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【ネクロマンサー】死んだ最強の姉が僕を溺愛して離してくれない――亡国の王子は帝国を蹂躙する  作者: アヲル。


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第22話 決着

 日の出まで1時間前。

 まだ暗い空が広がっているが、遠く地平線にほんの少しのオレンジ。

 吐く息が白い。

 僕たちは、静かに宿を出た。


「ユリ、準備はいい?」


 僕の右目に宿るエル姉の意識が、問いかけてくる。


「もちろん。今日は姉さんが主役だからね。思う存分、暴れていいよ」

「ふふ、嬉しいわ。……前回は殺しそびれたからね。今回はちゃんと……」


 隣を歩くカトリーヌは、忠犬のような瞳で僕を見つめている。


「ユリエル様、このカトリーヌ、命に代えてもねずみ一匹逃がしはいたしません!」


 今回の作戦はシンプルだ。

 正面突破し、唯一の出入り口を封鎖、そこにカトリーヌを配置。

 あとは、僕とエル姉が大暴れして終わり。

 完璧だ。


 街の北側にそびえ立つ、成金趣味を極めた館。

 バルガスが徴収した税を注ぎ込んで、改築したというその建物は、夜明け前の薄明かりの中でも、不気味なほど白く浮き上がっていた。


 門の前には、眠たげな目をこする二人の衛兵。


「……ん? 誰だ、こんな時間に」


 一人が槍を構えようとした瞬間、僕の影がうように、衛兵の足元へ伸びる。


拘束バインド


 影の触手が彼らの喉と四肢しし容赦ようしゃなく締め上げる。悲鳴すら許さない。

 直後、エル姉が実体となる。


 ――閃光。

 エル姉が文字通り、光の尾を引いて駆け抜ける。


 スパァァァァンッ!


 二人の首筋から血が噴き出すより早く、彼女は既に門を蹴り開けていた。


「カトリーヌ、ここは任せたよ」

「かしこまりました。必ず、死守いたしますわ!」


 カトリーヌが門に背を向け、魔力障壁を展開し始める。これで増援は来ないし、バルガスの退路も断たれた。

 僕とエル姉は、黄金に彩られた内装と無駄に装飾が多い彫像が並ぶエントランスへと踏み込んだ。


「な、なんだ!? 何事だ!」

「侵入者だ! 賊を捕らえろ!」


 建物から、ガシャガシャと鎧の音が響く。

 その中心に、見覚えのある巨体があった。


 大元帥だいげんすい、バルガス。


 彼は寝巻きの上に無理やり鎧を引っ掛けたような無様な姿で、大盾を抱えながら階段を駆け下りてきた。


 僕を見つけた瞬間、バルガスの顔から血の気が引く。


「……! なぜここが……!」

「おはよう。遊びに来たよ、バルガス」


 僕はにっこりと、満面の笑みを浮かべた。


「この間の続きをしよう。……僕もそろそろ飽きてきたんだよ」

「……しつこいヤツめっ! 殺せ! そいつを必ず殺せっ!」


 バルガスの命令と共に、二十人近い帝国兵が抜刀し、僕へと襲いかかる。


「姉さんは、バルガスに集中して」

「わかったわ。……さあ、バルガス。十年前の続きをしましょうか?」


 エル姉の魔力が膨れ上がり、広間のシャンデリアがガタガタと震え、割れ落ちる。

 ……口調は冷静だが、怒っているのかな?


