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【ネクロマンサー】死んだ最強の姉が僕を溺愛して離してくれない――亡国の王子は帝国を蹂躙する  作者: アヲル。


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第18話 バルガス

 帝国の砦。

 数時間前までは戦勝ムードで酒盛りしてたらしい。

 今は、僕らの夜襲が成功し、砦全体が混乱状態だ。


「な、なんだこいつらは! 突き刺しても止まらんぞ!」

「ひいっ、死んだはずの村長が……俺の喉を――がはっ!」


 帝国兵の情けない悲鳴。

 松明たいまつに照らされているのは、世にも奇妙な光景。


 昼間、兵士たちが娯楽感覚で蹂躙じゅうりんしたアメル村の住人たち。

 彼らが黒い霧をまとって、感情の消えた瞳で壁をスルスルとい上がってくる。

 腹を貫かれようが、腕を落とされようが、彼らはお構いなしだ。


 ドォォォォン!


 カトリーヌが放った、紅蓮の炎(プロミネンス・フレア)

 主塔に直撃して、夜空が真っ赤に染まった。


「ふふ……あははは! 燃えなさい、ゴミ共! ユリエル様の安らぎを汚した罪、その命の炎で浄化してさしあげますわ!」


 ブッ壊れた笑い声を上げるカトリーヌ。

 彼女、実力は本物なんだけど、性格に難がありすぎる。

 

 ……あぁ、半分は僕のせいか。


 帝国兵は必死に村人を斬りつけるが、何度でも立ち上がる。


「……無駄だよ。彼らは痛みを知らない。君たちへの恨みだけを燃料にして動く死者の兵隊だ」


 そんな混乱の最中。

 砦の奥深くに、一人の男がいた。


 バルガス。

 元・王国騎士団長。

 今は帝国の大元帥だいげんすいにまで出世した、裏切りのエリート様だ。


(……勝ち目はない。あのガキ、ネクロマンサーだと? ありえん。いや、それよりもあの異常な魔力。まさか……!)


 彼の生存本能は、一級品だった。

 即座に撤退の用意。

 部下を見捨て、秘密の脱出路へ。


「死んでたまるか。俺は、この乱世を最後まで生き残る男だ……!」


 重い鎧の音を殺して、森へと続く崖道に出る。

 背後で部下たちの断末魔が聞こえるけど、彼には時間稼ぎの駒としか思っていない。


 でも。

 その逃走は、さえぎられた。


「あら、バルガス。そっちはパーティ会場じゃないわよ?」


 バルガスの心臓が、ドクンと大きく跳ねた。

 まるで背中に氷水を流し込まれたような顔をしている。


 ゆっくりと首を巡らせた先。

 月明かりを背に、岩場に腰掛けていたのは一人の女性。

 十年前、彼が自分の手でトドメを刺したはずの相手だ。


 凛とした顔立ちに、白銀の鎧。

 そして、手には禍々しい魔剣。


「……エル、ミリア……。王女、殿下……」


「久しぶりねぇ、騎士団長。相変わらず、逃げ足だけは一級品みたいで安心したわ」


 エル姉はにっこりと微笑む。

 でも、瞳はこれっぽっちも笑っていない。

 深淵しんえんよりも暗い黒。


「なぜだ……。心臓を貫いたはずだ! 貴様は死んだ! 死んだはずだ!」


「ええ、死んだわ。でもね、ユリが呼んでくれたの。あの子が私を離してくれないから……お姉ちゃん、頑張っちゃうことにしたのよ」


 バルガスは唇をむ。

 彼は知っている。エルミリアという魔剣士が、どれほど人間の域を超えた存在かを。


 十年前。

 彼がエル姉を後ろから不意打ちした理由。

 正面から戦えば、自分が両断されると確信していたから。

 王国最強の盾と呼ばれた彼ですら、彼女の剣筋を視認することすらできなかった。


「……化け物め。死してなお、亡霊となって俺の邪魔をするか!」


「邪魔? 違うわ。これはお掃除よ。ユリが歩く道に、あなたみたいな汚いモノは必要ないもの」


 エル姉が岩場から飛び降りる。

 着地と同時に、地面が割れる。


「さぁ、死になさい。ユリを悲しませた罪、一万回殺しても足りないわ!」


「ハァッ!」


 エル姉の魔剣が、空気を切り裂いてバルガスの脳天へ。

 凄まじい衝撃波。

 バルガスは反射的に大盾をかかげ、全魔力を一点に集中させた。


 ――パキィィィィィン!


