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炎槍使いと呪いの魔術師

 長槍から繰り出される突きを大太刀でいなし、即座に斬撃を放つ。

 対するおっさんは短槍で大太刀を受け、長槍でカウンターを放った。


 狙いは頭部。俺は僅かに顔を逸らし、穂先を避ける。

 直後、おっさんが身を捻り、回し蹴りを繰り出す。


 ……体術もいける口か。


 だがこの程度、避けるまでもない。俺は一歩前に出る。

 直後、衝撃。目を見開いたのはおっさんだった。


「……ッ!? 本当に人間か?」

「……に……どうかな?」


 肯定しようとしてやめた。

 果たして、バケモノを取り込んだ俺は人間か。

 それは俺自身にすらわからない。


 一瞬の内に繰り出される数十の攻撃。それを俺は弾き、いなし、打ち砕く。


「……」

「……」


 交差する視線。

 俺に合わせるようにしておっさんの速度も上がっていく。


 やはり強敵との戦いはいい。互いの糧となる。

 だが、まだまだおっさんも全力ではない。なぜならば、おっさんは槍に炎を纏わせるぐらいにしか魔術を使っていない。

 募集要項は中衛、そして後衛だ。

 まだおっさんは手の内を隠している。


「そろそろ見せたらどうだ? 安心しろ。全力でやっても俺は死なない」

「……大した余裕だな。だけどどうやらその通りらしい」


 おっさんが後退し、距離を取る。

 俺は追撃せずに、それを見送った。


 ……さて。何を見せてくれるのか。


 俺は大太刀を油断なく構える。

 するとおっさんが背後に五つの魔術式を記述した。


 ……来る!


 射出されるは五本の炎槍。それらが僅かな時間差で襲い来る。と思った時には爆音が響き、おっさんが目の前にいた。


 魔術を併用しての近接戦闘。

 正直予想以上だ。


 だから俺も速度を上げる。


 一瞬の内に大太刀を五度振るい、魔術の炎槍を砕く。そして正面からおっさんを迎え撃った。

 しかし、その時にはすでにおっさんの背後には五つの魔術式が記述されている。

 記述速度が凄まじく速い。


 至近距離から放たれる五本の炎槍。そして長槍と短槍入り乱れる連打。

 手数が足りない。だから俺は新たに五つの黒刀を作り出し、炎槍を迎撃する。


 苛烈する攻撃の応酬。

 

 おっさんの戦闘技術には舌を巻く思いだ。

 懐に入られたら弱いという長槍のデメリットを短槍と炎槍が補っている。

 加えて魔術だ。魔術式の記述速度もさることながら放つタイミングも絶妙。攻撃と攻撃の隙間に数種類もの魔術を放ってくる。


 ……なら、参考にさせてもらおうか。


 俺は大太刀を二つに分ける。小回りのきく二刀へと。


「くっ……!」


 おっさんが苦悶の声を上げる。

 すると、炎槍の数が倍になった。だから俺も黒刀を倍にする。

 そしてタイミングを調整、攻撃を誘う。


「はぁぁぁあああ!!!」


 裂帛の気勢と共に放たれるは二槍のよる刺突。それを俺は両手に持った黒刀で弾いた。

 ガラ空きになる胴。俺は一歩踏み込み、刀を振るう。

 刃は潰した。だからこのまま振り切っても殺すことはない。

 しかし俺の心配は杞憂に終わった。


 おっさんは躊躇なく二槍を手放す。

 すると右手で指を鳴らし、左脚の踵で地面を打ち据えた。


 ……簡易魔術!


 俺は即座に身体を引く。

 すると目の前で火花が散った。即座に闇を展開し発生した爆炎を防ぐ。


 視界が塞がれた。

 だから俺は縮地を使い、距離を取る。

 しかしできなかった。


 いつのまにか地面から蔦が生え、俺の足を縛り付けている。

 そこへ迫るは()

 身を屈め、接近していたおっさんの手にはかつてないほどの業火を噴き上げる長槍があった。


「シィッ!!!」


 突き上げるようにして放たれた神速の一撃。流石の俺もこれは避けきれない。

 このままでは――。

 

 ……まさか使うことになるとはな。


「……第五封印解除」


 闇が胎動し、殺戮衝動が暴れ出す。

 目の前の男を殺せと本能が囁く。だが、殺すわけにはいかない。

 この男はこれから仲間になる人間だ。


 だから全力で押さえ込む。

 そのまま二刀を大太刀へと変え、おっさんの長槍を弾いた。

 そのまま首を断つ斬撃を――。


「くっ……!」


 意志の力を振り絞り、縮地を使う。そして大幅に距離を取る。


「第五封印再起動」


 長く第五封印を解除し続けるのは危険だ。殺しかねない。


「その第五封印とやらは長続きしないのか?」


 俺は眉を顰めた。


 ……ここで会話を挟むか。何を狙っている?


