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【ネクロマンサー】死んだ最強の姉が僕を溺愛して離してくれない――亡国の王子は帝国を蹂躙する  作者: アヲル。


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第31話 南の別邸

 視界に広がるのは、南方の丘陵きゅうりょう地帯。

 遠くに白亜はくあの屋敷が見えた。

 エンシェントドラゴンは羽ばたきを止め、滑空かっくう状態に。

 広い芝生しばふの上を滑るように、着陸する。


「……着いたよ」


 エンシェントドラゴンの巨大な背中から飛び降りる。

 着地と同時に膝をついた。

 魔力の枯渇こかつ


 指をパチンと鳴らす。

 エンシェントドラゴンは黒い霧となって消えた。


 ……燃費が悪すぎる

 しかも、絶対防御インペリアル・ガードの展開も同時並行。

 さすがに無茶が過ぎた。


「ユリっ! 無理しすぎよ!」


 実体化したエル姉があわてて肩を支えてくれる。


「大丈夫……。とりあえず、連戦が続いたから少し羽を伸ばそう」


 フラフラの足取りで、丘の斜面を下る。

 森の入口に、石碑せきひ

 そこには、クリスタリア王族しか知らない隠し通路がある。

 石碑に刻まれた紋章に魔力を流し込む。


 ゴゴゴ……。


 重厚な石の扉が、十数年ぶりに主を迎え入れた。

 そこにたたずんでいたのは、白亜の別邸。


「魔法障壁が、まだ生きてる……」


 カトリーヌが驚愕きょうがくという顔をしていた。

 元帝国の魔導師からすれば、滅びた国の遺産が完璧に動いているのは異常事態なんだろう。


「ここは僕の避難所だ。……カトリーヌ、悪いけど」


「お任せください。この邸宅を、ユリエル様に相応しく磨き上げてみせますわ」


 返事を聞く前に、彼女はどこからかメイド服を取り出していた。

 カトリーヌは、仕事ができる。

 大理石があっという間にピカピカ。職人芸。

 魔法の才もあるが、家事スキルの才もある。


 屋敷を任せて、僕とエル姉は買い出し。


「エル姉、行くよ」


「ええ! 確か近くに、ちっちゃい町があったわよね!」


 エル姉は楽しそうに屋敷にあった、質素な服に着替えた。

 僕たちはフードを深く被り、近くの町へ。

 かつては馬車で通り過ぎるだけだった街だ。


「ねぇ、ユリ、見て! あの鳥、足が一本だわ!」


「あれは一本鶏だね。確か、モモの部分が美味しいんだ。多めに買おうか」


 王国の隠し財産を惜しみなく使う。

 宝石や金貨。

 今の僕らには、使い道のないただの石っころに等しい。

 最高級の肉、果実、ワイン。

 荷台がみるみる山積みになっていく。


「ねえ、ユリ。あそこの服屋さん……寄ってもいいかしら?」


 エル姉が遠慮がちに指差したのは、街で一番大きな服屋。

 復讐と殺戮さつりくの日々。

 そんな中で彼女が見せた、めずらしい「女の子」らしい一面。


「……うん、好きなだけ見て」


 店に入った瞬間の、エル姉の瞳。

 キラキラしすぎて眩しい。

 彼女は僕を試着室の前に立たせると、次から次へと服を運んできた。


「これは派手かしらっ! こっちは大人っぽすぎるかしら? ああ、このベストも似合いそう!」


「ちょっとエル姉、僕は着せ替え人形じゃないんだけど……」


 苦笑しつつ、言われるがままに袖を通す。


 仕返しだ。

 僕も彼女に似合いそうなドレスを選んでみた。


「じゃあ、お互いが選んだやつを着て帰ろう」


 僕が選んだのは、深い深紅のワンピース。

 彼女の薬指にある、僕の血と魔力を込めたルビーと同じ色だ。


「……私の指輪と同じ色。嬉しいわ、ユリ」


 エル姉が鏡の前で、顔を赤くして微笑んだ。

 ちなみに彼女が僕に選んだのは、白いシャツに深い緑のベスト。

 シンプルだけど質が良い。

 エル姉は、僕の好みを理解している。


 夕暮れ時。

 荷台を引く僕の隣で、エル姉がそっと腕をからめてきた。


「……こうしていると、なんだか本当のデートみたいだね」


 何気なく言ったつもりだった。

