115.会談の終わり
「さて……そういうわけで話はまとまったな!」
ザーカリウスが気を取り直したように、パシリと手を叩いて鳴らす。
「帝国は今回の戦いで得た成果を全て王国に返す。代わりに、そちらも捕虜と聖剣を返す」
「そして……俺はそっちの協力者として魔女との戦いに参加する、だろう?」
「うむ。今のうちに力を蓄えておくがいい。敵は魔女だけじゃない。奴らの力を受けた『使徒』と呼ばれる魔人。そして、使役された魔物とも戦うことになるだろう」
「使徒だろうが魔物だろうが、アンタだったら楽勝だろう?」
先ほどの決闘――『聖鎧』と呼ばれる力を思い出して、レイドールはぼやく。
【煉獄の義者】と呼ばれた神の戦士ならば、たとえ魔女や使徒が魔物を引き連れて押し寄せてきたとしても、鎧袖一触に焼き尽くすに違いない。
「おいおい、聖鎧の力を過信するなよ。確かにあれば聖剣保持者にとっては切り札ともいえる力だ。しかし、魔力を恐ろしく消費するからな。あまり長くは使えない」
「へえ……それは良いことを聞いたな」
どれほど力を持っていたとしても無敵ではないということか。
時間を稼いで消耗戦を強いれば、あるいは先の決闘でも勝機はあったのかもしれない。
「無論、魔女や使徒もそう考えるだろうな。雑魚を使ってこちらの力を削ってくることだって考えられる。聖剣の力に頼りすぎるなよ。兵士を育てて、屈強な軍を作れ。敵の軍勢はこちらの軍勢で打ち負かせ!」
「ふん……」
それなら言われるまでもないことだ。レイドールはすでに自分の軍を持っており、その強化に取り掛かっているのだから。
兄であるグラナードや帝国との戦いに備えての軍だったのだが、まさか使徒やら魔物やらに立ち向かう武器となるとは思っていなかったが。
「帝国はこれよりザイン王国との戦争を終結して、南と東の攻略に専念する。平和というぬるま湯に浸かった連中をことごとく滅ぼして行方不明の聖剣を探す。お前もさっさと王国を掌握して王になるがいい」
「応援してくれるのかよ。俺の反逆を」
「応援だけならいくらでもしてやろう。しかし、手助けは期待するな。国の一つもどうにかできないのなら、世界の命運を背負うことなどできないだろうからな!」
「最初から頼むつもりなんてない。これは俺の復讐。俺の反逆だからな」
レイドールは傲然と吐き捨てて、椅子から立ち上がった。
これで王国と帝国、二つの国の和議は終了である。
以降は、それぞれがお互いの敵に立ち向かっていくことになるだろう。
魔女の復活やら世界の救済やら途方もない話をされてしまったが、結局のところ、レイドールの目的は一つである。
兄王グラナード・ザインと決着をつける。己の過去と復讐に終止符を打つ。ただそれだけだった。
(いい加減に終わらせるか。どうやら後が閊えているらしいし、親愛なる兄上にはそろそろご退場願うとしよう)
魔女が復活して聖剣保持者としての務めを果たすときが来てしまえば、もはや兄への復讐どころではなくなってしまうに違いない。そうなる前に決着を付けるべきだ。
(王都に戻って、グラナードと決戦をする……! 最初で最後の、本気の兄弟喧嘩だ!)
レイドールは決意を胸に、聖剣を握り締める。
聖剣ダーインスレイヴを抜いた瞬間から回りだした運命。それに一つの決着がつこうとしていた。
「ああ、そうだそうだ。一つ言うのを忘れてた」
「あ?」
兄と戦う覚悟を決めて天幕から出て行こうとするレイドールであったが、その背中に気の抜けた声がかけられた。
決死の覚悟に水を差され、思わず怪訝な声を漏らして振り返ると、ザーカリウスが惚けたような顔つきで頭を掻いていた。
「何だよ……こっちは忙しいんだが?」
「いやいや、大事なことを忘れてたんだよ。お前にもう一つだけ要求しなければいけないことがあったんだ」
「要求……?」
レイドールは怪訝に眉根を寄せる。
すでに和睦交渉は終わった。この期に及んで、どんな要求をしてくると言うのだろうか。
「お前さ、結婚はしてなかったよな? 王には覇道を支える妃が必要だろう。予が用意してやる」
「はあ?」
目を白黒させるレイドールに、ザーカリウスはさも名案だとばかりに爆弾を投下してくる。
「帝国の姫を嫁にくれてやる! 予の息子となるがいい、レイドール・ザインよ!」
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