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【ネクロマンサー】死んだ最強の姉が僕を溺愛して離してくれない――亡国の王子は帝国を蹂躙する  作者: アヲル。


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第20話 誓い

 ポートリラの正門前。

 潮風がベタついて気持ち悪い。

 ただ、海の香りに少しテンションが上がる。

 しかし、直ぐに僕のテンションは下がることになった。

 何故なら、街の入り口は、ガチガチの検問で封鎖されていたからだ。


「……物々(ものもの)しいですわね。ネズミ一匹通さないという気概きがいを感じますわ」


 カトリーヌがフードの隙間から毒づく。

 帝国兵たちが、手元の紙と通行人の顔を熱心に見比べている。

 あー、あれ僕の似顔絵だわ。

 横にいるのはカトリーヌ。

 指名手配。ビンゴ。


 バルガスの野郎、アメル村から逃げ帰って即座にこれか。

 仕事が早い。逃げ足も早いくせに、こういう所だけはマメなんだな。


 強行突破?

 そんなの簡単だ。

 右目の奥でエル姉が「全員なで斬りにしてあげる」と物騒なことを言っている。

 いつも通りのエル姉、平常運転。

 僕に敵対するものには、相変わらず簡単にブッコロスイッチが入る。


 でも、派手に暴れると船の確保が面倒になる。

 ここは穏便にいこう。

 ちょうどいい獲物が来た。


 豪華な馬車。

 ふんぞり返る帝国貴族。

 その後ろを引きずられるように歩く奴隷の一団。

 あれだ、完璧。


「姉さん、一番後ろの兵士。音を立てずに」

「お安い御用よ、ユリ」


 エル姉は顕現けんげんすると、一瞬で最後尾の兵士の喉をっ切る。

 僕はその瞬間にぼそりとつぶやく。


死者召喚ネクロマンス


 一瞬で殺し、一瞬でゾンビ化。

 エル姉と僕の連携完璧じゃない?


