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勇者パーティ選抜試験

「結局なにも思い付かなかった……」


 窓からは既に暖かな朝日が差し込んでいる。

 昨日は久しぶりのベッドということもあり、すぐに寝てしまった。

 だから良案は思い付いていない。


 ……どうするか。


 幸い、時間は少しだけある。

 だから俺は必死に頭を働かせた。


 ……俺には戦うことしかできない。


 それは純然たる事実。

 しかし一対一では時間がかかり過ぎるし、そもそも相手は後衛だ。前衛の俺と一対一をしても意味がない。

 かと言って集団戦にすると遠距離から魔術を集中砲火されて試験の意味がない。


 ……難題だ。


 頭を悩ませていると扉からノックの音がした。


「レイ。起きてるか?」

「カナタか。起きてるよ。入っていいぞ」


 カナタが扉を開けて部屋に入ってきた。朝早いというのにしっかりと身支度を整えている。


「どうした?」

「いや、また徹夜して寝過ごすなんてことも考えられるからな。起きてるならいい」

「わるいな。そういや試験は何時(いつ)からだ?」

「二時間後だ。試験内容は決めたのか?」

「うっ」


 言葉を詰まらせた俺にカナタが笑った。まるで他人事だ。


「そう言うお前は決めたのかよ」

「決めたさ。あとはお前が何人残すかだな。全員は落とすなよ?」

「そんなことしねぇよ。サナからも()()()()にって言われてるしな」

「それが一番困るやつだな」

「だな」


 ひとしきり雑談をした後にカナタとは別れた。

 今から食事に行くらしい。俺は起きたばかりで身なりを整えないといけないから先に行ってもらった。


 ……まあなるようになるか。


 楽観視、もとい現実逃避をしながら俺は着替えを始めた。




 勇者パーティ選抜試験は、王都にある闘技場で行われる。

 闘技場は地球でいうコロッセオのような円形闘技場だった。中央には舞台があり、外周には観客席がある。

 

 観客席には一部分、豪華な装飾を施された貴族専用の席も完備されていた。

 夜に開催されるパーティーの出席者たちは大体この場所にいる。


 そして俺たち勇者パーティも同じ場所だ。

 今は舞台上にいる参加者たちを見下ろす形でアイリスが演説を行なっている。


「この度は、集まっていただきありがとうございます――」


 本物の王女なだけあって、その姿は板についている。

 アイリスの隣には勇者であるサナが立っていた。

 いつもの制服とは違い、今日は煌びやかな騎士服に身を包んでいる。

 馬子にも衣装というやつだ。口に出せば怒られるので絶対に言わないが。


 ともかく、こんな大舞台は初めてだ。

 流石のサナもガチガチに緊張しているのが一目瞭然だった。


「なんで笑ってんの!?」

「ガチガチで面白いから」


 小声で言われたので小声で返す。するとキッと睨まれた。


「てかなんで二人は緊張してないの? おかしくない?」

「別に緊張するほどのことでもないだろ。な?」

「まあ俺は経験があるからな。このぐらいはなんとも思わない」

「経験?」


 カナタの言葉にサナが首を傾げる。俺も少し気になった。


「……特級魔術師だからな。数千人の前で講義やら演説やらの経験はある」

「……ズル!?」

「ズルってなんだよ……」

「オホン……」

 

 なんて小声でやり取りをしていると、後ろから咳払いが聞こえた。騎士団長のソルド=シトラムスだ。

 王女の演説中におしゃべりとは何事か、という圧を感じる。


「「「……スミマセン」」」


 三人で姿勢を正す。

 ちなみに今日は俺とカナタも正装に身を包んでいる。勇者パーティの正装はそのまま戦闘服になるらしい。

 普通の剣ぐらいなら斬られても弾くし、各種耐性も完備されているらしい。大盤振る舞いだ。


 俺のは全体的に黒を基調としたロングコートで、左胸には黒い氷の結晶が刺繍されている。

 この結晶は胸の封印と同じデザインだ。アイリスのナイスアイデアである。

 

 カナタは基本的に俺と同じようなデザインだ。

 違いと言えば雷をイメージして、ロングコートに白いラインが入っている。

 胸にある紋章も、俺とは違い雷をモチーフにしたモノだ。


「こちらがこの度召喚された勇者、サナ・スメラギ様です!」


 しばらくすると、アイリスがサナの紹介に移った。

 その言葉で会場中だけでなく、王都中が沸き立つ。

 この演説は魔導具を通じて王都中に放送されているらしく、外からも空気がビリビリと震えるような大歓声が聞こえてきた。


 名前を呼ばれたサナが一歩前に出る。


「ご紹介に預かりました。勇者サナ・スメラギと言います!」


 ガチガチに緊張していた姿はどこへやら。今は堂々としていた。

 ともあれ、直前になって吹っ切れるのはいつも通りなので驚きはない。

 するとサナの行った自己紹介でまたもや大歓声が巻き起こった。


「この度は勇者パーティの募集に集まって頂きありがとうございます。試験は私の仲間が行います。全力を出し尽くしてがんばってください。……それと結果はどうであれこの場に集まった方々は皆、勇者だと私は思っています。国を、世界を私と一緒に守りましょう!」


 一息に言い切ってサナが拳を天に突き上げた。それでまた大歓声が上がる。

 その姿は誰がどう見ても勇者そのものだった。


 ……さて。

 

 手筈としてはこの後すぐに試験が開始される。つまり俺の出番だ。


「ではレイさん。よろしくお願いします」


 アイリスの言葉に頷くと俺は一歩前に出た。

 残念なことにまだ試験内容は決まっていない。


「勇者パーティ、前衛のレイだ」


 俺が名乗りを上げると、なぜか会場中が静まり返った。

 サナの時とは真逆の反応。

 無数の視線が俺に突き刺さる。


 ……なんだ?


 その視線に好意的なモノは含まれていなかった。

 例えるならば疑念や値踏みをするような視線。

 敵意までとはいかずとも、快く思っていないことは確実だ。

 あまり良い気分ではない。


 ……ああ。なるほど。


 だけど理由は何となくわかる。

 つまり、無名の人間がどうして初めから勇者パーティにいるのか。そういうことだ。


 彼らから見れば俺はぽっと出の若造。

 実績もろくにないヤツがどうして、という心境だろう。


 言ってしまえば、これは勇者パーティ選抜試験であると同時に、俺に対する試験でもあるのだ。

 

 ……わかりやすくていい。


 俺は口角を上げた。

 そちらがお望みなら見せてやろう。


 もはや試験なんてのは関係ない。


 だから俺は、尊大に言い放つ。


「お前らの不信感は最もだ。だから……これぐらい――」


 要は実力を見せつければ良い。

 

 ――耐えて見せろよ?


 俺は獰猛に笑い、手すりに足を掛ける。

 そして一切の躊躇なく、空中に身を躍らせた。

 呟くは枷を外す合言葉。


「第一封印解除」


 封印が解け、闇が溢れ出す。

 そして俺は――。


 ――殺気を放った。

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