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【ネクロマンサー】死んだ最強の姉が僕を溺愛して離してくれない――亡国の王子は帝国を蹂躙する  作者: アヲル。


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第27話 兄弟

「……まさか、よりにもよって、クリスタリアの王子につかえるなど。ヴェール家の恥さらしが。死んでその汚名をそそぐがいい、カトリーヌ!」


 にらみながらそう言い放ったのは、ディバール・ヴィ・ヴェール。

 カトリーヌの実の兄。

 絵に描いたような選民思想の塊。

 ザ・貴族のたたずまい、しかも帝国一の槍使い。


 その隣には、聖女セシリア。

 慈愛に満ちた笑顔。

 だけど、瞳の奥は全然笑っていない。

 一番、闇を抱えていそうなタイプだ。


「あらあら、ディバール様。そんなに怒っては、せっかくのお顔が台無しですよ?」


 聖女は祈るように手を組み、僕たちを見た。


けがれたクリスタリアの民は、浄化という救済でしか救えません。さあ、神の御許へ送ってさしあげましょう!」


 ああ、やっぱり。そーゆー系か。

 カトリーヌは杖を握りしめ、かつての兄を冷たく見据みすえる。


「はぁ……残念ながら、お兄様の頭では理解できませんわ。説明するのも面倒なので引いて下さりません? 私はもう、ヴェール家を捨てましたので。お気になさらず」


 カトリーヌがあおり散らかす。


「ふ、ふざけるなよ、この出来損ないがっ!」


 戦いのゴングが鳴った。


 開戦の瞬間。


 ――エル姉が飛び出した。

 不意打ちに近い。


「隙だらけね」


 シュパァァァンッ!


 容赦なし。

 エル姉の魔剣が、聖女の首をあっさりとね飛ばした。

 ゴロン、と転がる頭部。

 雪が赤く染まる。


「……え、終わり?」


 あまりの速さに、僕も一瞬拍子抜けした。

 後衛職が無防備にしていれば、こうなるよね。

 納得。


 ……のはずだったんだけど。


「……ふふ、いきなり酷いことするわね」


 声がした。


 見ると、聖女が首を繋ぎ合わせて立っていた。

 傷一つない、綺麗な首。

 ホラーかな?


「固有スキルかしら?」


 エル姉が小首をかしげる。

 聖女は勝ち誇ったように笑った。


「私の固有スキルは『犠牲の命(サクリファイスハート)』。私が死ぬたびに、ヴォルガルドが支配するクリスタリアの奴隷が身代わりになって死ぬ契約なの。……ウフフ、間接的な同族殺しね、エルミリア様?」