 空間が割れるような高音。

 魔剣が大盾が接触し、火花が散る。


「……へぇ、これを防ぐの。少しはマシになったのかしら?」


めるな! 俺は帝国の盾だ! パラディンの真髄しんずい、見せてくれるわ!」


 彼の固有スキル。絶対防御インペリアル・ガード

 発動中は物理も魔法も無効化。

 文字通りの鉄壁のガード。


「はあああああぁぁっ!」


 バルガスが大盾を突き出す。

 エル姉は重力を無視した動きで宙を舞う。

 空中で体をひねり、盾の隙間――足元を狙って神速の刺突。


「無駄だ!」


 バルガスはそれを受け流し、盾を構えてガードに集中する。


 僕は崖の上から、その様子を観察していた。


(……なるほど。あの盾、魔力との親和性が高い。自身の魔力を変換して、盾の表面に超高密度の魔力皮膜を形成してるのか)


(死霊化した後もあの防御能力が維持できるなら、僕の駒としては最高級の盾になる。エル姉の攻撃を受け続けられる素材なんて、そうそういないしね)


「姉さん、壊しすぎないで。その盾、後で僕が使うから」


 僕の淡々とした指示に、エル姉が不満そうに頬を膨らませる。


「ええー? こんなゴミ、すぐにミンチするつもりだったのに……。わかったわ、ユリのお願いなら少しだけ手加減してあげる!」


「手加減だと……! ほざけぇ!」


 バルガスは怒りに任せ、盾を両手で握り直した。


 エル姉の構えが変わった。

 魔力が青白い炎となって、周囲の木々を焼きがす。


「手加減って言っても……死なない程度、って意味だけどね」


 エル姉の影が消えた。

 バルガスが視界から彼女を見失った瞬間、背後から強烈なプレッシャー。


「……っ!?」


 殺気を感じ取り、背後に絶対防御インペリアル・ガードを展開。


 バキィィィイインッ!!


 エル姉の蹴りが盾を直撃した。

 巨漢の体が、数メートルも後退させられる。


「あはは! 固いわね、本当に! 蹴り甲斐がいがあるわ! 楽しいわっ!!」


 ダンスを踊るように高速移動しながら蹴りを放つエル姉。


 バルガスは防戦一方。

 盾の裏側で、腕の骨が悲鳴を上げているのが見える。

 魔力が底を突き始め、体力もゴリゴリ削られる。


(化け物め……。これ以上は持たん……! 何か、何か手は……!)


 その時、バルガスの瞳に「捕虜」がうつった。

 兵士たちが逃走の盾にしようと連れてきた、アメル村の生き残り。

 その中には、小さな少年がいた。


「……こっ、これだぁっ!」


 瞬時に移動し、怯える少年の首根っこをつかみ上げた。


「動くな! エルミリア、そしてユリエル! 剣を引け!」


 姉さんの動きが止まる。


「汚い真似を……」


「ハハハ! 英雄気取りの王子様には、ガキ一人の命も重いだろう!? この命が惜しくば、道を空けろ!」


 バルガスは少年の喉元に、剣を突き立てる。

 少年は恐怖で声も出せずにガタガタと震えていた。


「ユリ……どうするの?」


 エル姉が静かに問いかける。

 僕は無言でゆっくりと地面に降り立った。

 バルガスとの距離、十歩。


「バルガス。……君は本当に、救いようのないクズだ」


「何とでも言え! 生き残れば正義だ! さあ、死霊たちを退かせろ!」


 僕は一歩、踏み出す。


「わかった。ただ、その少年を離せ。手は出さないが、他に要求をするなら少年ごと斬り殺す」


 これが最大限の譲歩じょうほ

 飲まないなら、手加減はしない。


「わかった。……だが、お前らが嘘をつかないか心配だ。すこし離れろ」

 

 いやいや、お前に疑われるのは心外だ。


 僕らからかなり離れたところで、少年を解放して逃げ出すバルガス。

 重装なのに、物凄い逃走速度。

 ちょっと笑える。


「ユリ、よかったの? 追いかけて殺すこともできるけど?」


 エル姉がストレッチをしながら話しかける。


「あんな小物、いつでも殺せるから別にいいよ、バルガスはエル姉を殺した張本人だから、ジワジワといたぶって殺したいし……それより」


 少年に近づき抱き寄せる、背中には深い斬り傷。

 

(あぁ、これはもたないな)


「……大丈夫だよ。村に帰ろう」


 そう言いながら、背負う。


 アメルの村に着くころ、僕の背中の少年の体温は冷たくなっていた。


 村人の数だけ穴を掘り、丁寧に埋葬。

 道端に咲いていた小さな花を一輪ずつ花を添えた。


「……巻き込んでごめん」


 手を合わせ、もう人と関わるのはやめると誓う。

 優しさは時に隙を生む。優しさはエル姉だけに向けよう。


 眼を開ける。


「バルガスを追うよ。たぶん逃げる方向から察するにポートリラだね」


 そこはバルガスが私物化して支配している町だそうだ。

 自分の庭なら安全だとでも思っているのかな。


「ふふ、ユリエル様。あえて泳がせたのですね、流石の采配ですわ」


 カトリーヌが称賛してくる。


「元々、立ち寄る街だったからね。目的が2つになっただけだ」


「さて。姉さん、カトリーヌ。行こうか」


 一行は朝日を背に、ポートリラへと足を進める。

 

 バルガスは、絶対に逃がさない。

 地の果てまで追いかけて、生まれてきたことを後悔させてやる。


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