 光を失った兵士の瞳に、僕の魔力がともる。


「僕たちを『新しく買った奴隷』として列に入れろ。そして町に入って1時間後に死ね」


 命令。


 傀儡くぐつの兵士が、僕たちに汚い布を被せる。

 首には偽装の鎖。

 カトリーヌが「ユリエル様に鎖……可愛い……」と、恍惚こうこつとした顔をしていた。

 正直、ちょっと引く。

 僕にそういった趣味はない。


 検問突破。

 偽装の鎖を外す。


 太陽はまだ真上。街の喧騒けんそう

 門を抜ければ、そこは嘘のような活気だった。

 港町だから交易が盛んで、商人が集まり、様々な店が立ち並ぶ。

 魚の焼ける匂い。

 酔っ払いの笑い声。

 帝国の玄関口としてポートリラは帝都の次に栄えていた。


 路地裏のボロ宿を確保。


 宿を確保して一息つくと、猛烈に腹が鳴った。

 よく考えれば、アメル村を出てからこっち、まともな食事をしていない。

 カトリーヌが狩った魔物の肉を焼くか、保存食をかじるか。

 サバイバル生活にもほどがある。


「ユリ、お腹空いたわね。お姉ちゃん、美味しいものが食べたいわ」


 実体化したエル姉が、ぐう、と可愛らしい音を立てる。

 死人でも腹は減るのか? そんな疑問が頭によぎったが、僕のお腹も同じ音を立て考えるのをやめた。


「……あそこにしましょう。いい匂いがしますわ」


 カトリーヌが指差したのは、風に乗ってガーリックと魚介の香りを漂わせる大衆食堂だった。

 出てきたのは、ポートリラ名物の海鮮パエリアと、大ぶりのエビのアヒージョ。


「……っ、美味しい!」


 一口食べた瞬間、エル姉の顔が輝いた。

 口の中で弾けるプリプリの海老。

 魚介の旨味をこれでもかと吸い込んだ米。

 焚き火で焼いただけの硬い肉とは、天と地ほどの差がある。


「キャンプ飯も悪くないけど、やっぱりプロの料理は違うな」


 僕も夢中でスプーンを動かす。

 カトリーヌも「……悪くありませんわね」と言いつつ、無言でパエリアを口に運ぶ速度が尋常じゃない。


 数日ぶりの温かい食事。

 手の込んだ料理が、冷え切っていた五臓六腑ごぞうろっぷに染み渡る。


「ふふ、ユリ、口の横にソースがついてるわよ?」


 エル姉が指先で僕の頬をぬぐい、そのまま自分の指をペロリとめる。

 胃袋は満たされた。

 大満足で食堂を出る。


「カトリーヌ。君は買い出し。あと魔術書。帝国の最新術式を調べてきて」


 カトリーヌは魔術ヲタクだ。

 一緒に旅をしてわかったけど、暇さえあれば魔術書を読んでいる。


「御意。……ご配慮くださり、ありがとうございます」


 あ、気を使ったのバレたか。


 さて、次はエル姉だ。

 視界共有を一時的に断つ。

 待機モードへの移行。


「えっ!? なんで!? ユリ、お姉ちゃんに隠れてエッチな店にでも行くの!?」


 エル姉が半狂乱。

 待機モードで、耳元がうるさい。


「サプライズだよ。見られちゃ驚きがないでしょ」

「サプライズ……。わかったわ。一時間だけよ。一秒でも過ぎたら、待たせた時間だけ抱っこするから」


 重い。相変わらず、愛が重すぎる。

 でも、その重さが悪くないんだよね……。



 宝石店。

 店名はフェアリードロップ。

 一番高そうな店に入った。

 店主の顔には、金持ちが来たと書いてある。

 隠し財産の金貨を見せれば、接客はさらに丁寧になった。

 現金なものだ。


「僕の瞳と同じ色の、最高のルビーを。指輪にしたい」


 深紅のルビー。

 僕の国では、ルビーは燃えるような愛と生命力の象徴だ。


 僕は受け取った指輪に、自分の指を切って血を染み込ませた。

 店主が「ひぃ!」と悲鳴を上げたが無視。

 僕の魔力を練り込む。

 自分の魔力を定着させた特注品。

 これがあれば、エル姉はより人に近づく。

 僕の魔力がエル姉の血だからね。

 これで僕の存在を、肌で感じられるはずだ。





 夜、噴水広場


 人影が消えた広場。

 エル姉を顕現させる。


「エル姉。……眼を閉じて」


 彼女は期待に満ちた顔で、唇を突き出していた。

 キスでもされると思っているらしい。


「姉さん、左手を出して。目は閉じたまま」

「あら、積極的ね……」


 そっと、左手の薬指にルビーの指輪を滑らせる。

 冷たい金属。

 そこに宿る、僕の熱い魔力。


「……目を開けていいよ」


 エル姉がゆっくりとまぶたを上げた。

 夕闇の中で、僕の瞳と同じ色が光っている。


「これ……ユリの、瞳の色……?」

「もう離さない。僕たちは、ずっと一緒だ」


 エル姉の目から、しずくがこぼれた。

 死人なのに、涙。

 死んでいるとか、生きているとか、そんな理屈はどうでもいい。


「……これって、そういう意味でいいの?」


 うなずく。


「言ったでしょ、ずっと一緒だって」

「ユリ……嬉しい、嬉しいわ……」


 泣きじゃくる姉を抱きしめる。

 頬にそっと、キス。


「愛してるよ、姉さん」


「私もよ、ユリ……」


 月が二人を静かに照らし、二人の影が一つになった。






 宿。深夜。


 カトリーヌが帰ってきた。

 山積みの魔導書。

 彼女はエル姉の指輪を見た瞬間、さっする。

「ユリエル様、やりますね!」と、エル姉に詳細詳しくと質問攻めにする。


 エル姉は照れながら、カトリーヌと女子トーク。

 僕は少し気まずいので、早めにベッドに潜り込む。

 本当は明日のことを話し合うつもりだったんだけど。


「ねえ、カトリーヌ」


 エル姉の声が、楽しげに弾んでいる。

 自慢げにかかげられた左手。

 その薬指で、ルビーがまばゆくく光っていた。


「見て見て? これ、ユリが私のためだけに選んでくれた指輪なの」


 姉さんの声は、勝利宣言のようだ。

「どう、うらやましいでしょう?」という顔をしている。


「……っ! なんという……なんという禍々しくも、美しい輝き……!」


 カトリーヌが、その指輪を見て悶絶していた。


「ユリエル様の魔力が、指輪を通じてお姉様に直接注がれている……! ああ、うらやましい! なんという背徳的はいとくてきつながリ方……! お姉様、その指輪を少し、ほんの少しだけでいいので、私にも触れさせていただけませんか!?」

「だーめ。これはユリと私の絆だもの。貴女には、絶対に触れさせないわ」


 エル姉はニッコニコで指輪を隠し、カトリーヌは「ああ……!」と地面に崩れ落ちる。

 壁が薄いから声がダダれだ。さわがしい。


「明日は早いから、もう寝るよ!」


 僕は少し大きな声で女子会を終わらす。


「はーい!」


 二人が返事すると、そのまま僕のベッドに入ってきた。

 いやいや、3つベッドあるでしょ。

 突っ込んでいると、二人はそのまま寝息を立てる。


 僕が先に寝たはずなのに……、そんなことを考えていると久々のベッドの温もりにまぶたが落ちていった。


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