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【ネクロマンサー】死んだ最強の姉が僕を溺愛して離してくれない――亡国の王子は帝国を蹂躙する  作者: アヲル。


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第6話 規格外の姉

 今日明日は、士官学校が休み。

 エル姉の実力を確認すべく、手っ取り早くモンスターでも倒してみようかと考えた。

 向かう場所は冒険者ギルド「金色の獅子」。

 下品な名前だな、と思いつつ扉をくぐる。

 まだ朝なのに、酒の臭い。

 暑苦しい男たちの熱気。

 その名の通り、下品な連中がびっちりいた。

 

 ……正直、帰りたい。


 僕は静かに歩く。

 濃紺のコート。

 背筋を伸ばし、育ちの良さを隠さない。

 というか、隠すつもりもない。


「……おい、貴族のお坊ちゃんが何の用だ?」

「迷子か? 帰ってお嬢様とティータイムでもしてろよ」


 野次やじ

 想定内だ。

 いちいち相手にするだけ時間の無駄。

 僕は受付カウンターへ直行した。


「依頼を受けたい。現在の最高難易度のものを」


 受付嬢が顔を上げる。

 あからさまに「またバカが来た」という顔。


「……坊や。ここは士官学校じゃないの。命がいくつあっても足りないわよ?」


 お説教。

 ありがたいけど、余計なお世話。


「まずはジョブを言いなさい。登録には必須だから」


「ネクロマンサー」


 短く答える。

 一瞬の静寂。

 次の瞬間、ギルドが爆笑の渦に包まれた。


「ギャハハハ! ネクロマンサーだってよ!」

「死体あさりのガキが、最高難易度? 笑わせるな!」


 ……うるさい。


 酒臭い大男が、僕の肩に手を置こうとしてくる。

 その瞬間。

 僕の右目が、紅く脈動した。


(……ユリ。聞こえた? 今、この下等生物たちが貴方を笑ったわね)


 脳内に響く、冷徹極まりない殺意。

 エル姉が、今にも魔剣を引き抜きそうな気配。


(待って、エル姉。ここで暴れたら計画が台無し。……ね? 僕のために我慢して)


 心中で必死になだめる。

 エル姉の沸点ふってんが低すぎて、僕の胃に穴が開きそう。


「……依頼書だけ下さい。場所さえ分かればいいので」


 受付嬢の深いため息。

 投げ渡された依頼書。

 背中に浴びせられる嘲笑をスルーして、僕はギルドを後にした。


(……行こう、エル姉。別に報酬なんてどうでもいいんだ。姉さんの力を、直接試せればいいだけだから)


(ユリがそう言うならいいけどさ、あんな奴ら瞬殺じゃない)


 ムスーとした顔。

 エル姉は不服そうだ。

 瞬殺かも知れないが、騒ぎは起こしたくない。



 帝都から徒歩で数時間。

 深い霧に包まれたフィロー湖。

 生き物の気配、ゼロ。

 不気味なほど静かな水面。


「ここだね。ギルドがさじを投げた、怪物の居場所」


 実体化したエル姉が、僕の腕にぎゅっと抱きついてくる。


「もう! さっきの奴ら、本当にムカついたわ! ユリを馬鹿にするなんて、バラバラにされても文句言えないわよ!」


「いいよ、エル姉。それより……約束、覚えてる?」


 その瞬間。

 エル姉の表情が姉から乙女へ。

 頬を赤らめ、身悶みもだえする。

 

 ……ちょっと怖い。


「もちろんでしょう!? 私が勝ったら、昔みたいに……ユリがお姉ちゃんの背中を、お風呂で流してくれるって……。ああ、考えただけでっちゃいそう!」


「……うん。勝てたら、ね」


 その時。

 湖が爆発した。


 ――バシャァァンッ!