 ……うっわぁ、性格悪い。

 死者召喚ネクロマンス並みに、性格が悪い。

 うん。僕の知ってる聖女じゃないな。

 だけど、エル姉は冷静だった。


「なるほどね。じゃあ、殺さなければいいだけだわ」


 ディバールの猛攻を片手でさばきながら、エル姉が即答する。

 斬っても元通り。

 なら、答えは一つ。


 エル姉は再び聖女へ接近。

 その細い首を掴み上げた。


「うっ……!?」


「殺さない程度に締め上げれば、詠唱もできない。意識を飛ばしたまま、生かさず殺さず……。喉潰されることは想定してないの?」


「……うぐっ、いやっ……や……て……。くるし……ぃ……っ。だれ……だれかぁ……っ!」


 聖女の顔がみるみる鬱血うっけつし、白目をく。


 ゴキッ


 エル姉は笑顔で喉を潰す。

 まるで糸の切れた人形のように、四肢ししが脱力する。

 失禁。


「……これじゃ、いじめちゃったみたいじゃない」


 聖女を地面に放り投げて、溜息ためいきをついている。

 やっぱり、僕の姉は最凶だ。



 一方、カトリーヌとディバール。

 魔術と槍が交錯こうさくする。


「なぜだ! なぜ当たらん!」


 ディバールの突きは鋭い。

 だけど、カトリーヌの極小障壁が、その軌道を数ミリだけらしていく。


 カトリーヌは魔術の天才だ。

 だからこそ、凡庸ぼんような努力家だった兄にうとまれ、しいたげられてきた。


 ディバールの瞳にはコンプレックスがある。

 どれだけ鍛えても届かない妹の背中。

 自分を追い抜いていく恐怖。

 それを隠すために、彼は傲慢ごうまんな態度で誤魔化していた。

 簡単に言えば小者だ。


「お兄様、……本当にお強くなられましたわね。でも、それ故に残念ですわ。ユリエル様のような才能がひとかけらさえ、あれば……」


 ……カトリーヌ、なかなかにエグいあおり。


「だ、黙れぇ! 黙れぇ黙れえええ!」


 兄は、煽り耐性0なのか、めっちゃ、怒っている。


 カトリーヌが上位魔法の詠唱に入る。

 強烈な魔力が渦を巻き、上空に超高温の火球を発生させる。

 直撃すれば、灰になることが、容易よういに理解できる。


 その時。


「……まっ! 待ってくれ! 頼む、殺さないでくれ、カトリーヌ!」


 ディバールが槍を捨てて膝をついた。

 涙を流しての命乞い。

 あまりにも情けない姿。先ほどまで態度とは、手のひら返し。


 カトリーヌの脳裏に、昔の記憶がよぎったのか……。

 一度だけ優しくしてくれた、兄の記憶。

 詠唱が、一瞬だけ途切れた。


「――かかったな、愚か者がぁ!」


 ディバールの顔から涙が消えた。

 代わりに浮かんだのは、してやったりの邪悪な笑顔。

 地面に落とした槍を素早く拾いあげる。


「死ねぇぇえぃ! 『雷槍サンダーボルグ』!!」


 至近距離からの超高速の光弾。

 回避不能。


 やばい!


 カトリーヌの障壁も間に合わない。僕の『絶対防御インペリアル・ガード』も間に合わない。


「カトリーヌ――!」


 バチイイィィィィンンンッ!!


 だけど、その雷を受けたのは彼女じゃなかった。


 間一髪。

 エル姉が、自身の体を盾にして割り込んだ。


「……っ、あ……」


 げた匂い。

 僕の、エル姉の背中が、赤く焼ける。




 ――ブチっ。

 僕の中で、切れる音がした。


「…………僕の、エル姉に」


「よくも……僕の姉さんに傷をつけたな……!」


 ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。


「……殺す」


 ディバールの四肢ししを、拘束バインドで捕らえる。

 十字架のように吊り下げられたやつに向けて、僕はレイピアを全力でぶん投げる。


 ザクッッ!!


 レイピアがディバールの肩を貫く。


「ぎゃあああああああぁぁっ!」


 叫びを無視して、捕らえた黒い手で地面に叩きつけ、馬乗りに。

 怯え切った顔面に、何度も拳を振り下ろす。


 ――ゴッ、バキィッ!


 その飛沫が四散しさんし、白銀の雪が赤く染め上げる。 


「ユリ、大丈夫よ。ほら? もう傷一つないから、……ユリの手が傷ついちゃう」


 心配そうに、声を掛けられて、我に返る。


 拳は血まみれで、ディバールは虫の息。


 僕は彼が落とした槍を拾い上げた。

 そして、カトリーヌを見る。


「カトリーヌ。……どうしたい?」


 カトリーヌは、無表情で僕に歩み寄る。


「……ユリエル様。その槍を、私に」


 受け取った槍を手に、彼女は兄の前に立つ。


「お兄様。……さようなら」


 一突き。

 正確にディバールの心臓を貫いた。


 沈黙。

 カトリーヌは返り血を浴びたまま、僕に告げた。


「ユリエル様……『魂喰ソウルイーター』を。兄の力を、あなたの糧に」


 魂を食らい、存在を消滅させる禁忌。

 それを彼女は自ら提案した。

 完全な決別。


「……ああ。わかった」


 召喚し、ディバールの魂を掴み出す。

 黒い霧が、僕の中に吸い込まれていく。


 ページが更新される音が聞こえた。


 獲得スキル:『雷槍サンダーボルグ


 新しい力が僕に宿る。

 僕はカトリーヌの肩に手を置いた。


「行こう」


 聖女は、気絶したまま放置した。

 殺さないで連れていくこともできるけど、普通に邪魔だ。

 とっとと、ドラゴンゾンビに会いたい。

 無駄な時間を過ごしてしまった。

 まぁ、攻撃系のスキルをゲットできたのは、思わぬ収穫だったけどね。


「……エル姉、大丈夫?」


 エル姉の焦げた背中は、僕の魔力で完全回復していた。

 魔力をゴッソリ持っていかれるが、やはりこの生命力は半端ないな。

 だからと言って、エル姉が傷つくのは別だ。


「ユリの魔力のおかげで、痛みもあともないわ! そんなことより、あんなに怒ってくれるなんてっ!! お姉ちゃん嬉しいっ!!」


 とりあえず、良かった。エル姉もカトリーヌも無事。

 ただ、連戦で少し疲れた。


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