第十二話 王国は本物を選ばない
試験会場は静まり返ったままだった。
試験官は「評価不能」としたものの、観衆はエリシアの圧倒的な力を目にし、それをどう理解したらいいのかわからなかった。
その沈黙は誰かの説明を求めていたのだ。
「聖女選定試験はここまでだ」
沈黙を破ったのは大司教グレゴールだった。
「エリシア・ブランシェ候補」
グレゴールはエリシアの名を呼んだ。
「……はい」
エリシアが恐る恐る返事をした。
昨日までは直接話すことすらおこがましかった聖教会のトップだ。
「聖教会として、まず結果を通知しよう」
グレゴールは観衆を見渡してから、再び口を開いた。
「まず第一試験の聖属性魔力検査だが……聖晶が壊れたことを見てもわかる通り、魔力量は多いものの、魔力制御がまったくできていない。これは評価対象外と言わざるを得ない」
試験官と同じ見解ということか……。
「それから第二試験の治癒。こちらも魔導人形の傷は塞がったものの、影響すべきでない測定術式まで改変してしまっている。つまりこれも評価対象外。もっと言えば危険性すらある」
第二試験もか……。
「第三試験の結界構築だが、結界が構築されたところまでは確認できたが、試験の規定を超えて、結界を広げた。その上、聖教会の正規の結界術式である『守護結界』を使用しなかったのだ。規定を守らぬ者がどれほど王国にとって危険な存在だろうか」
大司教の正式な見解がこれであれば、もうどうしようもない。異議を申し立てる者もいないだろう。
王太子アルベルトが前に出てくる。
「エリシア・ブランシェ候補は王国が必要とする聖女には相応しくない、という結論だな」
アルベルトはそう告げた。
エリシアはそれまで黙って耳を傾けていたが、こらえきれずに一筋の涙を流した。
「……ごめんなさい、レイン様。私、だめでした……」
違う。
だめなのはエリシアではない。
彼女を測ることができない王国のほうだ。
彼らは理解できないものを、危険性が高いものとみなしたのだ。
「大司教、ではどの候補が聖女に相応しい?」
アルベルトが大司教に尋ねた。
「おそらく異論はないものと思いますが、リュシア・フェルミナ候補ですな」
大司教が答える。
「聖属性魔力の質も量も申し分なく、治癒は高い精度で、結界は非常に安定したものでした」
とてもわかりやすい結論だ。
「決まりだな」
アルベルトが言い、息を吸う。
「次代聖女はリュシア・フェルミナとする!」
アルベルトの高らかな宣言が中庭に轟いた。
観衆が大きな拍手と歓声が上がった。
しかし、その中に微かな戸惑いがあることも感じられた。
俺は、そこでようやく理解した。
この王国に、エリシアを任せることはできない。
そう確信した俺に、アルベルトが一瞥を向ける。
「そしてリュシア・フェルミナの聖女補佐神官にはレイン・グレイヴを指名する」




