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【ネクロマンサー】死んだ最強の姉が僕を溺愛して離してくれない――亡国の王子は帝国を蹂躙する  作者: アヲル。


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第25話 意外な追手

 幽霊船の船底部が、北の大陸の氷をガリガリと削り着岸する。

 流石にこの船で正規の港には着岸できないため、大きく迂回して人気ひとけのない浜へと乗り上げた。


 ようやく着いた。

 月光に照らされた海岸線は、見渡す限りの白銀世界。


「……約束通り、ここまでだ」


 僕がそう告げると、船内にいた船員がボウっと淡い光に包まれる。

 舵を握っていた船長や船員たちが笑っている。


「感謝……いたす……若き……主よ……」


 僕の死者召喚ネクロマンスによるブラック労働が、今ようやく終わった。

 呪いに縛られていた魂たちが、本来(かえ)るべき「輪廻の輪」へと昇っていく。

 幻想的な光景。

 僕は無言で手を合わせ、その光の柱を見送ることにした。

 待っている家族に会えるといいな。


「綺麗ね、ユリ。……いつか、私もあんな風に消えちゃうのかな」


 隣でエル姉が、しんみりした顔をしている。


「……もし、……もし、消えることがあるなら、僕も一緒だよ」


 僕は姉さんの冷たい手を、ギュッと握りしめた。

 姉さんの魂は僕が繋ぎ止める。

 ……これだけは、絶対に譲れない。


「ふふ、相変わらず独占欲が強いんだから。お姉ちゃん、困っちゃうわ」


 姉さんは嬉しそうに微笑んで、僕の肩にこてんと頭を預けてきた。

 背後ではカトリーヌが「あぁ、尊い……」などとブツブツ呟きながら悶絶している。


 船を降りると、視界がぐわんぐわんと揺れて平衡感覚がバグり始めた。


「ユリエル様、大丈夫ですか? 足元がフラついておいでです。私が支えましょうか?」

「大丈夫だよ。ありがとう、カトリーヌ」


 久々の陸地。大地を踏みしめる、この安心感は半端ない。

 幽霊船が砂となって崩れ去る音を背に、僕らは北の大陸へと第一歩を踏み出した。



 っすらと積もった雪道を歩く。

 ザク、ザクと雪を踏みしめる音が新鮮だ。

 王国では雪など年に一度降るかどうかだし、降っても積もることなんてまずない。

 すると、エル姉が雪を丸めて僕に投げつけてきた。


「ユリ! ほらっ、避けてみて!!」


 ――ボフッ!!


 僕の頭にクリーンヒット。

 僕は即座に拘束バインドでエル姉を縛り上げ、その襟元えりもとから雪を流し込んでやった。


「きゃああああ!! ユリ、背中に……ひゃあっ! 冷たいっ!!」


 お返しだ。


 そうしてたわむれながら歩いていると、小さな漁村が見えてきた。

 だが、その素朴な景色にはおよそ似つかわしくない、真っ黒な鉄甲の巨大な軍船が視界に飛び込んできた。

 マストにひるがえっているのは、ヴォルガルド帝国の国旗。


 ……面倒なことになった。


「帝国の船……。なんでこんな僻地へきちに」


 岩陰に隠れて、身を隠す。

 バルガスを消した時も派手にやったし、流石に動きを読まれていたか……。

 皇帝ゼノスにとって、僕はよっぽど目障めざわりらしい。

 まぁ、やっていること考えれば当然だけどね。

 僕らは国家転覆を狙っている、凶悪犯かテロリスト。何より王子殺しの実行犯だ。


「ユリ、見て。あの甲板にいる男、なんか見たことあるような……」


 エル姉が怪訝けげんな顔をして言う。

 視力を強化して、タラップを降りてくる集団を確認する。


「……テイラー?」


 そこには、士官学校でやり合ったテイラーの姿。

 あんまり覚えてないけど、エル姉に斬られて、確実に死んだはず。


「エル姉、殺してなかったっけ?」

「うーん。殺しちゃう相手の顔は覚えないのよね……どうせ死んじゃうんだし」


 エル姉は全く覚えていないらしい。

 まぁ、あの時はあんだけ殺したから、覚えていないのも仕方ない。


 ……ただ、せない。

 ん?

