第一偽剣
偽剣。
それはラナの封印を断ち切るために生み出した剣技、そしてその副産物。
俺は、あの忌々しい鎖を斬るために様々な試行錯誤を行った。
幸い、何度も斬りつけた経験はある。
あの硬さは尋常では無い。きっと物質的な硬度というよりも、なにかに阻まれた上での硬度と考えるほうが自然だ。
だから通常の斬撃では破壊不可能。ならば、こちらも理外の剣技に至るしかない。
それが俺の答え。爺にさえ「こんなことはできない」と言わしめた、偽物の剣。
殺意が空間を支配する。
おっさんと少女の顔に恐怖の色が浮かんだ。
しかし流石というべきか、戦意を喪失することはない。気丈に武器を構えている。
「サナは女の子の方を!」
「う、うん!」
雷鳴が轟く。
一瞬の後、カナタがおっさんの前に姿を現した。
そして炎を纏っている長槍を素手で掴んで止め、首根っこを掴んで後退する。
「退がれ! あれは俺でも受けきれない!」
サナも観客席から身を躍らせると少女の方へと向かった。しかし少女は後方から動いていないため、かなりの距離がある。
するとサナの身体から魔力が迸った。
凄まじい速度だ。雷速のカナタには及ばずともこの一ヶ月の努力が垣間見える。
そんなサナに少女は気付いていない。俺から目を離すことができないでいる。
だけどそれは仕方のないことだ。殺気を撒き散らしている人間から視線を外すのは難しい。
……というか、殺す気はないって。
ちゃんと範囲は制限する。
「……ッ!」
少女が大鎌を振るう。
すると刃から空間を塗り潰したかのような黒い斬撃が飛んだ。
「――刀界・絶刀無双」
――抜刀。
同時に数千、数万もの斬撃が放たれた。
空間を埋め尽くす軌跡が黒き斬撃を呑み込み、跡形もなく斬り飛ばす。だがそれだけでは止まらない。
地面さえも斬り飛ばし、大穴を空けた。
直後、浮遊感。俺は大穴の中心に着地する。
名前の通り、第一偽剣は刀界。
俺を中心にした半径1kmまでを最大射程とし、無差別斬撃を叩き込む剣術だ。
俺でさえ、どこに飛ぶのかわからない。故に、予測不能。見切ることは不可能だ。
全力で振えば、闘技場のみならず周辺の一切合切を斬り飛ばすだろう。
これは斬撃を重ねる過程で至った副産物だ。
「……封印再起動」
闇が宙に解けるようにして消えていく。
俺は跳躍して、大穴から抜け出した。
「……レイ。やりすぎだ」
すると、カナタは呆れて肩をすくめていた。
その後ろには槍を下ろし、頬をひくつかせているおっさんと地面にペタンと座り込んでいる少女がいた。
そんな中、1人サナは呆然としている。
「……」
俺は無言で周囲を見回す。
会場は死屍累々の様相を呈していた。参加者のみならず、観客たちの中にも気絶している者がいる。
カナタの言う通り、完全にやりすぎた。
「あー。第一試験終了! 意識のある者を合格とする!」
俺は苦笑いを浮かべつつも、戦闘終了の宣言を行った。
それからまるまる十秒の静寂。その後、王都中から大歓声が上がる。
合格者、二名。
「さて。レイ? 何か言うことはあるかな〜?」
俺たちは控え室に戻ってきていた。
ひとまずおっさんと少女はアイリスによって別室へと案内されている。
だから今は幼馴染組だけだ。
チラッと備え付けられた窓から外を見ると、騎士たちが倒れた者たちの後片付けをしていた。
本当に申し訳ない。
しかし俺にも言い分はある。
「試験内容を任せたのはサナだろ? それに正直あの二人以外は俺たちについていけないぞ?」
「うぐっ。正論だけに反論しにくい」
サナが言葉を詰まらせ、渋面を作る。
「まあ具体的に何人ぐらい残して欲しいか言ってなかった俺たちの落ち度でもあるな。まぁたったの二人なのはアレだけどな」
「そこは悪かった」
「まあでもレイの言葉も正しい。あの二人以外、見込みあるやつが居たかと言われたら居なかったしな」
「……だけどやりすぎ!」
「それはそう」
サナの言葉にカナタも同意を示した。そこは本当に悪いと思っている。
「それはそうとレイ。アレはなんだ?」
「アレ? 偽剣のことか?」
「偽剣?」
カナタが眉を顰める。
「偽物の剣と書いて偽剣。まあ実際のところ俺もよくわかってないんだけどな」
「よくわかってないってお前……」
「ちなみに偽剣ってのはじじ……師匠の名付けだからな」
気に入ってはいるが、それを言うのは少し恥ずかしい。だから黙っておく。
「まあそれはよしとしよう。正確には何をやったんだ?」
「カナタでもわからないの?」
「わからない。少なくとも魔術ではない……と思う」
と言いつつも自信はないのか、はっきりとしない物言いだった。
だけど魔術ではない。それは確定だ。
なにせ俺には魔力が全くない。だからそもそも魔術は使えないのだ。
「やったことは単純だよ。空間内に無差別斬撃を叩き込んだだけだ」
「だけって……」
カナタが曖昧に笑う。
「普通はできないぞ? 魔力のないレイなら尚更な」
「それは知ってる」
爺ですら出来ないのだから。
だけど説明しろと言われても難しい。というよりも不可能だ。
「まあそれはともかく……後の試験はどうするんだ?」
「ともかくって……。まあいいか。俺の試験はレイが減らした後に十人ぐらいまとめて模擬戦をするって感じだったんだが……」
「あー。悪い」
「まあこれは仕方ない。俺のはパスだな」
「じゃあ後はサナとアイリスか。二人の試験は何をするんだ? まさか二人とも戦うとかは……」
「……面談だよ。レイとカナタで実力を見て、私とアイリスで人となりを見るの」
「よかった。よかった。んで? それはいつから――」
俺の言葉を遮る様にしてノック音が響いた。
「はーい。どうぞー!」
サナが返事をすると扉からアイリスが顔を出した。
「こちらの準備は出来ました」
「はいはーい。レイとカナタはどうする? いく? 待ってる?」
「いや、いくよ。俺も人となりは確認しておきたい」
とは言いつつもあまり心配してはいない。
刀を交えれば大体どんな人間かはわかる。
「わかりました。では行きましょうか」
そうして俺たちはアイリスに連れられ、面談会場へと向かった。
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