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【ネクロマンサー】死んだ最強の姉が僕を溺愛して離してくれない――亡国の王子は帝国を蹂躙する  作者: アヲル。


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第33話 別れ

 窓から差し込む朝陽あさひ

 温暖な気候故に、少しだけ暑い。

 窓を開けると、隣接する森林から涼しい風が通り抜ける。


 左右を見る。

 右側には実体化したエル姉。僕の腕を枕にして、幸せそうな顔で寝ている。

 左側にはカトリーヌ。僕のシャツのすそをギュッと握りしめたまま。


 二人とも、昨夜の酔いが残っているんだろう。

 ひどい寝言が聞こえてきた。


「……ユリ、もう食べられないわぁ……。それは、お姉ちゃんの……」

「ユリエル様……。もっと、ゴミを見るような目で、私を……」


 聞かなかったことにしよう。

 特に後半。


 彼女たちを起こさないよう、慎重にベッドを脱出。

 ……ふらつく。

 魔力の残量が、いよいよ底をつきかけている。

 ネクロマンサーとしての宿命。

 僕の生命という名の蝋燭ろうそくは、着実に溶けて、短くなっている。


 キッチンに立ち、手際よく朝食を作る。

 焼きたてのパン。市場の新鮮な野菜。昨日の残りの鶏肉を使ったスープ。

 香ばしい匂いがただようと、案の定、廊下からバタバタと足音が響いた。


「も、申し訳ありません! 主人より遅く起きるなんて、従者失格ですわ!」


 あせった顔で、カトリーヌが突撃してくる。

 その後ろからは、寝間着をだらしなく着崩したエル姉。


「あ、ユリ。おはよぉ」


 ふにゃふにゃの笑顔。


「いいよ。カトリーヌ、エル姉をちゃんと起こしてあげて。朝食の後は、打ち合わせをするよ」


 食卓に地図を広げる。

 湯気の立つコーヒー。その隣には、王国の地図。

 それを、カトリーヌが帝国バージョンに書き換える。

 地理は一緒だからね。


「作戦はシンプル。今日の夕方、まずは東の要塞を叩く。ドラゴンの高火力で一気に殲滅せんめつ、軍事力を削り動揺どうようを誘う。その後、一度戻って休息。本番は、明日の夜――」


 指先でスラム街を指す。

 上空からの帝都を急襲。ここに着陸して、「僕の軍勢」と合流。

 エンシェントドラゴンで、帝都を焦土しょうどす。

 軍の精鋭が出てきたら、エル姉の出番。

 後は王城に乗り込んで、僕が皇帝ゼノスの首を落とす。

 実にわかりやすい。


 エル姉が、じっと僕を見ている。

 弟を心配する姉の顔と、戦略的視点から見た問い。


「……ユリ。その計画、あなたの『命』は最期まで持つの?」


 心臓が跳ねた。

 やっぱりバレてる。

 基本的に魔法とは、自身が持つ魔力総量から引き算され、発動する。

 睡眠などで休息すれば、ほぼ回復する。

 ネクロマンサーも基本は同じだが、このジョブの特性上、不足分は、僕の「生命力」でおぎなう。

 エル姉とエンシェントドラゴン。

 これらを維持する魔力なんて、僕のどこにも残っていない。

 しかも、これから行う死者召喚ネクロマンスは、桁違い。

 僕の命は、復讐を燃やすための、ただのまきなんだ。


「……後戻りはできないんだ、エル姉。最期まで、僕を支えてほしい」


 エル姉に抱きつく。

 姉は何も言わず、温かい手で僕の頭をでてくれた。


「……大丈夫よ、ユリ。お姉ちゃんが、全部終わらせてあげるから、安心して」


 その言葉に救われる。

 僕は、最高の姉を持って、幸せだ。



 打ち合わせの後、カトリーヌを誘って離れの別館へ。

 そこは、王家の禁書きんしょの書庫。

 扉を開けた瞬間、彼女は文字通りフリーズした。


「……っ! これは、『魔力転換基礎理論』の原本じゃないですかっ!? それに失われた、こっ、これは! 古代語の魔導書まで……!?」


 彼女は魔法ヲタクだ。

 腰を抜かし、よろめきながら棚の書物のタイトルを高速で確認。

 目が輝いている。


「カトリーヌ。君にお願いがある。この書庫の管理を、任せたいんだ」


 彼女の動きが止まる。


「……それは、私を置いていく、ということでしょうか?」


 流石、カトリーヌ。察しがいい。


「そうだ。この復讐は、僕とエル姉だけのもの。たった二人の戦争だ。君を連れて行けば、……君は僕の弱点になる」


「嘘ですわ!」


 カトリーヌが叫ぶ。大粒の涙。


「私は、あの時に死ぬまで従者として仕えると誓いました! 最後まで、地獄の底まで……!」


「ダメだ」


 冷たく突き放す。


「正直に言うよ。……君を失いたくない。君はそう思わないかも知れないけど、僕の中では、唯一の守るべきクリスタリアの民なんだ。あと、……純粋に生き残ってほしい。……これは、僕のわがままだ」


 カトリーヌは泣き崩れた。

 彼女は理解したんだろう。

 僕が彼女を「道具」ではなく、守るべき「仲間」として愛してしまったことを。


「……分かりましたわ。ですが、今日の要塞への攻撃だけは、私を連れて行ってくださいませ」


 最後の一太刀ひとたちを、私に。

 その必死な願いに、僕は静かにうなずくしかなかった。


 夕日が沈む。

 地平線が燃えるように、とばりりる。

 僕たちはエンシェントドラゴンの背に乗っていた。

 風を切る。雲を突き抜ける。

 視界の端に、帝都の要塞が見えてきた。


「カトリーヌ、行けるか?」


「ええ……。この瞬間のために、私は生まれてきたのかもしれません」


 彼女がエンシェントドラゴンの背で立ち上がる。

 さっき見たばかりの、禁忌の魔導書を唱え始めた。


『天空より降り注ぐは、行き場のない星の涙。ちるは、神の鉄槌てっつい――』


 空の色が変わった。

 雲が渦を巻き、中心から炎をまとった巨大な岩が現れる。


 古代魔法、『隕石メテオ』。


 重力に逆らうことなく、要塞に吸い込まれるように落ちていく。


 直撃。

 

 ゴォォォォォォォッ!!


 上空からも被害が容易よういに想像できる。

 巨大な爆発から、キノコ雲。

 爆心地にはクレーターが出現し、周囲には火災が発生。

 火薬庫が誘爆し、半壊した要塞から火柱が上がる。


 堅牢けんろうで有名な要塞が、一瞬で壊滅。


「……すごいな」


 言葉を失う。

 天才という言葉じゃ足りない。彼女は、エル姉の域にいた。

 どんな優秀な魔法使いでも、初めて放つ魔法で成功させる事は不可能に近い。

 しかも、古代魔法は理論だけでは説明できない、センスが必要。

 改めて、カトリーヌの優秀さに驚いた。


「ユリエル様。感謝いたします。私に、この機会をくださって」


 炎上する要塞を見下ろすカトリーヌ。

 戦場にいるとは思えない、清々しい顔。

 

 カトリーヌの奮闘のおかげで、エンシェントドラゴンの魔力消費は最小限に抑えられた。僕はドラゴンの背の上で、後ろから彼女を抱きしめて感謝を伝えた。


「カトリーヌ、本当にありがとう」


 耳元でそうささやくと、彼女は小さく「……はい」と応えてくれた。

 ドラゴンは大きく翼を広げ、進路を別邸へと変えた。 


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