 テイラーの隣にいる白い法衣の少女を見て、納得。


 ……「聖女」か。


 帝国の聖女セシリアだ。彼女のスキルなら、死んで間もない状態なら復活可能だろう。

 ウードも生き返していたし。

 ただ聖女も確か、エル姉が斬り殺していたはず……。

 僕の魂固定ソウルアンカーと同じ、固有スキルか?


 問題はその後ろに立つ、一人の大男。

 赤い装飾の帝国正装。身の丈を超えるクソデカい槍。

 立っているだけで周囲の空気がビリビリと震えるほどの覇気。

 ただ、見たことがないが、見たことのある顔立ち。


「…………兄さん?」


 隣でカトリーヌが、顔面蒼白で震えていた。


「カトリーヌ、あいつ知り合い?」

「ヴェール家の長男……『暴槍ぼうそう』のディバールです。ほぼ一人で東の紛争地帯を制した、うちの一族の最高傑作。帝国一の槍使いにして……私の、実の兄ですわ」


 名門、ヴェール家。

 その最高傑作が、わざわざ東の戦線からこんな北の果てまで出張してきた。

 理由は簡単。

 僕らを確実に処理するために、送り込まれた刺客。


「……スルーして行こう。時間の無駄だし、なにより魔力がもったいない」


 僕は冷静に、判断する。

 バルガスのスキルで防御は完璧だけど、聖女のスキルや槍男の実力が不明だ。

 不確定要素が多いし、何より面倒ごとはまっぴらごめんだ。

 優先順位はしっかり付ける。

 まずは霊山に行き、ドラゴンゾンビをゲットするのが先だ。


「カトリーヌ、動ける?」

「……はい、ユリエル様。失礼いたしました」


 カトリーヌは自分のほおをパチンと叩いて、切り替える。

 でも、その目線は最後まで兄の背中を追っていた。


 身内が敵ってのは、なかなかにエグい状況だよね。

 エル姉が敵だったら、……考えただけでゲロ吐きそう。


 僕らは魚村を避けて、そのまま森へと逃げ込んだ。

 せっかくの北の大陸、美味しそうな海産物でも買い込んで補給したかったが……背に腹は代えられない。


 森を抜け、なだらかな丘を登る頃には、辺りはすっかりとばりが下りていた。


 眼前にそびえ立つのは、雲を貫く巨大な霊山。

 古の竜が最期を迎えた地と伝わるそこは、山全体が濃密な魔力に毒され、草木一本生えない死の世界だ。


「やっと見えてきたわね。……あそこに、ユリのペットがいるのね?」


 エル姉が楽しそうに、僕の乱れた髪を指先で整えながら微笑む。


「……ペットって、姉さん。一応、歴史に名を残すレベルの伝説級モンスターだよ?」

「でもユリ、小さい頃におっきいワンちゃん飼いたいって、言ってたじゃない! 名前、今のうちに決めておかないと」


「……そうね、コロなんてどうかしら?」


 ……。

 いや、どんなセンスだ。

 終焉しゅうえんつかさどる伝説の竜を捕まえて「コロ」って。

 エル姉の斜め上すぎるネーミングに、我慢していた腹筋が崩壊した。


「あははは! ちょっと姉さん、僕を笑い殺す気!? 苦しい……ッ」

「では、ポチなどはいかがでしょう? ユリエル様の従者として、それなりの威厳が必要かと!」


 追い打ちをかけるように、カトリーヌが真面目な顔で爆弾を放り込んできた。

 どこに威厳があるんだよ、それ。


「二人とも……っ、勘弁してくれ……っ。あはははは!」


 帝国軍に追われている自覚はあるのか。緊張感は0だ。

 まあ、復讐一辺倒いっぺんとうの旅も疲れるし、たまにはこれくらい明るい方がいいか。


 僕たちは、コロ(仮)が待つ頂上を目指して、一歩を踏み出した。


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