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第十五話


「くそルナリアンと裏切り者達の入場だーーー!!!」


武田がダメ押しのように叫び、促すように右腕を振り上げた。会場が一斉にその腕が指し示す先に目をやった。


しかし、なかなかそれらしき集団は現れない。たまたま視線の集まる先にいた一般市民が数名、慌てて移動した。


「おい!入場!連れて来い!!」


武田がいらだった声を出した。舞台下にズラっと並んだ十六地将、八天将、四天王らの部下達も顔を見合わせて戸惑っている。コソコソとした話し声が徐々にザワザワとした落ち着かない雰囲気へ変わった。


「おい、ひさ、どうなってる?」


藤田は呼ばれて即座に横の弟を見た。


「おい、信、頼むわ。何人か連れて見てきてくれ。」


言われた藤田弟は軽く舌打ちをしたあと


「おい!お前とお前!ついて来い!」


と呼びかけ、ズカズカ歩いて行った。声をかけられた者が慌ててその後を追う。


「こんな時まで気軽に人を使いやがって。ひさ兄、最近マジうぜえな。俺も四天王だっつーの!だいたい、他人にああしろこうしろと簡単に言う奴って、相手の事を考える能力が無いんだよ。相手のその時の気持ちとか状況とかよう、無視してるってことじゃね?マジうぜえわ。」


付いて来た部下に文句を聞かせながらも、藤田弟の一団は地下駐車場へのドアへと消えた。

その姿を見送ったあと、しばらく会場のざわめきだけが残された。武田は台上でしゃがみこみ、藤田兄と何事か確認しあっていた。このあと、首吊り台での処刑、リンチによる撲殺刑、バイクによる引き裂きの刑などが用意されており、そのためにスタンバイしていた連中も白けた様子で地下駐車場への入口ドアを眺めていた。


しばし、静寂が訪れた。


ラスティは、大きさが丁度良い洗濯ネットにくるまれ、さらにロープで何重にも縛られて立てかけられて固定された釣竿の先にぶら下げられていた。十六地将の連中がズラっと並ぶその後ろで風にゆれていた。


「ハチロクさん、どうしてるかなー?まさかあのまま殺されちゃうなんて事ないよね?助けに来てくれたりするのかな?それとももう遠くまで逃げて行っちゃったのかな?元気無かったみたいだし、心配だなー。ハチロクさんが処刑されたら、私もいよいよおしまいだな。とりあえずここの連中は全員からかって敵にまわしてしまったし。私の味方になってくれる人はもう一人もいないからなー。」


「ねえねえ、そこの人。そうそう、変な恰好してるあなた。」


ゆらゆら揺れながら、前に並ぶ十六地将に話しかけると、2〜3人が振り向いた。


「あれ・・・あんた達、みんな自分が変な恰好してるって自覚はあるんだ・・・。」


「ナニコイツ」


「ブジョってんじゃねえよ。殺すぞ!」


「自分がみっともないって知ってるならそんな事やめればいいのに・・・。」


「なんゴチャクソが!黙ってろ!」


「なんゴチャクソが!」


「ブチャラチラー!!」


「ぎゃはは!ブチャラチラー!!」


「ぎゃはっはっは!!マジクソブチャラチラー!!殺すぞ!!」


「・・・・?」


ラスティはしばしネット検索をしてみたが、やはり全然わからなかった。


「・・・語彙が乏しい事はこれまでのあなたの人生に同情しますが、なんて言ってるの?」


「なに語なのか、なんかの短縮語なのかさっぱりわかりません。」


「言葉という歴史ある文化を、最も美しい文化の一つを、自分達に合わせてレベルを下げて使うとは、いやはやとんでもない低知能ですね。」


「このっ!」


一人が、ラスティを殴ろうと目を剥いて、トゲだらけの大きなギターに剣がくっついたような変わった武器を振りかぶった。


「キャーっ!それなに?!その武器もなんなのかわかりません!殴るならせめて名前を知ってる武器にして!!」


ラスティは恐怖のあまり自分でもわけのわからないことを叫んだ。



最初に、遠く「ボゥン」と爆発音が聞こえた。


ラスティを殴ろうとした男も武器を振りかぶったまま動きを止めた。みんなが耳をすませた。

鳴り響いた音が通り過ぎ、会場のみんなの耳に生き渡った。しっかりと聞こえたその音は、なんだろうとみんながキョロキョロと辺りを見渡し戸惑っていると、少し間があき、近くからはっきりと「ボンボンボン!」と連続して爆発音が続いた。次いで、「ゴゴゴゴ」と地響きのような音が響いてきた後すぐに「ドーン!!」と耳をふさぎたくなるような巨大な爆発音があちこちから一斉に聞こえ、地面が揺れた。「地震だ!」「テロだ!」「攻撃だ!」と口々に叫ぶ者がいた。恐怖でその場の全員が浮足立った。轟音を追いかけるように、すぐガソリンとゴムと金属の焦げ付く嫌な臭いがあたり一面に漂ってきた。


「大変だ!車が!バイクが!」


煙をまとった男が数人駆け込んできた。演台の上で四つん這いになっている武田の元まで走り、息せき切ってわめくように報告する。


「燃えてる!火が!火が!」


「燃やされてます!俺らの車やバイクが!燃えて爆発してます!」


続いて、本人達もくすぶって煙だらけの二人が走り出て来た。上着に火がついてままのようだ。


「誰かがガソリンまいて火を付けやがったんだ!」


「手りゅう弾も使われてる!」


「爆薬だ!俺達の爆薬も使って吹き飛ばされてる!」


「ななな、なにいっ!?」


 アース天狗党の連中の自動車、バイクが駐車されている場所、屋内屋外問わず、市内のあちこちの駐車場から火の手が上がっていた。まだ爆発音が連続して聞こえてくる。市民達は悲鳴を上げながら出口に向かって逃げ出した。すでにアース天狗党のメンバーの中にも逃げ惑う市民にまぎれて脱走する者が何人かいた。


その様子を見て、タカも轟音と揺れに驚いて立ちすくんでいたが、はっと我に返った。


「これが『合図』で間違いないな。あとは野となれ。」


足元に隠してあったバックパックをかつぐと、焼きそばを5パックほど、ビールも4缶詰めて、やはり市民の流れにまぎれて彼らと一緒に駆け出した。


「武器だ!武器見て来い!俺らの武器が奪われてんじゃねえのか!?見て来い!そんで、銃だ銃!!

