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【ネクロマンサー】死んだ最強の姉が僕を溺愛して離してくれない――亡国の王子は帝国を蹂躙する  作者: アヲル。


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第11話 王子と王子

 士官学校、円形闘技場コロシアム

 ここまでの予選とは違い、決勝戦らしく盛大な声援でれる。

 ……その声援は、ほとんど僕に向けられない。


 石造りの観客席を埋め尽くすのは、生徒や教師、それに高みの見物を決め込む帝国貴族たち。

 全員の視線が、一点に突き刺さっている。


 向かい合うのは、二人の「王子」だ。


 一人は、ヴォルガルド帝国の光を一身に浴びる第一王子、ウード・ヴォル・アバドン。

 黄金の鎧に宝石のデコレーション。

 手には国宝級の大剣。

「僕は強くて偉いんだぞ」と全身で書いてあるような、下品なデコレーションケーキ。


 対する僕は、その辺の武器屋で叩き売りされていそうな量産品のレイピアが一本。

 ま、僕を王子と知っている者はいないけどね。


「……不快だな」


 ウードが吐き捨てた。


「貴様のような泥にまみれた平民が、私と同じ舞台に立つ。それだけでヴォルガルドの権威が汚される。ネクロマンサーなどといういやしいジョブ……本来なら、国外追放に値する汚物だ」


 汚物、ときた。

 挑発は慣れている。僕自身は何も感じない……と言いたいところだけど、右目の奥でエル姉の怒気がビッグバンを起こしている。


(ユリ……聞いた? あの頭の湧いた馬鹿、私の可愛いユリを汚物なんて……。ねえ、今すぐあの舌を引き抜いて、奥歯をガタガタさせてあげようかしら?)


(……エル姉、ステイ。まだ、その時じゃないから)


 魔力制御より、エル姉の制御の方がよっぽど難しい……。

 いつ暴発するか、ヒヤヒヤする。


 心の中で姉をなだめつつ、静かにレイピアを抜く。


「始めッ!!」


 審判の合図。


「死ね、下賎げせんの輩がッ!」


 ウードが踏み込む。

 一歩で石畳いしだたみがバキバキにくだける。

 大剣が業火をまとって振り下ろされた。


爆炎斬(エクスプロージョン)!!」


 斬撃に火属性を乗せた、ようするに派手な力技。


「――拘束バインド


 短く唱える。

 影から伸びた数十本の黒い手が、ウードの足首と剣にからみつく。


「チィッ、小細工を!」


 ウードが力任せに腕を振るうと、亡者の手は乾燥した小枝みたいにポキポキ折れた。

 でも、そのコンマ数秒のタイムラグがあれば十分。


 熱風で焼けそうになるのを無視して、最小限の動きで回避。

 レイピアで鎧の隙間を突く。


 ……が、あいつの「剣聖」としての腕前は本物らしい。


「遅い! 鈍い! 弱い!」


 ウードの連撃。

 一撃ごとに地響きがして、炎の余波で逃げ場が削られる。


 客席からはウードを称える大歓声。


「見ろ、殿下の火力を! あの平民、逃げ回るのが精一杯じゃないか!」


 まあ、そう見えるよね。

 でも、全部計算通り。


 ウードは完全に慢心している。

 自分の攻撃が絶対だと信じ込んで、守りがお留守になっている。


「これで終わりだ、ねずみが! 我が一撃、魂まで焼き尽くせ!」


 ウードが大剣をかかげる。

 周囲の空気が吸い込まれ、剣が太陽みたいに光りだす。

 渾身の「爆炎斬(エクスプロージョン)」。


(ユリ、くるわよ。……準備はいい?)


(……ああ。いこう、エル姉)


「消え失せろッ!」


 高熱の炎をまとった剣が、僕の脳天へ振り下ろされる。

 普通なら、回避不能。防御しても武器ごと溶けて終わり。


 だけど、僕は一歩も引かない。

 レイピアを垂直に立て、左手を添える。

 その瞬間、エル姉の左腕と魔剣だけが顕現される。


「複合技――『部分召喚シスターオブファンタズマ』」


 僕の右手に、エル姉の左手が重なる。


 ガキィィィィィィィン!!


