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【ネクロマンサー】死んだ最強の姉が僕を溺愛して離してくれない――亡国の王子は帝国を蹂躙する  作者: アヲル。


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第16話 夜営

 夜。北へ続く森。

 暗闇がすべての音を飲み込み、森全体が静まり返る。


 目の前に広がるのは、天を突くような巨木が連なる。

 ここを抜ければ、小さな村落があるとのこと。そこから北へ進むと、豊かな漁場を持つ港町ポートリラだ。


 とはいえ、道のりは最悪。

 足場は悪いし、魔獣も多い危険地帯。

 遠足気分で行ける場所じゃない。


「ユリエル様、前方。魔獣の気配が十」


 カトリーヌが鋭い声を出した。

 元・帝国のエリート魔導師。

 今は僕への狂信的な忠誠心に全振りした、忠実な猟犬だ。


 草むらから現れたのは、筋骨隆々《きんこつりゅうりゅう》とした十匹のゴブリン。

 錆びた棍棒こんぼうを振り回し、薄ら笑いを浮かべている。

 正直、見るに堪えない。

 ……何でゴブリンって、こんなに存在がかんさわるのだろう。


「ユリエル様、そしてお姉様。あのような小者に、お手をわずわせる必要はございません」


 彼女が前に出る。

 指先が複雑な魔法陣を描き、大気がピリッと震える。

 魔力を凝縮。


「焼き尽くせ――炎の矢(プロミネンス・レイ)!」


 精密な魔法。

 紅蓮の炎が矢となって、ゴブリンを飲み込んだ。

 悲鳴を上げる暇もない。一瞬で炭化。

 辺りに肉の焼ける嫌な臭いが漂う。


「いいね、お見事。カトリーヌ、君を連れてきて正解だったよ」


 僕が肩を叩くと、彼女は照れながら顔をほんのり赤く染める。

 陶酔とうすいしきった顔でひざまずく。

 ……忠誠心がちょっと重い。いや、嬉しいんだけどね。


 だが、背後から激しい嫉妬のオーラを感じる。


「私なら、もっと早く確実に倒せたわよ! もっとお姉ちゃんを頼って!」


 実体化した姉さん、エルミリア。

 不機嫌そうに唇を尖らせている。

 なんか、カトリーヌと張り合う。


「わかってるよ、姉さん。姉さんの強さは僕が一番知っているから」


 手を握る。

 すると、嫉妬のオーラは一瞬で収束した。

 一転して、ご機嫌な笑顔に変わった。チョロすぎる。


「当面の目的は、北の霊山にいる『ドラゴンゾンビ』……あいつを僕の『魂固定ソウルアンカー』で使役したい。たぶん簡単には勝てないから、必ず姉さんの力が必要になる」


 ドラゴンゾンビ。

 クリスタリア王国の王立図書館において、禁書きんしょに等しい扱いを受ける『北部魔物生態録』。その古びたページにきざまれていたのは、生ける亡者と化した最強の竜――すなわち、破滅を象徴する超危険モンスターの名だった。

 

 記憶が確かならば、その居所は港町ポートリラから船で渡った先、遥か彼方の大陸にそびえる「霊山」に住まうという。


「……ユリが言ってた「火力」ってドラゴンの事だったのね、確かにドラゴンなら帝国の軍隊に匹敵する戦力ね。ふふ、トカゲ退治楽しみ」


 トカゲ……。

 エル姉にとっては、ただのデカいトカゲとしか認識していない。

 ちょっと心配になる。




 深夜


 夜営の準備。

 この三人のチームワークは、奇妙なほど調和していた。


 カトリーヌは「お二人に従者の真似事などさせられません!」と息巻く。

 魔法で整地し、得意の火魔法で焚き火を作り。豪華なテントを設営。

 川から水を汲んでくる。至れり尽くせりだ。


 一方の姉さんは、「ユリに栄養をつけさせなきゃ」と森へ消えた。

 数分後、巨大な角を持つシカを片手で引きずって戻ってくる。


「さあ、ユリ。存分に腕を振るって?」


 僕は苦笑しながら、ナイフでシカをさばく。

 ボロ小屋でお金がなかった頃に身に着けたサバイバル術。

 あの頃に身につけた技術が、こんなところで役に立つとは。


 焚き火であぶられる肉。

 焼きすぎると硬くなるので、少し離してあぶる。

 したたる脂。芳醇ほうじゅんな香り。

 胡椒で臭みを消し、軽く塩をかける。


(本当はハーブとかあるといいんだけどね、まぁシンプルイズベストってことで)


