神器
『まず初めにアイリス王女。貴女が聖女で合っていますか?』
『はい。私が当代の聖女に選ばれました。それとサナ様。もう一度謝罪を。私達の世界の都合で召喚してしまい申し訳ありませんでした。私にできることであればなんでも聞きますので言ってください』
アイリス王女は椅子から立ち上がるとサナに対して丁寧に頭を下げた。
サナは慌てたように小さく両手を振る。
「全然大丈夫! ……ってことはないんだけど、こうしてレイともまた会えたし。私はそれだけで十分かな。レイのことだからどーせ私が勇者として召喚されてなかったら黙って来てたんだろうし」
サナが俺を半眼で睨む。俺はツーっとそっぽを向いた。その通りだ。
「その通りだぞサナ。こいつ狐のお面なんてつけて俺からも隠れてたんだ」
『おいカナタ……!』
それだけはバラしてほしくなかった。
「狐の……お面? ……ねぇレイ?」
サナがにっこりと微笑む。だが目は全くもって笑っていない。
「私、文化祭で狐のお面を付けた人とずーっと一緒にいたんですけど?」
「人違いじゃないか?」
「そんなわけあるかぁ! 一言も喋らないと思ったら、あれレイだったの!? たしかに服も一緒だし。やけに懐かしく感じたのはそれか!」
『だから悪かったよ。でもこんなことに巻き込むわけにはいかないだろ?』
「巻き込んでよ! 私たち幼馴染で親友でしょ! また次同じことしたら絶対許さないからね!」
「それは俺も同感だな。二度目はねぇぞ?」
俺たちのやり取りを見てアイリス王女が口に手を当てて上品に笑った。
『仲がよろしいのですね』
『……まあ幼馴染ですからね』
『それはいいことです。まずは勇者召喚のことをサナ様にお話ししましょうか?』
『そうですね。お願いしても大丈夫ですか?』
『お任せください。それが聖女の役目ですから』
そうしてアイリス王女は勇者召喚に関する情報やこの世界の事情をサナに伝えた。
流石ラナの妹だ。かなりわかりやすい説明だった。俺が補足する必要もないぐらいだ。
軽くまとめると、この世界には魔王がいる。
魔王とは現象だ。前の魔王が倒されるとその数年後、数十年後に次の魔王が現れる。
勇者の役目は魔王を倒すこと。
そのための力が勇者には備わっている。謂わば特効薬だ。
「……ということは私が魔王を倒さなくちゃいけないの!? ただの一般人だよ?」
『そこは大丈夫です。勇者様には神器がありますから』
「神器? なにそれ?」
では、その力とはなにか。それが神器だ。
神器は魔王相手に絶大な効力を誇る。ラナが言うには、神器に宿る魔力が関係しているらしい。
『神器は勇者召喚の際に与えられる力です。自分の内に何かを感じませんか?』
「うち……?」
サナが目を閉じて眉根を寄せる。しばらく「む〜」と唸っていると、いきなり目を開けた。
「フィールエンデ!」
サナの呼びかけに応じ、空中に光が集まる。
そしてぱっと輝いた後には一振りの剣が浮いていた。
絢爛な装飾が施された黄金の剣だ。まさに勇者が持つに相応しい風格をその剣は備えていた。
しかしサナの顔はなぜだか浮かない。
『どうした?』
「うーん。私は刀の方が使いやすかったんだよね……」
するとサナの呟きに応えるようにして、聖剣が再度輝きを放った。
気付くとそこにあったのは美しい刀。
剣であった頃の絢爛さは鳴りを顰めたが、慎ましやかな美しさがあった。
なんと都合のいい。
「え? ホントに!?」
サナは聖剣もとい聖刀を手に取ると鞘から抜き放つ。白銀の刀身にある波紋が何とも美しい。
『聖剣が持ち主に合わせて姿を変えるというのは本当だったのですね』
「これなら大満足だよ! ありがとアイリスサマ!」
『よかったです。それと私のことはアイリスとお呼びください』
「なら私のこともサナって呼んで!」
『いえ……それは……』
「諦めた方がいいですよ。サナはコミュ力お化けですから」
『こみゅりょくおばけ?』
カナタの言葉にアイリス王女が目をぱちくりとさせた。
言語理解の魔術にも伝わり難い言葉はある。ラナに言葉を学んでいた時も何度かあった現象だ。
『誰とでもすぐに仲良くなれるということです』
「……そのようですね。ではサナさん。よろしくお願いします。……あのお二人は何とお呼びすれば?」
『そう言えばちゃんと名乗ってなかったですね。俺は柊木レイと言います。レイと呼んでください。ラナもそうしていたので』
『わかりました。レイさんですね』
「俺は一之瀬カナタ。俺も名前で大丈夫です」
『ではカナタさんと。それとお二人も楽な話し方で構いませんよ。私はこれが素ですが、皆さんは違うのでしょう?』
『それはありがたい。なら普通に話させてもらうよ。公の場では丁寧に話すけど』
『そうして頂けると助かります』
なんてアイリスは苦笑した。ラナとそっくりだ。
『じゃあ次は本題だ。俺とラナのことを話すよ。と言っても信じられないことが多いと思う。だけどこれから話すことは全て本当だ。それを理解した上で聞いてほしい』
みんなを見渡すと緊張した面持ちで頷いてくれた。
だから俺は自分に起きた出来事を話す。別に不幸自慢をしたいわけではない。だから事実だけを淡々と。
『俺は五年半前にある夢を見たんだ――』
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