 爆炎と極光が正面衝突。


 ウードの目が見開かれる。


「なっ……何だと!?」


 自慢の必殺技が、安物のレイピアと「半透明の魔剣」に完全に止められていた。


「……捕まえた」


 ただの防御じゃない。二段構えのカウンターだ。


 右手のレイピアでウードの剣を封じ、左手の魔剣を振りかざす。

 重なったエル姉の手が、僕の手を導く。


(食らいなさい……ユリをバカにした罰よ)

 エル姉の幻影がささやく。


 魔剣がウードの鎧を斬り裂く。


 ドォォォォォン!!


 衝撃波。

 黄金の鎧がベコベコにへこみ、ウードの体が壁まで吹っ飛んだ。


 静まり返る闘技場。

「やったか……?」という、フラグみたいな呟きが聞こえる。


 砂塵さじんの中から、ウードがい出してきた。

 ボロボロだ。口からも血が出ている。

 なのに、僕は違和感をとらえていた。


(……回復してる?)


 観客席の端。柱の影に、コソコソ隠れている僧侶。

 あいつの手が光ってる。

 不可視ふかしの治癒魔法を、ウードの背中に送り続けているわけだ。

 王子の特権ってやつかな。実にくだらない。


「……ふ、ふふふ……ハハハハハ!」


 ウードが立ち上がった。

 傷がみるみる塞がっていく。


「驚いたぞ。汚らわしい平民が、私に傷を負わせるとはな。だが、所詮しょせんはその場しのぎ。……おい、ネクロマンサー。死霊使いのくせに、召喚一つ満足にできないのか? 呼び出す死体すら手に入らないほど、誰にも相手にされていないのか?無能めっ!!」


 周囲からウードに同意するように、ヤジが飛ぶ。


「そうだ! 出してみろよ死霊!」

「スケルトンの一体も出せないのか、無能!」


 やれやれ。

 僕は、そっと前髪をかき上げた。


「……召喚、ですか。後悔しませんか?」


「ハッ! しかばねの一体や二体、焼き尽くしてくれるわ!」


 僕は深呼吸。

 魔力が全身を駆け巡り、一箇所に固まっていく。


「『……死者召喚ネクロマンス』。第一枠、顕現けんげんせよ」


 大気が震える。

 闘技場の温度がガクンと下がって、尋常ではない魔力が解放される。

 僕の影が巨大に広がり、そこから銀髪の美女がゆっくりと浮き上がってくる。


「あーあ、言っちゃった。私を呼び出すなんて、早死にしたいの?」


 凛としていて、でも甘い声。

 実体を持って現れたのは、かつて「閃光」と呼ばれた世界最強の魔剣士――エルミリア。


 彼女は現世げんせに降り立つなり、僕の頭を優しくでた。


「お待たせ、ユリ。よく頑張ったわね、いい子いい子」


「……エル姉、みんな見てるから」


「いいじゃない、姉弟なんだもの。それより――」


 エル姉の視線が、石像みたいに固まっているウードへ向けられる。

 瞳に宿るのは、絶対的な殺意。


「私のユリを汚物と呼び、卑怯な真似をして、おまけに『無能』とののしった……その罪、万死に値するわ」


 彼女が魔剣を抜いた。

 闘技場全体が、心臓を鷲掴みにされるようなプレッシャーに沈む。


「うふふ、ユリ。お楽しみの時間ね。私もずっと我慢してたからストレス溜まってたのよ? とりあえず骨の一本や二本は覚悟しなさいよ」


 僕はエル姉の手を握り返し、短く答えた。


「……うん、エル姉。ただ殺さない程度にね」


 ここからは一方的な展開だ。

 預言者じゃなくてもわかる。あぁ、ウードが心配だ……。


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