 大気を震わせる咆哮。

 九つの首。


 ハイドラクイーン。


 S級パーティ数組がかりでも、勝てるか分からないと言われる、生ける災害。


 き散らされる毒霧。

 周囲の木々が瞬時に腐る。

 常人ならプレッシャーだけで心臓が止まるレベル。


「世界最強の魔剣士。これくらいが丁度いいよね、エル姉」


 僕は一歩下がる。

 主役へ道をゆずる。


「ええ、そうね。……斬り甲斐のある、可愛い蛇さんね」


 エル姉が前に出る。

 手には、いつの間にか一振りの魔剣。

 魔術と剣技の究極の融合。

 世界で唯一のジョブ『魔剣士』。


「シャアアアアアァァァッ!」


 九つの口から放たれる熱線。

 空間を歪ませるほどの一撃。

 だが、エル姉は避けもしない。


「――邪魔よ」


 軽く剣を振るった。

 ただの、素振り。

 なのに、発生した風圧が熱線を正面から押し潰し、拡散させた。

 

 物理法則、仕事しろ。


「さて、ユリがお風呂で待ってるんだから。一瞬で終わらせるわね」


 エル姉の姿が消える。

 いや、光になった。


閃光乱舞ルミナス・ストーム


 白くまばゆい光。

 空間に浮かび上がる、幾千いくせんもの光の幾何学模様きかがくもよう


 理解する暇もなかっただろう。

 九つの首が、同時に、完璧な断面を残して宙を舞った。


「……終わったわ。ユリ、見てた!?」


 バシャァァァンッ!!


 背後で巨大な水柱。

 返り血一滴浴びず、エル姉がウインク。

 討伐時間、わずか数秒。

 帝国の軍隊が束になっても勝てない怪物が、一瞬で生ゴミに。


 ……あまりに早い決着に、こいつは本当に討伐対象のハイドラクイーンなのか疑ってしまう。


 結果、エル姉の強さは計り知れなかった。


「……うん。召喚用に、一番大きな首を貰っていくよ」


 死体に手をかざす。

 黒い霧がハイドラクイーンを包み込み、僕の影へと吸い込まれていった。

 収穫。



 夜

 家に戻ると、石鹸の香り。


「あああ……ユリ……そこ……。幸せすぎて死にそう。あ、もう死んでるんだったわ……」


 浴室。

 約束通り、僕はエル姉の背中を流している。

 透き通るような白い肌。

 僕が魔力を注ぐたびに、ほんのりと温もりをびる。

 エル姉は湯船のふちあごを乗せて、完全にとろけていた。


「……ねえ、エル姉。確信したよ」


 姉の背中を優しくでながら、静かに告げる。


「帝国なんて、僕たちが本気を出せば数日で終わる。あの皇帝も、裏切り者のバルガスも……いつでも首を跳ねられる」


 エル姉が振り返り、濡れた髪をかき上げて微笑んだ。

 その瞳は、絶対的な肯定。


「ええ。ユリがそう望むなら、私はこの世界のすべてを斬り捨ててあげる。……でも今は、それより大事なことがあるわ」


「え?」


「早く! お姉ちゃんの頭洗って!」


 抱きついてくる姉。

 苦笑しながら、僕はそれを受け止める。

 

「……エル姉、距離感が壊れちゃってない?」

「えっ、……ユリは近いの嫌?」


 一瞬、エル姉の瞳に不安がよぎる。


「……エル姉が可愛いから、その……、嬉しいけど、困っちゃうよ」

「――ッ!! どうしてそんなに可愛いの……っ!!」

 

 顔がエル姉の胸に埋まる。

 もう、抵抗を止めて身を任した。


 エル姉に勝てないことを、僕は知っている。




 さて。


「……ねえ、エル姉。今日倒したハイドラクイーン。あれを帝都のど真ん中で『死者召喚ネクロマンス』したら……面白いことになると思わない? しかも明日は帝国の戦勝記念日だよ」


 一瞬の沈黙。

 エル姉の目が、キラリと輝いた。


「……それ、面白そうじゃない! ユリ! さすが私のおとうと! 天才だわ! お祝いの品、盛大に返してあげましょう!」


「そうだね。明日はどこか、眺めのいい場所を探さないと。……あぁ、あと美味しいお茶も用意しなきゃ」


 

 浴室に、二人の無邪気な笑い声が響く。

 

 地獄の幕開けは、すぐそこ。


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