 僕は襲いかかる兵士の一人の刺突しとつを、最小限の動きで回避。

 その刹那せつな、僕のレイピアが、兵士の喉を正確に貫く。

 崩れ落ちる体。死を確認する。


「『死者召喚ネクロマンス』。……さあ、仲間たちを殺せ」


 たった今死んだばかりの兵士が、人形のような不自然な動きで立ち上がり、隣にいた仲間の背中に剣を突き立てた。


「なっ!? きっ貴様、何を――がはっ!」


 絶叫と困惑が広間を支配する。

 このやり方で、指数関数的に僕の手駒てごまが増えていく。

 地味だが、確実に敵戦力を削る。


 一方、エル姉とバルガスの戦いは、対照的に最初から本気モード。


「ウオオオオオォッ!」


 バルガスが大盾を構え、自身の固有スキル『絶対防御インペリアル・ガード』を展開する。

 空間が歪むほどの高密度になった魔力が、彼を物理法則の外側へと隔離する。


 エル姉は不敵に微笑むと、魔剣を上段に構えた。


「まずは挨拶代わりよ。――『閃光乱舞ルミナス・ストーム』!」


 光属性の魔力を刀身に宿し、風魔法で加速する剣の乱舞は、広間の中に巨大な光の嵐を起こす。

 無数の光の斬撃が、バルガスの盾に叩きつけられた。

 キィィィィィィィン! と、耳をつんざく金属音が連続し、バルガスの足元の床が衝撃に耐えきれず、ひび割れする。


「ぐ、ぬぅ……! おのれ、死にぞこないがぁ!」


 耐えるバルガス。流石は帝国の盾。

 エル姉は戦いながら違和感を感じていた。


 生前のエルミリアには、弱点があった。

 彼女の二つ名「閃光」の由来である、風と光を組み合わせた超高速戦闘。

 それは、人間の肉体の限界を遥かに超越ちょうえつしていた。

 音速を超える速度で剣を振るえば、その反動だけで自身の腕の骨は砕け、筋肉は断裂する。

 だから彼女はいつも、自分自身を壊さない程度に、その有り余る力にブレーキをかけていたのだ。


 だが。


「……そういえば、私。もう死んでるんだったわ」


 エル姉がポツリと呟く。

 今の彼女は、僕の魔力によって構成された死霊体。

 どれほど負荷をかけても、魔力を供給し続ける限り、肉体は瞬時に再生し、修復される。

 さらに、僕がエル姉に贈った指輪。

 そこから流れ込む膨大な生命エネルギーが、彼女の肉体を支えていた。


「ユリ、悪いけど魔力を頂戴。……お姉ちゃん、全力出しちゃうから」

「いいよ。持っていって」


 僕の魔力回路が逆流するほどの勢いで、彼女に力が流れ込む。

 エル姉の周囲の空気が、パチパチと放電し始めた。


「バルガス。あなたは運がいいわ。これ、私の初めてだから」


 エル姉が軽く一歩、踏み出す。

 その瞬間。


 バルガスの視界から、エルミリアの姿が消えた。


「なっ……速す――」


 音速の壁を突破した彼女にとって、バルガスの動きは止まっているのも同然だった。

 光そのものと化したエル姉が、空間を切り裂く。

 本来、多段ヒットの連撃であるはずの閃光乱舞ルミナス・ストーム

 だが、今の彼女が放つそれは、あまりの速さに全ての斬撃が重なり、一本の巨大な光の線と化していた。



「――閃光ルミナス



 バキィィィィィィィィィンッ!!!



 視界が真っ白に染まった。

 バルガスが絶対の自信を持っていた絶対防御インペリアル・ガードが、光の粒となって砕け散る。


「……ば、かな。俺の、盾が……」


 バルガスの言葉は、そこで途切れた。

 大盾と共に、彼の分厚い鎧も、鍛え上げられた胴体も、真っ二つに斬られていた。

 上半身がゆっくりと滑り落ち、絨毯じゅうたんを赤く染めあげていく。

 最強の矛と、最強の盾。

 その決着は、呆気あっけなかった。


 静寂が訪れる。


 僕の方も丁度、兵士たちの処理が終わったところだ。

 エル姉は、魔剣を鞘に収め、ふぅ、と小さく息を吐いた。


「……ちょっとやりすぎちゃったかしら。簡単に殺しちゃダメだった?」


 僕はゆっくりと、バルガスの死体へと歩み寄った。


「いいよ。バルガスに対してはもう興味がなくなってきたところだったし。それより、そのスキルに興味があるから」


 僕は左手を、まだ温かいバルガスの亡骸なきがらにかざす。


死者召喚ネクロマンス


 間髪入れずに。


魂固定ソウルアンカー


 魔力が「鎖」となって、僕からバルガスへと伸びる。

 ガチリ。

 魂の錠前が閉まる音がし、左目に熱を感じた。


『バルガスを登録しました。枠数:2/2』


 そして。

 新しく覚えた力。


魂喰ソウルイーター!」


「……バルガス。君の魂は、地獄へ行くことすら許さない。僕の中で、盾として働き続けてもらうよ」


 僕の手のひらから黒い霧が溢れ出し、バルガスから「魂」を無理やり引きずり出す。


 ゴオォォォォォッ!


 声なき絶叫。


 裏切りと虚栄に満ちた男の魂が、僕のスキルブックへと吸い込まれ、その存在の全てが世界から抹消まっしょうされていく。


 ページが更新される音が聞こえた。


 獲得スキル:『絶対防御インペリアル・ガード


「……よし。これで最強の盾をゲットだ」


 顔を上げると、東の空から太陽が顔を出していた。

 ポートリラの街を、朝日が照らし出す。


 復讐は何も生まないなんて言うらしいが、僕は満たされた気分だ。

 まぁ、帝国を滅ぼすまでは、完全には満たされないけどね。



 僕とエル姉は、門に戻る。


「あ、お怪我はございませんか? ユリエル様」


 カトリーヌが、返り血一つ浴びていない涼しい顔で迎え入れる。

 足元には、数人の帝国兵が転がっていた。


「大丈夫。姉さんの活躍あって楽勝だったよ。最強の魔剣士は伊達じゃないね」

「もう、ユリったら」


 エル姉が照れくさそうに笑いながら、僕の右目へと戻っていく。


 僕は、朝日を見つめながら呟いた。


「……とりあえず朝食だね」


 10年前の借りを返し終え、宿に戻る足は少し軽くなった。


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