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【ネクロマンサー】死んだ最強の姉が僕を溺愛して離してくれない――亡国の王子は帝国を蹂躙する  作者: アヲル。


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第7話 プレゼント

 空は抜けるような青。

 帝都ヴォルガルドの街並みは、色とりどりの旗と花飾りに埋め尽くされている。


 今日は帝国の戦勝記念日。

 めでたい日だそうだ。

 僕たちにとっては、王都クリスタリアが燃えて地図から消えた、最悪の記念日だけどね。


 朝から街は浮かれていた。

 屋台が並び、子供がはしゃぎ、凱旋歌がいせんかがうるさいくらいに響いている。

 

 そんな祝祭のど真ん中を、僕はエル姉と手をつないで歩いていた。


「こうやってエル姉とお祭りを楽しめるなんて、本当に夢のようだよ」


 隣を歩く美しい女性を見上げる。

 かつての僕たちは「見られる側」の王族。

 豪華な席で愛想を振りまく、ただの人形。

 庶民に混じって歩くなんて、ありえない話だった。


「私も、ユリとこうして歩けるなんて幸せ……。あ! ユリ、見て! アイスクリームがあるわ!」


 エル姉が子供みたいに声を弾ませる。

 彼女、昔から大の甘党。

 僕は銀貨を出して、バニラとベリーの二つを購入。


「別の味を買って、シェアしようか」


「もうユリったらー、天才ね! 百点満点!」


 大通りの端に腰を下ろして、交互に「あーん」の応酬。

 絵画から抜け出してきたような美貌びぼうの姉が、隙だらけの笑顔で迫ってくる。

 案の定、周囲の視線が突き刺さる。


「なんだ、あの美男美女……」

「モデルか何かかしら?」

「うわぁ、お似合いのカップルだわ!」


 そんな声が聞こえるたび、エル姉の顔は緩みっぱなし。


「エル姉、顔がだらしなくなってるよ」


「いいじゃない。こんなだらしのない顔は、世界でユリにしか見せないんだから」


 潤んだ瞳で貫かれる。

 僕はエル姉の視線には勝てない。

 ……悔しいけど、可愛い。




 冒険者ギルド「金色の獅子」


 ギルドの入り口横に、大きな樽を無造作に置く。


「さて、ここでいいかな」


 中身は昨日仕留めたハイドラクイーンの首。

 ……生臭い。うぇ。




 扉を開ける。

 酒臭い冒険者たちが、僕の姿を見るなりニヤついた笑いを浮かべた。


「よお、昨日の坊ちゃんじゃねえか!」

「ハイドラクイーンはどうした? 尻尾を巻いて逃げ帰ってきたのか?」


 想定通りの反応で笑える。

 嘲笑ちょうしょうを背に、僕は淡々と受付へ。

 昨日の受付嬢は、忙しそうに書類をさばきながら、僕を鼻で笑った。


「またあなた? ネクロマンサーに回せるような安全な仕事なんてないわ。帰りなさい」


 僕は口角をわずかに上げ、静かに告げた。


「……討伐の証は、外に置いていくよ」


「は? 何を言って――」


 最後まで聞かずに、背を向けて退店。

 隣でエル姉が、クスクスと肩を揺らしている。


「フフフ、ユリもえげつないわね。あの中に、あんな爆弾を仕込んでいくなんて」


「エル姉だって、楽しそうに笑ってるじゃないか」


 北の丘

 帝都を一望できる絶景スポット。

 あらかじめ用意しておいたテーブルと椅子。

 手際よくエル姉お気に入りの茶葉をれる。

 アールグレイの香りが、風に溶けていく。


「さて……そろそろ、祭りに花を添えようか」


 椅子に深く腰掛け、魔力を集中させる。

 ギルド前の「媒介」と、僕の回路が繋がる。


「――死者召喚ネクロマンス


 心臓が脈動。

 膨大な魔力が拡散する。

 遠くのギルド周辺が、禍々しいオーラに包まれた。


「ガアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 帝都の空を裂く咆哮。

 建物を突き破り、九つの首を持つ怪物が顕現した。

 

 さあ、ショータイムだ。


「死ぬまで暴れろ」


 命令はそれだけ。

 怪物は猛毒の霧をき散らす。

 ギルドから飛び出した連中が、触れた瞬間、肌を紫に変えて崩れ落ちる。

「毒だ!」「逃げろ!」と叫ぶ暇もない。

 熱線が降り注ぎ、受付嬢や冒険者たちが蒸発する。


「うわぁ、すごいね。ハイドラクイーンって、やっぱり強いんだ」


 優雅に紅茶を一口。

 眼下の地獄絵図は、精巧せいこう箱庭はこにわの劇にしか見えない。


「そんなことないわよ。あの冒険者たちが弱すぎるだけだわ」


 エル姉は僕の肩に頭を預け、冷めた目。


「あんな程度でユリを馬鹿にするなんて」という顔をしている。


 やがて、帝国軍の聖十字騎士団セイクリッドが到着。

 泥沼の消耗戦が始まった。

 首を落としても即座に再生。

 熱線で騎士が焼かれ、ゴリゴリと兵数が削られていく。



--



「……ユリ、そろそろ起きて?」


「ん……? やっと、終わったか」


 いつの間にか、エル姉の膝枕で寝てしまっていた。

 三時間が経過。

 ハイドラクイーンが光の粒子となって消えていく。


「倒すのが遅すぎて、寝ちゃったよ」


 膝から身を起こし、煙に包まれた街を見つめる。

 分かったことが一つ。


 帝国の本当の脅威は、個の強さじゃない。

 圧倒的な「物量」だ。

 僕とエル姉だけで滅ぼすには、決定的な何かが足りない。


「流石、ユリね。なら、帰ってからじっくり作戦会議ね!」


「うん。大まかな作戦はもう思いついたよ。あとは、必要なカードを集めるだけだ」


「ユリがどんな道を選んでも、お姉ちゃんは貴方の剣になるわ。……ねえ、何でも言って?」


 僕は彼女の首筋に顔を寄せ、小さく囁いた。


「僕は、エル姉にしか甘えないから。……安心して」


「――っ! ああぁぁ、ユリィィ……!」


 エル姉、その場で強烈なハグ。



「……ねえ、エル姉。そろそろ帰ろう。明日は、いよいよ士官学校の対抗戦だし」


「そうね、ユリ。ウードだったかしら? 彼が勝ち残ったらユリと戦うんでしょ」


「ああ。たぶんね。……ちゃんと決勝までいかないとね」


 空になったティーカップを片付ける。

 夕闇の中、二人の影が長く伸びる。


「今日は魔力を使いすぎた。今夜は早く帰って休むよ。エル姉、今夜も……一緒に寝てくれる?」


「――っ!! 当たり前じゃない!!」


 再び興奮し始めたエル姉を連れ、丘を下りる。


 帝都には、ハイドラクイーンが残した火の手がチロチロと残っている。

 原因不明の襲撃に、混乱と恐怖が広がりだした。

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