「……美味しい。素材の良さを存分に引き上げる丁寧な仕事、流石です!」


 カトリーヌが涙を流して食べている。

 そこまでか。


「当然よ。ユリの愛情がもっているんだもの」


 エル姉は僕の隣をキープ。

「あーん」で肉をねだり、至福の表情で咀嚼そしゃくしている。

 ちょっといびつだけど、穏やかな時間。


 だが。


「――ユリ。ネズミが三匹、紛れ込んだわ」


 エル姉が臨戦態勢に入る。

 魔剣の柄に手がかけられる。


 闇の向こう。

 気配を殺したつもりの影が三つ。

 帝国の暗殺部隊。


「仕事熱心な奴らだね」


 僕は食事を止めない。

 カトリーヌが杖を構えるが、姉さんが手で制した。


「カトリーヌ、あなたは下がっていなさい。今度は私の番よ」


 立ち上がるエル姉。

 瞬間、闇から三人の黒装束が飛び出した。


「くくく、見つけたぞ。ネクロマンサー。帝都を血に染めた報いだ!」


 暗殺者のリーダーが余裕の笑みを浮かべる。

 僕らが恐怖で動けない獲物に見えているらしい。

 おめでたい奴らだ。


「エルミリア様、応援しておりますわ!」


「がんばれー、姉さん。期待してるよ!」


 僕とカトリーヌは、観戦スタイル。

 肉を頬張りながら声をかける。

 舐めきった態度に、暗殺者たちの顔が怒りに歪んだ。


「貴様ら……! 自分がどんな状況かわかっているのか! この快楽殺人者のガキが! 貴様の首は我が主に捧げ、その女共は――」


「――口を慎みなさい、ゴミくず


 姉さんの姿が消えた。

 速すぎた。


「ユリを……私の最愛の弟を、汚い言葉で馬鹿にしたわね?」


 暗殺者の背後に、死神。

 剣すら抜かない。

 素手で、男の腕を文字通り「ねじ切った」。


「ぎゃあああああああ!!」


「うるさいわ。邪魔よ」


 蹴りが、もう一人の胴体を貫通。

 鉛筆で紙をバスっと貫いた感じ。

 男は腹は肉片となって、木々に飛び散った。


「姉さん、待って! 一人は生かしておいて!」


 情報の聞き出し。

 帝国側の情報が必要だった。

 最後の一人。震えるリーダー。

 だが、姉さんの沸点はとうに超えていた。


「この虫ケラが……ユリを侮辱した。ちりも残さないわ」


「姉さ――」


 制止は届かない。

 指を鳴らした瞬間、空間が圧縮。

 男は肉のミンチに変貌へんぼうした。


 静寂。

 あるのは血肉の跡だけ。


「……あ。……ごめんなさい、ユリ。つい、手が滑っちゃって」


 可愛らしく首をかしげる姉さん。

 返り血を一滴も浴びていないのが、逆に怖い。


「姉さん。……これ、二回目だよ」


「えっ……」


「前も王子を殺しちゃっただろ? 最近、ちょっとわがままが過ぎるんじゃないかな」


 僕は立ち上がり、ゆっくり歩み寄る。

 冷徹な視線を向ける。


「……っ!」


 世界最強の彼女が、僕の視線一つで硬直。


「次は、ないよ。もし次、言うことを聞けなかったら……罰を与えるからね」


「ば、罰……?」


 姉さんの頬が、妖艶ようえんな赤みに染まる。

 脳内では、僕が彼女を鎖で繋ぎ、冷たい檻に閉じ込める……そんな倒錯とうさくした妄想が爆発している。


(罰……ユリが私に、罰を……! ずっと叱り続けてくれるのかしら!?)


「はぁ、はぁ……え、ええ。わかったわ、ユリ。次こそは我慢するから……!」


 うっとりして悶絶もんぜつする姉さん。

 溜息ためいきが出る。


「……やれやれ。肉体は壊れても、魂はまだここにある」


死者召喚ネクロマンス


 転がっていた肉塊が黒い霧をまとい、再構成される。

 ゾンビとなった暗殺者たちがひざまずく。


「誰の差し金だ」


「……バルガス様…………」


「部隊の規模は?」


「……先行……三名……。本隊は……北方へ……派遣予定……」


「そうか。……では死ね」


 暗殺者は砂のように崩れ消えた。


「バルガス……。なかなか判断が早いじゃないか」


 僕は少し感心した。


「バルガス。あいつは私に頂戴ね。色々と因縁があるから」


 エル姉が背後から抱きしめてくる。

 死者特有のひんやりした温度。

 でも、これが僕にとって「生」を感じる瞬間だったりする。


 戦闘が終わり、森にはまた静寂を取り戻す。


「ユリ、明日も早いわ。そろそろ寝ましょ」


「……そうだね。明日は一気に森を抜けよう」


 テントに入る三人。

 中央に僕、右に姉さん、左にカトリーヌ。

 両手に花。


「おやすみなさい、ユリ。……夢の中で、どんな罰を与えてくれるか教えてね、……ウフフ」


 エル姉のささやきを聞き流し、僕は深い眠りに落ちた。


 ふぅ、流石に疲れた。


 お読みいただきありがとうございました。明日は30話まで投稿予定です。読んでみて、面白いじゃん! と思って頂けたら、下の★★★★★やブクマで応援していただけると、めっちゃ嬉しいです!

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