 だけどまだ引き出しがあるというのなら乗ってやろう。

 

「どうだかな?」

「それで少年。オレは少年のお眼鏡には適ったか?」

「ああ。十分……」


 言葉の途中でおっさんの視線が俺の背後へと動いた。


 ……なんだ?

 

 あまりにさりげない視線移動。それなりの実力がなければ見逃してしまう程の些細な変化。

 敢えて行なった行動か、ただの反射か。判断がつかない。

 だけど俺は知っている。その先には無視できない存在がいる。


 一瞬の逡巡。俺の思考に僅かな空隙が生じる。

 おっさんの狙いはソレだった。


「……ありがと」


 聞こえてきたのは少女の底冷えするような声。

 嫌な予感がする。俺は直感に従い、振り返った。


 今もなお、()は健在。

 青白い腕と俺の黒刀は拮抗している。


 ……いや、拮抗?


 俺は抑え込んでいたと思っていた。だけど今の少女には余裕がある。

 

 ならば。

 今の今まで。

 ()()()()()()()


 ゾクリ、と背筋が粟立つ。

 そして、準備は整ったとばかりに少女の魔力が膨れ上がっていく。


 ――カァアアア。


 鴉が鳴いた。

 いつの間にか、少女の肩に鴉が留まっている。

 しかしソレは普通のカラスでは無い。

 血のような色をした眼を三つ持った漆黒の鴉だ。


「まさか嬢ちゃん。アストランデか?」

「……アストランデ?」


 俺はおっさんの言葉を反芻した。

 その言葉には聞き覚えがある。

 たしか、書庫の奥に眠っていた本に書いてあった。


 曰く、それは御伽話の存在。

 曰く、それは呪いの権化。

 曰く、それは大国を一夜にして滅ぼした一族の名。


 ……危険だ。


 見誤っていた。

 いや、そう誘導された。


 優先順位を訂正する。

 先に片付けるべきなのはおっさんではなく、あの少女だ。


 俺は大太刀を構え、縮地を使うべく、一歩を踏み出す。


 ――カァアアア。


 しかしその時、鴉が鳴いた。

 ガクンと膝の力が抜け、地面に手を突く。


 ……くそ! あれ自体が魔術……いや、呪いか!


 俺は黒刀を操作し、少女の肩にいる鴉へと照準を定めた。


「つれないな。オレとはもう遊んでくれないのか?」


 おっさんが爆炎を纏わせた長槍を突き出す。

 俺は重い身体を動かし、なんとか回避。次いで繰り出される短槍による二撃目は黒刀の照準を変えて射出、相殺する。


 その時、少女の魔力が跳ね上がった。


 ……まだ上がるのか!


 もはや、()()()のカナタを超えている。

 横目で見ると、少女は新たな魔術式を記述していた。

 長大で巨大な魔術式だ。それを、孔を維持しながら。


 ……ありえねぇだろ!


 つい心中で悪態をつく。

 爺曰く、別々の魔術の同時行使は非常に難易度が高いらしい。それは強力な魔術であればあるほどに。

 カナタが言うに英語と数学の勉強を同時にやるようなモノらしい。

 そんなことをするには脳が二つでもないと不可能だ。

 

 ……脳が二つ……? 鴉か!


 おそらくあの鴉が魔術の代理行使をしている。そんなことが可能なのかはわからないが、そうとしか考えられない。

 

 これでは魔術師三人を相手にしているのと同じだ。


 俺は闇を身体に纏わせ、強化する。

 するとその時、少女の魔術式が完成した。

 魔術式が収束し、現れたのは漆黒の大鎌。


 ……あれはヤバいな。


 なにがヤバいのかはわからない。

 だけど直感がうるさいほどに警鐘を鳴らしている。


 ……仕方ないか。


 俺は大きく息を吐く。

 ここまで苦戦するほどの相手だ。文句なしに試験は合格。

 だけれど。


 ……ここで負けるのは癪だよなぁ!!!


 だから見せよう。全力の一端を。


「第五封印解除!!!」


 溢れ出た殺戮衝動を抑えつけながら、おっさんに蹴りを放つ。おっさんは長槍で受け止めたが、大きく後退した。


 少女が大鎌を構える。

 おっさんも合わせて長槍に炎を纏わせた。

 

 先程までとは比較にならないほどの熱量。余波で地面が融解していく。


 ……これで最後だ。


 俺も、おっさんも、少女も、それがわかっていた。


 おっさんが投擲の構えを取る。

 少女もその場で大鎌の刃に魔力を集中させた。


 獰猛な笑みを浮かべ、一歩踏み込む。

 すると地面が砕け、衝撃波が拡散した。それで周囲で気絶していた有象無象が吹き飛んでいく。


 これで巻き込む恐れはない。

 

 俺は闇を手中に集める。

 作り出すは黒刀と()

 

 俺は半身になり左脚を大きく下げて腰を落とす。

 居合抜刀の構え。放つは最強の剣技。


 それは剣であって剣に(あらず)

 俺でさえ、原理不明。その名も偽剣。


 爺曰く、偽物の剣。

 だけどその威力は本物だ。


「第一偽剣――」

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