第38話 王と王
「……ユリエル? ああ、大きくなったわね……」
慈愛に満ちた笑顔。僕の母、ミーティア。
「ユリエルよ。我が息子よ。なぜ、こんな場所に戻ってきた……」
悲しげな瞳。僕の父、レガート。
「……ッ!!」
声が出ない。
あいつは、ゼノスは。
僕の目の前で、僕が愛していた両親を、「死者召喚」で呼び戻しやがった。
……ああ、クソ。そーゆー事ね。
理解した。
お前もか、ゼノス。
「……ああ、そうだ。わしもネクロマンサーなのだよ。どうした、亡国の王子? 親孝行の時間だぞ?」
ゼノスが玉座で高笑いする。
召喚された父上たちの瞳には、エル姉のような意志はない。
濁った黒。完全に操り人形の状態。
「ユリエル、逃げろ! 早く!」
父上の叫びが、意思に反して震える唇から漏れる。
ゼノスはそれを見て、満足そうに背もたれに深く体を預けた。
「驚いたか? 小僧。世にネクロマンサーを『最弱』、あるいは『ゴミ』だと定義づけ、洗脳教育を施したのはわしだ。あまりに便利で、危険なジョブだからな」
要するに、独占したかったわけだ。
故に、ジョブ自体を社会的に抹殺した。
「適性儀式のあの日、お前が爆笑されたのもわしの計略だ。芽が出た者は即座に消すか、無能の烙印を押して追放する。お前は運良く、あるいは運悪く生き延びてしまったがな」
ゼノスが立ち上がり、黒い杖を向けてくる。
「領土なんてどうでもいい。わしが欲しかったのは『良質な魂』と『器』だ。クリスタリアの血筋は、最高の素材だったのだよ。わしの固有スキルは魂吸。こやつらの魂でわしの命は大分長くなったわ」
唖然。
そんなくだらない理由で、クリスタリアを襲ったのか。
「殺し合え。親子の情など、冥府へ持っていけ」
ゼノスの冷酷な命令。
父上が剣を抜き、母上が魔導書を開く。
最低最悪な親子の再会だ。
「申し訳ありません、父上、母上。遅くなってしまって」
僕は震える声で謝った。
「ですが、今……成長した姿を見せます。王としての在り方を教えてくれたのは父上ですっ!」
父上の剣劇。
(王国で名をはせた剣は伊達じゃないな。これほど重い一撃を、この速度で振るうのか……!)
何故か、嬉しい気持ちが溢れる。きっと誇らしいのかな。
同時に、母上の詠唱。
「ごめんなさい、ユリエル……身体が勝手に……ッ!」
母上の瞳から涙がこぼれる。
でも、放たれる火炎魔法は僕を容赦なく焼きにかかる。
僕は「絶対防御」を展開し、完全シャットアウト。
だが、もう魔力は0。生命力もひとさじもない。
しかも、この命令は術者が死ぬか魔力切れまで、解かれることはない。
たぶん、僕と同じ原理だろう。
「絶対防御」を維持したまま、地面から湧き上がらせた「拘束」の黒い手を階段にして、ゼノスへと超加速し接近。
「小ざかしい!」
ゼノスが二人に魔力を供給し、父上の剣に母上の炎の魔法を付与。
業火を纏った剣が僕を襲う。
くっ! もうダメだ! もう抗う魔力はない。
――その瞬間。
僕のレイピアが蒼い炎を纏う。
カトリーヌの付与魔法だ。
(……最期まで仕えてくれるか、カトリーヌ!)
間一髪、赤い炎と蒼い炎が混じり合うように、攻撃は相殺される。
僕は最後の力を振り絞り、ゼノスの懐に飛び込んだ。
これでお別れだ。
命を燃やし、最後の魔力を紡ぐ。
「――蒼御雷(アズール・ジャッジメント)」
――ズガァァァァァンッッ!!!
打ち出されたレイピアは、蒼き炎を纏った、雷槍。
ゼノスの胸元を、心臓ごと貫き、そのまま壁を爆砕させる。
「が、は……っ。わ、わしが……ネクロマンサーの、王であるこのわしが……」
ゼノスの胴体に大きな風穴が空き、全身を蒼い炎に包まれる。
そのまま、崩れるように玉座から転げ落ちた。
王冠が床を転がり、僕の足元で止まる。
決着。
「……」
ゼノスの死。
同時に、二人を縛っていた黒い霧が解けていく。
二人の瞳から濁りが消えて、元の穏やかな輝きが戻った。
「ユリエル……立派になったわね……」
母上が僕の頬を撫でようとするけれど、その手は空を切る。
「……見事だ。我が息子、クリスタリアの真なる王よ」
父上が満足そうに頷き、粒子となって消えていく。
「父上! 母上!」
叫んでも、二人はもう戻らない。
呪縛から解き放たれて、天へと昇っていった。
静寂。
背後に気配を感じて振り返ると、そこにはエル姉が立っていた。
「お疲れ様、ユリ。ちゃんと果たしたのね」
エル姉が優しく僕を抱きしめる。
「……終わったよ、姉さん。僕たちの家、取り戻したよ」