 が、エル姉の顔面が爆発した。真っ赤だ。


「デ、デ、デート!? そうね……ユリとお姉ちゃんの、……ふふ、ふふふ……」


 妄想が加速し始めた、その時。


「おいおい、見ろよ。ガキが、女を連れてやがる」


 路地裏から現れた、汚い笑い声。

 ゴロツキは、本当にどこにでもいる。

 害虫と一緒だ。


「エル姉! 争いはダメだよ、禁止!」


 一応、エル姉にくぎを刺す。

 せっかくの休暇だから、適当に納めたい。


 ナイフをチラつかせ、僕らの道を塞ぐ。


「おい、クソガキ。その荷台を置いていけ。さもなくば、その女ごと――」


 拘束バインドで黙らせようとした瞬間。


 ――ヒュンッ。


 剣が空気を切り裂く音。

 次の瞬間、僕を「クソガキ」と呼んだ男の首が、ポーンと宙を舞った。


「え……?」


 横を見る。

 先ほどのニコニコしていたエル姉の顔が消え、殺意をまき散らすオーラが噴き出す。


「私の……可愛いユリを、『クソガキ』とけなしたわね?」


 逃げる男たちの首を一瞬で斬り飛ばした姉を、慌てて抱きしめて止める。

 彼女の体は怒りで小刻みに震えていた。


「だって……ユリの悪口言うから……」


「ダメだよ。目立ちたくないって言ったでしょ。……帰ったら、お仕置きだからね」


 冷たく告げると、エル姉は「ごめんなさい……」としおらしくうつむいた。

 ……でも、口元がニヤけているのを、僕は見逃さなかった。


 地面に転がっている死体に、死者召喚ネクロマンスを発動させる。


「君たちは清掃員だ。町の清掃を命令する。綺麗になったら勝手に成仏していいよ。……わかった?」


 虚ろな瞳で立ち上がった清掃員は、コクリとうなずき清掃を始める。

 徳を重ねて、来世ではまともになってくれ。

 僕は一応、手を合わせる。



 屋敷に戻ると、メイド服のカトリーヌが三つ指を立てて出迎えてくれた。

 でも、額には薄っすらと汗。


「お帰りなさいませ、ユリエル様。……申し訳ありません、お風呂掃除までは手が回りませんでしたわ」


 僕は荷台から、彼女のために選んだ青いワンピースを取り出した。


「お疲れ様。これはプレゼント。そのメイド服を脱いで、こっちに着替えて。今日はもう休んで」


「……っ! 贈り物……! わかりましたわ、今すぐ、この場で!」


 感激のあまり、僕の前でメイド服を脱ぎ始めた。

 露出狂か。


「ちょ、待て! 部屋で着替えて!」


 彼女を部屋へ押し込み、そわそわしているエル姉に向き直る。


「さて、エル姉。約束通り、お仕置きだ」


「は、はい……」


 カトリーヌの脱ぎ捨てたメイド服を突きつける。


「これを着て、今日は僕のメイドとしてつかえること。言葉遣いも態度も、すべて『主人』に対するものに変えてもらうよ。いい?」


 元王女であり、世界最強の魔剣士。

 そんな彼女にとって、給仕服きゅうじふくかしずくのは屈辱くつじょく……のはずだった。


「……ユリの、メイド。ご主人様と、不埒ふらちな関係の、メイド……」


 ほおを赤くさせ、メイド服をひったくると着替え室へ猛ダッシュ。

 ……思った反応の逆で、不安になる。


 数分後。

 そこには、少したけの短いスカートから白い太ももをのぞかせた「最強の姉」がいた。


「準備ができました。……ご、ご主人様」


 顔を真っ赤にして、スカートの端をつまむ彼女。


 えっ、破壊力が強すぎない? 思わずドキドキしてしまった。

 気を取り直す。


「……よっ、よし。じゃあ、まずは風呂掃除だ。エル姉……じゃなくて、エルミリア!」


「はい! わかりました……ご主人様っ!」


 彼女は掃除用具を抱え、不慣れな足取りで風呂場へ消えていった。


 ……数分後。


 ガッシャーン!! ドォォォンッ!!


 天をあおぐ。

 明らかに、掃除の音ではない。

 エル姉は、最強だけど、家事はポンコツだった。

 正直、カトリーヌに、いや自分でやった方が早そうだ……。



 苦笑いしながら、エル姉の元へと駆け出す。


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