった。
リュシアの聖女補佐神官になり、王家と聖教会に従えば、俺の地位は万全なものになるだろう。
だが、俺にそんな打算を微塵も許さないほど、エリシアは圧倒的だった。
いや、それはエリシアの能力のためだけではない。俺の中に、エリシアを守りたい、という気持ちが強く芽生えていた。
「……そうか。二度とこの機会は与えられないが、よいのだな?」
「構いません」
俺は即答した。
「いいだろう。ではリュシア・フェルミナの聖女補佐神官はカイル・ローデンとする」
「え? あ、はい」
カイルが驚いた表情をしながら、前に出てくる。
「本当にいいのか、レイン?」
カイルが気遣うように小声で話しかけてきた。
「俺は構わない」
俺が抱いたのは、羨望でも嫉妬でもない。それはリュシアとカイルへの同情と不安だった。
リュシアに特別な想いはない。だが、それでも同じ神学校の生徒だ。この王国で、実力が不足しているのにも関わらず、聖女になってしまった者の末路を俺は知っている。
そしてカイルは親友だ。リュシアに従うことで、親友まで不幸な運命を辿るようなことにはなってほしくない。
リュシアとカイルが、本当の意味での「第二のセラフィナ」、そして「第二のレイン・フェルナー」にならなければよいが。
アルベルトの隣にいた大司教グレゴールが口を開く。
「殿下。規定外の聖女候補と、邪術疑惑のある補佐神官を王都に留め置くのは危険かと」
アルベルトは頷く。
「エリシア・ブランシェ、およびレイン・グレイヴには王都からの退去を命じる」
試験場がざわめいた。
「レイン様……私のせいで……」
エリシアが震える声で言った。
「違う。これは、俺が選んだことだ」
俺はまっすぐアルベルトを見返す。
「王都からの退去、承知しました。それでも俺は、エリシア様を選びます」
王国が危険と呼ぼうと。
聖教会が欠陥と呼ぼうと。
誰も彼女を聖女と認めなくとも。
俺は、エリシアの隣に立った。
「俺が支える聖女は、この方です」




