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第十一話 聖女候補エリシア・ブランシェは規格外だった

 エリシアの瞳からはすでに怯えは消え、強い決意の光が宿っているように見えた。



 まずは聖属性魔力検査だ。


 聖晶の前に立ち、エリシアが手を触れる。


 そして魔力を流し込む。


 ここでは俺の補助は不要だろう。思うままに魔力を流せばいい。


 魔力が流し込まれた聖晶が、小さな真っ白な光を発したかと思うとその光が急激に膨張し、消えた。


 光が消えた後に、聖晶が粉々に砕けていた。だが、聖晶に濁りはなく、むしろ澄んだ色になっていた。聖晶に溜まっていた澱みまで浄化されたようだ。


「……聖晶が壊れた……? 何だ、何をした?」


 試験官が戸惑っている。


「私……またやってしまいましたか?」


 エリシアが青ざめる。


「違う。聖晶の方が、君の魔力に耐えられなかっただけだ」


 俺がエリシアと、試験官にも聞こえるように言った。


「……聖晶破壊により、評価不能」


 試験官の的外れな言葉に、俺は苛立ったが、それを抑え込んだ。


「聖晶の許容量を超えたのだと思います。少なくとも、魔力が不足しているという判定ではないでしょう」


 真顔に戻って俺はそう主張したが、試験官が戸惑いを隠すように、「次の試験に進みなさい」とエリシアに告げた。



 次は治癒試験だ。


 エリシアが詠唱を始め、俺が「詠唱補正(リード・アシスト)」で誤りとリズムを正す。


 魔導人形の裂傷にエリシアが手をかざし、「治癒(キュア)」を発動し、俺は「魔力調律(マナ・チューニング)」で魔力量と流れを調節する。


 濃度の高い白い光が裂傷を包み、瞬く間に傷が塞がれ、きれいな皮膚に戻った。


「……魔導人形が測定値を出さない。これは……評価不能だ」


 試験官が言った。


「魔導人形に組み込んだ治癒率測定用の術式が反応していない」


「余計なことを、してしまったのでしょうか?」


 エリシアも不安そうに言う。


「いや。傷だけでなく、治癒を妨げる異物まで排除したんだ。完治しているのは明らかだ」


「治癒自体は確認した。だが、測定術式に干渉する魔法を、安全な治癒と認めるわけにはいかない。規定上、評価不能とする」


 この試験官では正当に評価などできない。神官か宮廷魔術師の中に高い見識を持つ者がいることを祈るしかないな。


 最後は結界構築試験。


 エリシアが結界核の前で詠唱を行う。慣れない詠唱のためか、ただでさえ不安定な詠唱がさらに崩れ、観衆の失笑を買う。俺は「詠唱補正」を行い、美しい詠唱に正していく。


 エリシアなら、誰も異議を唱えられないほどの力を示すことができるはずだ。


聖域展開(サンクチュアリ)


 魔法が発動する。神聖魔法の上位結界術だ。

 俺も「魔力調律」を発動して魔力の流れを調律する。膨大な量の魔力を一定の流量と方向に調律する必要があるので一苦労だが……俺は胸が高鳴るのを抑えられなかった。前世も含め、ここまで良質で豊穣な聖属性魔法の制御に携えるなど、想像したこともなかった。


 結界核からゆっくりと始まった結界膜の膨張は次第に速度を増し、中庭の敷地を超えたかと思うと大聖堂全体を覆い、まだまだ広がっていき、やがて見えなくなった。少なくとも王都全体は包んでいるだろう。


 そこでエリシアが魔力の注入を止めた。


 中庭の空気が澄んでいた。


 その空気の中、観衆は静まり返っていた。


「王都外縁の結界に反応があります!」


 宮廷魔術師の一人が、結界測定用の魔道具を見て叫んだ。


「……規定範囲外だ。試験区画を越えた結界展開は評価対象外とする。外縁結界への影響も確認が必要だ」


 それでも試験官はそう言った。


「ひょっとして……結界を壊してしまいましたか?」


 エリシアが不安そうに言った。


「結界は消滅していない。試験区画の外まで展開されたんだ」


 そう言って、俺は試験官に向き直る。


「外縁結界の反応を確認すべきです」


 俺はそう主張した。


「……その必要はない」


 試験官が冷たく言い放つ。



 いや、わかっている。


 俺はもう確信していた。この王国はすでに本来の聖女がどういうものか完全に忘れている。


 セラフィナ以降、王国全土を覆う結界は維持できず、結界は王都のみに限定されてしまっている。その王都の結界ですら、聖遺物や複数の上級神官の魔力で何とか維持してきたが、ついに綻びが出始めたのだ。


 それを再び修復し、あるいは拡張するには、エリシアの力は絶対に必要だ。



 王国は、今、本物の聖女を必要としている。


 だが、その聖女が目の前に立っていることに、気づける者がどれほどいるのか。


 俺は、静まり返った試験場を見渡した。

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