あればあるだけ持って来い!それと次元裁断のやつとか原子分解のやつとか、ガンマ線の奴も重力竜巻のやつも、全部持って来い!」


武田が指示を飛ばし、10人の党員が走った。その場にいた幹部連中は、いつも持っている刀や剣、槍や棍棒などを手に握り直した。中には変わった武器を構える者もいた。しかし銃器、爆発物の類はすべて集めて一台の軽トラックで運んでいたため手近には無かった。その武器庫代わりにしている車が荒らされた可能性があった。


「うおおおおーーーっ!!!」


信次(藤田弟)達、地下駐車場を見に行ったアース天狗党員たちが叫びながら地上へ走り出た。すぐに彼らを追って雄たけびをあげながら、20人ほどの男女が会場に駆け込んで来た。ある者は木刀を、ある者は日本刀を、鉄パイプや角材を振り回し、アース天狗党員たちを蹴散らしながら。武田の方向へ向かって来る。信次たちも防戦一方で逃げてきたようだ。


「おう!なんだ!お前ら!」


「なめんな!こらぁ!」


反射的に十六地将、八天将たちが手持ちの武器を振りかざし応戦に向かった。つられて藤田兄弟の抜けた四天王の残り二人も駆け出そうとしたが、


「馬鹿!全員で行くな!俺を!俺を守れ!お前らは俺を守れ!」


台上を四つん這いで這い回り武田が叫んだ。四天王の二人は少し困惑した表情で足を止め、武田のそばへ戻った。藤田(兄)久司は思考停止の状態で固まっていた。その時、地鳴りのような音が響き、公民館の建物一階窓がすべて割れ炎が噴き出した。ドーン!バシャーン!パリーン!と音が一斉に響き、現場は更に騒然となった。地下駐車場から火が出て爆発し、建物全体に炎が回ったようだ。


「大変です!」


武器を取りに行った部下達が3人、慌てて駆け戻り報告した。


「武器が滅茶苦茶にされてます!手りゅう弾を爆破させたようです!今、車ごと火につつまれて銃弾が破裂してて、危なくって近寄れません!!」


「捕虜が暴れてて5人やられました!!」


「ひのふのみの・・・おい!あと二人はどうした!?」


咄嗟に人数を数えたのは久司だった。


「え??」


3人はお互い顔を見合わせた。


「に、・・・逃げたみたいです・・・」


「なんだとお~っ!!」


武田は演台の上で四つん這いのまま報告を聞いていたが、怒りの形相で二本足で立ち上がった。


「おい、他の武器は?!武器は全部使えない状態なのか?!」


「近寄れ無いですよ!爆薬とか手榴弾とかボンボン爆発してるし、ずっと銃弾が炎からピュンピュン飛び出してくるし、それにほら、あの・・・Z星のすごいやつとか・・・・」


「Z星の武器か?」


「はい!あれもなんか緑に光ってる奴があって、相当ヤバいと思います!」


「げっ!!」


そもそもZ星人の武器は、盗んできた物で、原理も作用もよくわからないのに武器として使っていたが、よくわからないのでメンテナンスひとつできなかった。武器として使うだけ使って長年ほったらかしにしてたのだ。暴発でもされたらなす術もなく吹き飛ばされるだけだろう。処刑ショーどころではない。早くこの場を去らないと巻き添えを食ってしまう。それも、どれぐらいの威力なのかわからない。半径10メートルぐらいが吹っ飛ぶのか一区画ぐらいか、この平野ごとごっそりこの星の地表が抉られるかもしれず・・・・武田は焦った。


「ヤバい・・・・。下手したら俺が地球人類の敵になってしまう・・・・。」


さすがにそれは武田としても避けたいことだった。そんな事になったら、楽しい事は一切できなくなる。いや、地球人類連合軍に敵と認定されたら、容赦なくあちこちの国から核兵器をぶち込まれ、クレーターだらけになってしまう。それぐらい、今、地球人類連合は激しく反応するにちがいない。


「に、逃げなくては・・・。」


「いや、待てよ?これは全部ルナリアン共のしたことじゃねえか!なんで俺が心配する必要がある?!くそっ!暴れてる奴らを捕まえて、軍に突き出してやる!」


十六地将と八天将が応戦している方を見ると、押されていた。捕虜たちは、捕まって間もなかった者が多く、まだそれほど弱っていなかったようだ。いつの間にか、浜夏市民たちが捕虜たちに加勢していた。アース天狗党員の方が数で不利になっていた。


「浜夏から出ていけ!」


「出ていけ!浜夏を汚しやがって!出ていけ!」


「出ていけ!!」


「俺達の浜夏から出て行けえーっ!!」


ヤバい。武田は久司に呼び掛けた。


「おい!ひさ!なんか打つ手はないのか!?」


返事が無いので振り向くと、久司の姿はそこに無かった。その顔面にブーツの靴底がゴリッと押し付けられた。





END








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